絆―互いを繋ぐもの―
誰にも言わないけど、オイラはいつも夢を見る。
場所はきっと月夜の森。だってものすごく暗い場所なんだ。
でも、暗い森のはずなのに、月明かりがそこだけぽっかり入ってくる場所があって。
・・そこにはカールがひくひくと体を震わせながら倒れているんだ・・。
オイラはカールを呼ぼうとするんだけど、声が出なくて。
カールの傍に行きたいと思うんだけど、足が動かなくて。
それでも目はカールからそらす事も出来なくて。
オイラは苦しむカールをただ見つめるだけなんだ。
オイラはそれで、だんだん胸が痛くなって・・。
・・やがて、カールが苦しそうにこっちを見るんだ。
その目をオイラは知ってる。カールは撫でて欲しいときにする目だ。
オイラに撫でて欲しくて、甘えた目をするんだ。
撫でてやりたい。傍に行きたい。
そう思うんだけど、どうしても体は動いてくれないんだ。
悔しくて、涙がこぼれそうになって、一瞬固く目を閉じてしまうと、次の瞬間。
ただの闇になるんだ。
そこはただの月夜の森で、月明かりももう射してはいない。
・・カールはもうどこにもいなくなってしまうんだ。
「お、起きたか。ケヴィン。早いな」
ホークアイがオイラを見て、笑う。ホークアイの笑い方はどことなくリースと似ていると思う。優しい笑い方をするんだ。
「おはよう。デュランは?」
ベッドに見えなくて、オイラはキョロキョロと部屋を見回した。部屋の中にはどこにもいないように見える。
「ああ、こいつベッドから落っこちてやんの。お前の逆側に落ちてるから見えないんだよ」
笑いながら、ホークアイが窓のカーテンをシャッと開いた。窓からまぶしい光が入ってきて、オイラは思わず目を細めた。
「おおー!いい天気だな!昨日までずっと雨だったから、尚更気持ちいいよなぁ!」
「うん」
オイラは返事して、ベッドから出た。デュランのベッドをぐるりと回ってみる。すると本当に落ちたまま、いびきをかいているデュランを見つけた。デュランは片足だけ、ベッドに残しただけで、体ごと床に落ちてしまっていた。
「落ちたの・・気付かなかったのかな」
オイラは不思議に思ってそう言った。ホークアイが、だろうな、と言ってオイラの隣に立った。
「やれやれ、黄金の騎士の息子が聞いて呆れるぜ」
ホークアイがそう言って、その足でぎゅっとデュランのお腹を踏んだ。
「起きろ!デュラン!」
「ぐえっ!」
オイラはデュランに怒鳴られたくなかったから、すぐに部屋を出たんだ。そしたらやっぱり、大声でデュランが怒鳴ったのが聞こえた。
「ホークアイッ!!てめぇお前も踏むぞこのやろーっ!!」
先に出ててよかった。
顔を洗ってから、食堂に向かっていると仲間のリースとアンジェラとシャルロットが並んで歩いてきたところだった。リースがにこって笑う。
「おはよう、ケヴィン。よく眠れた?」
「うん」
「ねぇ?なんかさっきデュラン叫んでなかった?」
アンジェラがオイラを覗き込むように見てそう言った。なんか、ウワメヅカイっていうのかな、これ。
「うん。デュラン、今日ベッドから落っこちてたんだ。それでホークアイに踏まれて起こされたから」
オイラがそう言うと、アンジェラはきゃははって大声で笑った。アンジェラは子供みたいな声で笑うから、オイラ最初安心した。会ったばかりのときは大人の人みたいで、ちょっとおっかなかったけど。
「ばっかみたい〜!!でもイイコト聞いちゃったわ!今日はこれでデュランからかってあげよーっと!」
「アンジェラしゃん。少しはレディらしく大人しくできないんでちかぁ?」
シャルロットがアンジェラを見上げて、ため息をついてる。どうしてため息つくのか、オイラわからないけど。
「あら、噂の二人も来たみたいですよ。朝ご飯にしましょう!」
リースの言った通り、オイラの後ろには不機嫌そうなデュランと、やっぱり笑ってるホークアイが並んで歩いてきてた。オイラ達は食堂に入って、朝食の並べられたテーブルの席についた。
朝ご飯は目玉焼きと小さな川魚焼いたやつ。それと白ご飯。オイラ、白ご飯が好物。おばちゃんに何度もお代わり頼んで沢山食べるのが楽しみ。
オイラは食べるのに一生懸命だけど、デュランやホークアイはこれからの行き先を決めたりしなきゃならない。オイラあまりわからないから聞いてるだけ。
