【聖剣伝説3】

■復興の王女[10]

作成日[2003/7/20]




 呆気にとられたアンジェラ、デュラン、ホークアイ、そして魔物がいた。
 魔物は一瞬のその隙に魔法陣に飲み込まれ、アンジェラはデュランとホークアイの支えによって魔法陣に飲み込まれることはなかった。掴んでいたものが離された反動で、3人がリースの前に倒れこむ。
 ずしゃぁっという雪の感触に、アンジェラは我に返った。
 今、リースに左頬を打たれたという事実を、ようやく認識したのだった。
 デュランとホークアイが立ち上がり、最後にアンジェラが立ち上がった。目の前にいるのは泣き腫らした目をしながらも、怒りの形相でアンジェラを睨むリース。
 訳がわからず、アンジェラは左頬の感触をもう一度確かめた。
「あの・・リース・・・?」
 アンジェラは自分で出した声の間抜けさが少し虚しく感じた。一体、どうして、私はこんな声を出しているんだろう、と。
「どうして、叩かれたのかわからないのでしょう・・?」
 情けない笑いを浮かべて、リースはそう言った。アンジェラはそのリースの気迫に、返事もできずにただ黙っていた。すると、リースの鋭い声がアンジェラの耳と言わず、心といわずに響き渡った。
「あんまり仲間を馬鹿にしないでください」
 怒りに震えた声だった。リースは強い瞳でアンジェラを睨んでいた。その瞳はひどくアンジェラを非難していた。アンジェラこそ憎みきれずにいるものの、アンジェラのとった行動については無遠慮に忌み嫌っているようだった。
「何のための仲間です?何のための友情です?こんなに仲間を苦しめてあなたは何を考えているんです?自分がどうなってもかまわないなんて、本気で思っているんですか!?」
 打たれた頬をそのままに、アンジェラは呆然とリースの言葉を聞いていた。打たれた頬から・・ようやく痛みがじわじわとアンジェラの顔に広がっていく。それと同時に、現実感がアンジェラにも戻ってきていた。仲間に打たれた痛みから、今仲間と一緒にいるということを、そしてまだ、自分が生きているということを・・。
「あなたはすでに私達のかけがえのない仲間なんですよ?そのあなたが欠けたりしたら、いなくなってしまったりしたら・・どんな苦しみを私達が受けるか、悲しみに身を焼かれるか、考えなかったんですか?それとも、私達があなたの仲間であるなんて、ただの私の思い上がりなんですか!!」
 悔しそうに拳を握りしめたリースがぽろぽろっと涙を落とす。それから、リース自身にもようやく安堵がこみ上げてきたのだろう、体が震えはじめ、一度肩が大きく揺れるとぺたりと地に腰をつけてしまった。
「よかった・・よかった・・あなたが、生きていてくれて・・」
 その姿を見たアンジェラも、どっとこれまでの疲労が押し寄せてきて膝を地に付けた。とん、と雪の冷たい地面に膝をつけてしまうと、瞳からぼろぼろと涙が落ちていく。リースの辛らつで、暖かい言葉に引き寄せられたように涙が、とめどもなく溢れては流れる。
「あなたは・・アンジェラは、王女です。国を守る役目を果たさなければならない一族です。それを、いちいち他族の者を哀れんでいては・・国を守れません。あなたの役目を全うすることはできません。突き詰めれば私達同士でも敵同士になる可能性は十二分にあります。そうなる事態が訪れないことを願いますが、絶対的に皆無ではありません。そして、私はその事態が訪れたときあなたを敵とみなし、攻撃します!それが生きる者としての務め、王族の務めだからです!」
 リースはアンジェラに手を伸ばし、やさしく肩に手を置いた。
「誓ってください。あなたは自分のために、自分の国のために戦うことを、生きることを!そうでなければ、今のこの戦いすら、あなたはきっと切り抜けられない!」
―リース王女の言う通りだ。
 マラヴォアの声が、辺りに響き渡った。アンジェラはその声にびくりと肩を揺らした。
―アンジェラ。お前は優しい。優しすぎるほどだ。おそらくお前の心は感受の性に優れている。だから人の痛みを瞬間的に見抜き、その痛みを自分の痛みに置き換えてしまう。痛みを知ったら、攻撃できなくなってしまう。射竦められてしまう。だが、それでは王族は務まらぬのだ。
 アンジェラは空を見上げた。もう泣いてはいない。光の筋がアンジェラの頬を伝っていたが、アンジェラのその目はようやく強い光が宿り始めている。
―お前は、この国を取り戻すのだろう?それならば躊躇ってはならない。しくじってはならない。魔族のものも決死の覚悟で戦っている。それに対しお前もそれなりの覚悟で臨むことだ。それが生きる場所を求めるものの戦いなのだから。
「ご、ごめんなさい・・ごめんなさい、ごめんなさい・・!」
 アンジェラは、もはや謝るだけで精一杯だった。友情を踏みつけにしていたことも、自分の命を捨て鉢に考えていたことも、ただ謝るしかなかった。ただ手をついて、リースに、仲間たちに謝るしかなかったのだ。
「リース・・アンジェラ・・もう、いいだろう?ホラ、立って」
 泣きはらした目をした二人を支え、ホークアイが軽口を叩くようにそう言った。デュランも傍に立って見守っている。
 ようやく立ち上がったと思ったら、リースが気が抜けたようにふらりとよろめく。アンジェラを叱り付けることはそれほど緊張し、それほど怒りに任せていたのだろう。ホークアイがすかさず腕を取った。
「リース・・」
 心配そうにアンジェラがそう言うと、リースはにこりと微笑んだ。
「もう、無茶はよして下さい。みんなが心配しますから」
「うん・・」
 アンジェラは言われておとなしく頷いた。
「一度、エルランドで休むか?」
 デュランがこれからのことを予測して、アンジェラにそう尋ねた。これからこの魔法陣に対して仕掛けを施すのだ。その労力はどれほどのものかデュランには測りかねた。
「いい、大丈夫。やるわ」
 アンジェラはそう言うと、仲間たちを離れさせた。そして、アンジェラは魔法陣の前に立ち、静かにロッドを魔法陣に向けた。
「マラヴォア、準備はいい?」
―かまわぬ。始めよう!
「いくわよ・・」
 アンジェラは呪文を言う前に、乾いた唇を舐めて湿らせた。すう、と冷たい空気を吸い込むと一気に呪文を紡いでいく。
「天高く聳える意志の力よ。底知れぬ漲る思いの力よ。魔法陣の意思と命を今しばし東方へ向けたまえ!」
 アンジェラの体からロッドを通り、目の前にある魔法陣に向かって力が流れていくのを感じた。マラヴォアの思いが流れていく。
 魔法陣が輝かんばかりの光を放ち、そして、その光に満たされてアンジェラたちは思わず目を閉じた。すると、次の瞬間、魔法陣が消えている。
「消えた・・・?」
 驚きつつ、デュランが今まで魔法陣があったその場所を覗き込む。アンジェラはそんなデュランに振り向くと、明るく答えた。
「ううん、正しく言えば移動したの」
「移動・・?」
 アンジェラはここにはもう用はない、というように踵を返すと、既に足はエルランドに向かっている。リースの腕を取り、支えになりながら、アンジェラは行こう、と促した。
「私、やっぱりこの雪をなくしたくないと思っているみたいなの。だって、生まれたときからずっとこの雪原を見て育ってきたのよ。だから、呪いはそのままにしておく。でも、ちょっと移動してもらうの」
「東方へ・・東へ?」
 リースが先ほどよりも元気を取り戻した声で、そう言った。アンジェラは頷く。
「うちの城とエルランドは領土の北西に位置するわ。人が住んでいるのはそこのエリアだけ。そこにさえ冷気の威力が落ちてくれさえすれば、あとはうちで考えればいいと思うの。うまく行くかはやってみないとわからないけど」
「四方全ての魔法陣を移動させるのか?」
 デュランがそう言うと、アンジェラは違うよ、と言う。
「北は今移動させたから、あとは西と南の魔法陣。それと残りの魔宝石。東の魔法陣は移動させない。その三つの魔法人を東にずらしてやれば、自然と四方に囲まれたエリアはエルランドとアルテナ城を外れていく。影響が全くなくなるわけではないにしろ、威力は半減するはずよ」
「ふうん・・考えたね」
 ホークアイは頭に地図を描きながら納得したように頷いた。
「でも、ちょっと気になるわ・・さっきの奴『リュシカ』とか言ってた・・多分、魔族の頭ね」
「戦えるか・・?」
 アンジェラが少し考える仕草をしていたが、デュランにそう問われるとうん、と頷いた。
「戦うわ。リース王女と誓ったから」
「アンジェラ・・」
 リースがほっとしたように微笑んだ。そんなリースをホークアイが安心したように見つめ、よし、じゃあ次の魔法陣だな、と声を上げた。
「おぉーい、シャルロット、ケヴィン!雪投げなんてやってないで早く来いよ!置いてっちまうぞ!」
「わぁ、待ってぇ〜!」
「置いてくなでち〜〜!!」
 二人の子供たちは息の詰まる話に耳を傾ける努力をするつもりは無いらしく、勝手に雪投げをやっていたのだが、置いていかれては大変とばかりにすぐに走ってきた。

