4.援軍
深い雪に包まれたアルテナ城では、魔導士達が慌ただしい準備に追われていた。
吹雪に見舞われる我が国を厳しい表情で見つめてから、ヴァルダはおもむろに窓から目を離した。くるりと振り返ると前には跪いた宮廷使用人が静かに佇んでいるのを見る。先ほど自分が呼び出したのをもう一度思い出し、ヴィクター、と声をかけた。
「今日で3日・・・とうとうお帰りになられませんでした・・」
ヴィクターの、残念という言葉ではあまりある、打ちひしがれたような声が女王の耳に届く。ヴァルダはため息をついた。
「捜索隊の準備は出来てるのかしら?」
「ええ、もう支度はそろい始めてるようです。」
ヴィクターが静かにそう報告する。
それを聞いたヴァルダは、側に使えていた魔導士に何か言付けると、魔導士は一瞬ぎょっとしたが、軽くヴァルダにいなされ慌ててその部屋を出ていった。
「そう、では。行きましょうか」
そう言って立ち上がるヴァルダを呆然とヴィクターは見ていたが、はっと我に返るとヴァルダを慌てて止めた。
「ちょっ・・あ!あの!女王様!女王様もご同行を!?」
「ええ、そうよ。」
平然とそう言ってのける女王を見て、ヴィクターは頭を抱えた。
「あのっ!国政や冷気よけの魔法陣はどうなされます!?それらを放っておかれるのも何かと問題が・・」
さっき出ていった魔導士が杖とマントを持って女王の前に出た。女王はありがとうと受け取ると、マントを羽織り、大きめの杖を持って答える。
「ええ、そちらの方はこの三日間で頼りになる者に頼みました。今回は・・どうも私がからんでるようだから、アンジェラのところへ私も行きます。」
「女王様、私達で良ければその捜索、代わりに参ります」
唐突に凛と透き通った声が響いた。ヴァルダは驚きに瞳を瞬かせるとその訪問者の顔をみて顔をほころばせた。女王の間の扉の前には二人の影があり、その二人は以前アンジェラを支え続けてくれた大切な仲間達だった。
「まあ、リース王女に、黄金の騎士デュラン!」
「お久しぶりです、女王様」
リースが微笑みながら挨拶をすると、ヴァルダもにこやかに答えた。デュランの方を見て、デュランが黙礼をするのを確認する。
「アンジェラはどこにいったんです?」
デュランは早々に話を聞きたがる。ヴァルダが心配をかけてごめんなさいね、と一言そう言うと、言葉を続けた。
「ドラゴンズホールに行ったと聞いてます。もう今日で4日目・・・」
ヴァルダは心配げにそういうと、ため息を付いた。デュランも同じようにため息を付く。
「あれだけ気をつけろって言ったのに・・・なんでおとなしくしてないんだろうな。全く・・」
それを聞いたリースがくすっと笑う。リースはヴァルダの方に進み出ると、落ち着いた口調でこういった。
「式典のときのお告げの件はデュランから聞きました。今回がそれと関係するかどうかわかりませんけど、とりあえず、私たちでドラゴンズホールの内部を見てきます。女王様はまだしばらくこちらで策を練っていて下さい。唐突に大勢で行っても何かが起こったときに対処できない場合がありますから」
それを聞いて、ヴァルダが少し心配げにリースを見たが、ヴァルダはぼんやりと呟く。
「そうね・・。あなた方の方が一度入っている分地形は分かってるはずだし・・。」
「万が一、私たちが戻れないことがあっても大丈夫なように、ドラゴンズホールの内部概略をお話ししておきます。今回は予言のこともあるので、慎重に行くのが得策だろうと思いますわ。」
リースが念を押すようにそう言うと、考え込んでいたヴァルダがやっと顔を上げた。
「分かりました。概略は私の側使い兼魔導士メリエに教え込んでちょうだい。私はリース、デュランに同行させてもらいます。」
