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【聖剣伝説3】 |
| ■復興の王女[1] |
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作成日[03/3/13] マナが衰退を辿る前。アルテナ王家には代々強力な魔力が宿っていた。その王家の原点は魔女がいたという歴史学者がいたほど、その魔法の威力は世界に知られていた。そして、当時の仮説である魔女が原点だということはあながち間違いではなかった。 アルテナ王家は今では直系のものしかいなくなってしまったと思われていたが、その血縁関係を遡ると400年前に一度血族の分岐が発生していた。400年前にアルテナ王家に生まれた双子の姉が王家より追放されていたのだ。それがウィンテッドの魔女マラヴォアだ。 当時の王女だったマラヴォアはあまりにも強大な魔力を持っていた。子供のころからその魔力を抑制なく使うことができたマラヴォアは、普段から癇癪を起こして所構わず魔力を暴発させたり、気分によって天気を変えたりしていた。しかし、人々はそのマラヴォアを止める手段も無かったし、彼女が王のとりわけ気に入っている娘でもあったため、人々も自分達に災難が振りかからぬよう祈ることしかできなかった。ところが、マラヴォアの身勝手な行動もついに王の逆鱗に触れることとなった。アルテナの西に位置する氷壁の迷宮に安置してある、マナの聖石にも手を出したのだ。マラヴォアは自分の力を試そうと、聖石を魔力によって破壊しようとしたのだ。 王もこれにはマラヴォア可愛さに許すことは到底できなかった。マナの聖石に眠るのは、遠い昔に女神がやっとのことで封印した神獣なのだ。その神獣を解き放つことになれば、世界中は一瞬にして混乱の渦に巻き込まれるであろう。 王はマラヴォアの魔力とその力に見合わぬ精神のバランスを考え、彼女の力は未来のアルテナ、いや世界に対して甚大な悪影響を及ぼすおそれがある、という判断を下した。そして、マラヴォアをアルテナと妖精国の国境付近に幽閉した。 そのときの彼女はまだ若干12歳。彼女は怒りのあまり祖国と父を情け容赦なく呪った。強大な魔力を持つマラヴォアが、である。 アルテナに、マラヴォアの呪いが降りかかり始めた。 王は突然倒れると、三日三晩高熱を出し続け、四日目に熱は下がったものの高熱のためか足が立たなくなった。 そして、そのころから。アルテナの平均気温が徐々に下がり始めたのだった。 ■復興の王女 「初めて聞いたわ。そんな話」 アンジェラは暖炉の前でカップスープをかき混ぜながらそう言った。ホセはそうでしょうな、と言うと長くたくわえた白い顎髭をゆっくり撫でつけた。 時折ゆっくりとした揺れを襲うその部屋は船室だった。今彼らは安全のために母国を捨て、聖都ウェンデルに向かっている。船は草原のフォルセナが提供してくれたもので、乗り心地もよかった。 「王家というものは概(おおむ)ね外聞を憚(はばか)るものです。特に醜聞になりかねないないような内容ならばなおさら。ですから、不用意に伝えず、実際この話もアンジェラ様が成人となられ、現女王ヴァルダ様から王位を引き継いだ後お話することになっておりました。しかし・・」 「待つ必要も、なくなったということね」 アンジェラは無表情にそう言った。カップスープをこくりと一口飲み込む。ホセは何も言えず、黙りこんでいた。 ――アンジェラの言葉を端的に説明するならば、彼らの国は事実上滅びたのだった。 魔法王国アルテナはそもそも魔力によって支えられてきた国と言っても過言ではない。その魔力の源のマナが絶対的な量として存在しつづけていれば、国として繁栄は確固として守られていたに違いないがしかし、聖域のマナの樹が滅すると同時に著しくその量は低下していったのだ。それに伴い、彼らの魔法は徐々に力を失っていった。その力がなければ、領土のほとんどが極寒地という厳しい条件に耐えうることなどできないというのに。 