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【らんま1/2】台詞お題30より |
| ■「次頑張れば良いじゃん。」→「次頑張ればいいじゃねーか!」 |
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掲載日[2008/5/22] 雲竜あかりはしばらくぶりに天道家の門を叩いた。門を叩いたとはいえ、それは言い回しだけの問題で、実際にはこの道場の門扉はいつも開いているようで来るものを拒む様子が全くない。「道場破りの方は勝手口にお回りください」などという傍若無人な看板が無造作におかれている家ならではのおおらかさだと、あかりは一人そう思う。 (本当に道場破りが来たら、天道家の人たちはどう対処するのだろう) 豚相撲部屋を運営する家の娘として、あかりは少し心配になる。 (ああ、でもここには早乙女乱馬さまがいらっしゃる) 許婚のことは本人たちがずいぶんと反発しているようだったが、乱馬は道場を継ぐことに関してはほとんど反発していないことに、あかりは少なからず羨ましく思ったものだった。 同じような境遇の娘ともなると、見る視点も変わるものである。 相棒とも言うべき巨大豚のカツ錦を後ろに従えて、あかりは玄関の引き戸に手をかけた。 「こんにちは!」 「あらいらっしゃい、あかりさん」 玄関の引き戸を開けると、すぐに出てきたのは天道家の長女かすみだった。 「こんにちは。実は近くまで来たので遊びにきてしまいました」 ぺこりとお辞儀をしてあかりがそう言うと、かすみは微笑んであかりを歓迎した。 「まあ、そうなの。嬉しいわ。上がってゆっくりしていってね」 「お邪魔します。あの、あかねさんと乱馬さまは……」 あかりが靴を抜いてから控えめにそう訊ねると、かすみは一点の曇りのない笑顔を見せて答えた。 「二人なら、居間にいるのよ」 まるでそのことが嬉しくてたまらない、という顔のかすみを見て、つられたようにあかりが笑う。 「まぁ、それは…、おふたりはとても仲良しなのですね」 「ええ。とても仲良しなのよ」 かすみとあかりはお互いに笑いあって、ここにいない二人をこっそり笑うのだった。 居間に入ると、入ってきた客人を遠慮なく見上げる二組の視線にあかりは少し驚く。 「あ、あのっ」 「珍しい!あかりさんだったの!」 あかねがすぐに立ちあがって、あかりに座布団を差し出し座らせる。隣で男姿の乱馬があかりを見て、久しぶりだなーと挨拶代わりの言葉を交わす。 しかし、どうやら乱馬は先ほどまであかねとしていた会話の続きをしたいようだった。 「で、ほら、あかねハッズレー!」 乱馬のその言葉にあかねが一気に不機嫌そうに顔を歪ませた。 「なによ!あんただって!おば様じゃなくて残念だったわねー!」 「へへーん、お前だって良牙じゃなくて残念だったなー!」 (良牙さま…?) あかりの想い人の名前が唐突に出てきて、あかりは目を見開いた。あかねはそんなあかりをなだめるように目をやってから、乱馬を睨みつける。 「何よなんで残念なのよっ!あかりさんの前で誤解招くようなこと言わないでよ!失礼じゃない!」 「へんっ」 乱馬はむっとしたようにあかねから目を逸らすと、下唇を突き出して不貞腐れた。あかりは会話のやりとりがつかめず、おろおろとしてると、あかねがごめんねーと言いながらあかりに向き直った。 「あかりさん、今日はどうしてここに?」 あかねが朗らかに笑ったので、あかりはほっとした。あかりは根っからの平和主義者なのだ。 「はいっ。あの、実はしばらく良牙さまとお会いしてなくて…。ご自宅にも伺ったのですがお留守だったので、こちらにはいらっしゃるのではないかと思って、ちょっと寄ってみたんです」 続けて、唐突に申し訳ありません、と頭を下げたところで、かすみがお茶を運んできた。 「あら、いつでもいらしてくださいな。そんな、頭を下げるほどのことじゃないわ。ね、あかね」 かすみがお茶をあかりの前に置いてから、あかねに顔を向ける。それこそ阿吽(あうん)の呼吸であかねが声を上げる。 「そうよ!あかりさんならいつでも大歓迎よ!ほかならぬ良牙くんの彼女なんだもの!」 