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【聖剣伝説2】 |
| ■耳に木霊す君の声 |
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掲載日[2009/09/07] ランディはポトス村の外れに一軒の家を建てた。今更村に入って生活する気持ちにはなれなかったが、行くところと言えばこの村以外は思いつかなかった。村人たちはランディの家を作るのを手伝ってはくれたが、その後寄り付かなくなった。余所者は余所者。聖剣の勇者でも余所者は余所者だ。 ランディの採るべき道は他にもあった。タスマニカの英雄でもあった父の後を継ぐなり、パンドーラの騎士隊に所属するなりという道もあったはずなのだ。しかし、もともと争いが好きではない性分のランディは剣を持つのは聖剣で終わりにしたいと考えていた。 先の戦いではいろんなものを屠り過ぎた。 植物が殺意を抱き攻撃してきたり、巨大化した昆虫が人間を襲ったり、悪魔の力を取り込んだ人が自分たちを殺そうとしたり、とずいぶんな殺伐とした時間を歩んできてしまった。 本当はランディはこんなことをしたかったわけではない。 ただ、村の同じ世代の子達と遊んで、日々がそれなりに楽しく送れたらそれでよかったはずなのだ。 ささやかで清らかに過ぎ去るはずの貴重な時間は、戦いに投じられて消えてしまった。 もっと、穏やかな時間を過ごしていたかったと、今でもランディは思っている。 時々ジェマが心配して訪ねてきた。 ジェマはランディの様子を見て変わりないことを確認すると、ランディの父親が事切れたその場所に聖剣を見に行く。聖剣はキラキラと光を乱射させながら、今も、川の中央で佇んでいる。剣の前に花を手向けて、安心したように去る。それが月に一度、何かの習慣のように必ずジェマはやってきた。 それ以外は静かな日が過ぎていく。必要な食材は川からも、辺りの自然からも捕ることができたからほとんど困ることはない。穀物と野菜は村の人にランディが生け捕ったりした食材と交換してもらうくらいだった。いくらかのお金も持っていたが、いまではもうない。特に何がをしなければならないというわけではないので、お金は必要なかった。ただ食べることをやり過ごせば、生活に苦は無かった。 「こんなところに家を建てたのね?」 珍しく女性の声を聞いてランディは驚く。ノースタウンのレジスタンスのリーダーのクリスだったのだ。あまりに懐かしいのと、ずいぶん女性らしくなっていたので驚く。 「クリスだったのか!見違えた!」 「やだ、ランディは上手になったみたい」 頬を染めてそう言うクリスは、本当にきれいになっていた。時同じくして戦いに身を投じた戦友のような人だ。彼女の父親も帝国の犠牲者となっていて、ランディと境遇が似ているせいか二人は気があっていた。 「女の人をもてなせるような家じゃないけど、よかったらゆっくりしていって」 「うん、そうするつもりできたのよ。わぁ、ここは川がとてもきれい。きらきらしてるわ」 川の見える位置に家を建てていたので、窓に広がる景色にクリスは気持よさそうに目を細めた。 「お水でいいかな?お茶とか買ってなくて」 「喉カラカラだからお水で十分よ。ありがとう!」 クリスは素直にそう言うとランディから水の入ったグラスを受け取り、おいしそうに飲み干した。ランディがそれを見て笑う。 「ずいぶん遠かったからきっと疲れたでしょう」 「うん、でも大砲屋さんに頼んだから、意外に早く来れたわ」 ランディににこりと微笑みながらクリスはそう言ったが、すぐに表情を曇らせた。 「ランディ、実は手伝ってほしいことがあってきたの」 ぴくりと、ランディの手が震える。 「本当はこんなこと頼んでいいとも思えないけど、人が足りなくて…」 「ノースタウンの、帝国残兵の件だね」 ランディは椅子に座ると、クリスを見ずにそう言った。ランディの視線は、窓の外に見えるキラキラした風景だけに向けられている。 「知っていたの…!」 「ジェマがね、月一でここに来るんだ。いろいろ話もしてくれる。その時に聞いたんだ」 「そう…」 クリスは気まずそうに頭を垂れると、スリットの入ったスカートを握り締めた。下に動きやすいようにスパッツを履いているが、見た目にはただの細身のスカートに見える。ランディはそれを見て、見違えた、と言ったのだった。 反帝国レジスタンスのリーダーの時は、ひらひらしたものを身につけてはいなかったから。 ちなみに帝国残兵の件とは、ノースタウンはそもそも帝国宮殿のお膝元として栄えた町だが、皇帝やその配下の大物たちが次々に命を落としたため、残った兵たちが好き勝手に略奪を繰り返していて、ノースタウンの治安はすっかり悪くなってしまったのだ。