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【聖剣伝説2】 |
| ■天使になる日まで |
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作成日[2003/8/10] 私はあなたを愛し、あなたは私を愛してくれました。 マナの女神様は無情にもその愛を消し去ってしまったのです。 私はこの世に取り残されてしまいました。 ―あのひとはいなくなってしまったのです。 「プーリームっ!元気出してよーっ!」 蒼い髪をくるくると跳ねさせたまま、パメラがプリムの部屋にあがってきていた。プリムは本を読んでいた顔を上げると、きょとんとした顔をして親友パメラの顔を眺めた。 「何よ?元気よ?私は」 ふうっと息を吐きながら、プリムは美しい金色の髪の毛を後ろに払った。今日はやけに暑い。 パメラは南向きの窓がしっかりと閉じられているのを見つけて、鍵を外し窓を開けた。爽やかな風が誘い込まれるように入ってきて、プリムは慌てて開いていた本を押さえた。 「うそ。元気な人がこんな天気に家に閉じこもって本なんて読むわけないんだから。他の人ならいざしらず、ましてプリムならありえないもの」 「どういう意味よっ」 むっと目を怒らせると、パメラがおお怖い、と震え上がった仕草をした。ひどくわざとらしい仕草だった。 「ダイコン」 「悪かったわね。・・なぁに読んでたのよ??」 パメラはプリムが読んでいた本を覗き込むと、プリムはああ、と本に向き直り、本を閉じてパメラに渡す。 「小説?」 「うん、ディラックが好きだった本なんだって。私あんなに長く付き合ってたのに、そんな事も知らなかったんだなぁって・・。この本はディラックのお母様に頂いたのよ」 パメラはぱらぱらとめくってその小説を見ていたが、どうやら挿絵一つ見つからないその本がどんな本なのかもわからない。目次すら章番号が振られているだけなのだ。これでは内容を測り知ることも出来ない。 「どんな内容なの?」 諦めて、パメラは本をプリムに返しながらそう訊いた。このご時世、女性は本を読む習慣がほとんどないのだ。パメラも、少しは読めるが得意ではない。 「ん〜なんとなくだけど・・政治的な陰謀で追放された王と傭兵が王国を奪還するって話・・。結構難しくって・・よくわかんないのよ」 読めたのはまだこれだけだし、と指差すページ数はまだ20ページ。この本の分厚さはその10倍以上はある。 「それはそうよね。プリム本なんて、読むところ見たことないもの。長い付き合いの私が見たことないんだから、無理ってものよ」 「そういわないでよ〜。ただでさえめげそうなんだから」 くたっと机にうつぶせになってしまうプリムを見て、パメラがしょうがないなぁという顔をしている。 (いなくなってしまっても、ディラックが残したもの全てを理解したいのね。それが今のプリムを支える唯一の方法だから――・・) 「そうはいっても、無理は禁物よ。ちょっと気分転換にいかない?モティさんが特製のジュースを作ったって評判になってるのよ。南国のフルーツを使ったジュースなんだって!行かない?」 プリムはパメラのその言葉を聞いてがばっと顔を上げると、にっこりと微笑んだ。 「行く」 外に出ると、意外なほど暑い。先ほど風が随分爽やかだったのに騙された気分になって、プリムは即座にけだるげな表情をした。 「やっぱ・・家にいる・・」 一気にジュースもどうでもよくなって、プリムは回れ右をした。パメラがそんなプリムの腕を慌てて掴む。 「だめよ!プリム最近閉じこもりっぱなしじゃないの!たまには外に出ないと!」 「だって。こんなに暑いんじゃやってられないよぅ〜」 「だるそうな声ださないの!暑苦しいったらないんだから。ホラ行くよ〜!」 「うわぁん」 プリムはパメラに引きずられるように家から出た。 パメラはプリムが旅から帰ってからは、随分と変わった。今までプリムのあとをついてくるような娘だったが、プリムが旅の出来事を話した後は自然とプリムを気に掛け、さりげなくこうやってプリムが暗い闇の中に行ってしまわないように注意深く見守ってくれているのだ。プリムはそんなパメラを少々煩わしく思うこともあったが、大半は感謝するのだった。 (パメラがいて・・よかった) しみじみと思いながら、プリムはパメラに引っぱられるように歩いていた。 路地に入ってしまえば日陰になるから暑さは随分と柔らぐ。日陰の道を選びながらモティさんの店に近づくと、ジュースが盛況してのことか人だかりができていた。 「待つの?」 うんざり顔のプリムがそう言うと、パメラも少々嫌そうな顔をしていた。 「だって、せっかく来たし。日陰だから多少は辛くないだろうし、きっとすぐ来るよ」 プリムは仕方ない、とうなだれるように路地の壁に寄りかかった。パメラも汗を拭きながら空を見上げる。ここからでは見えないが、おそらく南天の太陽はありとあらゆるものを照りつけているのに違いない。 多少は待たされたが、なんとかジュースにはありつけた。パッションジュースという、南国フルーツのミックスジュースらしい。甘ったるいどろりとした食感のジュースだが、後味は悪くない。人気があるのも頷ける。ただ、その人だかりはどうやらジュースそのものの人気所以というよりも、モティさんの無駄話故のことであるようだったが。 「いやー君もパッションジュースかい!?ありがとうねぇ〜。いや、これね。実はこの果物を売り物にしようと思ったんだけど、この外見どうだい?こんなイボイボの変な食べ物、食べたいと思う人があまりいなくてネェ・・でだ。私はこれをジュースにすることを思いついたのさ。味が悪くないことは知っていたからね!するとどうだい、この客入り。いやぁ俺って本当商売のカミサマでもついてんのかなぁ〜」 ・・モティさんは一人一人にこんな話をしていたらしい。 「でも、いい味してる。ホントおいしい〜」 幸せそうにプリムがストローをすする。透明のカップから見えるどろっとした液体は、まるでどこか南国の花を思わせる鮮やかな黄色だ。 「珍しい味だよね。果物だけの甘さでここまで甘いのって珍しい。でも、後引かないのがいいよね〜」 パメラも満足そうな顔をしている。待たされたが、それなりのものを手に入れて、二人はすっかりご機嫌になっていた。 照りつける太陽も二人の座った木陰のベンチまでは届かない。重なり合う葉の間から漏れる光がきらきらと心地よく照らす程度だ。正面には小さな川がさらさらと流れている。朝は近所のお母さんがここで洗濯をしている。プリムやパメラのうちはちゃんとお手伝いさんがやってくれる。 「川、気持ちよさそうだね〜」 「足でもつけてみる?」 パメラがそう言った。しかしプリムは首を振る。 「いい、夕暮れが怖いから・・帰るよ。誘ってくれてありがとうね、パメラ」 すくっと立ち上がると、プリムは家に向かい足を蹴立てて走り去ってしまった。ひとり残されたパメラは、プリムの後ろ姿を痛々しく見つめていた。 ばたんっ! ただいまも何も言わずに、2階にある自分の部屋に駆け上がる。父親とはプリムが帰ってからずっと、まともに顔をあわせてはいない。父親が、愛するディラックを死地に送ったようなものだったから。 父親もそんなプリムを叱るともなだめるともしなかった。母親がいたらまだ、何かまともなやり取りがされていたかもしれないが、残念ながらプリムの母親は早くに他界していた。 お互いは冷たい空気だった。いるかどうかもわからない、必要とされているかどうかもわからない。お互いに空気のような存在としか思えないような親子になってしまっていた。何とかしようにも、もはやなんとかしようという気力も、プリムにはなくなっていた。 『まぁプリム。そんなお転婆していないで。大臣のお父さまに恥ずかしい思いをさせてはダメ。あなたはお父さまあってのあなたなのよ』 優しく微笑むのは遠い記憶の母親。でも、プリムの幼さ故に、その表情も今では遠く、薄い。そして、その次に浮かぶのは真新しい記憶の中の、遠い人。 『プリム。プリム。―――愛しているよ・・』 「・・・っ・・それならっ・・!!それならどうしてっ!」 プリムは部屋に入ってしまうと、扉の前でくず折れた。肩をがっくりと落とすと、涙に溢れる瞳を誰にも、誰にも見せまいと手で覆ってしまう。 「どうして一緒にっ―――!!」 場面は一転して、頭に無作為に選ばれた彼の姿、彼の声。夕暮れのマナの要塞――その中央部・・タナトスに体を奪われる前の最後の彼の声。 