あかりはほっとして思わず手を合わせて、喜んだ。あかりはつい胸の前で手を合わせてしまうのが癖なのだった。 「ありがとうございます、あかねさん」 「でー。その良牙の野郎なんだけど、俺たちもしばらく見てないよな、P助も含めて、なぁ?」 乱馬が中央の菓子皿に手を伸ばし、あかねに相槌を求める。 「うん、良牙くんはみてないわ。でもなんでPちゃんが関係あるのよ」 あかねはまた自分のペットの黒豚にいわれのない難癖をつけられたと思い、鼻息荒く言い返した。 「一応だよ一応。あかりちゃん、豚相撲部屋の一人娘なんだろ?」 乱馬はごまかすようにそういって、菓子皿から掬ったいくつかのあられを口の中に放り込んだ。 「だからってPちゃんは関係ないじゃない」 「そーだっけ?」 ぶわりぶぉりと音を立て食べながら、乱馬はごまかす。お茶のお代わりがほしいな、と一瞬考えたが、かすみはあかりにお茶を出してすぐ居間を出て行ってしまったのだった。 二人のやり取りはともかく、良牙がここに来ていないことは確かそうで、あかりは肩を落として意気消沈した。 「そうですか…。しばらくお手紙も拝見してないし、ちょっと心配だったんです」 しょんぼり、といった風情で肩を落とすあかりを見て、さすがにあかねと乱馬はあかりを察して自分たちの喧喧とした態度を改めた。 「でも、良牙くんは強いし、大丈夫よあかりさん!」 「そうだな、多分山篭りの修行に精を出しすぎて少し長丁場になってるのかもしれねぇし」 二人は口々に良牙の安否を保証する言葉であかりを元気付けようとする。うしろにずっとおとなしく控えていたカツ錦も慰めるように鼻面を擦り寄らせる。あかりはそうですよね、と返事をした。 「私、良牙さまのこと信じます。だってカツ錦を倒した男の人ですもの」 あかりはそういうと、ぐっと両手の拳を握り締めて立ち上がった。 「私っ、もうちょっとその辺回ってみます!もしかしたら良牙さまに会えるかもしれないし」 あかりは元気を取り戻してすっと立ち上がった。あかねがそれに合わせて慌てて立ち上がった。 「そんな、もう少しゆっくりしていったら?」 「いえ、あかねさん、私良牙さまに会いたいんです。失礼します」 あかりはお辞儀をすると、カツ錦の背によじ登り、もう一度乱馬とあかねにお辞儀するとカツ錦を縁側から軽やかに飛び出した、かに思えたが、天道家の塀は見事打ち破られていた。 早雲が見たら嘆き悲しんだ表の惨状ではあろうが、乱馬とあかねはいつものこと、といった風情でまた二人は座りなおした。 「それにしても、あかりさんって本当に良牙くんのこと好きなのね」 ふふ、と幸せそうに笑いながら、あかねが言う。それを見て、人の幸せを自分の幸せにしてしまえるのは、あかねならではの特権だと乱馬は思う。それこそ、あかねがずっとこの家で愛されて育った証だともいえる、と思っていた。 なんだかんだ言っても、天道家のみんなはあかねに甘い。早雲始め、かすみも、あのなびきでさえも、結局あかねを悪いようにはしない。ただし、写真を売り飛ばすことは多分別なのだろうが。 ―それはそれ、これはこれよ。 そんななびきらしい言葉が聞こえた気がして、乱馬は思わず身震いしながら辺りを見回してしまった。しかし、なびきの気配は今はない。 気を取り直して、乱馬はまた菓子皿に手を伸ばすことにする。 「良牙の野郎もなぁ〜…一体どこほっつき歩いてんだか」 ぽりぽり、とおかきを噛み砕きながらぼんやりしていると、縁側のほうに目をやったあかねが目を点にしていた。 「あかね?」 あかねの様子に気づいて、乱馬もその視線を追ってみると、大穴の開いた塀の先にうろうろする大荷物が見えた。いや、大荷物がうろうろするわけがない、と乱馬は思いなおして、もう一度見直してみると、見慣れたリュックとバンダナが見えた。 「良牙!」 「良牙くん!」 乱馬とあかねが同時に声を張り上げて、良牙がひょいと振り返った。 「あかねさんっ!よかった!土産の賞味期限に間に合って!」 良牙ビジョンでは乱馬は視界の片隅にも入らなかったのだろう、あかねだけへの再会の喜びを口にすると、そのまま塀の大穴を通って天道家の庭に侵入した。縁側まで寄ってきたあかねを嬉しそうに見つめる。 