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【聖剣伝説2】 |
| ■遠雷 |
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作成日[2005/07/12] 「もうすぐ、雨が来るよ」 「うん、ウンディーネがそういってる」 凶暴化した植物をなぎ倒した後、ポポイとプリムがそういったのでランディは少しつまらなく思った。返事をせずに、空の遠くを見つめてみると、確かに黒雲が向こうの空を覆い始めている。精霊の予言が外れるはずもなく、ランディは頷くと、雨宿りできる場所へ急ごう、とだけ言った。 ポポイとプリムには精霊の加護が与えられている。ランディにその加護はないので、二人だけが精霊の力を使えるようになったことに多少の不満があった。ランディは聖剣の力と衝突してしまうから、とウンディーネがすまなそうに言ったことを覚えてはいるが、ランディにとっては損をしているような物足りなさがあった。 具体的に言って、精霊の加護というのは魔力だ。まだウンディーネの加護を受けて間もない二人は、大きな魔法を使えるわけではない。しかし、何度も使うことによって精霊と人間の信頼関係が深くなり、熟練度が増し、結果魔法はどんどん強大になっていくだろう、とウンディーネは説明した。うらやましいな、とランディは思った。 聖剣はもちろん大事なものだ。最終的に何を倒すことになろうとも、この剣は大いに役立ってくれるに違いない。ランディにだってそれくらいのことはわかっている。ただ、魔法というものに、自在に自然を操るという脅威に、ひどくそそられる。そういう気持ちは、おそらくこの二人と旅をする羽目になった人ならばランディでなくとも生まれただろう。 「なに?また考え事?」 適当に敵を追い払いながら草原を抜けていっていると、隣から顔を覗き込まれてランディははっと我に返った。プリムが、お姉さんぶったいつもの表情でランディの顔をみつめていた。 「眉間に皺が寄ってる」 そういうと、ぐいぐいとプリムは細い人差し指をランディの眉間の皺を伸ばすようにこすり付けた。予想外の力で押さえつけられて、ランディは首をのけぞらせた。 「いててっ!痛いよプリムっ!」 「男の子なんでしょ!簡単に弱音吐くんじゃないの!」 痛いものを痛い、というのも弱音を吐いたことになるんだろうか、とランディは思ったが、口ごたえをしたあとプリムが倍以上の反撃を買うことが火を見るよりも明らかだったので、ランディは開きかけた口を閉じた。 「言いたいことがあるならいいなさいよ」 すばやくランディの口の動きを読んだのか、プリムが人差し指を離しながらにらみつけた。 一体どうしたらプリムを怒らせずに済むのだろう、とランディは心の中でため息をつきながら、心とは裏腹に笑ってみせた。 「なんでもないよ」 ランディ目の端で、ポポイが含み笑いをしているのが見えた。ポポイはああやっていつもランディをからかうのだ。ランディはやれやれ、と空を仰いだ。頭上はまだ快晴だった。遠い轟音が鳴り響いたので音のした方角に目をやると、黒雲はさっきよりもずいぶん近くに来ているのを見た。時折光を孕み重圧を思わせる雲は、3人を追い込むかのごとく忍び寄っていた。 遠くで、雷が鳴っていた。 3人は結局ドワーフの村に落ち着くことにした。一番近場の避難場所がドワーフの村だった。地下への洞窟から抜け道を通り抜けて、ワッツの鍛冶屋にたどり着いたころには、雨の音はしなくなっていた。 「よう、俺が鍛えた剣の調子はどうだい?」 鍛冶場を外の世界との通り道にされているというのにいやな顔一つせずワッツは3人を歓迎した。しかも、ランディの剣のことまで気に掛けてくれた。ずいぶん敵とやりあったあとだったので、剣を見てもらおうとランディは腰帯から剣を鞘ごと抜いた。 「ちょっとみてもらっていいかな」 「いいぜ」 ワッツはランディから剣を受け取ると、鞘から剣を抜き放った。