『ランディ君と言ったね・・プリムを・・プリムを頼むよ・・』 「どうして私を・・別の人になんか頼めるのよぉっ・・!!」 疑ってはいけない。疑ってはいけない。けれど本当は怖い。 (私は・・私が思うほど彼に愛されてはいなかったのだろうか―――?) だから、プリムは願うのだ。ディラックを信じたいと願う一心で、彼の残したもの全てを理解して、そしてそれでも自分が愛されていたという証を探しているのだ。 でも、心はどこにも残らない。けっして物などには残らないのだ。 そこに在った彼の暖かさは・・もう二度と戻らない。 「ずっと握り締めていればよかった、掴んで離さなければよかった。迷惑な顔をされても、困った顔をされても、それでも手放すべきじゃなかった・・。・・まさかあなたを失うなんて思いもしなかったのよ・・」 泣きつかれて、プリムはベッドまで歩くとうつぶせに倒れこんだ。もう今日は本を読むこともできそうにない。 「あたしなんか・・ディラックに似合ってなかったの・・?」 「違うよ。君だから、ディラックは守ってあげたかったんだ。強い君だから」 あらぬほうから声がして、プリムは驚いて顔を上げた。ドアの方を見ると、一人の男・・いや男というには少々あどけなさ過ぎる少年が立っていた。顔が逆光で見えなかったが、声とその姿でプリムには相手がわかってしまう。プリムは部屋の鍵を掛け忘れたことを思い出して、自分で自分に腹が立った。 「ランディ、どうしてここに」 「私が呼んだの」 後ろからパメラが入ってきて、プリムは一息息を吐いた。 「迷惑そうな顔をされるのは百も承知よ。でもプリムは、全部全部しまいこもうとするじゃないっ!」 パメラが心配そうにそう言うが、プリムは涙を冷静に拭くと首を振った。 「だって、ゴメン。これはいえないよ。私の問題だもの」 何かを言おうとしたパメラを制して、ランディは頷く。 「そうだね、君とディラックの問題だ。でも、何をそんなに悩んでいるの?彼を追うかどうか?彼に愛されていたかどうか?どちらもプリムの中で答えは決まっているんだろう?」 「決まってなんてない。迷っているんだから・・」 そう、プリムの中で迷いがあった。彼を追うかどうかということも含めて。 しかし、ランディはそれはおかしいよ、と優しく声を上げた。優しい声ではあったが、しっかり諭すような声色があった。 「だって、ディラックは何のために、誰のために命を断ったの?そして、誰を愛していたから、そこまでのことをしたの??」 「わかったようなクチきかないでよッ!!」 怒りに狂わせてプリムはランディを睨みつけようとしたが、逆に恐ろしいほどの強い意志の瞳がプリムの瞳を見つめ返していた。プリムは思わずびくりと肩を震わせた。 「どうして僕にでさえわかるあの愛情が君には見えなかったんだ!?僕はあえてはっきり言わせて貰うよ!だって・・あの場所にいた人間は君以外に僕しかいなくなってしまったんだから!!」 『あんちゃーん・・おねぇちゃーん・・』 不意に聞こえてくる幼子のような声。まだ消えない。聞こえている。 (ポポイ・・まだ、ここにいてくれているの・・?) 「疑うなんて君らしくないよ、プリム。君はディラックを信じて、これからも生きることを考えなきゃならないんだ。そして、僕はそんなプリムを見守る。ディラックからそのことを頼まれたんだから」 ぐっと拳を握り締めて、プリムは目を閉じた。哀しい思い出を背負うのはもう止めなければならない。ここまで年下の男に言われては女がすたる。 「・・・アンタなんかに見守られなくたって・・」 プリムはようやく顔を上げると、ランディを見つめた。涙の跡が残っていたが、瞳に生気が戻っている。 「私は最初からそのつもりだったんだから!」 プリムのその一声を訊いて、パメラとランディはほっと顔を見合わせた。 あなたを愛しています。 これからも、いまからも、ずっと。 遠い天国の空に届くように、私は歌い続けます。 あなたの心が晴れ渡るように、私は微笑み続けます。 あなたのしたことが報われるよう、私は生きることに努めます。 ―あなたと同じ天使になることを許されるその日まで。
Fin.
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