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【聖剣伝説3】 |
| ■凍れる湖の踊り |
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作成日[03/12/7] 踊りましょう ずっとずっと 時の流れを 忘れるくらい まるで 狂ったように 浸るように 止めないで 踊りましょう ずっとずっと 陽の光が射す限り 果てしなく 星の海の中 流れてく星 光る湖面の上 いつまでも いつまでも・・ あなたと 「ほんっと・・危機感ないよな、俺ら」 呆れたようにホークアイがそう言う。それもそのはず、今は精霊を集めるという大事な使命を負って魔法王国アルテナの氷壁の迷宮に来たと言うのに、水の精霊ウンディーネを手に入れたアンジェラがまた突拍子もないことをしでかした。 そう、また、だ。 精霊の力を、いや、彼女にしてみれば「自分の」魔法を試したくてしょうがないのか、精霊を手に入れるたびに大きな魔法を使いたがるのだ。彼女にとってはまだレベルが足りない行為だと言う仲間の言葉には耳を貸さず、今回しでかしたのは・・一つの湖を全面凍結させると言うものだった。 「うちは無理いうたんよ・・?でもこの姫さん、ちぃっとも言うこと全然聞かんのや。おかげでこんなんなってしもーて・・」 なぜか関西弁を話すウンディーネは、言い訳すると逃げるように消えていった。 そして、目の前に広がるのは、湖。 いつもはゆらゆらと水面が揺らいでいるはずなのだが今は、全面氷結している、湖。 そして、さらなる突拍子のない彼女の台詞。 「ここで少し、遊んでいかないっ?」 もともと寒さの厳しいアルテナでは、今のこの湖のように湖面が凍結することがあるらしい。そのため、彼女は何度かそのスケートを楽しんだことがあるようで、すいすいと氷上を滑っていく。 「そんなことしてる場合か!さっさと次の精霊見つけにいなきゃならねぇんだ!英雄王様だって待ってらっしゃるんだからな!!」 早速いきりたったのは言うまでもなくリーダーシップをとるデュラン。彼がいなければおそらくこの個性的なパーティは1日と経たず解散となるであろう。 「何よ、いちいちがみがみうるさいのよ、デュランはー!」 ひと滑りして見せたアンジェラがくるっと回転して、デュランが待っている岸まで戻ってくる。その身軽さと華麗さに、リースとシャルロットが目を見張る。 「あたちも、あたちもやってみたいでちーっ!!」 シャルロットが俄然やる気を触発されたらしく、飛び出した。が、リースが慌ててそれを止める。 「危ないですよ。シャルロット。きっとすごく滑ります」 「わかってるでちっ!!」 それだから面白いのだろうと不服そうにリースを見上げる。リースはそれを制するように横に首を振る。 「その飛び出し方はちっともわかってない証拠よ。そんな勢いで飛び出したら転んでしまうわ」 むうっとするシャルロット。 「転ぶほどあたちは子供じゃないんでちよ!!リースしゃん!!」 「いえ、子供かどうかと言う問題ではないの、シャルロット。私だって転ぶかもしれないわ。アンジェラがあんなにすいすい滑れるのは、おそらく、相当転んだ賜物」 アンジェラが手を腰に当てて小首を傾げてみせる。魅惑的なポーズだ。 「言うわね。その通りだけどさ」 にっと笑う、アンジェラ。リースも笑って頷いてみせる。 「で?デュラン?私の見たところ、シャルロットもリースも、興味を示しているみたいだけど?それにあなたの後ろにいる、ホークアイとケヴィンでさえも、ね」 言われたデュランがくるっと後ろを向くと、後ろにいたホークアイは手首を回して今からでも滑り始めそうな体勢をとっているし、ケヴィンもアンジェラが滑った姿を見て面白そうだと思ったのか目をキラキラさせて湖面を見つめる有様だ。 デュランがそれを見て、はぁっと息をつく。 「ったく・・なんだって俺はこんなパーティを選んじまったんだ??」 顔に手を当てて天を仰ぐデュランを見て、アンジェラがくすっと笑う。 湖面から岸に上がり、嘆くように天を仰いでいるデュランの耳の傍で、アンジェラが囁いた。 「あら、私はあんたの、すっごく厳しいとこと、そのちょっと甘いところが大好きよ」 言われて、デュランがアンジェラを見つめる。仰天と、焦りの混じった瞳が、アンジェラを捉える。