「で・・ベッドの一件は置いといてだな」とホークアイ。
「なんか、その言い方アヤシイ」
アンジェラが笑いながら言う。デュランが睨みつけて、茶々を入れるなっ!と怒ってる。
オイラお茶飲んじゃ駄目かな?喉が渇いたけど、ちょっと我慢した方がいいかな。
「ずいぶん足止め食らっちゃいましたよね。一週間の雨なんて」
リースがなだめるように、言った。シャルロットが文句をつけるように続ける。
「退屈だったでちよ」
「ま、そのおかげで俺らはのんびりできたわけだ。お陰でそろそろ宿代の金がやばい」
お金の管理はデュランになってる。デュランは何でもやる。狼のリーダーみたいだ。オイラもデュランみたいになりたいって思う。
「えっ!それまずいじゃない!私野宿なんてやだからね!」
「あたちもそれは勘弁でち!」
アンジェラとシャルロットが手を上げてそう言った。でもオイラは野宿好き。草の匂い嗅ぎながら寝るのは気持ちがいい。ベッドも気持ちいいけど。
「あーもー!アンジェラ、シャルロット。お前ら喋るとすぐ脱線するから黙ってろ!」
デュランが二人を睨んでそう言う。オイラは最初から黙ってるから怒られない。
「次の神獣の場所、誰か覚えてる?」
アンジェラはデュランを無視してそう言う。リースがすぐにそれに答えた。
「ローラントの天の頂き方面でそれらしい獣を見たっていう人の話を聞いてますわ。そこが次の戦う場所になりそうですわね」
「ローラントか。よし。それじゃすぐに出発するぞ。飯食ったやつから身なりを整えて宿屋の前で待ってろ!」
デュランはそう言うとすぐ立って食器を片付けはじめた。それにはオイラも含めて全員が答えた。
「了解!」
オイラ天の頂きではついに失敗したんだ。
コカトリスの滑空攻撃にオイラ身を交わすのが遅れて、思わず腕でかばった。あの時と同じ場所で身をかばったせいで、傷が痛んだ。いつもは気付かないのに、その痛みを思い出したら顔に出てしまったんだ。それに素早くリースが気付いてしまった。
「怪我をしたんですか!?」
リースがすぐに駆け寄ってそう言った。でもオイラすごく首を振って答えた。
「う、ううん!全然っ!大丈夫だよ!」
いつもよりオイラが強く否定したから、リースがすごく疑ったんだ。無理においらの腕を掴んで、武具を外してしまうと、リースはそれを見てうっと声を上げた。
「なんて・・こんなに酷い傷を!!」
リースの声に驚いた他のみんなも、それぞれ敵を倒してからオイラのところに集まってきた。そしてみんな、おいらの腕を見て、目をしかめたり、そらしたりした。
オイラの腕にあったのは・・まるでたった今受けたような4本の深い爪跡。コカトリスの爪より太いから、一目でこれが今コカトリスから受けた傷じゃないことはばれてしまう。
それを見たデュランが、オイラの腕を取ると静かに聞いた。
「この傷を・・いつから負ってた?何で言わなかった?」
「もうずっと・・デュラン達に会う前からずっと。この傷はカールがオイラにつけた最後の絆なんだ・・」
デュランはオイラの声を聞いて、黙って頷いてくれた。リースが何か言おうとしたけど、デュランはそれを止めてくれた。デュランはオイラの腕を取ると、肩を貸してくれた。体はそんなに辛かったわけでもないのに、急に力が抜けて、デュランの肩がオイラは必要だった。
みんな何も言わず、天の頂きから漁港パロまで引き返すことになってしまった。
オイラはただみんなに悪くて、どうしようもなく涙が溢れて止まらなかった。
「信じられない!だってもう私たちが出会って半年以上経つのよ!」
アンジェラがそう言ったのは、オイラが漁港パロの町で薬師さんに手当てをされて、薬草を煎じたものを飲まされた後だった。
「馬鹿、アンジェラ。静かにしろ。ケヴィン、怪我してるんだぞ。傷に疼くだろ」
デュランがベッドに横たわったオイラの隣で静かにそう言った。アンジェラが、ゴメンとオイラに謝る。オイラは何ともないから、首を横に振った。
「それにしたって不可解すぎます。ケヴィンが受けた傷はまるで今しがた受けたばかりのような傷でしたわ。血すら流れていなかったけれど、その傷の赤さは・・受けたばかりのものでしたわ」
リースがちょっと興奮したようにそう言った。シャルロットもそれに続ける。
