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【らんま1/2】台詞お題30より |
| ■「空が青すぎてムカつく。」→「空が青すぎてムカつくくらいだぜ」 |
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掲載日[2008/8/17] 最近の異常気象と言うのは全く容赦がない。 照りつける太陽は肌を焼く勢いであるし、気温は三十三度前後で温度計の赤いものが跳ね上がったまま降りてくる様子がないようだ。何よりも日本独特の湿った空気が余計に暑苦しい気分にさせる。海外ならば湿度がそれほどないので日陰に入れば即涼しくなるらしいが、それは本当だろうか、と良牙は人づてに聞いた情報を思い出して息をついた。 「あかねさん、会いたい…」 良牙はこの森に入ってすでに5日が経過しようとしていた。奥深い密林に足を踏み込んでしまったのだろうか、と不安になって引き返そうと思ったときにはすでに時は遅く、どこをどう歩いてきたのか、先ほどどちらを向いていたのかもわからなくなっていた。 「土産の賞味期限に間に合わなくなっちまう。ただでさえこの気温この湿度。生モノじゃなかったことだけが幸いだせ」 良牙は手にした土産の箱を見て安心したように吐息を吐いた。それにしても、疲れは最高潮に達していた。早く天道家にたどり着きたいという思いが先行して、ここのところ2,3日休んでいない。いくら体力があると自負する良牙でも、さすがに体調を気にしはじめた。 「仕方ねぇな。ここらで一息つくとするか」 きょろきょろとあたりを見回して、それから耳をそばだてた。できれば川沿いの、水の供給できるところが良い、と踏んだのだが、運よく水の音が唐突に鳴り響きはじめた。 「不自然な感じだが、まあいい。水は命綱だからな」 水音のする方へと草木をかき分けていく。数日雨が降っていないおかげで乾いた土が歩くたびに舞い上がる。良牙はその土埃が目にはいらぬよう避けながら、前へ前へと進んでいった。 急にぱっと目の前が開けて、良牙はあっけにとられた。そこはどうみても人が整備した立派な公園だった。ほぼ正面に見えるのは、毎正時に吹きあげる噴水。唐突に鳴り響いた水音とはこれだったのだ、と良牙は今更ながらに納得した。 よくよく考えれば土煙りのことを考えても、ここが既に密林などではないことがわかったはずだった。山の土はほとんどの場合湿り気を帯びていることが多く、都市部の小さな丘や高台などでなければ土煙りなど立つはずがないのだった。 やはり暑さに滅入って頭が働かなくなっていたんだな、と良牙は自嘲的に笑いそうになって、はたと止まる。 「この噴水は、あかねさんの近くの公園と同じではないか…!」 良牙は思わず噴水に向かって走りだした。公園の中央に行って、その風景を確かめようとしたのだ。ついでに太陽の位置も確かめておきたい。ずっと木々に太陽を阻まれていたので今の時間がわからなくなっていたのだ。 しかし、その必要は次の瞬間に無くなった。少なくとも、場所を確かめるという意味では完全にその意味がなくなった。 「よっ、良牙!そろそろ来るころだろーと思ってたぜ!」 後ろのおさげを揺らしながら、軽快に乱馬が横から飛び出してきたかと思うと、良牙の頭に体重を乗っけるように降りてきた。良牙は予期せぬ相手にうまく立ち回れず、結局頭から乱馬に踏みつけられた。 ぶぎゅる。 「乱馬っ!挨拶くらいまともにしたらどうだっ!」 ぐっと手を伸ばして乱馬の足をつかもうとするが、乱馬は次の瞬間すっと良牙の頭を蹴って地面に音もなく滑らかに降り立った。 「お前がそれを言うのかぁ〜?出会いがしらに喧嘩吹っ掛けるのはお前の十八番だろ?」 「野蛮な!俺がやる時はお前に確かな理由があってのこと!」 「その確かな理由ってのは濡れ衣含んでだろ?」 「やかましいっ!」 あっという間に手が手を足が足を追う格闘が始まる。乱馬は先ほどアイスキャンディーらしきものを口にくわえていたが、良牙とのやりあいが確定したタイミングで、アイスキャンディーをぺろりと平らげ、残った棒をプッと吐き出して攻撃してきた。 良牙は番傘を目の前にやりアイスの棒をそれで払うと、そんままの流れで乱馬に番傘を突き出していく。 「おらおらおらおら!なまってるみたいだな、乱馬!暑さでやられたか?」 番傘を避けながら一歩一歩後退する乱馬に、良牙は声高にそう言った。