8.天使降臨
銀色に輝く翼を広げ
万物を司るマナの女神を助く
その姿 天使とも悪魔ともつかず
物事の善悪 全てを呑み込み
裁きの長の使命を果たす
女神と勇者が力尽きしとき
全ては クリスタルエンジェルー透明の翼を持つものーに託されるものなり
朗々と歌うようにヴァルダがそういった。リースとデュランは呆然としながらその詩を聞いていたが、とりあえずその詩が目の前の天使のことを詠っているということは理解した。
その天使の透明の羽は輝かんばかりに煌いていて、荘厳で、確かに陽の光の下であったなら銀色に輝いていただろう。
その翼をゆっくりたたむとその翼を持つものは地に降り立った。
「時の修復に現れた・・その役目を今果たそう・・」
まるでその声はアンジェラには似ても似つかない、低く重々しい声だった。いや、声だけではない。既にアンジェラと思わせる要因はすべて取り除かれていた。目の色も髪の毛の色も、アンジェラとは違う新緑の翠。目つきも冷徹な雰囲気で、朗らかで明るい雰囲気のアンジェラとは似ても似つかない。
「・・・修復?修復って何のこと?」
ヴェルナが気味悪がるとそういった。
翼を持つ者はその場にいるものをすべてみつめると、ゆっくりとうなずいた。
「そうだ・・本来二度と生まれるはずのない人と魔族の子などマナ復活の完全な妨げになる」
デュランがその言葉に憤りを感じた。父の無念が蘇る。
「だったらなんで・・なんで今まで放って置いたんだ!?」
ゆっくりデュランの方に天使が顔を向ける。新緑の翠の瞳の奥に、抗えない力を見たデュランは一瞬その瞳ににひるんだ。
デュランの様子を見て、天使は目をしかめ、瞼を閉じた。
「力が強すぎる・・悪いな、デュラン・・。私の目にすべての力が宿っている。目をあわさないほうがいい・・。」
「俺の名前を・・・!」
ふ、と息を吐くと天使は無表情にこういった。
「名前など・・見た時点で分かる・・。人の心で最優先にでてくるデータは「名前」だ。私は人が流す心の声を聞き取ることができるのだ。人はその心の声を聞き取れないだけ・・情報が多すぎるのでな・・。」
言葉もなくただ呆然と見詰めるヴァルダを始め、それぞれがこの状況にどう対処したらいいのかわからず、立ち尽くすのみだった。
その様子を見て、翼を持つものはくすっと笑う。
「私が今ここにいるすべての理由はヴァルダの詩の通り。女神と勇者が力尽きたとき、最後の頼みの綱が私なのだ。時の制裁処置ができる私は、その条件が満たされないと世に存在しない・・よって、今までその竜帝は存在しつづけた・・。しかし、創造主がマナの女神以外のものはこの世にあってはならぬもの・・。全てを白紙に戻して、勇者の復活を待つのが、今できる修復だ・・」
「・・・・?」
未だにいまいち理解しきれないデュラン以外は、全員顔を強張らせた。
「時の制裁って・・白紙にって・・・竜帝とアンジェラはもしかして・・」
呆然と、リースが確認するように口を開いた。
「生まれなかったことになる」
やっと理解したデュランが目を見開いた。翼を持つ者を怒鳴りつける。
「馬鹿な!アンジェラがいなかったらこの世界はない!救ったのはアンジェラだぞ!!」
「竜帝も抹消する・・なぜここまでマナとしての世界が危機に瀕しているかわかるか?今世界のマナ自体が底ついている。その現象を作り出したのは他でもないこの二人だ・・」
「今更調子のいいことばかりいうんじゃねぇ!最善の道を俺達は取ったはずだ!!」
「しかし、現状は最悪だ。勇者は死亡、マナも底つき、世界は退廃する。創造の一端を担ったものとして、また女神の命により世界を裁くものとして、使命を果たすときが来たのだ。」
まさに今、誰もが同じことを考えていた。
これが天使・・・まさに呼び出してはならない禁断の天使だったのだ・・!
