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【聖剣伝説2】 |
| ■月の照らす道 |
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作成日[2003/9/7] パンドーラの城下町は活気に沸いていた。何しろ、今日は対帝国への戦勝祝賀会が催されることになっていた。しかも、今日はタスマニカ共和国の王がパンドーラの城に赴くともあって、城の準備に借り出された国民達がてんやわんやの大騒ぎでその支度に取り掛かっている。それは、まるでお祭り騒ぎだった。 実際は帝国の頭とも言えるヴァンドール皇帝が自滅したに過ぎないのだが、パンドーラと同盟を組んでいたタスマニカ共和国はこの戦争が終結したことを国民に知らせるために行うことにしていた。 プリムは自分の部屋の窓から見える町並みの喧騒を見つめながら、呆れたように欠伸を噛み殺していた。 「ばっかみたい・・」 そもそも、対帝国との戦争らしき戦争は、パンドーラ側はほとんどしていない。パンドーラ国の人口はそれほど多くないし、そしてその軍事力もそれほど高くはない。ただ、国土としては肥沃な土地を有しており、穀物の出荷量や鉱物などの資源の採掘量は他国の4倍以上はある。だから、基本的に「同盟を組んで応戦していた」を言うのは、パンドーラ側の実情から話せば「帝国からの攻撃の際には同盟国としてタスマニカに応戦の要求ができることを約束に、タスマニカ国の食料的、資源的観点からバックアップをした」ということに過ぎない。 しかし、タスマニカ国は丁重にバックアップの件には感謝の意を述べていて、結果、この国で一括した祝賀会が開催されることになったのである。 「結局王様って英雄になりたいものなのねぇ・・」 プリムからすれば、タスマニカの艦隊『サンドシップ』に助けられたことを含めても、タスマニカのお陰でこの戦争が終わったとは思えない。まあ、タスマニカの騎士であるジェマの助けには個人的には感謝してもいいが、彼の働きはタスマニカの国の命令ではなく、彼自身の考えによるものだ。だから、タスマニカの感謝には値しない。 結局この平定を取り戻したのは3人だ。聖剣の勇者であるランディとプリム、そして姿としては見ることが出来なくなった妖精の子供ポポイ。 プリムはそう信じて止まない。 しかし、ランディはその事を表沙汰にすることを嫌がった。パンドーラの王が、国をあげて祝う時には勇者として紹介させてくれと、またそのときにこの国の騎士の称号を受けてくれと頼み込んだのを、ランディは静かに首を振った。 ・・・僕はその賞賛も称号も受けるに値しません。 そう言って、ランディは丁重に断った。だから、この祝賀会の主賓にはならずに済んだのだ。 「正解よ、ランディ。こんな自分勝手なお祭騒ぎに付き合う必要なんて、ないわ」 プリムは人々が食料などを城に運び込むのを、つまらなそうに見つめながらそう言った。 ため息が出てくる。誰が本当の英雄か、誰が本当に死を賭して戦ったのかも判らない祝賀会。そんなものを催すことに何の意味があるのか・・。 プリムはあんまりだわ、と声にならない声でそう言った。 「ディラックが、可哀想よ・・」 家に居ても気鬱になるだけだった。プリムは軽い装備と支度を整えると、家を出かけた。水の神殿に行こうと思ったのだった。 あそこにいれば、少なくともこの馬鹿馬鹿しい喧騒からは逃れられるし、ルサ=ルカ様とのご挨拶もご無沙汰だ。時間が余るようならディラックの家に遊びに行って、おばさまと話をしてもいいと思った。 プリムはそう思って、一路神殿へ足を走らせた。 完全に無害の花らしく咲いていたバドフラワーの攻撃をするりとかわしながら、プリムは道すがらを進んでいった。平和になってからバドフラワーやらお化けきのこのマンコニドやらの数は減ったものの、たまにタイミングが悪いと出くわしたりする。プリムは一応旅先で愛用していたランスをくるりと回すと、道を遮る敵たちを打ち倒していった。 水の神殿までは、もうすぐだった。水の流れる音が段々と大きくなってきている。神殿までの森は明るく太陽が照らし、近くに流れる川面をきらきらと照らしていた。 神殿がようやく見えて、プリムはさっそくその湖へ足を踏み入れた。神殿は湖の真ん中に建っており、底の入り口までは多少濡れて進まなければならない。水に触れたものを感知して、ルサ=ルカはもうすでにプリムが来たことに気付いているはずだった。 