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【らんま1/2】台詞お題30より |
| ■「眼中に無いってワケ。」→「眼中に無いってわけだな」 |
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掲載日[2008/5/27] 乱馬が天道家に居候の身になって一週間が経とうとしていた。 乱馬の、女に変わる体質のことも程なく学校では知れ渡り、乱馬を珍しがって水をかける輩もいたが、それもだんだんと落ち着いてきた。 転校生が纏う特有の異質の空気は、周りの空気に感化され、すでにその異質さは薄れていっていた。乱馬が身に着ける人民服でさえも、今ではクラスの名物として取り込まれてしまったようだった。 もともと、乱馬はどうやら順応が早いようだ。天道家にも学校にも、自分の居場所をいとも簡単に確立したように見える。 あかねは、もう自分が案内役を買って出なくてもよさそうだと安心していた。一応、天道家の人間として面倒は見なければならない、という意識はしていたので、少し肩の荷が下りたような気もしてほっとした。 そして、その週末の帰り道。乱馬はあかねの隣を、正確に言えばフェンスの上を歩いていた。 乱馬は、そこを彼専用の帰り道と決めたようだった。 「なー」 乱馬はまだあかねの名前を呼ぶことには慣れないのか、めったにあかねの名前を呼ばなかった。 「なによ」 あかねも、それに気がつきつつも言い出せずにいた。あかね自身も、乱馬を名前で呼ぶことにまだ、少しの抵抗があったのだった。始めの出会いが最悪で、それを引きずっているのかと言われればそうではないはずなのだが、出会って間もない同級生の男子を呼び捨てするのにはまだ抵抗があった。 「お前って、ずーっと東風先生ひとすじなの?」 いきなりなにを、とあかねは目を見開いて立ち止まってしまった。位置的に少し前を歩いていた乱馬は何気ない空気を保ったまま、歩みを止めなかった。 無神経な、と思いつつ、これまで誰にも話したことのない話ができることが、少しあかねには嬉しい気がした。 「…そう、よ」 思い切って言ってみると、なんだか今更ながら他人事のようにあかねは、長いな、と思った。ちらり、と目の端に映る自分の髪の長さを見て、それはそうだ、と思いなおす。あかねの髪はもう腰の位置に届いている。その長さ全部が、東風先生への思いそのものなのだから。 「小さいころから?」 「そう、小さいころから」 あかねは、再び歩き始める。あまり大きな声で話したくない話題なので、乱馬とあまり距離を置きたくないと思った。 「すげぇな」 淡々と、乱馬が言う。この少年は、もしかするとまだそんな思いを抱えたことがないのだろうか、とあかねは一瞬考える。 「飽きねぇか?」 歩調はまったく変わることがなく、またこちらを見ることもなく、乱馬はただ思いついたことを軽い調子で訊いて来る。腕を頭の後ろで組んで、少し斜め上を見上げている格好のまま、歩いている。 「そんなこと、あるわけないでしょ」 「あるわけねぇんだ…」 へえ、とでも言いそうな雰囲気に、あかねはなんだか笑いたくなる。 可笑しいではないか。親が決めた許婚と、自分の好きな人の話をするだなんて。 「うちの高校であんだけモテて、ぐらついたりしねぇの?」 「全然。東風先生よりみんな、弱いもの」 不思議なことに、自分の気持ちを言ってみれば言ってみるほど、あかねは自分が高ぶっていくのに驚く。友達同士で恋を語らう子達の気持ちが分かったような気がして、あかねは一人くすぐったいような気持ちになった。 あかねは、これまで自分の気持ちを誰にも打ち明けたことがなかった。打ち明けたところで、やんわりとなだめられてしまうことがわかっていたのだ。それほどまでに、東風が姉であるかすみに好意を寄せていることは、周知の事実であった。 だから、あかねはこれまで誰にも自分の気持ちを打ち明けられなかった。家族はもとより、友人にも、誰も何も言わず。そうしてずっと長い間、胸のうちに秘めて、あたためてきた。 そうして唯一、やっと打ち明けられたのが自分の許婚というのだから、奇妙な話だ。 「はー。そりゃあいつらもご苦労なこった。眼中にないってわけだな」 「そんな、傲慢な気持ちじゃないわ。