ふふっと人事のように笑う輝く羽を持つ者。
「毎度のことだが、無駄なことをよくやる・・このような諍いもすべてなくなるのが運命だというのに・・」
「天使なんかじゃない・・こんなの天使じゃない!」
リースが泣き叫んでいる。ヴァルダも我が子を失っただけでなく、存在すら失うと知ってもう気力も何も尽き果てたような顔をしていた。
「天使ほどの正しき心で裁き、悪魔ほどの冷酷な心で使命を遂行する。だから私の羽は白でも黒でもない・・何色にも染まらぬ無色透明だ」
「だったらその翼、俺が切り落としてやろうか?」
デュランが怒りをそのままに静かな声でそういったのには、誰もが目を見張った。それほどまでに、デュランが怒りの限界値にあったことが分かる口調だった。
「無駄なことを。私はマナの女神によって偉大な力を遣わされしもの。お前達のすることは全て無に帰す。なぜなら、アンジェラは竜帝あってこその、アンジェラ。竜帝はアンジェラあってこその竜帝。倒すものと倒されるもの。相対するものは同時に存在し、同時に存在を失う。それだけのことだ。」
翼が一際大きく開かれた。翼を持つものは膨れたままの腹を抱え、上を見上げた。瞬時に光が射して、その光に誘われるように天使は上へと上っていく。
「ちょっと待て!話はまだ・・!!」
「アンジェラを置いていって!!お願い!」
「竜帝をどうするの!降りてきなさい!」
それぞれが激しく叫んだが、翼を持つものは振り向きもせず、光の中に吸い込まれていった。
それから、アンジェラのことをすぐ忘れてしまうのかとそれぞれが恐れたが、そうではなかった。いくらなんでも、そこまでの記憶処理ができないのか、それともわざと天使はそうしたかわからないが、とにかく、洞窟に残った人はヴェルナも含め、アルテナ城へと帰還した。
『時の制裁』と天使は言っていた。結局それはこういうことだった。
アンジェラのことと竜帝のことが頭から消えるのではなく、周りの人々との接触でそのことを話題にも出来なくなっていくのだ。言葉としてその人のことを話題に出そうとしても、言葉にならず、それはお互いにそうで、結局話題に出来ない分、あまり深く関わっていなかったものの頭からは簡単にその存在を薄れさせる。いや、関わっていたとしても確かめることが出来ないので、事実なのか妄想だったのか相関関係が保てなくなって、いずれ忘れていく方が楽なことに気づく。人々は安易なほど、その存在を忘れていった。
片や、人々を恐怖に陥れたもの、片や、人々をその恐怖から救ったものだという、人々にとって大きな存在だったのにもかかわらず。
デュラン達もその『時の制裁』は辛いものだった。ただ、辛いのは始めだけだった。なんとか存在を確かめたくて話したいのに、それが出来ない。声にならず、言葉にならないそのもどかしさは、デュラン達に苛立ちだけを残す。
しかし、一月目、二月目と時が経つに連れ、その事にあがくことも忘れていく。3ヶ月が経ってしまうと、確かに心にあるものが現実なのか妄想であったのかも、分からなくなっていた。
