水晶の洞窟<後編>
アンジェラはとりあえず、部屋に戻った。母は昼間は女王としての仕事があるため、娘といえど気軽に会えるものではない。
アンジェラはそれが分かっていたので、幾分不安な気持ちはあったのものどうすることも出来ないので部屋に戻った。夜になるのを待とうと思って一度ベッドにうつ伏せになってみたものの、やはり落ち着かず一応女王付き人の者に話がしたいことだけでも伝えて置こうとアンジェラは再びベッドから起き上がった。
女王専属の付き人のメリエは女王の間の扉に佇んでいた。アンジェラはメリエを見て、ほっとする。メリエがその場所にいないときは女王は猫の手も借りたいほど忙しいときなので。
「メリエ!」
アンジェラはにこりと微笑みながらメリエに近づいた。メリエはアンジェラに気がつくと、ご機嫌麗しゅう、と優雅なお辞儀をしてみせた。
「やあね、そんな大袈裟なお辞儀やめなさいよ。」
「そうはいってもアンジェラ様。貴方様はゆくゆくはこの城の主。このくらいのことは」
「そういうのはちゃんとなってからやってもらうからいいの。それより、お母様はお忙しいの??」
「何かご用ですか?」
メリエは不思議そうにアンジェラに問う。
「うん、ちょっとね。ホセに聞いたら、お母様に聞いた方がいいっていうの。それで。」
「ホセ様が・・そうですか。では少々お待ちを。」
メリエが大人しく女王の間に入っていく。アンジェラはもしかしたら今会えるかもしれないな、とぼんやりそう思った。
しばらくすると、メリエが扉を開いた。彼女は明るく笑ってアンジェラにこういった。
「どうぞ、次代女王様。現女王ヴァルダ様がご謁見をお許しくださいましたよ。」
アンジェラは安堵したように息をつくと、頷いて、メリエの後を歩き出した。
大きなホールのような女王の間。女王の後ろに穿たれた大きな窓からはいつもと変わりなく銀世界の光りが零れ落ちてくる。
その真正面、偉大なる魔法王国アルテナの女王が真っ青なドレスを身に着けて、アンジェラの前に毅然と、そして優雅に腰掛けている。母は、いつもその姿勢でその玉座に座っていた。アンジェラの幼い頃の記憶から、変わらぬ姿で。
「お母様、突然のご謁見お許しください。」
アンジェラははきはきとそう言うと、恭しく首を垂れた。
ヴァルダはその娘の姿を見下ろして、満足そうに頷いた。それから杖を側近に渡すと、傍にいたものが静々と退出していき、女王の間には二人だけが残された。
「アンジェラ、もういいわ。顔をお上げなさい。」
母の優しい声がそういうと、アンジェラはほっとしたように顔を上げて立ち上がる。
母がにっこりと頷いたのを見て、アンジェラは嬉しそうに走り出した。母の元へ。
「お母様!」
母の腕の中へアンジェラは飛び込んだ。母は困ったように、それでも嬉しそうに笑う。既にヴァルダから女王という仮面は綺麗になくなっていた。
「やぁね、アンジェラ。赤ん坊みたいよ。」
「だって!何日ぶりだと思う!?一週間ぶりなのよ!お母様のお顔を見るの!」
「あら、そんなに?」
ヴァルダはおどけたようにそういった。腕の中のアンジェラの髪を優しく梳かしてあげなから。
「そうよ!この前はたまたまお母様が夜のお食事のところに私が会いにいっただけだし。」
「まあ、それはごめんなさいね。元気にしていて?顔色もいいし、心配ないわね。ホセに叱られていない?」
「叱られてなんかないわ!魔法の勉強だって前よりはしてるし・・」
「前よりはね」
ヴァルダが穏やかに笑う。アンジェラはそんな母をみて少し顔を曇らせた。
「お母様は・・痩せた?」
「あら。そう見える・・・?」
ヴァルダは手を頬にやった。アンジェラは静かに頷く。
「そうね、痩せたかもしれないわ。ちょっといろいろ忙しくて・・」
ヴァルダはアンジェラを心配かけまいと、すぐさま話題を変えた。
「それで?私に用があるってメリエに聞いているけど??」
「あ、そうそう。」
アンジェラは一度母から離れて、玉座の隣に立って話し始めた。
「あのね、水晶の洞窟ってアルテナにあるんですって。その場所をウェンデルのヒースって人が教えて欲しいって手紙が来たの。私は知らないけど、ホセに聞いたらお母様に聞いた方がいいっていわれて・・」
ヴァルダは眉を顰めるとアンジェラから顔を逸らした。そして、やっとのようにヴァルダは言葉を吐き出す。
