【らんま1/2】台詞お題30より

■「結局嫌いなんでしょ?」

掲載日[2008/8/18]















 いつものこととは言え、今日も騒々しい一日だった。
 登校時間にはシャンプーが乱馬をデートの誘いに来たかと思えば、昼休みはクラスメート兼許嫁の右京が夕食に来ないかと誘って来て、ランチを持ってきたシャンプーがそれを知ってまず校内乱闘を始めた。クラスのあらゆる器物が破損されて、破損するものが尽きたかと思いきや、今度は窓をわざわざ割って飛び出す始末。いつの間にか乱馬が攻撃対象が変わっていて、女の戦いならいざ知らず、何故か優勝賞品のはずの乱馬までが巻き沿いを食らわされている結果に陥っている。いつものことではあるのだが。
 なぜ、あえて物を破壊しなければならないのか、とつい傍観を決め込んでいるあかねは考えてしまう。何かのアピールなのだろうか。動物でももう少しまともなアピール行動をとるであろうというものを。
 そして、乱馬が戻ってきたのは昼休みもとうに過ぎた5時限目の途中であった。授業中、担任でもある二ノ宮ひなこが乱馬に気づくこともなかったのは、彼女もまた没収した漫画を一心不乱に読んでいたからであった。
 へのへのもへじの顔になってぐったりと机で突っ伏した乱馬を一瞥して、あかねはため息をつきたくなる。
 一体なぜ乱馬はこんなことを繰り返すのだろう、と。

「聞いてみたら?」
 掃除の時間、なんとなく浮かない顔でモップ拭きをしていたあかねに、ゆかがあっけらかんとそう言った。
「え?」
「だからー、乱馬くんに直接聞いてみればいいじゃない!」
 黒板の溝を掃除していたさゆりも振り返ってそう言う。
「あ、あたし何も言ってないじゃないっ!」
 慌ててあかねは手を振ってそう言うと、ゆかとさゆりが一瞬顔を見合わせてからはぁっと息をついた。
「あかねが言ったつもりがなくてもね」
「ぶつぶつ聞こえてくるのよね」
 ゆかとさゆりが交互になって続ける。
「一体あいつってばなんだと思ってんのかしら」
「あたしに見せつけて何が楽しいって言うのかしら」
「はっきり言ってやればいいのに」
「本当にはっきりしないんだから」
「いつもいつもいちゃいちゃしちゃって」
「鼻の下伸ばしてみっともない」
「許嫁のあたしを差し置いて」
「だいたいあたしのことどう思って」
「言ってない!ぜったいそんなこといってなーい!」
 話の流れが唐突に変わったことに気づいて、あかねは顔を赤くして声を張り上げた。
 だが、あっさりと、ゆかもさおりも、うん、と頷いた。
「そこまでは言ってない」
「ごめん、つい」
「ついってなんなのよ…全く」
 あかねは二人の友人を軽く睨んでから、モップ拭きに戻ろうとしたが、友人二人はそれを止めるように再びあかねに声をかけた。
「でもさ、前半は嘘じゃないよ。っていうか思って当然だよね」
「いくらなんでも毎度のことながらあの見せつけ方はやりすぎよ」
 二人がうんうん、と神妙に頷いて見せるので、あかねもそうかな、という気分になってくる。
「あかね怒って当然なのよ!」
「親が決めたとはいえ、あかねだって許嫁なんだからさ。どういうつもりか、くらい聞き質す権利あるわよ!」
 二人の剣幕にすっかり押されて、あかねはわ、わかったわ、と答えた。
「二人ともありがとう。うん、そうだよね。聞いてみるだけ聞いてみるわ」
 あかねは二人の勢いを何とか留まらせようと、それだけを言って掃除を再開することにした。