顔が火照りそうになるのをなんとか誤魔化しきれているか、デュランは心配だった。 そして、肩を竦めて舌を出すアンジェラ。そして、彼女はこう言うのだ。 「さぁ、リーダー様のお許しが出たわ!みんなで滑りましょ!」 そして、冒頭に戻るのだが。 もともと運動神経のいいホークアイは10分と経たず、アンジェラほどとは言わないがそれでも滑れるようになっていた。そして一通り湖面を一周してから、デュランの許に戻ったそのときの、台詞だったのだ。 「危機感がないのは・・いいことなのかもしれんがな」 スケートにすべる気などさらさらにないデュランは剣を横に置き、岸辺に座っていた。そのまま地べたに座ったのでは体温がどんどん奪われてしまうから、荷物を腰掛にしていた。 「そうかね?デュランがそんなことを言うとは思わなかったよ」 ホークアイが意外そうにそう言った。 「そりゃ、俺も自分から使命を負ったとか、考えたくはねぇしな」 頬杖をつきながらデュランが見つめるのは、舞うように滑る美しい娘。そして、彼女は世界の救世主と呼ばれる・・聖剣の勇者なのだ。 「強いよな、アンジェラは。使命を負ってるって多分心では分かってるんだろうな。でも、決してそんな負荷を俺たちに見せない。」 デュランの見つめる先を予想せずとも理解して、ホークアイはそう言った。 「そう、思うか。お前も」 ホークアイには気付かれないほどの、小さなため息。 「俺なら、潰されそうになるかもしれない。その使命の重さにな。世界だぜ。途方もない話だ」 頷くホークアイ。 「一国の姫っていうだけでも潰れそうになってたって話じゃないか。どうしてあんな顔ができる?どうして笑っていられる?」 「それは―――、一人じゃないから、じゃないかな」 ホークアイがぽん、とデュランの肩に手を置く。 「それだけで?か?」 意外そうにデュランはホークアイを見つめ返す。ホークアイは頷く。ただ、ゆっくり深く頷く。 デュランはしばらくそんなホークアイを見つめていたが、やがて彼から目をそらすとふっと笑みを浮かべる。さっきまで目を細め心配そうに見つめていたその目が、優しく和らぐ。 「そうか。それなら、俺のいるパーティはいいパーティなんだな」 「もちろんさ」 ふと気付くと、話の種になっていたアンジェラがこちらにやってくるところだった。ホークアイは気を遣うように、また滑ってくるよ、というとまた湖面へ足を滑らせて行った。 「もー。デュランも滑ったらいいじゃないのよ!一人でこんなとこ座ってたら寒いだけよ!」 「うるせぇ。俺が何しようと勝手だろうが」 デュランが下から見上げるようにアンジェラを見つめる。見つめると言うより、睨むに近い目をしている。見上げるから自然、目つきが悪くなっているのだろうが。 「そんな怖い目しちゃってさぁ・・いやんなっちゃう。それにつまんなくない?一人でこんなとこにいて」 アンジェラは座り込んで、デュランと同じ目の高さになるようにした。デュランはお陰で彼女を睨む目つきをやめることが出来た。 「別に俺に構わねぇでいいから、お前は好きに滑ってろよ。それとももう行くか?」 「やだ!まだ滑ってくんだから」 むっとして、アンジェラがデュランにそう言う。デュランはそんなアンジェラの無邪気さに少し微笑む。 「じゃあ、滑って来い。待っててやるから」 「そうじゃなくて、デュランも一緒に滑ろうってば」 アンジェラがデュランの腕を掴み、立ち上がる。デュランを引っ張り、立ち上がらせようとする。 「うるせぇって。俺はいいから、お前だけ行って来い」 少しも腰を上げようとしないデュランは、アンジェラを見上げて文句を言う。しかし、アンジェラも一度こうと決めたら絶対考えを曲げない性格なのだ。彼女はデュランの腕をとるのをやめない。 「もう、そんなうちのホセみたいな頑固なこと言ってないで、ちょっとだけでもさぁ。ホラ、私がちゃんと教えてあげるし」 「魔法の勉強もサボりまくってたっていうお前が人に教えることなんかできるか。信用ならねぇ」 さっきまで、アンジェラを案じていたことなど欠片も見せない口調で、デュランは酷いことをぽんぽん言う。 「酷っ。だいたい今リースがようやく滑れるようになってるのって私が教えたからなんだからねっ!」 アンジェラが言った通り、リースは既に湖面を回れるようになってきていた。シャルロットの面倒を今は彼女が見ているのだ。 