自国の領土であるウィンテッドの気候から身を守る術を失った時点で、アルテナは徐々に頽廃(たいはい)の道を辿ざるをえなくなった。 魔力の低下により莫大な集中力を必要としながら国を守ろうとしていたヴァルダが過労で倒れ、声を失った。それから人々は王家を見限り、徐々に国を離れていく。どうしようもないほどの冷酷な風がアルテナを吹き荒らしていた。 その風から守ろうと、フォルセナの王が立ち上がった。英雄王は彼らの疲れを癒すため、アルテナから人々の保護を全世界に求めた。各国からアルテナの支援と査察が組まれて、アルテナの惨状を理解した国々ができる限りのことを行うと宣言した。 そして、国民は散り散りに、思い思いの国へ旅出った。そしてこの船は、アルテナから出港した最後の船なのだった・・。(「喪失の姫君」より) 「それじゃ、もしかしてアルテナってもともとはあんな極寒地じゃないの?」 アンジェラは唐突に顔を上げると、自分の魔法指南役であるホセに尋ねた。船室に散乱している文献を整理していたホセは、アンジェラの声に驚いたように目を丸くした。会話が途切れてから、しばらく時間が経っていたのだ。 「あ、ああ。そうですな。もともとの気候を残した文献は少ないのですが、ええと・・これですな」 ホセは一度積み上げて紐で括ろうとしていた冊子の中からひとつの冊子を取り出した。 「古典文学ですが、この中に季節の移り変わりを書いたものがありました。今のアルテナは夏の1ヶ月だけ雪が解ける期間がありますが、昔は四季といってもいい季節の移り変わりがあったようです。」 「へえ・・」 アンジェラは古典文学の文献の方には目もくれず、スープを最後まで飲み干してしまうと、テーブルにカップを置いて考えた。 「アルテナに・・四季、ねぇ」 「ぴんときませんかな」 ホセがそう言ったのに、アンジェラは同意するように肩をすくめた。 「ずっと冷たくて寒いアルテナしか見たこと無かったからね。あたたかい日差しが射して若芽が芽吹くところなんてアルテナでは考えられないわ」 ホセもアンジェラの言葉に同意するように頷いた。 「しかし、確かにそんなときも、あったんでしょうな」 ホセは再びもくもくと文献の整理を始め、アンジェラは自分の船室に戻るのは嫌だったのか、そのままホセの部屋で寝入ってしまった。 船はそんな二人の邪魔しないよう、穏やかに聖都ウェンデルへと進んでいった。 アルテナ王家がウェンデルを仮住まいとして選んだのは、過去の侵略経験からだった。アルテナは以前フォルセナに侵攻した事があったため、フォルセナを選ぶことは出来なかった。フォルセナの国民の怒りをなだめつつ、自分たちの生活を営むことなどできないと最初から分かりきっていたのだ。 そして、あとの二つの国は同様にだった。侵攻をしたナバールと侵攻をされたローラント。どちらも侵攻経験により手ひどい傷跡を残した国だった。そんな国で気持ちが安らぐとも思えない。 聖都ウェンデルも実は獣人たちの侵略に遭いそうになった国ではあったが、ここの国は全世界に対しマナの女神をもっての中立国家である。宗教的にも中心地であり、また、国外の影響力も高い。この国で何か起これば、全世界で非難されることが間違いないからである。 そうして、彼らが選んだウェンデルに船がようやく到着したのは、一ヶ月後であった。船には王家の荷物をほぼ全て積み込んで大所帯となったため、航路はファ・ザード大陸を半周してウェンデルに程近い小さな港に船はたどり着いたのだった。 船を下りたアンジェラは早速背伸びをして、固くなった体をほぐした。それから母を伴って聖都ウェンデルの方に急いだ。 彼らの暮らしは、ここから再出発となったのだ。 神殿の一室を借りて暮らすことになったアンジェラは、光の司祭にお礼を言いに行くと、すぐさま神殿の使いが取り次いでくれた。 もともと船が着いたという知らせが来た時に予定を組んでくれていたのかもしれなかった。 