 とはいえ、あかねは二人の言うことのもっともだという気がしてきた。
 いつもは余計なことを言うとヤキモチだと思われるのが嫌で我慢してきたのだが、よく考えれば許嫁という立場からして、乱馬の行動を問い質すというのはあながち間違いではないような気がしてきたのだった。
 そんなことを考えながら家路についていたあかねの隣には、まさしく話題の主の許嫁がいた。ただし、隣というか、フェンスの上を歩いているので隣というのには少し距離があるのだが。
 二人で帰るのはもう公然の約束事のようになっていた。朝から晩までほとんど顔を突き合わせているので、会話が発生しないこともしばしばあったが、今日はシャンプーや右京がちょっかいを出してきた日ともあって、乱馬からはあかねに声をかけづらい雰囲気になっていた。
「あ、あのよー」
「なに?」
 あかねの頭の中では、先ほどの二人が交互に「聞くべきよ!」「聞くべきよ!」と囁き合っていていた。あかねも、聞いてみたいとは思っているのだが、どう切り出したらよいかと考えていたので、結果乱馬への反応はうつろなものになっていた。
「怒ってんのかよ」
 乱馬がそういったことで、あかねのスイッチが切り替わった。これが世に言う藪蛇というやつである。
「あんたはあたしに怒らせるようなことしたの?」
「したつもりはねぇ…けど」
 乱馬はしどろもどろにあかねにそう言うのが精いっぱいなようだ。どうせ言い訳しか言えないのに、どうしてわざわざ事を荒立てることをするのだろう、とあかねは思ってから、ああ、そっか、と心の中で笑った。
 正直者なんだな、と思う。
 きっと乱馬は自分が悪いのだと思っている。それがわかっているのに謝れない。けれど何も言わないこともできないので、藪蛇の結果に陥っているのだ。
「ねぇ、乱馬。ひとつ聞いていい?」
 あかねから何か話題を出してきたことに、乱馬は心底ほっとしたようだった。
「なんだよ?」
 声に張りが戻ってきた。きっと、いつもどおりに戻れると思ったのだろう。
(お生憎様。こういうことはさらっと言ってしまうに限る)
「あんたが、あの子たちを断らないのってなんでなの?」
 ひゅっと季節はずれの冷たい風が通り過ぎたような気がして、乱馬は一瞬体をこわばらせた。しかし、一瞬で体勢を立て直すかのように、あかねを見下ろすとにやっと笑ってみせる。
「そりゃー、いつもの可愛くねぇヤキモチか?」
 あかねはカッと頭に血が昇るのを辛うじて抑え込んだ。ここでやりくるめられては、せっかく口にした意味がなくなってしまう。
「そ、じゃあ質問を変えるわ」
 あかねはずっと乱馬からそらしていた視線を、無理やり乱馬に会わせると思いきって言った。
「あたしにあの子たちとのやりとりを見せつけるのっていったいどういう意味なの?乱馬」
 今度こそ、乱馬の体は完全に静止した。あかねを見たまま、思いもよらなかった言葉だったのだろうか、そうだとすればずいぶんと馬鹿にした話だ、とあかねは思う。
「あたし、理解できないんだ。平気であの子たちといちゃつくのを見せるあんたの気持ちが」
 あかねは乱馬から目をそらすと先に歩きだす。あかねから目をそらされて、乱馬は呼吸をすることを思い出したように息を吸った。今度は喉元がひゅっと鳴った。どれくらい呼吸を忘れていたのだろう、と乱馬は思う。
 そして、あかねは夕日に照らされてすべてのものが赤く染まっているのを見て、悲しさを吹き飛ばすように言った。
「でも…ううん、本当はわかってる」
 あかねは下を向いたまま言った。
「あたしのこと、結局嫌いなんでしょ?」
「なんでそうなるんだよっ」
 今度は乱馬の方が瞬時に頭に血が上った。どうしてそんなことを簡単に言っちまうんだ、とあかねを非難したい気持ちになる。非難できる立場でもないのだが、この少年はそういう立場を考えることはあまりない。