結果、人々は「アルテナの王女」と「混乱に陥れた竜帝」をこの世にないものとして扱うようになったのだった・・。
9.時の制裁
フォルセナに戻ったデュランは、すでに何もなかった日々の連続をまた繰り返すようになった。
黄金の騎士の称号も王に返して、再び傭兵の生活に戻った。毎日城で訓練が行われ、また式典の時には警備として駆り出され、それほど苦もなく楽もなくという生活を送って、デュランはそんな生活に少しも疑問を抱くことはなくなっていっていた。
ヴェルナはヴァルダと住まいを共にして、アルテナで楽しく過ごしているらしい。手紙がつい先日英雄王宛に届けられ、その報告をデュランにもしてくれた。デュランはそのことに対しても不思議と頷けてしまっていた。
今日は、式典が行われる。王の妾妃が初の男の子を出産して、フォルセナは活気に湧いていた。女の子は既に2人が生まれていたが、正当な世継ぎとしてはやはり役不足で、人々の間では心配な声も囁かれていたが、正当な世継ぎとして生まれた男の子はこの街を活気づかせるのには十分だった。
「ブルーザー、一般客の誘導はどうなってる?」
デュランは城内警備に就いたため外の様子が分からない。たまたま通りかかった親友のブルーザーに外の様子を聞いてみる。
「なぁに、いつも通りうまくやってるさ。ただ、身体検査だけはしっかりやっておかないとならないからな、多少は時間がかかると思うぜ?」
「ああ、世継ぎの君に怪我でもさせられちゃたまらんからな。しっかりな」
「そっちこそ」
二人はにっと笑いを交わすと、それぞれの持ち場に戻ろうとした。が、ブルーザーがふと思い出したようにデュランに振り返るとこういった。
それは、なんとも驚くべき台詞だった。
「なあ、アンジェラは今日来るのか?」
あまりにもあっさりとそう言われて、デュランは一瞬息が止った。目を見開いたまま、なんだって・・?と聞き直す。
「あ、いや、外の行列の中に、それらしい人を見たんだ。違うなら気のせいだな」
ブルーザーが取り繕うように笑うと、さっさとその場から離れようとした。デュランは慌ててブルーザーの肩を掴むと、どこで見たんだ?と尋ねる。
「お、おいおい、今日は世継ぎの君の式典パーティだぞ?そんなこといってる場合じゃ・・」
「どこで見たんだよ!」
デュランがまるでそのことしか聞きたくないとでも言うようにブルーザーにそういうので、ブルーザーが観念してデュランに話した。
「城の城門から抜けて3軒目の家のあたりだ。でも俺が見たのは昼前で、今はもう・・おいおいっ!」
デュランは走り出していた。警備のことなど既に頭には無かった。アンジェラの話題が出てきただけで、今まで表に出ることが無かった想いが堰切ったように溢れ出す。
「どこだ・・どこにいるんだ・・」
式典に参加する人々で城門はごった返している。しかし、その人々を避けながら、デュランは警備の担当であるフォルセナ城を出てしまう。外に出てから、あまりの太陽の眩しさに、デュランは目がくらんだ。すぐに目をこすり、慌てて周りをよく見る。昼頃、おそらくここは行列だったはずだ。アンジェラは式典に入るつもりだったのだろうか?