レジスタンスのリーダーであるクリスは帝国が崩壊したあとも、この残党処理をずっと引き継いでやっているのだと、ジェマから聞いていたのだった。 「ランディ、私たちをもう一度助けてはもらえない?」 クリスがそう言うと、ランディはやっとクリスを見てから、申し訳なさそうに眉をひそめた。 「僕の手から聖剣は離れていったよ」 「それは知ってる!けど、あなたは聖剣の力あってのあなたじゃないのよ!あなた自身に光る力があったからこそあの剣は…」 「けど、この世界のマナは失われていくんだ」 ランディが一言で片づける。クリスが肩を震わせ、身を引く。ランディの声が抑揚がなくて、怖いと感じたのはこれが初めてだった。 「僕は、聖剣の勇者になって思いあがって世界を守れるって思って前に進んできた。結果マナは守れずに、復活の頼みの綱である神獣を死に追いやり、そのおかげで妖精たちが生きる世界を失った」 「ランディ…!」 「…仲間のポポイさえも救えなかったんだ僕は!」 ランディの悲鳴のような言葉が、辺りに響いた。クリスは何も言えなくなって、椅子に縮こまるように座りなおした。ランディは涙こそ流してはいなかったが、クリスにはランディが泣いているように見えた。 ランディはごめん、と呟くと、頭を軽く振った。それから顔を上げると、ランディは先ほどとは変わらない、穏やかな笑みを浮かべていた。 「だからね、クリス。僕はもう力を行使しない。僕が力を行使すると悪いことばかりが起こるから」 クリスはゆっくり頷いた。だめだとは、思っていたのだ。本当はこんな人気から離れた場所に家を建てていることを知った時点で、ランディは世界のどこからも必要とされないことを望んでいるのだと、わかってしまったから。 けれど、クリスが頼んだら、少しでも心が動いてくれたら、と期待していたのだったが、ランディの決意は固く揺るぎそうもない。クリスは深く息を吐くと、わかりました、と席を立った。 「無理を言ってごめんなさい。あなたの安定した生活を侵す権利は私にはありません。私たちは私たちの力でなんとかするべきなのよね」 「クリス、本当にごめんね」 昔通りのおどおどしたランディのセリフに、クリスは柔らかく微笑んだ。 「あなたが謝ることないわ。無理を言った私が悪いの。ごめんなさい。私、これからすぐ戻ります」 「ここで無事を祈っているよ」 「ありがとう。さようなら、ランディ」 クリスは颯爽と踵を返すと、外套をひるがえしながら去っていった。ランディは去っていくクリスを見つめながら、さよなら、と呟くしかなかった。 ――あーあ。なっさけねぇの! ふと、耳に何かが囁いた。ランディは驚いて辺りを見回してみるが、人の気配はなかった。先ほどクリスが家を出てから、しばらく経っていたし、クリスが戻ってくる理由も思い当たらない。 それに、声がクリスのものとは似ても似つかない。とても幼稚で、こましゃくれた子供のような声だ。 しかし、この声に聞き覚えがある。ランディは家を飛び出して辺りを見渡した。 「ポポイ…ポポイなのかっ!?」 ざああああと、川の流れる音が耳いっぱいに広がる。いつもならばこの川の音が心地よく感じるのに、今は邪魔でたまらない。 「ポポイ!いるのか!?」 空を見上げ、木々の間に視線を走らせる。緑色の小さな体に似合わない大きな靴を探す。 「いるなら姿をみせてくれ!」 必死に声を上げながら、ランディは手当たりしだいに草をかき分け始めた。 ――俺の子分がこんななんて情けなくてみてられないよ。 また、だ。それとも空耳なのだろうか?とうとう自分がおかしくなってきたのだろうかと、肩が震える。しかし、そんなランディを呆れたように言い放つ声がした。 ――俺の子分なら、困ってるおねぇちゃんを助けるのがトーゼンだろ! 「いつ、お前の子分になったんだよ…」 たぶん、これは空耳なのだ。けれど、そんな事はどうでもいい。 確かに、ポポイが今この場で話を聞いていれば、確かにそう言ったに違いないのだから。 ランディはぱんっと両手で両方の頬を打つ。景気のいい音が森に響いて、ランディは少し笑った。そうだ、まだ笑える。まだ行ける。それなら、――行こう! 「ポポイ!僕、行ってくるよ!」 すぐさまランディはその場を駆けだしていた。クリスはまだポトスの村にも着いていないだろう。きっとまだ合流できるはずだ。できなくても、大砲屋がある。とにかく自分の足さえ前に進めば、未来は進む。 クリスは許してくれるだろうか?それも含めて確かめたい。自分が出来ることを。聖剣なしでも自分が役に立つということを。世界が人として自分を必要としてくれることを。 きっと、僕は確かめられるはずだ。ランディはそう信じて、走り続けた。 ――そうでなくっちゃ!あんちゃん! 耳で木霊す君の声が、やっと笑った。 Fin. |