ランディはワッツが剣を鍛える様子を見るのが好きだったのでこのままここにいようと思っていたのだが、プリムとポポイがつまらなそうにしていたのに気づきランディは二人に振り返った。 「先に宿屋に行ってていいよ」 プリムは一瞬瞬きをした後、ランディにつまらなそうにしていたことがばれたのか、と苦笑いを浮かべて肩をすくめた。 「そう?じゃ、そうするね!」 「あとでな、あんちゃん!」 ポポイが元気よく手を振り、二人は連れ立って鍛冶場を抜けて村の中央に行ってしまった。 ランディがワッツに向き直ると、ワッツは剣を黙って睨んでいた。そんなに乱暴に扱ったつもりはないのだが、何か重大な傷でも残ってしまったのかと内心はらはらし始めていたランディに、ワッツはぼそりとこう言った。 「余裕があるんだかないんだか・・」 ランディは何のことかわかりかねて、ワッツの握った剣を逆側から見つめてみた。それほど目立った傷もなく怒られるようなことはしてないはずだ、とランディは思ったのだが、ワッツの表情は不満げというわけでもなく、かといって満足げというわけでもなかった。 「なにか僕の扱い方がまずかったの?ワッツ」 沈黙に耐えかねてランディがそう聞いてみると、ワッツはふうっと息をついた。 「まずいことはねぇさ。この前鍛えた時のきれいな剣のままでずいぶん大事にしてきたんだなってことは見た瞬間にわかったくらいだ」 ワッツがそう言ったのでランディはほっと顔を緩ませた。だが、ワッツがあまりいい顔をしていないことはわかっていたので、ランディは恐る恐るその理由を聞いてみた。 「じゃぁ・・どうしてワッツはそんな顔をして剣を見てるの?」 ワッツは尋ねられてランディを一瞥した。それから剣に視線を戻すと、そのままランディに返事をした。 「お前は・・俺の顔がどう見えてるって思うんだ?」 逆にワッツから問いかけられたので、ランディはうろたえた。ランディが驚いて躊躇していると、ワッツがもう一度ランディを一瞥したので、何とか答えなければと言葉を探した。 「え・・と、怒ってるような気もするし・・不安そうにもみえるし・・」 「ま、妥当なセンだ。外れちゃいねぇからよしとするか」 ワッツがそう言ったので、ランディは緊張にこわばった肩をゆっくり下げた。ワッツがそんなランディを見て、にやっと笑った。 「俺がした顔は剣と同じと思えよ、ランディ」 「どういうこと?」 ランディは言われたことの意味がわからず即座に聞き返した。ワッツは鞘を脇に置いて、わらで編んだ座布団をランディの前に置いた。どうやら座れ、という意図らしく、ランディは頷くとその座布団に腰を落ち着けた。 「剣を傷つけぬように扱うのは悪いことではないがいいことでもない。敵を屠るのに隙ができるからな、そうだろ?」 ランディはなるほど、と頷いた。 「それになぁ、剣は大体刃こぼれしたり折れたりするもんだ。そういう風に剣を犠牲にして、人の技量が上がっていくってもんなんだ。まあ聖剣に関して言えばこいつはこの世界で一本しかないわけだから、そうそう折れたりされちゃ困るって言うのはわかるけどな」 ワッツはしゃべりながら剣を鍛え始めていた。剣が槌で打ち付けられる音、唐突に冷やされて水が泡立つ音、高温の熱に沈む音が繰り返されるなかで、ランディは黙ってワッツの言葉を聞いていた。 「けど、ランディ。言っておくがな、こいつは剣であって剣じゃねぇからな」 ランディはまたもや意味がわからず、訝しげに眉間に皺を寄せた。プリムが見たらまた皺を伸ばされるな、と思い、ランディはつい自分の手で眉間を押さえつけた。ワッツはランディのそんなしぐさには気づかずに、ただ一心に剣を鍛えることで繰り返される作業を続けながら、こういった。 「こいつはな、お前の不注意で折れたりして終わるような普通の剣じゃないからな。普通の剣ならずっと傷んでいって最後には使い物にならなくなるんだろうが、聖剣は違うんだ。こいつには特別な『こころ』があるからな」 「こころ」 ランディは鸚鵡(おうむ)返しにそう言った。ワッツはそうだ、といい、額から流れる汗を肩で拭った。 「人間にはあって当たり前の『こころ』ってやつはすごいエネルギーを蓄積し、放出することができるんだぜ。