「城内か?いや・・アンジェラを城内でみたのなら、警備連中が騒ぐはずだ・・」
デュランはいつもは心配でしょうがない、あのアンジェラの大胆な格好に感謝してしまった。思わず、笑いがこみ上げる。
何故だろう、こんなにも幸福にさせる・・あいつのことを考えるだけで。
デュランは家に戻ることにした。もしかしたら家を訪ねてるかもしれない。デュランは大股で走り出した。
自分の家の戸を乱暴に開け放つ。と、同時に中からウェンディが飛び出してきた。
「えっ!?お兄ちゃん!?」
ウェンディは吃驚したように兄を見上げた。可愛いカールの髪が頬でふわりと揺れた。
デュランは息を切らしながら、ウェンディの目の高さにしゃがみ込むと、アンジェラは来なかったか?と尋ねる。
「えっ・・アンジェラ。あ、あの綺麗な人?ううん、見てないよ?フォルセナに来てるの?」
デュランはふう、と息を付くと、そうかと笑ってみせた。ウェンディは愛国心旺盛な兄が警備をなげうってその人を捜していることに気づいていたが、何も言わなかった。
「来てるのね。」
「うん、でも会えない。どこにいるか・・。」
そういえば、今までアンジェラはいつも自分の元にやってきた。デュランの都合などお構いなしで、ただ願わずとも会えた。こんなにもどかしい思いをするのは、初めてだ。
「何処だろう。こんなこと、するのは初めてだ・・」
まるで自分を嘲笑うかのようにデュランは笑う。ウェンディの前でしか見せない、自分自身の表情だ。そんな兄を見て、ウェンディがしっかり!と兄を勇気づける。
「会いたいって思えば、きっと会えるよ。大丈夫。」
デュランはウェンディに言われて、そうだな、と素直に笑った。
「じゃ、探してくる。」
すっくと立ち上がって、すぐさま走り出そうとしたデュランをウェンディが慌てて止めた。
「待って。何もどうせ持ってないでしょう?待っててよ!」
そう言ってウェンディがぱたぱたと二階に上がっていく。
「・・・?」
デュランは何のことか分かりかねて、それでも気になるのでおとなしく待っていることにした。
やがて、ウェンディが手に何かを持って降りてくる。手に持ってるのは・・光を放つペンダント。青い石に鎖が付いている簡素なもの。前に戸棚の奥に隠していたものだ・・!
「おっ・・お前何でそれがあるって・・っ!?」
思い出す。ずいぶん前に、やはりフォルセナに遊びに来ていたアンジェラとフリーマーケットに遊びに行ったことがあった。アンジェラが楽しく買い物をしてる最中、盗賊団が入り込み、急遽警備に当たらなければならなくなったのだ。アンジェラが頬を膨らませ、そして腰に手を当ててデュランをなじったが、デュランも悪いと思いながらアンジェラを怒鳴りつけてしまったのだ。二人の間に重い空気が流れたあと、しかたなく手近な店でペンダントを買ってアンジェラに渡しておこうとしたが、アンジェラは受け取らなかった。
一緒にいたかったのに!と言葉を残して。
喧嘩するのもしょっちゅうだが、仲直りもいつも早かった。だから、ペンダントがまた必要になることもなく・・。
「知ってるよ。ウェンディはね、お兄ちゃんのことなら何だって分かっちゃうんだよ。」
あの日は確かに家でもむしゃくしゃしてた覚えがある。そして、ウェンディは兄の手に珍しいものがあるのを忘れていなかったのだ。なんだか、何もかも知られているような気がして、デュランは赤くなった。
「まいったな。ウェンディには。」
照れるように頭を掻く兄を、ウェンディは笑う。
「へへ、でもね、兄妹だからだよ。分かるのは。」
ウェンディは可愛い巾着にそのペンダントを入れると、リボンのところに花を差し入れた。母がいなかったせいかなんでも器用にこなす妹を、デュランはまじまじと見つめていた。
「他の人には伝わらないこと、たくさんあるから。だから、ちゃんと言ってね。アンジェラに。」
はい、といましがた包んだペンダントを兄に渡すと、ウェンディが応援するように頷いた。デュランは妹にそんなことを言われるとは思わず、少し吃驚したように目を見開いたが、やがて頷いた。
「ああ、ウェンディ、約束する。こんな思いをするのは、もうたくさんだ。」
「うん、しっかりね。」
ウェンディがそう言ったときには、デュランはまた走り出していた。路地を抜けて光の方へ。
「約束する、か。まいったな・・」
思わず顔を赤くしながら、デュランはふ、と息をついた。あちこちを回ってみたが、アンジェラは見つからない。仕方なく、一軒の家の前で塀に寄りかかって休憩をしていく。
ブルーザーの見間違いじゃないだろうか、そんなことまで考え始めている。というのは、やはり、見つけたらウェンディとの約束を果たさなければならないからだろうか?