「いいのよ、別に無理しなくても。あたしはあんたが誰を好いていようと関係ないんだから」
 あかねはフェンスの上を歩く乱馬を見上げようともせずそう言った。乱馬には、フェンスの下で同じ歩調に歩くあかねの姿がいつもより遠く感じた。
 二人は同い年のクラスメートで、同じ家に住んでいる。しかも許嫁という鎖まで付けられているにも関わらず、二人の距離は一向に近づく兆しが見えなかった。乱馬は、自分たちが本当はどれほど遠いのかということをしみじみ思い知らされるのだった。
 いつになったら、この距離は縮まるのか。
 いつになったら、二人は素直に向き合えるのか。
 果たしてそんな日が本当にくるのかということも、今の乱馬にとってはひどく難しいことのように感じた。
「あかねが、俺を嫌いだって思うんなら」
 平然と歩きながら話すあかねが悔しくて乱馬も平静を取り繕いながらも、頭の中では完全に煮えくり返っていた。あかねのわからず屋!という言葉が頭の中で犇(ひし)めいていて、それを言ってしまわないようなんとか堪えていたのだった。
「おまえも、俺が嫌いだってことだよな」
「なんでそうなんのよ!あたしの気持ちを勝手に決めないで!」
 あかねがばっと顔をあげて乱馬の方を見上げた。その瞬間に乱馬もフェンスから降りる。あかねの真正面に立ち、あかねの視界を奪うような近距離で乱馬は声を張り上げた。
「それだったらお前だってそうだろ!」
「!」
 あかねがはっとして、乱馬を見上げた。そしてあかねの瞳が瞬時に泳ぐ。
「だ、って、あたしだって」
 あかねはしどろもどろにそう言うのがやっとだった。きっと自分の言いだした言葉を悔いているのだ、と乱馬にも想像がついた。ずるいな、と乱馬は思う。
 本当は、そう思わせた乱馬が全面的に悪い。しかし、乱馬はあかねがうろたえるよう仕向けたのだった。けれど、それくらいしないとこの強情女はずっと俺を信じようとしなかったはず、と乱馬は言い訳のようにそう思う。
 乱馬の圧力に耐えきれず一歩後ずさろうとするあかねの手を、乱馬は握り締めた。
 離れないように、これ以上離れてしまわないように、と願いながら、乱馬はあかねにきっぱりと言った。
「俺は、嫌いなヤツの手なんか握ってやらねぇ」
 言われた言葉の意味がわからなかったのか、あかねがのろのろと顔を上げる。
「俺は嫌いなヤツが離れていくなら別に構いやしねえ。でも、お前はだめだ」
 あかねの目が大きく見開く。見開いた瞳に、乱馬が映った。
 そこにいたのは、必死な顔をした、情けないほど懇願する乱馬の姿だった。
「お前だけは、ダメだ」
 あかねは瞬きもせず乱馬を見上げていた。鏡のようにはっきり映っていた乱馬の姿が揺らいで、表面張力を超えた涙があかねの頬を伝った。
「は…い…」
 上の空のような声で、あかねはそれだけ言った。魂を抜かれたような眼をしていた。
 そこには、普段に見る虚勢とか強情とかで張り巡らされた殻で防御したあかねの姿はなかった。素直なままの大きな瞳からはポロポロと光り輝くものが落ちて行くあかねの顔を、乱馬は初めてきれいだと思った。
「泣くな、馬鹿」
「泣かしたのはあんたじゃないの、馬鹿」
 そう言いあって調子を取り戻した二人は、顔を合わせて笑った。
 乱馬がさりげなくあかねの手を握りかえる。フェンスの上に戻る気はもうさらさらなかった。
「帰ろうぜ」
「うん」
 手をつないだまま同じ高さで歩きだす二人の影は、いつまでもここに留まっていたいとでも言うように細長く伸びていたのだった。







 



■END


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■らしくないなぁーと思いつつ、描きたかったので。
この前の新作アニメの当てつけみたいな話になったよーなw
(内容はどこも被ってないので、見てない人はご安心を♪)