「それは・・外部には洩らせないことなのよ・・」
「え・・?」
アンジェラはそんなに深刻なものとは思わなかったので、意外そうな顔をした。
「どうして?何故なの?その水晶の洞窟に、なにがあるの?」
「マナの結晶、だよ。」
有らぬ方から声が聞こえてきたので、アンジェラもヴァルダも吃驚したように玉座から声のした方を見下ろした。
なんと、そこにはヒースとシャルロットと、デュランがいた。
「なっ・・なんでもう・・?!それにデュランまで・・!?」
アンジェラが唖然とした声を出してそういうと、
「メリエ!メリエはどうしたの?」
女王が信じられないものを見るような目つきでヒースにそう言った。
ヒースが無表情な顔のまま、前へ三歩進んでからすぐさま跪いた。慌てて後の二人も跪く。
「アルテナ国女王ヴァルダ様。どうか御前お許しください。」
ヴァルダはそれを見てため息を吐く。
「メリエを解放しなさい。話はそれからよ。」
女王はそういうと毅然とした態度で座り直しながら、アンジェラに視線を送る。アンジェラは慌てて玉座の場所から降りると、三人の隣に控えて立った。
ヒースはゆっくり扉に戻ると、しばらくしてメリエを連れてきた。メリエは女王に申し訳有りません、と頭を垂れた。
「それで、我がアルテナの民にこれほどのことをするあなたがたの要件はなんです?」
女王はあくまで不機嫌そうにそう言った。ヒースは少しためらうと、やがて口を開いた。
「マナの結晶が眠る水晶の洞窟、そこの場所を教えていただきたいのです。・・それはいわば、アルテナ国の最後の魔法の原動力でしょう。その場所を明かすことができないという女王のお考え、察するに難しい事では有りません。しかし、私にも・・」
「静かに。」
ヴァルダはヒースの言葉を押しとどめた。ヒースはびくりと肩を震わせて口を鎖した。
「余計なことを話されてもこちらとしても困りますよ。ヒース・・」
「申し訳ありません・・」
ヒースは素直に謝罪した。シャルロットは訳が分からない調子で跪いていて、デュランもそれと表情はさほど変わらない。アンジェラはその3人の表情を読みながら、大体の経緯を考えていた。しかし、アンジェラにはデュランがここに来た理由がつかめなかった。
「あの洞窟は王家にしかその道を現さぬ。私は女王としてその道を見せるつもりはないが・・アンジェラ、そなたはその者たちをどう思う。」
急に話題を自分に振られて、アンジェラは目を瞬かせた。が、我に返って3人を見つめる。ヒースはシャルロットにプレゼントを与えたがっている純粋な心の持ち主、そしてシャルロットとデュランは・・ずっと一緒に戦ってきた仲間。二人がどんなに純真無垢な心を持っているかなど、今更推し量るものでもない。
「私は、この3人を信じています。」
きっぱりとそういうアンジェラに、ヴァルダは確かめるようにもう一度問う。
「アンジェラ、あなたはそう思うのですね。」
「ええ!」
きっぱりとそう言い切るアンジェラに、ヴァルダは目を細めた。
「ならば。」
ヴァルダは手を打ってメリエを呼び付ける。メリエは素早くヴァルダのを傍に駆け寄ると、ヴァルダの言付けを聞いて女王の間を出ていった。そして、再び素早く戻ってくると、ヴァルダに何かを手渡し、すぐまたこの場所を退出した。
「アンジェラ。それに、ヒース、シャルロット、デュラン。こちらへ」
呼ばれて、アンジェラを始め四人はヴァルダの座る玉座の前に跪いた。
「立って頂戴。今からその場所に参ります。」
4人が吃驚したように目を見開くと、ヴァルダはうっすらと微笑んだ。
「私も参ります。」
「洞窟っていうからまた雪原を歩くとばかり思っていたのにな。」
俺って用なしじゃねぇか、とでも言いたげに、デュランはそういった。
今そのデュランを含め、ヴァルダとアンジェラ、ヒースとシャルロットの5人は、アルテナ城の地下をひたすら下っていた。螺旋のように長く長く繋がる階段は果てしないとも言えるほど、長い。
「僕もそう思って、君を用心棒に雇ったんだけどねぇ・・」
ヒースがすまなそうにデュランにそう言った。デュランは、ま、いいけどよ、とヒースをとりなす。シャルロットはヒースが連れていってくれるといっていた場所がこんな暗くて心許ないところだと分かって、言葉少なに階段を歩いていた。