「なんか、警備に戻りたくなってきた・・」
そんなことを考える自分が情けなくて、デュランはまたふ、と息をついた。
ぼんやりと顔を上げると、西の方に太陽が沈んでいくのを見つける。何もかもの影が長くのびていて、あたりを赤く染めていく。哀愁を漂わせるその景色に、デュランに諦めの表情が浮かぶ。
「仕方ない、な。」
よっと、塀から体を離して伸びをする。戻るか、と一人ごちたとき、後ろから声をかけられた。
「すみません、警備の人ですよね。」
デュランがふとその声の方に振り返る。赤い逆光のせいで姿が捉えにくい。でも、声が・・光に映える体躯が・・。
「式典に遅れてしまったんだけど、まだ入れる?」
丁寧に話すのを照れたようにやめて、女は”台詞”を続けた。相手に悟られたと思ったのだろう。そんな誤魔化し方を、いつもならいらいらと怒鳴りつけていた。
けれど、今は。
知らず、涙をこぼしていた。
呆然としているデュランを見て、赤い光を浴びた女は笑う。側に寄って、デュランを見つけて、デュランに手を伸ばす。デュランはその差し延べられられた腕を掴んだ。
ゆっくり引き寄せる。壊れやすいものを扱うかのようにゆっくり、大事に。
デュランの腕が女の躯を優しく包み込んだ。そうして、やっと安心したように、デュランはその女の名前を呼んだ。
「アンジェラ・・・!」
「ごめんね、心配かけて。・・ただいま。」
お互いがお互いの熱で自分の躯が火照っていく。
どんなにか会いたかったかが、自分の自覚していたそれより思っていた以上に大きかったことを、二人は思い知らされた。
涙が止まらない。ただ、好きな人に触れられると言うだけで、こんなに幸せになれるとは夢にも思わなかった。
何かを言いたいのに、何から話していいのか分からなかった。
ただ、お互いの感触だけを今はしっかりと刻み込もうと、ただ静かに抱きしめあっていた。
やがて、落ち着いて、アンジェラがデュランの手を引いて歩き出した。
「私がここにいるのが不思議でしょ?」
「ああ、一体何が起こったんだ?」
デュランが不思議そうにアンジェラに問いただす。
「私は、クリスタルエンジェルはマナの聖地に行ったの。覚えてる?あの翼の天使」
「覚えてるさ。」
デュランは憎らしくてたまらないというように、むっつりと頷いた。
「あれは、私の中のものらしいわ。フェアリーが宿ると、フェアリーを女神にした後もあの守護神が私を守ってくれるらしいの。マナの地を恐怖で脅かすことがないように、監視をしていると言ってもいい。」
「何でそんなことを?」
アンジェラはさあ、と肩をすくめる。
「まあ、マナの女神としての使命かしらね。守護神を植え付けて、監視させて、何かあれば勇者を動かすっていうのが。死んじゃったときは、守護神が自ら出てきて時の制裁を行う。」
「・・。アンジェラは道具扱いか?」
デュランは苛つくようにそういった。今まで敬ってきたマナの女神がそんなことをしているのを知って、ある意味失望していた。
「まあ、使命を負った者ってそんなものじゃないかしらね。でも、『時の制裁』が今回は働かなかった。というより、働くにはマナが足りなかった。」
「マナが足りないせいで『時の制裁』が中途半端なものだったのか。俺達はてっきり何もかも忘れてしまうのかと、思ってたんだ。」
アンジェラはデュランのその言葉に頷いた。
「本来はそうでしょうね。でも、マナは今どうしようもないほどなくなっている。結局別の方法をとったの。女神と私は。守護神の力をアンジェラに植え付けることで、私は甦る。そして、竜帝も殺さない。ただし、竜帝は女神の元で育つことになったわ。」
「なるほど。時の制裁は解かれたわけか。」
アンジェラはそこで不安げに一つため息を吐いた。デュランがいぶかしげにアンジェラを見つめていると、やっとのようにアンジェラは話す。
「・・私の目の色以外はみんなもとに戻ったわ。私の目の色は翡翠じゃなくなってしまった。守護神の力が目に宿っているから。」
そう言ってアンジェラが見上げた瞳は、確かに翡翠ではなかった。ぱっと見には気づくほどでもなかったが、翡翠より濃い新緑の緑。あのときにデュランが吸い込まれた瞳の色だ。それに気づいて、デュランはアンジェラがひどく落胆している事に気づく。
「私、また王家を傷をつけてしまったんだわ。生きてるだけでも本当は喜ばなくちゃいけないけど、お母様に申し訳なくて最初にアルテナに戻れなかったの・・」
アルテナ王家の翡翠の瞳、と吟遊詩人に詠われるほどのものを失ったのだから、それは確かにアンジェラにとっては落胆の種には充分だ。
しかし、今生きていることの方が何倍も重要じゃないのか?