その女王とは思えない言葉にその場所にいた者は息を呑んだ。
「じょ、女王様!!」
「待って下さい、お城は」
「危険です!そんな危険な・・!」
慌てふためく人々をヴァルダは一喝する。
「静まりなさい。私一人の不在で国がくたばってしまうようなそんな弱いアルテナではないはず!」
ヴィクターもメリエもその言葉に黙りこくる。心配気に様子を見守っていたリースやデュランは顔を見合わせた。
「私はドラゴンズホールに向かいます。その間の陣頭指揮をヴィクターとメリエ、お前達に頼みます。国内の冷気避け魔法陣の監視については、アンジェラの教育担当のホセに頼んでおきました。国政は代理を立てることはできないので、私が一時死んだものとして決定権を魔導騎士レイファに与えました。以上、何か質問は?」
あまりの徹底ぶりにヴィクターもメリエも何も言えなくなってしまう。満足した表情でヴァルダは二人を見ると、今度はリースをデュランに向かってこういった。
「急な申し出をしてごめんなさい。でも、これはただ娘の安否を気遣っているだけではないの。もちろんそれが大部分を占めていることは言うまでもないけど、それ以外の何か不穏なな要因がこの私に関係しているような気がするの。ただの直感だけど、どうしても私が行って確かめておかなきゃならない気がするの。どうか、一緒に行かせて」
ここまで熱心に頼み込まれてしまうと、ただ危険だからと言ってはね除けることが出来ないのが二人にも分かった。しかたなく、ヴァルダを見てリースが口を開いた。
「身の危険を顧みず、そこまでおっしゃる女王様に感謝いたします。どうか私たちを共としてお連れ下さいますよう・・・」
そういうとヴァルダはやっとほっとした表情でリースの手を取ると、ありがとうと微笑んだ。
ドラゴンズホールは前にもまして邪悪な空気に包まれていた。こんなにも邪悪な冷たい空気の中を、アンジェラは何も気づかず先を急いだのだろうか?しかも、何のために?
「アンジェラが前にここを通ったとき、こんなにも邪悪な空気に包まれていたのであれば、彼女は引き返したと思います。そこまでアンジェラは無鉄砲ではありませんわ」
リースがヴァルダの心配げな表情を読みとってそういった。不安な表情を隠しきれず、ヴァルダはリースを見つめる。
「でも、だとしたらこの2,3日にここはこんなにも重い空気に包まれた事になるわ。」
「ああ、多分そうだろうな。」
先ほどからきょろきょろと落ち着きなく歩いていたデュランがやっと結論に達したと言う感じに腕を組んだ。
「アンジェラの足跡が見つからないんだ。足跡、形跡・・そんなものが全く見つからない。アンジェラに何かがあったと同時に、ここの洞窟は邪悪の息を吹き返したんだ。」
「一体・・・誰が??」
ヴァルダがそう言ってみる。リースとデュランの視線が一瞬だけ合う。二人とも同じ事を考えてる事を、お互いに理解してしまう。
「竜帝か、おそらくはその一派・・」
リースがおずおずとそういうと、ヴァルダが馬鹿な!と驚いた。
「あなた方がちゃんと倒しているのにどうして!」
「ええでも。」
デュランは、彼にしては珍しく自信のなさそうな顔を見せると、女王に話す。
「俺達はペダンで若かりし英雄王と俺の父ロキに会った。彼らは今から竜帝を倒しに行くと言っていた。確かに倒されたはずなのに、竜帝は甦った。そして、俺達が倒した。・・・・どうも納得がいかないんです。俺らにも。奴は不死ではないかと疑いたくなるようなこの事実を・・」
ヴァルダは苦い表情でその言葉を聞いていると、横からリースが思い切ったように口を開く。