「珍しき客が続くものだな」 神殿の一番奥の部屋、マナの種子が安置されているその部屋で、ルサ=ルカは珍しく笑みを湛えて、そう言った。傍に控えていた少年が目をぱちくりと見開いている。 「珍しき客とは?訪問者ですか。僕は外しましょうか・・?」 些か驚いた少年がつい座っていた椅子から立ち上がると、ルサ=ルカはよい、と指で示した。 「お前も知っている者だ。しばし、そのままにしているがよい」 「・・?」 少年は不思議そうな顔をしてルサ=ルカを見つめるが、ルサ=ルカは気にした風もなく静かに椅子に腰掛けていた。来たる訪問者を楽しげに待ち受けていた。 「・・あれ?」 神殿の奥にたどり着いたプリムは、思わぬ人物が目に入ってきて思わず声を上げた。 「ランディ?どうしてこんなところに?」 少年はようやく事を得たようにルサ=ルカを見て笑う。 「なるほど、プリムだったのか。久し振りだね」 ランディは立ち上がるとプリムがルサ=ルカとの挨拶をするのを待った。 「お久し振りです、ルサ=ルカ様。しばらくご挨拶しておりませんでしたので、お顔を拝見に。お元気そうでなによりです」 プリムは貴族の娘らしくゆっくり腰を折って挨拶した。 「プリムも元気そうでなにより。急ぎでなければゆっくりしていくがよい」 ルサ=ルカは紅玉のような瞳を細め、懐かしい少女との再会を喜んでいた。 「ありがとうございます」 椅子を勧められ、プリムはランディとルサ=ルカが座っていた卓上を同じくする椅子に腰掛けた。 ランディはプリムが座るのを見届けてから、ゆっくり腰を降ろす。 「で?どうしてランディはここに?」 ランディは言われて、にこりと微笑む。 「君とあまりかわらないよ。挨拶にたまたま来てたんだ。マナの巡りのことも聞いておきたかったしね。減少したマナの異変は未だ見えないことも気になっててね」 侍女がやってきて、プリムに紅いお茶を出してくれた。お代わり用のポットが、新しく持ってきた暖かいポットと取り替えられる。侍女は一礼して下がっていった。 「ジェマみたいなことをするのね。あんたはそうやってずっと世界のことを一人で背負っていくつもり?」 プリムの言葉に多少は驚きながらも、ランディは頭を掻いた。 「神獣の最後を見届けた者としての使命・・かな。気になるしね」 プリムは出された紅い紅茶を珍しそうに見つめると、一口含む。珍しい色の紅茶だと思ったら、味も珍しかった。ひどく酸味のある紅茶だ。思わずプリムは眉をしかめた。 ルサ=ルカはプリムの表情を見つけては笑った。 「この紅い紅茶は美容と鋭気を養う紅茶なのだ。花の蜜を加えるといい。飲みやすくなる」 そう言ってルサ=ルカは蜜の入った容器を差し出した。プリムは頷くと蜜を紅茶に入れてかき混ぜた。 「プリムは、どうしてきたの?お父さんに式典に出ろって言われたとか?」 「式典が今日だって、覚えてたんだ。ランディ」 プリムが静かにそう言うと、今度こそぎくりとランディは肩を揺らして驚いた。ルサ=ルカが肩を竦めると、呆れたような声を出した。 「神殿を駆け込み寺のように使わぬようにな。式典が気になって家に居たくなかったのだろう?二人とも」 「すみません・・」 「ごめんなさい」 二人は事の真相がばれて、びくびくしながらルサ=ルカに謝った。しかしルサ=ルカはそれほど気にしていなかった様子で、紅茶を口に含むと二人を見つめた。 「まぁ、帝国やその背後で糸を引いていた悪漢を知るお前たちが、何も知らないものたちの開く祝賀会など見てはおれんのはよくわかるがの・・」 「馬鹿馬鹿しい茶番よ。全く」 プリムは腹立だしげにそう言った。 「まあ、国としては一応お祝いして国民に平和になったことを告げる大事な式典なんだろうけどね」 ランディはそれでもあまりその式典にいい印象を持っているわけではなさそうだった。 「実はな」 二人の会話が途切れたのを機に、ルサ=ルカが声を上げる。 「もう一人ここに祝賀会を辞退した男が来ることになっておってな」 「え・・」 二人はそう言って顔を見合わせる。もう一人式典を辞退した男といえば・・もう一人しか浮かばない。 「ジェマ??」 二人は声をそろえてそう言うと、神殿に笑い声が響き渡った。男の朗々とした笑い声が、清閑な神殿に響き渡る。 「簡単にばれるものだなぁ」 そう言って現れたのは、二人が言った通り、タスマニカの騎士ジェマだった。 「本物?」 唖然としてランディが見つめる。それもそのはず、ジェマは王国の騎士の称号を持つ者で、まさか式典を辞退するとは思えなかったのだ。 