ちなみに、ケヴィンは滑ると言うよりも駆け回っている。たまに転んだりもしているようだが、本人はあまり気にしていないらしくひたすら駆け回っているようだ。 「ほらほら、みんな楽しそうでしょ?デュランも一緒に楽しもうってばー」 「いいから、お前一人で行ってこいって!」 いい加減この体勢に疲れたデュランは、アンジェラの手を振り払おうとした。ぐい、と腕を自分の胸に引き戻そうとしたのだが、アンジェラは思ったより強く握り締めていたのか、その腕の力に耐え切れず足を滑らせる。そう、ここは岸ではあるのだが、極寒の地アルテナの岸は、雪に覆われているのだ。 「きゃっ!」 よろけて体勢を崩すアンジェラに気付いたデュランが、慌てて引き戻した腕を伸ばす。アンジェラの体を引き寄せるように。自分の体で彼女の衝撃を和らげるように。 結果として、アンジェラはデュランの腕の中に引き込まれた状態で倒れていた。 「・・・この、バカ」 呆れた声が、アンジェラの耳に届く。いや、耳からだけではない。デュランの体中からその声の振動が伝わってきて、アンジェラは思わず顔を赤くした。声を『体感』したことが、触れている、という事実を証明していた。 「な、デュランだって、悪いっ」 半ば仕返しのように、アンジェラも文句を言った。 おかげで、デュランにも同じような感覚が生まれた。アンジェラが文句を言ったことでその声の振動が体中に伝わってきた。痺れるような、感覚。 それとは気付かれないよう、デュランはアンジェラから離れた。 「怪我、しなかったか」 「うん」 アンジェラも立ち上がり、ありがと、と素直に礼を言う。 「つまらんことで怪我されちゃかなわんからな・・滑るぞ」 デュランがそう言って湖面の前に立つと、アンジェラはやっと嬉しそうに微笑んだ。 「そうこなくっちゃ!」 不器用なデュランがアンジェラからの根気ある指導のおかげで滑れるようになったのは約1時間後だった。 転ぶことなく滑れるようになったデュランの手を握り、アンジェラは一緒に嬉しそうに滑っていた。たまに離しては、こんなこともできるのよ、と技を披露して見せたりしていた。 まるで舞踏会のような、そんなひと時。 しかし、魔法の時間は無限ではない。ホークアイが突然、声を上げた。 「おい!早く岸に上がれ!もうそろそろ、氷が割れそうだ!」 6人が慌てて岸に上がると、それから1分も経たないうちに湖の中央がビシィッと音を立てて割れたのだ。 「・・!よく・・分かりましたね」 驚いてリースがホークアイにそう言うと、ホークアイは肩を竦めて笑って見せた。 「シーフは目と耳が商売道具だからね。軋む音を聞きつけたんだよ」 言っている間にも、ビシィッといくつもの亀裂が走り、壊れた氷の欠片がバランスを失って崩れていった。あちこちに巨大な水柱が上がっている。 「気が済んだか」 デュランが、アンジェラに話し掛けた。アンジェラは氷解していく湖を見つめながら、頷いた。哀しそうに、笑いながら。 デュランがそれに気付いて目を見張っていると、アンジェラがごめん、と笑ってみせる。でも、その目尻に光るのは、この湖のしぶきなどではないはずだ。 「これに・・やられたんだと思ってね。」 アンジェラは目を閉じる。 「ここの湖には伝説があるの。美しい娘が恋する人に氷上のダンスを披露していたんですって。でも、ある時この湖の氷が割れてしまって、亀裂に落ちた二人は・・ここで亡くなったって。だからこの湖にはその子の名前が付いているの。・・ウンディーネの湖ってね」 五人が驚いて、湖を見つめる。ウンディーネが人だった頃、ここで踊っていたのだ。 「だから本当は、この湖は1年を通じて一度も凍ることがないの。別の湖が凍ることがあっても、絶対に、凍らない。まるで、事故を未然に防ぐかのようにね」 アンジェラはゆっくり目を開き、ようやく氷解が収まった湖を見つめる。大きな氷の塊がそこここに浮いているが、どんどん解けていっている。 「でもそれは哀しいから。なんだか、哀しいと思ったから。自然の掟を破ってまで寂しい湖にすることはないと、そう思ったから。だから、私は凍らせたの」 それでも、氷はものすごい早さで溶けていった。まるで、凍ってしまった事実をなるだけ早く覆い隠そうとするかのように。 「弔いの踊りだったのか」 デュランがそう言った。アンジェラは、ただ頷いていた。 ■Fin. |