アンジェラは取次ぎをしてくれた使いのものに礼を言うと、光の司祭が待つ広間を歩いていった。 「光の司祭さま、魔法王国アルテナの末裔アンジェラです。このたびはご親切にお住まいを貸してくださりありがとうございます」 そう言うとアンジェラは優雅に腰を折った。 光の司祭が驚いたように目を丸くしていると、唐突に笑い出した。 「これはたまげたわい。これが本当にあのとき子供のように喚いていたアンジェラ王女かな?それともわしはあの時化かされたのか?いやいや、今化かされているのかな?」 司祭はどうやら、アンジェラが一人旅立たなくてはならなくなって藁にもすがる思いでここを訪れたときのことを言っているのだと思って、肩を竦めた。 「あの時は余裕が無かったので、つい子供のように喚いてしまったのよ」 「おお、そのふくれた顔は見覚えがあるぞ。なんじゃ、それではあのときのアンジェラも今のアンジェラも本物だな」 司祭が可笑しそうにひとしきり笑うと、アンジェラにそういえばな、と話を持ちかける。 「アンジェラ、お前の仲間たちがここに集うのを知っておるかな?そろそろあの者たちがそろってくるはずじゃ。ウェンデルへの長旅もたいそう疲れたであろうが、仲間と、それに国中の者にも挨拶をせねばならん。そこで今日は歓迎パーティを行う。アンジェラ、何かドレスはあるかね?なければ手配をするが??」 司祭は親切にアンジェラにそう尋ねた。アンジェラは母のことを気にかけてゆっくり返答した。 「実は母が船の疲れであまり元気がありません。私でよければ参加いたします」 「そうか、ヴァルダ女王は船旅疲れか。大事にせねばならんな。アンジェラは大丈夫か」 アンジェラはそれにはにっこりと微笑んで答えた。 「もちろんです」 「それならよい。夜半過ぎからとりおこなう。それまでには準備をしておいておくれ」 「わかりました」 アンジェラはもう一度腰を折ると踵を返し、広間を退出した。 アンジェラの心労を気遣うヴァルダを無理やり寝かしつけ、アンジェラは歓迎パーティに参加した。類稀な美貌を振りまくように現れるかと思いきや、パーティの間中アンジェラはじっとして誰とも話そうとはしなかった。 頑ななその態度に、人々は初めの方こそ近づいて話し掛けもしていたが、時間がたつにつれアンジェラの周りには人が寄らなくなってしまった。それほどに疲れていたし、また。 アルテナを国を捨ててきてしまったのだという負い目と、何にもできなかった自分を見られるのがいやだったのだ。アンジェラはずっとうつむいていた。美しい青のドレスを身に纏っていたが、そのドレスがアンジェラの体をより一層小さく見せた。 しかしアンジェラの座る来賓席に仲間達が様子を見に近づいたときには、アンジェラはついに耐えられなくなって席を立って逃げ出してしまった。 何人かの招待された貴族にぶつかって逃げていく主賓を見て、呆れたように貴族が罵った。 「せっかく私達の司祭様が招待したパーティを逃げ出すなんて!」 「なんて躾がなってない姫かしらねぇ」 ざわざわとアンジェラへの中傷が広まりかけたそのときに、アンジェラの教育係のホセがすっと立ち上がりお辞儀をした。 「先ほどの姫のご婦人方への無礼、どうぞわたくしめに免じてお許しを頂きとうございます。わたくしは長年あの姫の教育係でして」 それに気づいた数人の夫人が扇を口に当てて、ころころと笑う。 「まぁ。そうでしたの」 「いくらか教えそびれたことがあったようですわねぇ」 周りの貴族達がその言葉にどっと湧いた。ホセはそれでも、毅然とした表情で臆することなく言葉を続けた。 「そうかもしれません。ですが、あの姫は一度に故郷と家と唯一の家族の声も失いました。そんなあの姫に心を懸けたがらないあなた方こそ、何かを教わりそびれたのではありませんかな」 貴族達の顔色がすっと冷めるのを見て、ホセはようやく腰を落ち着けた。 走り続けるアンジェラ。その耳にはいくつもの嘲笑が重なっていた。 ―あれが、役に立たなかった王女か。 ―女王様もおかわいそうに。あの姫さえ役に立てば。 ―国を捨てる王族とは・・ ―力の無い王国なんて滅びるのが定石だわ。 聞こえたわけではない。話しているのを聞いていたわけではない。それでも、負い目の所為か、みっともない自分を見られた所為か、アンジェラの耳にはそんな台詞が耳鳴りのように鳴り響いていた。 (こんなところで身を晒すなんて・・拷問だわ!) アンジェラは心の中で悲鳴をあげながら会場から走り去ろうとした。と、そのとき。 目の前に仲間の一人が立っていた。ホークアイだ。 慌てて足を止め、後ろを見ると、シャルロットとケヴィンが追いかけてくる。素早いホークアイが先回りをしたらしい。 唇を噛み、アンジェラはホークアイを睨みつけると、正面の出入り口は諦めて一気に対面側の出口を目指す。思いっきり走って靴が脱げそうになったのに、今度は正面にリースが立っている。 一瞬躊躇してあとずさったところで、がっしりと腰を掴まれて驚く。その力強さに体中の力が抜ける。 「いやっ!離して!離してよ!」 ひょいと軽々とアンジェラを担ぐと、デュランはすぐ近くにある部屋にアンジェラを押し込んだ。まるでごみ捨てをした後のように、手をぱんぱん、と払っている。 投げられたアンジェラはたくしあがりそうになっているドレスを慌てて直して、デュランを睨みつけた。 「どういうつもりっ!?」 「そりゃ、こっちの台詞」 むっとしたようにデュランがそういうと、後ろから他の仲間達がぞろぞろと入ってくる。 「鬼ごっこは飽きたかな?アンジェラ」 おどけたように入ってくるホークアイに、困ったようにアンジェラを見つめるリース。シャルロットとケヴィンは遊び足らない様子で、もう一回やろう!などと騒いでいる。 よくよく部屋を見てみると、こじんまりとしたテーブルにティーカップが6つ並んでいる。あまり広くないその部屋が会場の隅に備え付けられた来賓専用のプライベートルームだということに気づいたのはアンジェラがようやく立ち上がって、ドレスの埃を払ったときだった。 「あたし達だけで話せるようにおじーちゃんが手配してくれたんでち!」 シャルロットが得意そうにアンジェラにそう言って、テーブルの椅子へ腰掛けた。 デュランがアンジェラの腕を掴んで席に座らせる。手を取って、というわけでないところが彼らしいといえば彼らしい。 「ほら、いい香りのお茶もありますから。すぐ用意しますね」 食器の音が鳴り響いてリースがお茶を淹れてくれるのを、アンジェラはじっと見ていた。酷く疲れた顔をしていて、仲間達はそれを気付かない振りをしていつものように話していた。 やがて、お茶が全員に行き渡ると、アンジェラの様子を窺うようにみんなが黙り込んだ。アンジェラの方に視線を投げかけて、何か話すのを待っていた。 アンジェラはじっとして、今淹れてくれた紅茶に見入っていたが、やがてそれを口に運んだ。 「マラヴォアに会ってみようかと思うの」 物憂げにずっと閉じられていたアンジェラの口がようやく開いたのは、紅茶がアンジェラの喉を潤して暫くたってからだった。 「マラヴォア?」 ケヴィンがおうむ返しにそう言った。 「誰だ?そりゃ」 ホークアイも訝しげにアンジェラの顔を見ながら訊ねる。アンジェラはドレスを握り締めた自分の手をじっと見つめたまま、もう一度言った。 「マラヴォアなら、何とかしてくれるはずよ」 「アンジェラ?」 怪訝そうな顔でデュランがアンジェラに問うが、アンジェラは聞こえていないかのようにただマラヴォアの話をする。 「きっとアルテナは雪から開放される・・そしたら私はこんな惨めな王女じゃなくなる。だから!」 きっとアンジェラはようやく仲間がいたことを思い出したように意識を取り戻した。しかも、そうと分かっていて、仲間たちをにらみつけたのだ。 「私が私の威厳を取り戻すまでは、放っておいて」 アンジェラはそう言うと、席を立った。小部屋から逃げ出すように、アンジェラは出て行った。 ■To Be Continued. |