「竜帝はおそらく本体ではないのかもしれません。竜帝の裏に手を引く者がいるような、そんな気が私はしています・・・。もし今回も竜帝に関わりのある事件ならば、なおさらです。」
ヴァルダが少し考え込んでいると、やはりそうなのね、と一人ごちた。
「は?」
二人は同時にそういうと、考え込むヴァルダを見つめた。ヴァルダはやがて顔を上げると、二人を見て頷いた。
「今まで黙っていてごめんなさいね。でも、あの子はもうすでにこの世にいないものと思っていたんだけど・・・それは虫が良すぎる考えだったみたいね。だってこうやって出てきてしまったあなた方の疑問は、あの人の存在があれば見事に解決するみたいだし・・」
「誰です?一体女王・・あなたは何をご存じなんです??」
リースが女王を落ち着かせるために少しきつい口調でそう言った。我に返ったヴァルダが少し目を見開くと、再びさっきのような苦み走った笑みを浮かべた。
「私の妹、ヴェルナ。その子がおそらく竜帝の黒幕。」
「妹・・?!」
二人は驚愕に目を見開いた。アルテナの血を引くのは今ではヴァルダとその娘のアンジェラだけだと思っていた二人がそのヴァルダの妹の存在に驚くのも至極当然であったが、その人がよりにもよって竜帝の黒幕ということが二人には信じられなかった。
「何故アルテナ城にその人がいないんです??わざわざ竜帝側にいるのは・・?」
リースがただ静かにそう尋ねた。ヴァルダはただうつろな目をしてリースに答える。
「アルテナを憎んでるの・・いえ、アルテナの君主を。」
「ヴァルダ王女を・・・?」
ヴァルダは少し二人から離れるように歩き出すと、ええ、と言葉を繋げた。
「ヴェルナは生まれてからアンジェラのように魔法が使えなかった。王族では魔力が使えて初めて国民に認めてもらえるような、アルテナはもともとそんな国だから。まあ、魔法があってこそあの国の存在維持ができるのだから、それは仕方のないといえば仕方のないことなんでしょうけど・・」
女王は杖を油断なく構えた状態で率先して歩く。デュランもリースも前に出る隙を全く与えない調子だったので、デュラン達は黙って王女の後を護衛した。
「ヴェルナはそれが辛くてたまらなかったんでしょうね。成人の儀を上げる日の直前にあの子は国を飛び出したの・・最後に私に一言だけ残して。「いつかアルテナだけじゃなく、この世界を滅ぼす力をつけてやる」ってね。」
「それで・・・ヴェルナは魔界に?」
リースは気味悪げにそういうと、ヴァルダが自嘲的に笑った。
「そうよ・・。私がもうちょっと妹に気をかけてあげてたら、こんなことになりはしなかったでしょうにね。妹は魔界に力を借りに行ったの。そして初めに、その持った力
をアルテナに放った。」
「まさか!?そんな話は聞いたことが・・!」
デュランが慌てて口を挟む。ヴァルダの顔が、そのときにやっとほころんだ。
「ええ、放たれたその魔力を回避させたの。私の魔法と、正しい心を持った剣士のおかげで。」
「まさか・・それが親父達・・?」
デュランがそういうと、ヴァルダが深く頷いた。とても嬉しそうだった。
「そう、あなたのお父様と英雄王様が私の国を案じて下さった。襲われそうになったアルテナ国を救って下さったの。でも、再びアルテナに妹が現れた。破壊のみを愛する小さな王子を従えて。それが、竜帝。」
二人は体を震わせた。
「竜帝はアルテナの一つの街を滅ぼしてしまった。今はエルランドだけで、フォルセナ側に港がないのはその所為。本来はフォルセナ側に港があったの。」
マイアから長い船旅に一度は疑問に感じたアルテナの港の位置。それにはそう言う訳があったのだ・・。
「そんな・・街をひとつ滅ぼすなんて・・たった一人の子供が・・!?」