「あかねさんっ、これっ!」 どびゅっと空気を掻き分ける音まで鳴りそうな勢いで、あかねに渡した土産は「もみじまんじゅう」に「萩の月」、「おたべ」だった。横から乱馬がそれを見て、ほほーと声を上げる。 「広島仙台京都か、相変わらず右往左往してるじゃねぇか、なぁPちゃんっ」 「誰がPちゃんだ!」 乱馬がようやく視界に入ったのか、良牙はぎろりと乱馬を睨み付けると乱馬相手に拳を繰り出した。両手から繰り出すものがすいすい、と避けられてしまうと、今度は足を繰り出すありさまだった。 「なんで良牙くんがPちゃんなのよっ!」 木槌で一発あかねが乱馬を叩き潰そうとしたが、またもや避けられてしまう。しかし、おかげで乱馬と良牙が離れたのでようやくあかねは話ができる、と良牙を見つめた。 「良牙くん、実はさっきまであかりさんがいたの。あなたを探してわざわざ」 「あっ、あかりちゃんがっ!」 良牙は慌てて周囲を見回したがすでにあかりが立ち去った後で見る影もない。 「まだその辺で良牙くんを探してると思うの。だから…」 「あかりちゃん!今行く!」 良牙はすぐにその庭を飛び出していった。飛び出した際に塀にわざわざ別の大穴を空けてしまったのは言うまでもない。 「あっ!ちょっと良牙くん!」 あかねが慌てて止めるも、良牙は恐ろしいほどの瞬発力を駆使してあっというまにいなくなってしまった。この勢いでは近所にいるはずのあかりを疾(と)うに追い越してしまい、良牙がまた戻ってくるのはひと月、ふた月とまた延びてしまうに違いない。 それだけは避けねばならない。 「あの野郎〜!全力で走りやがった!」 「どうしよう、乱馬…」 あかねが乱馬と、今新たに空いた空洞を見ながら、困惑顔を浮かべた。乱馬がすぐに立ち上がる。 「俺は良牙を掴まえる!あかねはあかりちゃんを!掴まえたら公園につれて来いっ!」 「わかったわ!」 乱馬は縁側からすぐに塀に乗るとそのまま速度を上げて良牙を追い始めた。あかねもすぐに玄関からあかりを探しに出かけた。 良牙からもらった土産だけが、縁側でぽつんと風に晒されていた。 「あっ!あかりさん!」 人づてで巨大豚を目印に追いかけると、あかりは割合簡単に見つけることができた。カツ錦は体長2メートルはあるので人目を引きやすいので、人探しの目印としてはぴったりだった。 「あかねさん?」 あかねを見つけたあかりが、カツ錦から下りる。あかねはあかりを見つけた安堵感で、ほっと膝に手をついた。 「よかった、あかりさん。さっき良牙くんがうちにきたの」 「良牙さまがっ!?」 きらきらっと目に星を散りばめたように、あかりの目が輝く。あかねはそれを見て、穏やかに笑い返した。 「けど、良牙くん、あかりさんを追って走り去ってしまって」 まあ、ともいいたげな顔であかりの顔が翳る。良牙が驚異的な方向音痴だとわかっているのだ。しかし、あかねはすぐにあかりの気持ちを汲み取って元気づけた。 「でも大丈夫、今乱馬が追いかけてるわ。待ち合わせを公園にしているの。一緒に行きましょう」 「はいっ!じゃ、あかねさん、カツ錦に乗ってください!その方が早いですから」 カツ錦を見上げると、あかねを見てふごふごと何か言った。おそらく、彼も乗ってくれ、と言ったのだろう。 「あ、うん。じゃあ、お願いしようかな…」 豚に乗るという貴重な体験を前に、あかねは冷や汗を隠すようにハンカチで拭いた。 一方、乱馬は屋根づたいに移動しながら、良牙の姿を追っていた。 「良牙ー!!どこにいったーっっ!!」 乱馬は町内を一通り見回したが、なかなか良牙を見つけることができなかった。乱馬の足でも良牙に追いつけなかったのか、とまさに自分を悔いる思いで、一度天道家に戻っている最中だった。 「こんなところに…いたのか」 まさか、と思って覗き込んだ開いたままのマンホールの先に、小さな生き物がうごめいているのを見つけた。 ぴぎーっと悲壮な鳴き声がやっと届くほど遠い闇の先、まったくよくみつけられたもんだ、と乱馬は自分で感心した。 「よっと」 ひょいっとマンホールの中に落ちて行く体。浮遊感を楽しむくらいの気持ちで乱馬は下水の流れる川の淵に降り立った。匂いが服に着く前に帰りたいものだと心底そう思う。 