「らしいわね・・」 プリムも目を見開いてジェマを見つめている。 「知りすぎた者には、国の催す祝賀会なんかで祝える気持ちになれないってところね」 「言うね、プリム。相変わらず元気そうで何よりだ。それにランディも」 ジェマは二人を見て薄く笑うと、ルサ=ルカに改めて挨拶した。 「タスマニカ騎士ジェマここに。本日はお招きを頂きありがとうございます」 「お招き?」 ジェマの言葉に驚くランディとプリムに、ルサ=ルカが微笑む。そして、手元にあった小さな鈴を鳴らした。 ちりりん、と透き通ったガラス細工の音が響くと、侍女が心得たようにお茶を下げていく。それから料理を持った皿が次々と運ばれてくるのを見て、ランディもプリムも驚いた。 「ルカ様のお心遣いだ。今日はここで真実を知る者たちで祝賀会を開こう。そして戦いで命を落とした者の追悼も込めたいと思っている」 ジェマの言葉に、ルサ=ルカが穏やかな表情で頷いた。 「いつも、そなたたちには感謝するばかりでなにもしてやれなかった。尊い人の命すら奪ったこの事件に対し、私は何もすることができなかったのでな。改めて感謝の意を込めたいのだ」 ランディも、プリムも、ルサ=ルカのその言葉に頷いた。 「では、尊い命を賭して戦った者達、とりわけここではパンドーラのディラック将校に感謝と遺憾なる黙祷を捧げる」 ジェマがそう言うと、ルサ=ルカとランディ、プリムは手を祈りの形にして目を閉じた。 短い黙祷が済むと、4人は食事を進め始めた。 楽しい時間だった。旅の全て知るもの同士であり、お互いの性格も知り尽くしているだけに和やかな時間が過ぎていった。 あっという間に時間は過ぎて、ルサ=ルカが時間を告げた。そろそろ、陽が落ちる時間だからプリムは帰るように、と促す。 「ランディ、パンドーラまで送ってやるといい」 ジェマがそういうと、ランディはうん、と頷いた。 「行こうか、プリム」 プリムもランディに頷くと、二人に向き直ってお礼を言った。 「今日はご馳走様でした、ルカ様。会えて嬉しかったわ、ジェマ。また会いましょう」 では、と一礼して、二人はその神殿の部屋を出て行く。 「マナの巡りはどうだって?」 帰る道すがら、プリムはいきなりランディに質問を投げつけた。プリムとしては、あの明るい内輪の祝賀会では聞く事が憚れたのだろう。 「減少の一途だって。まだかすかに残るマナが息づいていて、具体的な変化はもたらされていないけれど。最終的に底を尽きた時に何らかの自然現象が起こりうる可能性は十二分とあるそうだよ・・」 「そう・・」 プリムはランディの言葉を受けて、悲しげに目を伏せた。それから、プリムは空を見上げた。空には大きな満月がぽっかりと浮かび、二人の影を作るほど強く輝いていた。 「ディラックの命、ね」 月を見上げたままの状態で、プリムはそう言った。ランディがプリムの顔を見つめながら応える。 「うん」 「私、無駄にしたくないの。私も結局、『最後から2番目の真実』を見てしまった者だから」 神獣を打ち倒した事実、それをプリムは指して『最後から2番目の真実』と言ったようだった。 「うん」 ランディは余計な口を挟むことなく、ゆっくりプリムの言葉を噛み締めるように聞いている。 「神獣を打ち倒した後の、『真実』を私は正しい方向に向けさせたいの。それがきっと『最後の真実』になるから。それは『最後から2番目の真実』を見たものの使命、だと思うから」 ランディはプリムが自分の顔を見つめ返していることに気づいて、力強く頷いて見せた。 「うん。僕も、そう思ってる」 ふっと、安心したようにプリムが微笑む。 「できることがあるなら、私たちがやろう?そして、いつかチビちゃんも取り戻そう?きっとそしたらみんな・・みんな幸せになれると思うの。ディラックの心も、きっと」 「うん、そうだね。僕もそう思う」 ランディにそう言ってもらって、プリムはゆっくり頷いた。自分の考えが肯定されて、ようやく安堵したような表情だった。 「思う通りの『最後の真実』を見つけたら、プリムはきっと心から笑ってくれるんだろ?」 不意に、質問を投げつけられてプリムはきょとんとした。 「・・どういうこと?」 「ん・・いや、なんでもないや」 ははっ、とランディは誤魔化すように笑う。不思議そうにランディの顔を見上げながら、プリムはランディの身長が伸びていることに気付いた。 その晩の月が照らす二人の道は、とても明るくて穏やかだった。
Fin.
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