デュランはそう思う。
「大丈夫さ。」
アンジェラの手を強く握ると、デュランは笑う。
「何をそんなに心配している?ヴァルダ女王に疎まれることか?それともアルテナの国民に疎まれることか?」
「・・。両方だと思うわ。」
「それなら心配ない。どっちもありえない。」
デュランの言葉に、アンジェラは吃驚して見上げる。
「だってそうだろ?死を賭して戦った勇者がアルテナの王女だぜ?今帰ったらアルテナ中はアンジェラを称えて止まないだろう?女王だって、お前のことを誇りに思うはずだよ。なにより、女王はアンジェラが生きてくれるだけでいいって言うと思うけどな。」
「そういうもんかしら?」
アンジェラは不安ばかりだった表情を少し弛めると、デュランにそう言った。
「そういうもんだろ?それにマナの色だろ?緑って。いつか、その目は勇者の証になるんだ。それが歴史ってもんだろう。」
デュランがそう言うと、アンジェラは納得して頷いた。少々安易かもしれないけど、不安を抱えたままでアルテナに帰るよりはずっといい。
「そうだね。よかった、話してみて。私これからアルテナに戻るわ。」
「ああ、そうするといい。きっとみんな待ってるさ。」
デュランが笑ってそう言いながら、あっと声を出す。
「何?」
「あ・・いや・・」
デュランはウェンディとの約束をまだ果たしていないことを思い出したのだ。ポケットの中にまだウェンディが包んでくれたペンダントがある。
このまま帰ったら、どうせまたウェンディにばれてしまう。察しのいい妹を持つと辛い。
はぁと思わずため息を吐くと、アンジェラが目をひそめてデュランを見つめた。
「デュラン?何か心配事?」
「あ、いや、違う。えーっと・・」
慌てた身振り手振りが怪しすぎる。デュランがこういう仕草をするときは。
「隠し事ね?何?一体。」
アンジェラは腕を組むと怒ったようにデュランに問いかけた。そう言われて、あらぬ疑いをかけられたのだとデュランは憤慨する。
「隠し事?違うっ、お前にやるものがあったの、思い出しただけだよっ。」
デュランが突き出すようにアンジェラの目の前に可愛い巾着を取り出した。雰囲気(ムード)も何もない。それでもアンジェラは笑う。
ムードなんかよりも、デュランのその一生懸命な仕草を見られる方が何倍の楽しいし、嬉しいのだ。
「ありがとう。可愛い巾着ね?」
「いや、その中身の方・・」
デュランが目をそらしながらそういう。アンジェラはそんなデュランを気にも留めずに笑う。
「ああ、ごめん。開けていい?」
「ああ。」
可愛いリボンをはずし、差してあった花をアンジェラは耳にかけた。花は黄色い小さな花で、アンジェラの髪によく似合っていた。
「あ、ペンダント!綺麗ー!あ、これ、あのときの?」
朗らかに笑いながら、アンジェラがすぐさまデュランに聞いてくる。
「覚えてるか?」
デュランも朗らかなアンジェラにつられたように笑いながら答えた。
「当たり前でしょ。デートすっぽかされちゃったんだから。つまんなかったわよ、あの後。」
つーんと、アンジェラがむくれたように顔を逸らす。デュランが悪かったよ、と苦笑する。
「だから、このペンダントで埋め合わせしたのに、お前が受け取らないからウェンディが見つけちゃったんだよ。」
「ふふ、ウェンディちゃんに見つかったのか。じゃあ、私の手に渡らないと、デュランは困っちゃうんだね。」