「お城にこんな地下があったなんて・・お母様は即位されるときにこの事を知ったの?」
アンジェラが不思議そうにそう尋ねると、ヴァルダはいいえ、と答えた。
「それよりも早く教えてもらっていたわ。先代が。きっともう長くないことを悟っていたのね・・」
ヴァルダは少し寂しげにそう言ったが、すぐにまたいつもの女王の威厳を取り戻して黙々と歩き出した。
「ねえ、デュラン?お城の警備はよかったの?」
アンジェラがデュランに声を掛ける。
「ああ、なんかフォルセナも平和になって、警備の仕事あまりまわってこないんだよな。騎士とかになったけど、訓練ばかりで飽きちまってさ。んで、なんかヒースとシャルロットが洞窟にいくっていうから、面白そうでついてきたんだが・・」
「残念だったわね。実践できなくって」
アンジェラはくすくすと笑った。ヒースはそんなアンジェラを見て、心の中ではそれでも連れてきて正解だったな、と思った。
「ついたわ。ここよ。」
螺旋階段の果てに、鉄格子の扉が有り、そこには大きな南京錠が掛けられている。ヴァルダはそれを外すと、ぎぃと音を立てて扉を開いた。
「さ、シャルロット。行こう?」
ヒースがシャルロットに優しく声を掛けて入ろうとした時、ヴァルダが慌ててそれを止めた。
「あ、駄目よ。一人だけよ。」
「え?」
「何故です?」
シャルロットとヒースがきょとんとヴァルダを見つめた。ヴァルダは二人を見て、ゆっくり説明した。
「ここは地上からここまで筒状に繋がっていて、その壁面にはびっしりマナの結晶が連なっています。通常ここはいつも同じ状態に有るので、それで安定をしていて何も起きることはないけれど、ちょっとしたマナの変化が有ると結晶はそのマナに反応して相乗効果を起こします。例えば人が入っても、同じ事が起こります。
そしてマナのエネルギーが反響しあって・・奇跡を起こしてくれます。ただ、二人はいれば二人分の、三人入れば三人分の相乗効果を起こしてしまうので、エネルギーが行き場を失ってその人に向かうことも考えられます。」
「なるほど。じゃ、シャルロット。行っておいで。君が一番欲しいものが、そこにあるんだ」
「なんでちか?それは。」
シャルロットは半泣き状態だった。ヴァルダの今の説明はあまりに衝撃的すぎたようだった。
「いいから。僕自信が本当は何かしてあげたいけど、力が及ばないんだ。どうしても。だからここのマナの力を借りよう?」
「やでちぃ・・こんな暗くて恐くて何があるか分からないところに一人では入りたくないでち!!」
「シャルロット・・」
ヒースは困ったように泣きじゃくり始めたシャルロットを慰める。シャルロットが焦れて泣き始めてしまうのを見ながら、アンジェラは小さく微笑んだ。
同じ恋する乙女としては、こんなとき焦れて泣きたくなるのも当然だわ、と心ひそかに思いながら。
「しゃーねぇなあ・・。女王様、俺が試しに入ってもいいですか?」
そういったのは、他でもないデュランだった。アンジェラがそれを聞いて吃驚する。
「やだ、どうしてデュランが入るっていうの!?」
「なんでだよ。俺だってせっかく来たんだ。見るもん見て帰らないと、意味ないじゃねぇかよ。」
「そりゃ、そうかもしれないけどさ・・」
アンジェラはデュランが言うことがもっともだと思うので、言い返せず押し黙る。ヴァルダがアンジェラが黙ってしまうのを見て、デュランにこういった。
「入るのなら、いいわよ。自分自身のマナを浴びるだけだから何とも無いわ。私も何度か来ているし。」
「お心遣い、ありがとうございます。」
デュランはそういうと、一人その鉄格子の扉をくぐって入ってしまった。アンジェラは不安そうにその姿を見送る。ヴァルダがそんなアンジェラを見て、小さく囁いた。
「彼が心配なの?」
アンジェラははっとしたように我に返ってヴァルダを見る。ヴァルダがからかうような瞳でアンジェラを見ているのに気づいて、アンジェラは知らず、赤くなった。
「う・・うん。」
「大丈夫よ。一人で入ればなんともないの。・・でも、あとで困ったことになるかもしれないわね。」
「困ったこと?」
アンジェラは不思議そうにヴァルダを見上げた。ヴァルダはにっこり微笑んでいる。
「そう、ちょっと困ったことにね。」
待つという手持ち無沙汰な時間が暫く過ぎた後。
がっしゃん!