だめになりそうな時に、くじけそうになった時にいつもの倍以上の力を出せる時があるだろう。あれだよ。あのガッツは心あってのものだからな。負けたくない、終わりたくないって必死に思った『こころ』が倍以上のエネルギーを総動員してくれるってわけだ」 「そんな『こころ』が、剣にも?」 ランディは驚いてその剣を指差しながらそういうと、ワッツは頷いて返した。 「そうだとも。水辺で何年も何十年も放置された剣が錆びたものの朽ち果てなかった理由が、それ以外に考えられるっていうのか?俺にはそれ以外に考えも及ばないね」 「でも、それじゃあ、この剣は永遠に折れない剣なの?」 ランディは興奮に声を張り上げんばかりに驚愕しながらワッツに聞いたのだが、ワッツはそんなランディに見向きもせずにこう答えた。 「さてね、それはどうだろう」 「というと?」 ワッツの物言いに一気に興奮が冷めたランディはそう問いかけた。 「時代の流れってやつをこの剣は読めるんじゃないかと俺は踏んでる。例えば、もう二度と悪の蔓延る世界が訪れないのであればこの剣は永久に不要となり、朽ちていくだろう。しかしそれ以外の理由で心を持ったこういう剣が絶対に折れないかと言われると、俺だってそうは言い切れん。俺は武器を見る目にかけては誰にも引けを取らんが、歴史には疎いからな。そういう話はジェマ殿としたほうがいいだろう」 ランディはそのとおりだと思ったので、今度ジェマに会ったときに忘れず聞いてみようと思った。 「まあ、それで、お前に不安だの怒りだのを言わせた理由のひとつが剣の『こころ』の話だがな。もう一つはおまえ自身の『こころ』だ」 「僕の?」 ランディは何を言われるのかと一瞬身を引いたが、ワッツはまあ聞け、とランディを落ち着かせた。 「剣に対するもの、仲間に対するもの、世界に対するもの、すべてに対する持ち主の心もまたこの剣に宿る。そして剣は己(おの)が主人にどう役立とうかを知るのだ。この剣を見る限り見て取れるお前の心は『すべてを守りたい』と、それだけだ」 「・・・」 「武器である剣にさえ傷を許さぬような強情なくらいのお前の思いが、剣からもよく読み取れる。だが、所詮武器は相手を傷つけるもの、傷つけては自分を、そして自分側の人間を守るもの。本来のその役目をお前はもう一度よく知るべきだな、ランディ」 ワッツはそこまで言うと、無心に剣を鍛え始めた。こうなるとランディがいくら問い掛けてもワッツは答えてくれないことを知っていたので、ランディはその剣が鍛えられる様子をじっと見つめていた。 「あ、おかえりーランディ」 「おかえり、あんちゃん」 二人は先にとっておいた宿屋の一室でどうやらゲームらしきものをやっていた。 「なにやってんの?」 ランディが先ほど鍛えられたばかりの剣を壁に立てかけながら聞いてみると、二人はぞんざいに答える。 「おはじき。結構ムカツク」 「へへーんだ」 どうやらポポイが優勢らしく、プリムは仏頂面で次の手をどう打つか腕を組んでテーブルの上のおはじきというものを眺めていた。 「ムカツクゲームなわけ?」 ランディは苦笑いしながらテーブルに近寄ると、プリムは大いに頷いて見せた。 「だってチビちゃん強いのよーっ!ムカツクったらないの」 「へへん、おねーちゃんの打つ手なんかいっつもばればれなんだよーだ」 「きぃぃっ!!ムカツクムカツクーー!!」 プリムは今にもテーブルの上のおはじきをぐちゃぐちゃにしそうな勢いで暴れたが、そこまで大人気ない行為をするつもりはないらしかった。ただ、荒れているプリムには近づかない方が身のためだと思い、ランディは傍らのベッドにごろりと横になった。 「ワッツ、なにか面白い話してくれたの?」 おはじきをしながらも、プリムはちゃんとランディの話も聞いてあげるつもりのようだった。こういう無関心を装った親切なところは、ランディにとってプリムがとても大人だと思わせる仕草のひとつだ。 「うん、なんかいろいろ。剣のことをね・・」 うまく話せる自信がなかったので、ランディはなんとなくそういう言い方をした。自分自身のこころの話までしなくてはならなくなりそうなのも、なんとなく気が引けたのだった。 