まるで考えられない、そんな表情のリースがそういうと、ヴァルダはいいえ、と厳しい表情で答える。
「子供なんて、形だけ。力は大の大人なんかよりも群を抜いていた・・手がだせなかった・・・。その仇を取ろうと、英雄王様とロキは旅だったの・・」
「先の大戦はそんな経緯があったのか・・」
デュランがまだ幼かったころ、自分が分かっていたの父がただ世の平定を取り戻すために旅立ったと言うことだけだった。思えば、何故のその使命を父が受けなければならなかったかと言うことを、そもそもデュランは考えたことがなかった。
「懐かしい話だな。私も混ぜてもらえるかな?」
まるでヴァルダにそっくりな声が洞窟に木霊した。二人は唖然としていたが、ヴァルダだけはきっと目を凝らし周りの様子を素早くうかがう。
「ヴェルナ。いるんなら出てきたら?」
「『お行儀が悪いわよ?』って言いたいのね。姉さん」
天井の方から壁をするりと抜けるように現れたのは、紅玉のように鮮やかに光輝く髪の毛を長く垂らした女性。やはり妹と言うだけあってヴァルダによく似た女性がそこに現れた。
「お久しぶり、アルテナの女王ヴァルダ。」
ヴェルナは口の端を少しひきつったように上げただけの笑顔を見せてそういった。ヴァルダはヴェルナを見つめていると、落ち着いた口調でこういった。
「ヴェルナ、丁寧な挨拶をありがとう。でも、うちの娘が来たと思うんだけど、その子を迎えに来ただけだから。あの子にあったんでしょう?」
しかし、くるりとヴェルナは後の二人に目をやると、ふっ、と笑う。
「あの子、想われてるな。心配してくれる人がここにも。」
「アンジェラはどこにいるって聞いてるんだよっ!」
とうとうデュランが切れかかった声を張り上げた。リースも黙ってはいたがものすごい形相でヴェルナを睨んでいた。
「そう、あの子は想われてるの。だから返してちょうだい」
ヴァルダがそういうと、ヴェルナがからかうように眉を動かした。
「知らないわ」
「嘘。今あの子っていったじゃないの」
ヴァルダが杖を構えてそういった。ヴェルナが半分目を閉じたままヴァルダを見つめる。
「返して。私はあの子を取り戻すためなら戦いもいとわないわよ。」
「姉さんらしくないな。そんなに熱くなる人じゃなかったのに。」
くすくすと笑うヴェルナに、デュランが剣を抜こうとした。がヴェルナが一瞥すると、デュランの腕の動きが止まった。
「な・・なに・・?」
「物騒なものを振り回さないで。今私の体には子供が宿っているのだから。・・・そちらのお嬢さんも卑怯な真似はやめなさい。」
そういうとリースが後ろから羽交い締めにしようと振り上げていた槍が、いきなり振り落とされた。カランと、洞窟に乾いた音が響く。リースがその槍を見つめながら呆然と呟いた。
「なんて・・・魔力。」
「たいしたことはない。魔族ならこれくらいのこと。」
ヴェルナが得意そうに笑う。ヴァルダの方をもう一度見ると、眉をひそめた顔でこういった。
「案内はするから。ついてくるといい。」
力の違いを見せつけられた3人は、ヴェルナに従うしかすべはなかったのだった。
・・ここは・・どこ?
アンジェラは朦朧とした意識の中をただひたすら漂っていた。時間がどれくらい経ったのか、今自分がどんな状態にあるのか、全く分からないままに。
・・血・・血のつながり・・
意識の中で時折現れるのはその言葉。しかしそれ以上思考が続くことはない。
やがて、ぐらりと頭が傾く。ゆらゆらと波打つ髪の毛はそれに合わせてゆっくりと移動する。顔を覆うように被さる髪の毛を、彼女にはどうすることもできない。
あたし・・あたしは・・何をしてるの?