派手な音を立てて、デュランが鉄格子の扉から現れたのをみて、アンジェラがほっと顔を緩ませた。慌てて駆け寄って、大丈夫?と尋ねると。
デュランが顔を真っ赤にさせてアンジェラから顔を逸らす。それから、大股に二段飛びをして螺旋階段を上がっていってしまう。
「?なによ・・??」
アンジェラは訳が分からず、デュランを見送ってしまう。それを見てヴァルダがくすくすと笑った。
「ほら、シャルロット。君の番だよ。」
シャルロットをなだめてすかして、やっとシャルロットは頷いた。いってくるでち・・と心細そうにそういうと、鉄格子の扉を抜けていってしまう。
それからしばらく、不安な時間が流れすぎて、やっとのことでシャルロットの姿が洞窟の暗がりから現れたときは、見守っていた3人は思わず安堵の息を洩らしていた。そのシャルロットの顔はさっきよりもぐしゃぐしゃになっていた。さっきの泣き方はまだ可愛らしくみせるための泣き方であったのに対し、今のシャルロットは本当になりふりかまわない泣き顔になっていた。
シャルロットはしゃっくりをあげながら、ヒースの腕に抱かれた。涙は止まりそうも無かった。
「ぱぱも・・ままも・・あたちを愛してたって・・ヒースもあたちを大事に思ってるって・・」
「声が聞こえたね?君の両親の声が聞こえたんだね。」
ヒースはシャルロットの声を聞いて嬉しそうにそういった。シャルロットを抱きかかえると、満足そうに抱きしめていた。
しばらくその様子をうかがっていたが、不意にヴァルダがアンジェラの方を見てこういった。
「さて、アンジェラ。あなたも入るんでしょう?」
ヴァルダはそういうと、アンジェラを扉の方へ促した。
「お母様・・」
アンジェラは不安げに母を見つめる。しかし、ヴァルダは安心させるように笑う。
「平気よ。シャルロットだってデュランだって、平気だったでしょ?」
「う、うん。じゃあ・・行ってきます。」
アンジェラは決心を込めて、扉をくぐっていった。
中は暗いかと思ったが、意外に明るかった。壁面には少しずつ水晶が張り付いていて、それはだんだんと大きく、そして一面に張り巡らされていった。
そして、やがて行き止まりになり、筒状に穿たれたその洞窟は地上の光を乱射させていて、相当に明るかった。
かなり遠い空から光りが入り込み、壁面の水晶がいろんなところへ光を送り出している。
アンジェラはその円形状の地面の中央に立つと、しばしその水晶に目を奪われていた。光を放ち、輝くその水晶はどこまでも澄み切っていて美しかった。
そんなことに気を取られていると、突如アンジェラの身体から何かのエネルギーが壁面の水晶に向かって走りあがっているのを見た。アンジェラの髪の毛と同じ紫色のオーラがすごいスピードで結晶の色を変えていく・・アンジェラの色、紫に。
「なに・・・??」
やがて全てが紫の空間になって、アンジェラに戻ってくる。その戻ってきたオーラに、声が流れ込んできた。
”・・アンジェラ・・”
アンジェラは不意に聞こえた声を聞き逃さなかった。聞き逃すはずも無い、あの冒険の全てを知る味方。あるいは、分身なのだから。
「フェアリー!!フェアリーね!!」
”そうよ。あの時と同じ、私よ。ずっとずっとあなたがここに来るのを待っていたの。”
「あの時と同じ・・?」
”そう、あの時、アンジェラは一人だって嘆いていたわね。孤独だって。でも今は・・どう??”
フェアリーの声が聞こえなくなるのと同時に。
一斉にアンジェラに世界中の声が流れ込んでいく・・!
”ありがとう!アンジェラ!”
”ありがとう、世界を、私たちの子供を救ってくれて!”