乱馬は無表情でその番傘を避けながら、一瞬しゅっと体をかがませて足をさっと良牙に伸ばしてコンパスのようにくるりと回転させた。足払いである。 「…とっ!」 当たった瞬間に跳躍して良牙は乱馬との距離を置いた。 「足もとがお留守になってるぜっと♪」 にっと笑いながら、乱馬は先ほど吐き捨てたアイスの棒を拾い上げた。その棒を手元で弄びながら、乱馬は良牙を見やる。良牙も乱馬を睨みつけながら、番傘を構えていた。 乱馬と良牙はしばらく相手の動きをうかがうように全くその場所から動かない。動いているのは良牙の背後の噴水と、乱馬の手元で弄ばれるアイスの棒だけだった。 不意に、乱馬がアイスの棒をぴいんっと高く放り投げた。その時が合図だった。 二人の体が前衛に傾いたかと思いきや、一気に間合いを詰めて攻防戦が始まる。頬に、肘に、肩に、胸に、お互いの拳や蹴りが入ったが、二人とも声ひとつあげない。 「終わりだっ!」 気合いの入った良牙の声が天高く響く。良牙の重い拳が乱馬のどてっ腹を貫くかと思いきや、乱馬は瞬時に跳躍してくるっと体を回転させるとそのまま良牙のバックを取った。 「よっと!」 回し蹴りで横から体を吹っ飛ばすと、運悪く良牙はその後ろにあった噴水に体を投げ込まれたのだった。 どばしゃーん。 「ったく、毎度毎度、凝りねぇな、お前は」 乱馬は良牙が浮いてくるのを待つように噴水を覗き込んでいた。噴水からは良牙ではなく、黒い子豚が噴水からよたよたと這い上がる。これが、良牙のもう一つの姿である黒豚である。 「あっ!Pちゃん!」 ちょうどかすみと買い物に出かけていたあかねが、その黒豚を発見して嬉しそうに声を上げた。 「あかね?」 かすみが声をかけると、あかねは先に帰ってて!を言い、かすみはにっこりとほほ笑んでそこからまた歩き出したようだった。 「よかった!心配してたのよ!」 あかねは買物の荷物を噴水のそばに置くと、噴水の縁にちょこんと座った黒豚を拾い上げた。 「わーびっしょり。乱馬、Pちゃん投げたんじゃないでしょうね?」 「ちげーよ」 (少なくともP助は投げてねぇ。俺は良牙を蹴っただけだ) 乱馬は素知らぬ顔をしてそう言うと、疑わしげに睨みつけるあかねの視線から目をそらした。 「どーだか。あんたってどうしてPちゃんいじめるのよ。弱い者いじめは一番武道家としてみっともないわよ」 「けっ!」 あかねはびっしょり濡れた黒豚に向きなおると顔をめいっぱいの笑顔に切り替えて、黒豚に声をかけた。 「Pちゃん、帰ってすぐお風呂入ろうねー」 あかねがにっこり笑いながら、黒豚をきゅっと抱きしめようとした。その瞬間、乱馬はすかさず黒豚をひょいと取り上げる。あかねの柔らかな感触に包まれると期待していた黒豚が、乱馬の手の先で不満げに暴れた。当然である。 「ちょっと乱馬っ!」 「こいつ濡れてんだからな」 「触ればわかるわよそんなこと!」 「わかってねぇ!抱きしめたりしたらおめぇの服も濡れるだろーが」 乱馬が至極もっともなことを言う。もっともではあるが、乱馬にしては珍しい台詞だった。 「へぇ…」 あかねが感心したように乱馬を見上げる。 「な、んだよ」 乱馬がむっとした顔のまま、あかねを見下ろしている。黒豚はまだ乱馬が取り上げた体制のままなので、乱馬の延ばした右手の先でどうにもできずしょんぼりと見下ろしている。 「あんたも結構優しいとこあるのね」 「何いってんだ。俺は優しさの塊みたいな男だぜ」 「なに言ってんのよ」 おかしくなって、あかねはくすくすと笑い始める。ずっととげとげしかったあかねの雰囲気が、乱馬の言葉一つで一気に和らいだ。乱馬を見上げる視線が、心なしか嬉しそうなのが黒豚にもはっきり見て取れた。 (あかねさん…) 乱馬の正面に立っていたあかねは、くるりと方向転換した。後ろには、今しがた買い物してきた荷物があるのだった。 「じゃ、仕方無いからPちゃん乱馬お願い。あたしはこの荷物あるから」 「馬鹿かおめー」 乱馬は黒豚を放る。ぽんっと空高く放られた子豚がぴぎーっと声を上げたので、あかねはあわててその声に反応して荷物から目をそらした。 「Pちゃんっ!」 慌ててあかねは子豚の声を頼りに手を伸ばす。手を伸ばした先にぽんっと子豚が吸いつくようにたどりついて、あかねは心底ほっと安堵の息を吐いた。しかし、乱馬の子豚の仕打ちに、あかねは一気に怒りをまといながら振り返った。 「乱馬ーっ!!」 「ほらいくぞ!あかね!」 悪びれもなく走りだした乱馬の手には、あかねが持つはずだった買い物袋が二つ。