「ここ、ほら、あそこにいるのが、姉さんの娘。」
3人が到着した広間のような場所の一番奥に一つの大きな琥珀色の宝珠があった。ヴェルナが指さしたのは紛れもないその石だった。3人は信じられない表情でその光を放つ大きな石を見つめていると、浮き上がってくる一つの躯を見つけてヴァルダが悲鳴を上げた。
「きゃぁあぁっ!!」
リースが顔を逸らして目を閉じる。そして悲痛な表情で呟いた。
「なんてこと・・!」
「アンジェラ!アンジェラ!?」
デュランが気が狂ったように走り出してその巨大な宝珠に手をついた。力任せに宝珠を拳で打ち付けるが中で漂う彼女に何の変化もない。
「アンジェラ!起きろ!アンジェラ!!」
「無駄だ。あの子は今私たちの王を作るための生け贄になってもらうのだ。あの子がいなければ、竜帝の復活は望めないのでな。」
「な・・・竜帝の・・復活・・・?」
誰もがその言葉にぎくりと肩を震わす。それに気づいたヴェルナがあははっと笑うと、残念だったねえ・・と言う。
「あの子は不死の子。誰にも竜帝の命を根絶やすことなんてできないのさ。デュランといったね。お前がやったことも、お前の父がやったことも、全て無駄だったということなのさ。」
「なんだって・・?」
眉をひそめたまま、デュランが呆然とそう言った。
「根絶やす方法は・・・一つだけ。アルテナの血族の抹殺。お前達にそれができるかい?」
「抹殺?!どうして!?」
やっと気力を取り戻したヴァルダが悲鳴を上げるようにそう言った。
「竜帝は私の力と竜王様の力、そしてそれをアルテナ王家の血で融合させたもの。不死なる体と完全なる魂、そのつなぎであるアルテナ王家の血さえあれば、竜帝はいつでも甦る。」
「アルテナ王家の血・・・アンジェラの血を利用しようって言うの!?」
リースが目に涙を溜め始めながら、訴えるようにそう言う。ヴェルナはさも無関心とでも言うように、リースを一瞥するとこう言った。
「そう、あの娘はそのおかげで自分の願いも叶うのだ。万事解決なのだ。」
「願い?」
ヴァルダがいぶかしげにそう言う。
「知らないのか?あの娘ここに供養に来ていたのを・・」
それを聞いて、3人は顔を合わせた。供養??ここに供養に来るっていうことは2人しかいない。黄金の騎士ロキと紅蓮の魔導士。
「その通り。」
心を読んだヴェルナがそういう。3人は読まれたことにも気づかず呆然とそのアンジェラがここに来ていた理由についてを考えていた。
ヴァルダが呆然と言葉を繰り返す。
「アンジェラがロキと、紅蓮の魔導士のために供養をしていた・・・?」
きっとデュランはアンジェラを睨むように振り返った。宝珠の中のアンジェラの体躯は今も先ほどと同じように宝珠の中で浮遊している。
「なんで・・なんでわざわざ供養なんか?!お前を陥れた奴だぞ!?お前の母親を操ってたんだぞ!それなのに何故・・!」
「やきもちはそこまで。」
ヴェルナがデュランを宝珠から吹っ飛ばした。デュランはヴァルダとリースの立っていた間をすっ飛ばされ、壁に激突する。あまりに大きな衝撃で、デュランがぐったりと横たわったまま動かなくなってしまった。
「デュラン!!」
慌ててリースが側に駆け寄って、デュランに応急治療を施そうとする。
「なにをするの!?」
ヴァルダが怒りをあらわにして抗議をする。ヴェルナがそんなヴァルダを見て目をひそめた。
「なにを?ふふ、姉さんこそ何をしに来たのだ?忘れたのか??この子を取り戻しに来たんだろう?」
「そうよ」
「この状況見て分からないのか?返して欲しいその子はこちらとしても我が子の復活に必要不可欠な娘。すんなり返す義理立てをするつもりはこちらにはない。」
ヴァルダが苦々しい表情で唇を噛んだ。
「ともすれば、戦いは避けられないのではないか?姉さん」
「それもそうね、お互いの我が子のためにというわけね・・」
ふっとヴェルナが笑う。ヴァルダの体からの魔力のオーラが大したことないの見て取ったのだ。
「姉さん。あなた弱ったのね、きっと。」
「そんな減らず口、今すぐたたけないようにしてあげるわ!」
ヴァルダが杖を掲げて走り出そうとした時、突如ヴァルダの頭に念波が入ってきた。
”やめて。お母様!”
