雨の降る日
静かな音を立てながら、雨はこの地を濡らしていた。野草や樹木がその雨に歓喜の音を立てながら、我が身を濡らしている。雨音はあくまで優しく、そして穏やかに、人の心も潤わせてくれるようだった。
アンジェラは部屋に一人、窓を見つめていた。窓の外の、雨の落ちゆく軌跡を眺めていた。滴が窓については、滴り落ちていく様を、ただ呆然と、見つめていた。
同じ部屋のリースとシャルロットはこの雨の中、買い物に出かけた。シャルロットがどうしても見たいものがあるとリースにせがんで聞かなかったのだった。アンジェラも行く?リースはそう言ってアンジェラを誘ってくれたが、アンジェラは濡れるのが嫌だから行かない、と応えた。
そして。今は一人窓を眺めているのだった。ベッドの上で、足を抱えて。
雨は止む気配さえなかった。
しとしとと静かな雨音を鳴らしながら、アンジェラの耳を心地よくしてくれていた。長いまつげが紗のようにゆっくりと下ろされた。アンジェラは目を閉じた。
アンジェラは、雨音の中に沈み込みながら、誰かが泣いているみたいだと思った。
「・・はぁ・・」
意味もなく深い息をついていると、部屋の戸がきぃと音を鳴らした。誰かが部屋に入ってくる。リースかシャルロットが帰ってきたのだろうと、おざなりにそう思って、アンジェラはそのままの姿勢でいた。
「不用心だな。」
その声にびっくりして、アンジェラは顔を上げた。リースでもシャルロットでもない。静かに話すときの、低めのしっかりした声は。
「デュランっ・・」
「鍵、かけておいた方がいいんじゃないか?」
デュランはそう言うと、にっと笑う。アンジェラは、ああそうね、と自分にしてみれば意外な人が入って来たので驚きながら、そう言った。
「だって、シャルロットとリースが買い物に行ってるから・・すぐ帰ってくると思って。」
「そうか。」
デュランはそう言うと、アンジェラが座り込んでいるベッドの向かい側のベッドに腰掛けた。そこはシャルロットのベッドだった。
「よく降るな、雨」
「うん、移動日だったのに、残念ね。せっかくブースカブーで新天地に行ける予定だったのに」
「ま、たまには休息もいいさ。」
「そうね・・」
アンジェラはそういうと、足を抱えなおした。何か用があったという様子でもないデュランに、少し不思議に思いながらも、それでも一人ではない空気が心地よくて、アンジェラは何も言わなかった。
雨音を聞きながら、アンジェラは再び目を閉じた。デュランはそんなアンジェラに、辛いか?と尋ねてきた。アンジェラは思わず肩を震わせてしまってから、しまった、と思った。
「どうして・・?」
おもむろに顔をデュランに向けて、アンジェラはそう訊ねた。
「いや、ただ、なんとなくな・・疲れてるような気がしたんだ」
・・・疲れてるような気がしたんだ
・・自分だって、きっと疲れてるくせに・・・
アンジェラはそう思ってから、自分が変わったな、と思う。
アルテナにいた自分なら、そんな風に気遣われることも、気遣ったりすることもなかった。それは、ひとえに誰も自分を対当とする事もなく、また親しむ事もなかったから。けれど、今は誰かが気遣う、誰かを気遣う、それが当たり前になっている。それが『仲間』だという事に気づいたのは、まだつい最近だった。
心配されるのは心地よかった。誰かを気遣って、誰かを思うときも、自然と心の中で生まれてきていた。それは、やはり『仲間』を『信頼』しているから。この人たちなら、裏切られないと信じているから。
時々恐怖に襲われるのは、『裏切り』だった。何よりもそれが恐ろしかった。人に拒絶されるのが、必要とされなくなる日がいつか来るのではないか・・あの時の母のように。
我が子の死を命令する母の冷徹な顔。それを思い出すと、今でも震えが止らなくなる。恐怖が自分を飲み込んでしまう。だから、母を求めながらも、最近は顔を思い出さない様にしていた。
つまらない考えの派生で、アンジェラは体を震わせた。それに、デュランが気づく。
「風邪でもひいたのか?顔色が悪いぞ」
それを、アンジェラは誤魔化すように笑った。大丈夫、平気、そういって心配かけないように、デュランをなだめた。
「デュランは本当に心配性ねぇ」
そういって、アンジェラは笑ってみせる。
「そりゃ、仲間だから。」
デュランはそう言うと、立ち上がる。あまりいるとホークアイがうるさそうだから、と苦笑いしながら部屋を出ていった。
「・・仲間だから」
そうね、大丈夫よね、私たち。
アンジェラはそう思うと、ようやくベッドから足を下ろした。
雨は既に小降りになっていた。
Fin.
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デュランアンジェラではありますが・・まだ恋愛感情ゼロという感じ。
書きながら、そう言えばアンジェラは一体いつデュランを好きになったのかな、と思いました。
まあ、ああいうはねっかえりのお姫様がデュランみたいな熱血少年に惚れ込むっていうのは、
多分、すっごい勢いで怒鳴られたり、怒られたりしたあとの、ちょっとしたことなんでしょうねぇ(笑)
っていうか、ほんとーに自分妄想家になってるね。(汗)
処置無しって感じ・・(滅)
タイトル「雨の降る日」はエンヤCDタイトル -a day without rain- から。
私は雨が好き(休日のみ)なので、降ってる方にしました(笑)