子豚のことで一気に高ぶった気持も、その後ろ姿を見せられては、なんだか怒るのが理不尽なようにも思えてきてしまう。 「……」 乱馬のあとを追おうと走り出せばいいのだが、なんだかちょっと居心地の悪さを感じる。怒りかけた自分が、手のひらを返したように荷物のお礼を言うのも変ではないか。 ああだから、乱馬はわざわざそういう手段をとったのかも、とも思う。 乱馬は多分、わざわざお礼など言ってほしくなかったのだろう。言われて気恥ずかしくなるのがわかっていたから。 (だからって) あかねはむっとしたように、乱馬がいたその場所を睨みつける。 (わざわざあたしを怒らせて、何が楽しいのよ) 「乱馬のばか。素直にお礼くらい言わせなさいよ」 子豚があかねを気遣うように顔をあげた。愛らしい上を向いた鼻が、つぶらな瞳が、あかねを励ますように見上げている。 「Pちゃん…ほんっと、乱馬って素直じゃないよねぇ」 「ぷきー…」 (あかねさん…) いつもだったら、同意とばかりに鼻息荒く声を上げる子豚も、あかねの心情を察してか声高くは反応しなかった。 「もっとも、あたしだって素直じゃないんだから、お互い様、か」 あかねは子豚との会話で自分を宥めるようにそう言うと、やっと家に向かって走り出したのだった。きっと途中で乱馬が待っていた風もなく現れるだろう。 乱馬はそういうやつだから。 放り投げられたアイスの棒は、しっかりと公園のごみ箱に納まっていた。 「Pちゃーん!Pちゃんったらー!」 家にたどり着くや否や、あかねが黒豚を探して声をあげていた。母屋でひとしきり声がしたかと思えば、瞑想していた道場まであかねが移動してきたことに気づいて、乱馬は不機嫌そうに瞑想の体勢を崩した。 「んだよ、うるせぇな?」 「ねえ乱馬。Pちゃん見なかった?」 「あ〜?おめぇが連れて帰ってきたんだろうが」 がしがしと頭を掻きながら、乱馬はめんどくさそうに答える。 「ちゃんと部屋まで連れて行ったのに、いつの間にかいないんだもんっ!」 あかねは不安そうに手を振りながら乱馬に言うが、黒豚の正体を知っている乱馬にとってみれば、余計な心配だと一蹴してやりたくなるのを我慢する方が大変なのだった。 「んじゃ、どーせまたどっかで迷ってんじゃねぇのか?」 「良牙くんじゃあるまいしっ!もういいっ!」 あかねはどすどすと不機嫌そうに足を鳴らしながら道場を出て行ってしまう。そんなあかねを見ながら、乱馬は乱馬で今夜はゆっくり寝られそうだと一人そう思うのだった。 「は〜全く…やってられねぇよな、響良牙」 黒豚こと、良牙はもとの人間の体に戻っていた。天道家に戻るや否や、荷物が公園に置きっぱなしであることを思い出し、とって返すようにその敷地を出たのだった。 天道家で黒豚でさえいるだけで食いぶちの心配はなくなるし、安心したベッドで休むこともできる。何より愛しい人の寝息を聞きながら眠りにつけるという最上の時間を得ることができるのだが、しかし。 まれに彼女の許嫁の名前を聞いたりするのは、最悪の時間でもあった。 今日それを聞く羽目になるとも限らないのだが、良牙の精神状態がその危うさを耐えきれるとも思えなかった。荷物のことがなくても、おそらく今日は天道家に居座ることはできなかっただろう、と思う。 彼女の想いを、かすかでも感じ取ってしまった今日という日。 「まったく、空が青すぎてムカつくくらいだぜ」 良牙は空を見上げ、なんとなくそんなことを言ってしまう。 良牙は運よく先ほどの公園にたどり着いて、噴水の縁に腰かけていた。この青さもだんだんと朱く染まっていくことだろう。 じきに空が君の色に染まる。その空ならば俺は許せるのだろうか。 良牙はそんなことを思ってから、自嘲的に笑う。全く俺はなんて女々しい人間なんだ、と。 笑うしかない。そして、逃げるしかないではないか。 彼女の想いを応援することはできないから。 邪魔にならないように想いをそっと置いて、逃げるしかないのだ。 そうしてまた、響良牙は旅を続けるのだった。 ■END
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でもかわいそうなくらい乱あな話ですが。ごめんね…良牙。 つーかね。乱馬は良牙が来るとあかねに優しくしちゃうんですよ。きっと。無意識で。 それくらい乱馬も必至なのよ(汗)必死の具合が見えないけど。 そこは水鳥が水面下で必死なのと同じ感じでw |