「良牙ー、お前ほんっとーについてねーな」 乱馬はひょいっと足先で子豚を拾い上げると、服を拾いそのまま上がろうとする。行きとは違って梯子を登って行くのがめんどくさいな、と乱馬は思ったが、そのとき子豚が不満げに鳴いた。 「なんなんだ。これ以上何をしてやれって言うんだ!」 せっかく助けてやったのに、とも言いたげな乱馬の顔を、一人前に睨みつける子豚が、指で、ではなく前足で荷物を指差したようだ。荷物も持ってきてくれと言いたいのだろう。 「ぜーたく言うな!行くぞ!」 乱馬はその願いを一蹴すると、さっさと梯子を登りはじめたのだった。 天道家に戻り、良牙にやかんの湯をぶっかけてやり人間に戻す。人間に戻るなり、良牙は服を身に着けながら、乱馬に訊いた。 「乱馬ぁ!あかりちゃんはっ!?」 「もういいから、お前は何も考えずついてこい!あかねがあかりちゃんを連れてきてるはずだから!」 乱馬はそういうと、すぐに良牙を公園へと案内した。 公園には、すでにあかねとあかりが到着していた。乱馬は二人を見つけると、ふたりに手を振った。 「良牙さまっ!」 「あかりちゃんっ!」 良牙が到着するやいなや、二人は手を取り見つめあう。 そんなあかりたちを見て、あかねが心から嬉しそうに喜んだ。 「よかったわね」 「ちったぁ周りの迷惑も考えろって」 乱馬は憎まれ口を叩いていたが、そんな乱馬もあかりちゃんの嬉しそうな顔を見て充実感に満たされたような顔で二人を眺めていた。 「今日良牙さまにお会いできて本当によかった。ずっと連絡もとれなくて心配で…」 「あかりちゃん。ごめんよ…」 良牙は心配をかけたあかりに申し訳なく思う反面、こんなに自分を心配してくれる女の子がいるなんて、と天にも昇るような気持ちだった。 「乱馬、もう帰ろう。あかりさんたちの邪魔したくないもん」 「そーだな」 あかねに言われて、乱馬はそのまま家に引き返すことにした。のだが。 「良牙さま…」 そっと目を閉じるあかりが目の前にあった。それだけで、良牙は全身が血潮のように湧いて脳が沸騰するような気分に襲われる。 「あ、あ、あ、あかりっ…ちゃん…!」 どきどきと胸を高鳴らせて顔を寄せる良牙に、乱馬が物珍しそうな顔で見つめる。あかねがそれに気づいて、恥ずかしそうにやめなさいよ、と窘めるが、今にも傍によって煎餅でも食べながら凝視しそうな勢いである。 良牙の方は、良牙の方で他のことに構う余裕は全くなかった。とにかく、目の前にある純潔そのものの唇を味わえるかと思うと、強烈な期待と緊張でどうにかなってしまいそうだった。 しかし、あろうことかこのタイミングであかりがぱか、と目を開いた。そのことで、ぎしりと音をたてて良牙がその体勢で止まってしまう。あかりが、おずおずと恥ずかしそうに目をしばたたかせた後、あの、と口を開いた。 「私、良牙さまのすべてを好きなのですが…ひとつだけ、お願いが…」 「な、な、なんだいっ」 極度の期待と緊張で頭が沸騰しそうになっている良牙はやっとのようにそう言ったのだが。あかりが悲しそうに目を伏せると、すいと良牙から自分の体を後ろに引いてしまった。 「あの、私、ブタのように清潔な方としか…くちづけはできませんっ!」 あかりはそれだけ言うと、恥ずかしそうに顔を伏せながらカツ錦にひらりと飛び乗り、そのまま公園を立ち去ってしまうのだった。 残された良牙が、あかりのその言葉に打ちのめされ一気に気落ちする羽目になった。下水に落ちたばっかりに、良牙の服といい体といいに異様な匂いが染みついてしまっていたことに、良牙は気がつかなかったのだった。 良牙の体全体に一気に陰鬱な空気が纏わり始めた。 そんな危険な状態だとわからないはずはないのに、あえて、わざわざ乱馬は良牙に近づいたのだった。励ましとも慰めともつかぬセリフを笑い飛ばすようにこう言った。 「わはははっ!残念だったなぁ〜良牙!まあ、次頑張ればいいじゃねーか!」 「お前がいうなーっっ!!」 陰の気を集約したかのようが大きな塊が乱馬に放たれ、乱馬は空に飛ばされたのだった。 ■END
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