アンジェラが首を垂らして、ペンダントをつける。その仕草が妙に艶やかで、デュランは慌てて目をそらした。
「似合う?」
アンジェラが照れたように笑って、そう言った。デュランがちらっとみて、まあまあだな、という。そんなデュランの態度に、アンジェラがもう、とふてくされた声を上げた。
「素直じゃないんだから。そんなこと言ってると、またいなくなっちゃうからね!私」
べっと舌を出して、アンジェラがデュランから離れていく。夕日がもうほとんど落ちてしまい、すでに闇が迫りつつあるこの刻限の中、アンジェラが一人歩いていく。
デュランはそんなアンジェラの後ろ姿を見て、信じられないほど心細くなった。とっさに駆け出して、アンジェラを追う。アンジェラを捕まえるように後ろから抱きしめた。
「心配した?」
ふふ、とアンジェラが勝ち誇ったように笑った。でも、それすらデュランは不快に感じることはなかった。不快どころか、安堵していた。
「・・した。このまま消えていくような気がした。」
「大丈夫よ。今度こそ」
「離れないよな?」
デュランがアンジェラの言葉をさらった。
アンジェラが唖然としてしまう。デュランがそんなことをいうなんて。
「傍にいてくれるよな?必要なんだ、アンジェラ・・・。」
抱きしめられながら、アンジェラは涙をこぼしていた。信じられないくらいの幸福が体中を満たしていく。足下が揺らぐ。
「・・ああ、デュラン・・」
アンジェラはデュランに向き直ると、もう一度デュランを抱きしめたのだった。
夜の帳は落ちて、二人の姿を都合良く隠してくれた。
程なく。満天の星空が煌めくはずだ。二人を祝福するように、ひときわ強く、そして明るく・・。
Fin.
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ああ、こんな終わり方を予定していたわけでは(汗)
でも、まあ、終わってしまいました。すごく長いようで実はあまりながくありません。(汗)
私っていつも構想とタイピングが同時なもので、年のせいか構想が下手になってる気がしますが、
いかがなものでした?(汗)
もともと、今回の長編は「恋愛抜き」で頑張るという目標が自分に課せられていました。
で、この終わり方(汗)
あんた目標どこにやったのっ!?って感じですねえ・・すみません。
でも、今回の打ってて、あーやっぱり私ってアンジェラがいないと駄目だぁーって思ってしまった。
「必要なんだ」はもしかして私の台詞?(おいおい)
「必要」って言葉は「好き」って言われるよりもなんだかイイです(笑)
なんとなくね。英語の「あいにーじゅー」(笑)ですけど。
好きっていうのはな、実は恋愛には向かない気がする。個人的に。
ていうか、照れますね。打つのを・・。誤魔化そうとすると、誠実さがないみたいだし。
で、「必要」だと照れないけどぐっとくる♪って感じ(笑)
ふはは(笑)
いやー、最後つっぱしりましたねー。一番楽しみなところだったんですよ♪
最後の「天使降臨」と「時の制裁」は。
書いていて幸せでした。小説かいているのが幸せと感じるときほど嬉しいことは私にはありませんから♪
ふう、でも終わっちゃったな。今度また書きたいな、デュラン&アンジェラ。
またかけたら、読んでください♪
感想お待ちしてます(^^)