”知ってるわ。あなたがどれだけ頑張ったか。”
”全部知ってるよ。”
「あ・・あぁ・・!!」
アンジェラはくず折れた。涙が止めども無く溢れて止まらない。止まらない。だって、これは今までに世界中で会った事のある全ての人の声だ・・!
そして、あの時に一番聞きたかったその声も、今届く。さっきも傍にいたのに、声が聞けるのが嬉しい、ただ、母の声が聞けるというそれだけで。
”アンジェラ・・あなたを一番の誇りに思っています。”
「うっ・・うぇっ・・おかぁさまぁ・・」
”アンジェラ・・”
涙を流しながら、アンジェラは目を見開く。まさか。まさかこの人の声も流れてくるなんて。
「でゅ・・デュラン・・?」
呆然としたまま声が流れてくるのを待っていると、まるで声は本人のそれと同じように躊躇ってみせた。そして、優しい、どこまでも優しい声がこう言ったのだ。
”アンジェラ・・アンジェラ。お前を大切に思うよ・・”
「・・・!!」
まるで幸福の絶頂。アンジェラの中の不安がすべて溶けていく。でも。
「フェアリー!フェアリー!もう一度話がしたいよ!返事をしてよ!」
気がつくと、洞窟の光は途絶えていた。恐らく、マナが安定状態に戻ったのだ。
「・・フェアリー・・!!」
アンジェラは泣き崩れた。フェアリーにまだお礼を言っていない。
(信じていてくれたんだ。フェアリーはまだあの始まったばかりのあのときから・・。私がすべて成す事を信じてくれていた。だから、一人でなくなる事を知っていた。)
「あたし・・私はフェアリー!あなたにちゃんと何かしてあげられた!?」
アンジェラは泣きながら声を上げる。
「ちゃんと・・あなたを救ってあげられた・・?ねえ・・答えて・・フェアリー・・」
アンジェラが声を響かせても、もう奇跡は二度と起こらなかった。
やがて、泣き顔を何とか誤魔化すようにアンジェラが洞窟を出て行くと、そこには4人とも揃っていた。そう、先ほど階段を上がっていったはずのデュランもそこにいた。ヒースがなだめて、連れ戻してくれたのだろうか・・?
「アンジェラしゃん・・・」
シャルロットが泣きはらしたアンジェラの顔見て、気の毒そうにそういった。
それでも、アンジェラは大丈夫よ、と微笑もうとした。無理に笑おうとした唇は小刻みに震え、弓形にはならなかった。とうとう、また、涙が一粒、また一粒と転げ落ちて行く。
限界だった。悔しくて心残りで・・フェアリーに何もしてあげられなかった自分が・・情けなくて・・・。
それでもフェアリーは信じてくれていたというのに。
「あたし・・あたし・・フェアリーにお礼言ってない・・言ってない・・のに・・」
鳴咽を堪えるように、アンジェラは再び泣き始めた。ヴァルダが気遣うように前に出ようとしたが、それより早くデュランがアンジェラをわざと乱暴に抱きしめていた。
「本当に馬鹿だなぁ・・お前は。」
その声は限りなく優しい。まるでさっきのマナの奇跡の続きのようだ。
「だって、だって、・・フェアリーまた眠らなくちゃいけなくなったんだよ。私がちゃんとした聖剣の勇者だったら・・」
泣きながらアンジェラがそう言いつづけると、デュランは困ったように苦笑いした。
「ちゃんとした勇者だったろうが。世界中の人の声、聞こえただろ?・・それに。」
デュランはアンジェラの身体を少し強く抱いた。アンジェラの細い、折れそうなくらい細い体がデュランに寄り添う。
「フェアリーは女神様になってなんていった?ありがとう、そう言わなかったか?」
「・・言った。」
アンジェラは、暖かいデュランの腕の中で子供のように素直にそう言った。
「それなら、感謝してる証拠だろうが。」
デュランが有無を言わさぬ調子でそう言う。
その言葉に、アンジェラの心がやっと安心できて、涙が引いていく。
「うん、そう・・だね。」
デュランはアンジェラが納得したようにそういうと、身を離した。じゃ、戻るか、と先にまた軽々と二段飛びで螺旋階段を上がって行く。
アンジェラは呆然とその後ろ姿を見てから、ゆっくり微笑んだ。
ヒースとシャルロットが、安心したように顔を見合わせて階段を上がっていく。ヴァルダもアンジェラを上に促した。
困ったことにならなくて、よかったわね、とヴァルダがアンジェラにそう囁いた。
fin.
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