掲載日:2001/12/09




未来に繋がるもの[後編]




「起きなさい。起きなさいミラーディア」
 老人の傍に倒れるミラーディア。第二幕はそこから始まった。
「う・・うん・・」
 ミラーディアを扮するアンジェラはゆっくりと身を起こして、老人を見つめる。それから、ああっ!と声を上げた。
「フーリエ様はっ!?フーリエ王女様はどこに!?」
「慌てなさんな。大丈夫。フーリエ様はじき戻られよう」
 老人はそう言うが、召使ミラーディアにしてみれば失態を犯してしまったわけだ。ミラーディアはぶるぶると震えてみせる。
「私の・・私の責任だわ・・王女様を・・王女様を危険にさらすなんて・・」
 一度ミラーディアから離れた老人が、カップを持ってミラーディアの元に戻ってくるとそのカップをミラーディアに手渡す。
「さあ、一度これを飲んで落ち着きなさい。大丈夫。ミラーディア、何も心配しなくても良い」
「でも、でも・・」
 ミラーディアは落ち着いていられないように頭を振る。老人がその手に無理にカップを握らせると、ミラーディアはようやく落ち着き、ゆっくりカップを口に近づける。
 そこへ一人の男が現れる。
「ミラーディア!」
 端正な顔立ちをした男だった。宮廷使いのような簡素なそれでも落ち着いた制服を着こなしているところを見ると、ミラーディアの同僚のような存在にあたるようだった。
「アル!!」
 アンジェラの嬉しそうな声が舞台に木霊する。召使はベッドから起き上がるとアルと呼んだ若者を抱きしめた。アルもミラーディアを愛しげに抱きしめる。
 どうやら同僚兼恋人らしい。
―――ホークアイがひやひやしながらデュランを見てみると、デュランはいかにも平然とした顔で舞台に見入っていた。
(なんだ、結構脈あるのかと思ったけど・・どうでもいいのかな)
 ホークアイがそう思って視線を落としてみると、デュランの手が固く拳が作られているのを見て、思わずデュランが哀れになる。
(一生懸命・・隠してどうするんだろうな・・)
 笑えるような笑えないような、切実な思い。そんな気持ちが誰しも心の中にはある。ホークアイは見てはいけないようなものを見てしまった後味の悪さを残して、舞台に目を戻した。
「大丈夫?怪我はない?」
「ええ。ええ。アル、あなたは・・?」
「僕は平気だよ。でも、城の中はどんどん食料も底をつき始めていてね。城内の中でも諍いが絶えないんだ。篭城戦略も限界だよ」
「それに、王女様を失ってしまっては・・」
 くずおれるように召使のミラーディアがアルにしがみつく。それに、老人が声を張り上げた。
「失ってはおりません!」
「え・・?」
 ミラーディアとアルが老人を振り返る。
「大臣・・アディエマス?」
 老人はこの国の大臣だった。ミラーディアとアルが不思議そうに大臣の瞳を覗き込む。
「フーリエ様がいらっしゃるの?いらっしゃるなら、私を早くそこに・・フーリエ様はきっと心細くて泣いていらっしゃるわ!!」
 堰切ったようにミラーディアはそう言うと、大臣の肩にしがみついた。しかし、大臣は首を振る。
「違うのです・・フーリエ王女様は・・」
「なに?何が違うの?!」
 その時、舞台に将軍が現れた。フーリエ王女をさらった、あの将軍だ。
 アンジェラはそこで一気に混乱した。
(さっきから変だと思ってたけど・・本当におかしいわ!ここは・・将軍なんて出てこなかったはず・・!)
 混乱で頭が真っ白になりそうになる。しかし将軍のそばにはシシリィが連れられている。シシリィはそのまま続けて、と口で合図するのを見つけて、アンジェラは何があったのだろうと思ったが、とにかく頷いた。
 大臣のアディエマスが叫ぶ。
「アルディマスト将軍!?何故ここに・・!」
「偽者を返しに来たんだよ」
 憮然として言う将軍が、王女を突き出す。よろけたように前に出た王女は舞台の中央でよろめき倒れた。
「フーリエ様!フーリエ様!よくぞ、ご無事で・・!」