「それでも、カールとケヴィンしゃんが戦ったのは半年以上前なんて、あたちだって信じられないでち」
デュランは黙ってる。黙ってオイラの隣で手を組んで座ってる。誰も何も言わなくなった。静かな空気だったけど、オイラこの空気が重い感じがしてイヤだった。
ようやく、窓際でずっと考え込んで黙っていたホークアイが、あのさ、と言った。
「ケヴィンって獣人だってこと、思い出したほうがいいんじゃないかな」
「どういうこと?」
アンジェラが不思議そうにホークアイを見上げた。オイラもよくわからなくて、ホークアイを見つめた。
「動物的な本能って俺たち人間よりもすごいじゃない。優れた聴力を持っていたり、あるいはものすごい敏捷性を持っていたり。すなわち俺たちには計り知れない能力を、獣人であるケヴィンは持ち得るんだってことさ」
「で?それにしては傷が治らないなんてずいぶんお粗末な能力じゃない?」
アンジェラがそう言って腕を組んだ。それに、デュランがようやく口を開いた。
「お粗末なんかじゃないさ。ケヴィンは必要としたんだ。その能力を」
「というと?」と、リース。
「ケヴィンは親友であり兄弟であるカールの遺したものを、何一つ失いたくなかったんだよ。たとえ、それが自分を痛みで苛むものであろうとな」
デュランがそういって、オイラを見つめた。オイラ、そうだったんだ、ってデュランに言ってもらって初めて判った気がした。
「無意識にそれが働いて、傷が癒えなかった・・ってこと?」とアンジェラ。
「アンジェラ、冬眠する動物っているだろ。アルテナの方には」
ホークアイがそう言ってアンジェラに話し掛ける。アンジェラは頷く。
「ええ、いるわ。ラビの類はもともと冬眠する動物だったのよ。マナの異変で凶暴になってしまって今となっちゃいつでもでてきちゃうけど」
「冬眠する動物っていうのはさ、もともと活動しているときよりも新陳代謝のサイクルが遅くなるらしい。これは余計な体力を消耗しないで済むようにっていうことらしいけどね。」
「それと、お腹が減って死なないようにでちね」
シャルロットが得意そうにそう言うと、ホークアイが笑う。
「そう、眠ってる間彼らは食事を取れないわけだしね。ま、ある程度の蓄えはするけど、それだって限りあるものだし」
「ホークアイ、何がいいたいのか私よくわからないわ」
リースがちょっと困ったようにそう言うと、ホークアイがごめんごめん、と謝った。
「つまりね、ケヴィンは、腕の一部分だけを冬眠した状態にしたんだと思うんだ。新陳代謝を鈍くさせてしまった。ケヴィンがその絆を失いたくないと願ったばっかりにね。新陳代謝が鈍くなると傷が癒える力も相当落ちるだろうから」
それを聞いて、デュランがオイラを見てこう言った。
「ケヴィン。俺らな、お前がどんなに苦しんでるかとか、知らなかったんだ。お前はいつもにこにこしてて、俺たちの行くところいつもついて来てくれるから、俺もずいぶんお前に甘えちまったのかもしれねぇ」
オイラは首を振った。デュランは少し笑った。
「でも、ケヴィン。お前その傷ずっとそのままにしておくわけにはいかないだろ。いずれ、お前はカールを取り戻すためにいろんなヤツと戦っていかなきゃならない。そのときにその傷が痛んで勝てなかったら、お前どうする?」
「カールに会えなくなってしまったら本末転倒・・ってね」と、ホークアイ。
「その傷、治しなさい」きっぱりとリース。
「そうよ、治して!やっぱり、傷は治してしまうのが一番よ!」とアンジェラ。
「治して元気になって、カールと会うんでちよ!そっちの方がきっとカールも嬉しいでち!」
シャルロットも元気にそう言ってくれた。
オイラもその通りだと思った。
「うん、オイラこの傷。治す。カールとの絆は、また会って作ればいいよね?」
オイラがそう言ったら、みんなが笑って頷いてくれた。
オイラ、それでとっても安心したんだ。みんながいてくれてよかったって。
それから、夢は変わったんだ。
カールがオイラのところに駆けて来てくれる夢に。
オイラがカールを抱きしめて大喜びする夢に。
Fin.
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