「・・・っ!?」
慌てて足を止めたヴァルダの様子に、ヴェルナがふと気づいてアンジェラの方を見詰める。
「あ・・アンジェラ・・。」
”勝てない。勝てないわ、ヴェルナおばさまには。”
「あなた、正気!?ヴェルナになにかされたんじゃないの!?」
”お母様こそ。冷静になって。ヴェルナおばさまは魔界の魔力と本来の自分自身の魔力、つまりアルテナ王家としての魔力が相互作用を起こして莫大な魔力を体の中に安定させているの。並みの魔力ではないこと、わかるでしょう。”
「え、ええ・・」
”今はどうしようもないわ。私もやっとさっき覚醒したばかりで、念波を出しながら様子をうかがっていたんだけど・・。マナが頼りである私たちの魔法では効果は期待できないし・・。引き金になるのは私の血、だし。何故、ヴェルナ自身の血を使わないのか・・。”
「相談はすんだのか?」
ヴェルナが可笑しそうに笑う。完全に舐めきった態度でヴァルダを見る。
ヴァルダは言葉もなくヴェルナを見つめた。
”帰るといって!3人ともやられたら、それこそ誰が私を救ってくれるの?誰がヴェルナおばさまを止めるの?”
「・・・っ。」
”大丈夫。私は十ヶ月の間ならこの宝珠の中で生きていられる。だから今は退いて。お願い!”
ヴァルダが悔しそうに唇を噛む。しかし、アンジェラのいう通り、今のままではやられる。
「・・・休戦よ。私たちはいったん帰るわ。」
思い切ったようにヴァルダはそういうと、リースとデュランのところに駆け寄り声をかける。
「大丈夫?」
「それが・・頭を強く打っていて、なかなか意識が・・」
リースが心配げにそういうと、ヴァルダはそう、と目を伏せた。と、そのとき、ヴェルナの思いついたような声がこの洞窟に響いた。
「帰さぬ。」
「えっ!?」
びっくりして、リースもヴァルダもただヴェルナの方を見返した。
「どうもそなたら危険だ。帰したところでまた来るのであろう。こっちで閉じ込めておく。紅蓮の魔導師、出でよ」
そういうと突如3人の佇む目の前に紅蓮の魔導師が現れた。ヴァルダがそれを見て驚嘆する。
「ぐ、紅蓮の・・!!!」
紅蓮の魔導師は、まだ意識がはっきりしてないような、まどろむような瞳で3人をみつめていた。
「まだ、竜帝が覚醒しきってないから、こいつもそうだ。でも、意識がないから使いやすい。紅蓮の魔導師よ、3人を牢へ!!」
こっくり、とゆっくり頷いたかと思うと、紅蓮の魔導師は手を3人に翳して気合を入れた。たちまちその波動が洞窟の空気を波立たせ、ひときわ大きな波が起こったときに、4人の姿はかき消すように消えていた・・。
”お母様ーっ!!”
「ふっ・・覚醒するとはな。アンジェラ?」
ヴェルナが面白そうにアンジェラを閉じ込めた宝珠を見つめる。相変わらずアンジェラの体は宝珠の中で漂っているのだが、さっきと違うのは目が少し開いていることだ。
「人が親切に意識もなくすべてを終わらせてやろうって思ってたのに、まあ自分でしっかり見つめる方がいいかね・・」
アンジェラは答えもせず、浮遊している。
くるり、くるりと体を回転させながら・・・。
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