ただあたしは、東風先生だけなの」 あかねはその思いを口にしてみて、やっぱりそうだ、と確信した。 (この気持ちだけは揺るがない、なにがあっても) あかねは、そう思えた。 「俺も含めて、か」 吐息の混じった声でその台詞が降ってきて、あかねはその言葉の意味が一瞬理解できなかった。 (……え?) あかねの中で、乱馬の言葉が木霊する。 何故、と乱馬に思う自分と、何故、と自分に向かう疑問が交錯した。 何故そんなことを言うの、と乱馬に思ってから、何故そう思われないと思ったの、とあかねが自身に問う。 ―――許婚、なのよ? 心の奥底で、誰かがそう言った。 ―――婚約者なのよ。乱馬は将来の夫。そしてあたしは彼の妻になる。子供をもうければ、彼と一緒にその子供の父と母にもなるのよ。そういう運命を一緒にたどるかもしれない人が、目の前にいる。それなのに。 想像もしなかったことだ。いや、想像するには、遠すぎるし、重すぎる。そう思って想像するのを意識的に避けていた節もあった。 けれども。 「どうした?」 唐突に立ち止まってしまったあかねに、乱馬が振り返る。 どうした、と聞きたいのは自分の方だとあかねは思った。 どうして。一体今までどうしてこんなことに気づかなかったの? 乱馬への罪悪感が膨らむと同時に、今度はこれまで学校の男子を蹴散らしている時にはない罪悪感が、胸の中で重く膨らんでいくのを感じる。 もしかしたら真剣に自分を思ってくれているかもしれない人たちをずっと蹴散らしてきた。いや、真剣だからこそ毎日毎日めげずに戦いを挑んでくるのだろう。それなのに、あかねはずっとその人たちを機械的に振り払い、蹴り飛ばしてきた。 自分が、とんでもなく冷たく、非道な人間のように思えてくる。 (そんなつもりはなかったのに…) 「おい、おかしいぞ、お前。顔青くねぇか?」 とん、とフェンスから道路に飛び降りた乱馬が、うつまむいたまま動かなくなったあかねを覗き込む。 「乱馬、私どうしよう」 「あ?」 乱馬は、あかねが唐突に問いかけたことに首をかしげた。ぴょん、と後ろで乱馬のおさげが跳ね上がる。あかねは泣きこそしてなかったものの、今にも泣きそうなくしゃくしゃな顔をして乱馬を見上げていた。 「あたし、みんなにひどいことしてたのかも…」 「今更かよ…」 乱馬が呆れたようにぼそっと言った。あかねは優しさの欠片もないその対応に、ぶんっと鞄を振り回した。 「なによ!だって気づかなかったんだもの今まで!」 「だから鈍いって言うんだよ、お前は」 「悪かったわね!」 ぶんっぶんっと乱馬に向かって鞄を振り舞わずが、乱馬は素早くそれを避けてしまう。すいっと避けるときの顔は完全にあかねを面白がっている顔で、小癪なくらい余裕だ。 「ま、いーんじゃねぇの?お前もあいつらの気持ちは痛いくらいわかってんだからお互いさまってことで」 「!」 ぴたり、とあかねは振りかざした鞄を止めた。これを的を得た台詞といわずなんと言おうか。 乱馬が、もー終わりか?とでも言いそうな顔でこちらを眺めている。いつもと変わらない、飄々とした顔だった。あかねが蹴散らした男子たちも、これくらいあっけらかんと思っていてくれたらいい、とあかねは思う。 しかし、そう思ってくれているからこそ、毎日あかねをめがけてくるのだろう。朝からどんなに叩かれようとけられようと、あかねだけをめがけて。 そして、あわよくば、という期待を胸に秘めながら。 そう思うと、その気持ちこそ、自分自身の気持ちそのままではないか、と思う。 そこまで考えると、あかねはおとなしく鞄を脇に下ろして両手で持ち直した。 「みんな、どうにもならない思いを抱えてるのね…」 「そーみたいだな」 乱馬は、自分だけは関係ないという態度で、再びフェンスに飛び乗った。また、斜め上を見上げつつ、頭の後ろで腕を組む。 この少年だけは、まだその悩みにも行き着いていないようだ。それなら、それでいい、とあかねは一人思う。 いずれ知ることになっても、今はまだ、まっさらで痛みのない心がそこにあるのは、なんだか救いのような気がした。 「乱馬、今は眼中になくてごめんね」 「馬ー鹿!俺だってねぇよ!」 ■END
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