 アンジェラはなんとかこの場だけは取り繕おうと思ってそう言った。そこに、将軍の手がアンジェラの腕を掴んだので驚く。
「身代わりを生まれたときから作っておくなんて・・凝った事してくれるじゃねえか?なあ、お姫様」
 将軍がそう言って、アンジェラをシシリィから引き離す。
 ぐいと引っ張られて、将軍の顔がアンジェラの近くに寄せられる。
「お前さんが本物、だそうだ!」
「・・っ?!」
 アンジェラは芝居するのも忘れてしまう。台本では、敵国に王女を助けに行った後捕らえられ、王女を敵国から脱出させるのを手伝う途中、命が果てるというストーリーだったはず。
 伏せったままのシシリィにはもう尋ねられない。と、いうことは。
「まさか!そんなこと!」
(芝居を続けるしかないわ。)
 アンジェラはそう思った。続けなければ、この役目は終わらないのだ。その機転に満足したように、将軍役のデビットが一瞬微笑んで見せた。
 召使ミラーディアは慌てて手を伸ばした。王女フーリエに向かって。
「王女様!王女様!」
「うるさい」
 将軍がぐいと召使の口を手でふさいだ。そこで、召使は将軍の手を噛む仕草をする。
「っつっ!!」
 強くは噛まなかったので傷にはならなかったはずだ。デビットはそれでも大げさなくらい手を押さえる。召使はその隙に将軍から身を離した。
 大臣とアルが守るように前に出る。
「フーリエ王女様・・」
「ミラーディア・・」
 王女役シシリィは哀しそうに手を差し延べる。ミラーディアはその手を握り締めた。
「あなたが・・あなたが本物だったなんて」
「いいえ、あなたが王女です。何かの間違いです・・!私が、私が王女のはずなんて・・ないんです!」
 悲鳴のような声。その声に、ホークアイとデュランが胸を打たれた。アンジェラが何がいいたいのか、手にとるようにわかってしまったのだ。
(違う、違うなら、本当に違ったならば・・王家でもなんでもなかったなら・・お母様は魔法を使えない私でも・・愛してくれたかしら?)
「そこをどけぇっ!娘ぇ!本物でないというならば、尚更俺が連れて行くのに異存ないだろう!?」
 将軍が声を荒げて言う。しかし、それに動じることなく、ミラーディアは立ち上がって振り返る。将軍を氷のような冷たい眼差しで見つめると、こう言った。
「私は王女でも何でもないわ。でも。私は王女様のお傍でお仕えすること、そして今までどおり、アルを愛し続けること、それを何よりも望んでるの。だから、あなたとは一緒に行けないわ」
 凛とした、涼やかな声が木霊した。高貴なもののみが発することのできる統率者特有の声。その声に観客が息を呑む。
「戯言をっ・・」
 将軍が勢いよく振りかぶって召使に手を上げようとした。アンジェラは毅然とした態度をしたまま、ぎゅっと目を閉じる。
(ぶつなら手加減してよーーー!!絶対っ!!)
「女に手を上げるとは・・最低なヤロウだな!」
「さらうならもうちょっと口達者にならないとねぇ・・」
 はっと目を開くと、そこにはいつもの仲間がいる。デュランとホークアイがにっと笑いかけてくれている。ホークアイの短剣の切っ先が将軍の首にあてがわれ、デュランの剣の柄で将軍の振り下ろそうとする拳が止まっている。
「あ・・あんたたち・・」
 唖然としてから、ほっと気力が抜けたように安堵して、アンジェラはふらりとよろけた。ホークアイが脅しをかけているから、拳がこれ以上動くことはないと見て、デュランがさらうように抱き抱える。
「な、何者っ!?」
 将軍が上ずった声を上げた。これは芝居してるわけではない。本物の切っ先をあてがわれては、上ずった声をあげずにはおれまい。
「ん〜とりあえず盗賊。本物のお姫様を返してもらいに来たのさ」
 気楽な口調でホークアイはそう言うと、デュランがアンジェラを抱えて将軍の横様を通り過ぎるのを待つ。
「確かに、姫君を返してもらったぜ。フーリエ王女!」
 デュランがそう言うと、ホークアイとデュランがアンジェラを連れて舞台を前から飛び降りる。観客がそれに驚いて狂乱する中を、二人は疾走して小屋を後にした。