「へぇ。・・と、これでどうだぁっ!」 「甘い甘い!」 「っきゃー!」 ムカツクとかいいつつ、結構楽しそうなのでランディは安心していると、今度はポポイがランディに問い掛けてきた。 「あんちゃん、ちゃんと戦ってるのか、とか言われなかったか?」 当たらずとも遠からずな質問にランディは一瞬びくっとしつつ、そろそろとポポイの方を見やった。ポポイは別段特別なことを言ったつもりはないらしく、プリムがこれからどう手を打つのかテーブルをまんじりと見つめているのだった。 「そんなようなこと言われたな・・剣に傷がなくてきれいなもんだから」 「だろうなぁ、オイラ絶対言われると思ったんだー」 事も無げにそういうポポイにランディはどきどきしながら、ポポイの次の言葉を待った。だが、ポポイはゲームに夢中になってしまったらしく、もうランディになにか尋ねてくることはしなかった。 (ポポイも剣に傷がないことを知っていたってことは・・当然、プリムが気づかないわけがないなぁ・・) 二人とも本当に目聡(めざと)いところがあって、ランディはいつもその目聡さにしてやられっぱなしなのである。ランディ自身が多少抜けている部分もあることは置いておくにしても。 「で、ワッツはこれからどうするべきか、教えてくれたの?」 ずいぶんゲームに熱中してからのプリムの台詞に、うとうとしていたランディは慌てて目を覚ました。 「ん?いや・・」 寝ぼけ眼(まなこ)でなんとかそう答えると、プリムが足を組んでランディの方を向いてこう言った。 「そうね、多分ワッツのことだもの。答えをさらっと教えちゃうなんてバカなことはしないと思うわ」 「そーだなー、例えオイラでも教えないな」 二人がまるで息を合わせたかのようにワッツのところで話したような剣の話をしてくるので、ランディは慌ててベッドから飛び起きた。 「二人とも、ワッツとの話を聞いてたの!?」 「「ぜーんぜん?ねー」」 二人で「ねー」のところで顔を見合わせて小首を傾げたりしている。ランディは混乱して頭がどうにかなりそうだった。 「で、でも、ワッツとの話を聞いてたみたいに二人の話は・・」 「私たちだって伊達に一緒にいるんじゃないってことよ」 「そうそう、いいかげん子分にも事態をわかってもらわないとなー」 ランディは二人を交互に見つめながら口をぱくぱくしていると、プリムが笑ってこう言った。 「あんたはさーなんもかんも背負いすぎなのよ!確かに私ディラック追うの手伝って欲しいとは行ったけど、別にその責任を負えなんて一言も言ってないし」 「オイラだって自分の村まで送ってくれ、ってしか言ってないしさ」 ランディが二人に言われてきょとん、としていると、プリムが慌てて言葉をつなげた。 「聖剣の勇者とか言われて気が張ってるんでしょうけど、今んとこ一人じゃないでしょ?ジェマさんも、ワッツさんもそうやって相談に乗ってくれてるわけだし」 「オイラやおねーちゃんだっているんだからな!」 ポポイがニコニコ笑いながらランディにそう言ってくれる。ポポイはいつもずうずうしくて可愛げがないと思うが、笑うと本当に妖精らしい微笑みをするのだった。 プリムはちょっと言い過ぎたと思ったのか、顔を赤らめながらポポイにこういい返した。 「あらっ!私はディラックが生きてたらそれでいいのよ!」 「ひでぇよ、おねぇちゃん・・ここまでいい話だったのに」 「ぷっ・・あははは」 ランディはなんだか悩んでた自分がバカみたいに思えて、思わず笑ってしまうと、今度は二人がランディを見てきょとんとしていた。二人もランディにつられたように笑い始めると、ランディは二人の笑顔が見られた幸せをいつまでも胸に留めておこうと思った。 まずこの二人の笑顔だけでも、守ろう。 そのために、傷も恐れないで行こう。 剣が傷つくことも、自分が傷つくことも、時には甘んじて受け入れよう。 ――まだ雷は遠くても、いつか必ずそのときはやってくるから。
Fin.
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