 後日、フーリエ王女ことシシリィがアンジェラの部屋を訪れた。
「ごめん、アンジェラ。そんなに怒らなくてもいいのに」
 アンジェラはシシリィが来るなり口を聞きもしなかった。それはそうだろう、聞いていた話と違う話が舞台の上で唐突に始まるのだから、アンジェラとはいえ肝を潰したに違いない。
「・・・」
 後ろにはこの前と同じようにデュランとホークアイが面白そうにその場を見つめている。
「だって、ほら、アンジェラってお姫様みたいでさ。どうしてもやってもらいたかったんだよ。あたい、お姫様やっちゃったけど、全然似合ってないし」
「そんなこと無いぜ?」
 ホークアイがそこで口を挟んだ。
「だって、あの団員をちゃんとまとめてるお姫様じゃないか。最初に会ったとき、なんだかアンジェラに似てるなって思ったんだけど、そう思ったのはきっとその統率する力なんだなって思うよ。生まれ持ったものは誰にでも一つはあるものさ」
「まあな、アンジェラにそれがあるかどうかは別として」
「なっ・・何ですって!?」
 デュランの言葉にまたも苛ついて、アンジェラは応戦した。と、顔をずっとそらしていたシシリィとも顔をあわせることになって、はぁと息をつく。
(今のは・・はめられたのかな・・)
「もう、いいよシシリィ。怒ってないから、私」
「アンジェラ!」
 シシリィが嬉しそうにアンジェラの手を握る。
「ごめん、ごめんね。本当、最初から最後まで騙すようなことして・・。あのね、本当はずっとアンジェラにお芝居を頼みたかったの。」
「え?」
 シシリィの言葉にアンジェラは唖然とする。
「あのね、あたいたちってキャラバンで・・世界中を回って芝居をしてて。それでいつだったか、ウェンデルの街であなたを見たとき、いつかお芝居を一緒にしたいと思って」
 ウェンデルと言えば、アンジェラがおそらくまだ旅を出て間もない時期の頃だ。お城に戻れないと思って、仕方なく藁をも掴む思いで訪ねたウェンデル。そこでそんな出会いがあったなんて。
「そしたら、今は仲間を連れて旅してるあなたをみたら、どうしてもどうしても止められなくなっちゃって。話すきっかけがどうしても欲しくて・・」
「それで、俺にぶつかってきたわけだ・・」
「すげ・・」
 呆れたように二人が呟く。シシリィは本当にすまなそうに、アンジェラに両手を合わせて拝んでいる。
 でも、アンジェラはそこまで聞いてもシシリィを責める気にはなれなかった。
「本当に、お芝居が好きなのね。シシリィ」
 アンジェラが羨ましそうにそう言うと、シシリィがにっこり笑って頷いた。
「ええ、アンジェラがデュランとホークアイを好きなようにね!」
 何があっても捨てられないもの。シシリィはそれを持っていた。
 お芝居をする情熱に触れて、アンジェラもあんな情熱があったらいいな、と思う。
 シシリィがアンジェラの部屋を出て行ったあと、羨ましいね、とアンジェラは二人に言う。
「あんなに一生懸命、多分一生懸命と言う意識もないくらい打ち込んでしまえるものがあるなんて、なんだか羨ましいな」
「アンジェラも十分そのシシリィに羨ましがられていたじゃないか」
 ホークアイがそう言うと、それはそうだけど、とアンジェラは言いつつも、それはそれで違うのよね、と続ける。
「シシリィは素晴らしい生き方を持ってるのよ。私は今もってるものしか無くて。それが未来に繋がるものになればいいけど」
「繋がるものかどうかは、今わからないだけかもしれないぜ?」
 ホークアイがそう言って、現に、とまたデュランを親指で指す。
「今のアンジェラが舞台で危機に瀕してるのを見て、飛び出さざるを得なくなったやつがここに一名。」
 にやにやと笑いながらホークアイがそう言う中、一瞬時が止まったようにアンジェラとデュランが目を見開く。
「ええっ!?うそー!デュランそうなのっ!?」
「馬鹿ッ!違う違う!そんなんじゃねぇっ!!」
 アンジェラが嬉しそうにデュランに近づくのを、デュランがわたわたと手を振って喚いている。ホークアイはそれを横目で見ながら、デュランにこう言う。
「さーって、夕飯でも食べに行くか〜デュランおごりな!」
「うわっひでぇ!!」
 そういいながら、逃げるようにホークアイの後を追うと、アンジェラが後ろからデュランに掴みかかる。
「ちょっとデュラン、ちゃんと説明して!」
「だからなんでもないって言ってんだろっ!!」
 いつものようにじゃれあう二人を見て、ホークアイは先に宿屋を出てしまう。外に出ると、港から吹き込んでくる潮の香りと、レストラン街のいい匂いが鼻をくすぐる。
 何を奢ってもらうかな、とホークアイは星空を見上げて考え始めた・・。





fin.


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Copyright 2001 BY SAE


久しぶりに小説を書こうかな、と思ったらなんだか・・私何かを吐き出すように大量に・・(笑)
一応走りの部分は書いておいたんですが、最初の方の60行くらいかな。
その後は今日だけでどばーっと(汗)
何なんだいったい・・。(汗)

さて、内容の方は、実は書きたくても今までかけなかった「演劇」の話。
何故描けなかったかというと、単に面倒だったから。(ぉぃ)
いやまじに面倒です。だってアンジェラ側の話と演劇の中の話二つ作らなきゃならないんで。
しかも、今回その演劇の中の話も騙しで二つ作ったので、ああもう疲れる。
でもやりたかったことをやれたのは楽しかったかな。いつものことだけど。