 地図のお陰で東の魔法陣と、南の魔法陣を見つけることはたやすかった。
 そこにいる番人もそれほど苦戦することはなかった。アンジェラはその後の移動させる呪文も忘れず唱え、マラヴォアとの呼吸も合うにつれ、少しずつ魔法も使えた。
「次の石を移動させれば最後でち?」
「ああ。最後まで気を抜かないでくれよ!」
 シャルロットは回復要員だ。もってもらわなければ困る。デュランはシャルロットを元気づけるように、頼んだぞ、と言った。
「そろそろ石が見えてくるはずだよ」
 地図を見ていたホークアイが遠くを矯めつ眇めつ見つめている。盗賊であるホークアイはほぼ遠視気味に目がいいのだ。
「見えた・・あれかな?ピンク色の大きな円盤の・・・」
「行きましょう」
 リースは今ではすっかり元気を取り戻していた。
 やがてアンジェラたちは魔法石と思われる石の前に立っていた。その石は大きく、大地にしっかりと根付いているように見えた。
「これを・・移動させるなんて出来るのか・・?」
 デュランが一瞬そんなことを言った時だった。得体の知らぬ気配が一瞬のぴりりと体中を走りぬけた。
「なにッ・・?!」
 怯んだ一瞬に、いきなり横殴りにあったような衝撃がその場の全員に食らわされた。
「ぐあっ」
「きゃぁぁ!」
「いたいいたーい!!」
「なんなのぉ!」
「ぐうぅ・・」
「わぁっ!」
 一瞬のうちになぎ払われたような衝撃になす術もなく、6人はその場に倒れていた。そして、ようやくその石の上に人影が射す。今までの番人とは比べ物にならない、威圧的な目が6人を睨んでいた。
「あまりいい気になるなよ・・ニンゲン・・・ッ!!」
「あんたが・・アンタがリュシカ・・!!」
 よろめくようにアンジェラが手をついて起き上がると、すかさず男の腕が伸びてアンジェラの腕を取る。そのまま腕が引き戻され、アンジェラは男の腕つかまれてぶら下がっているような状態にさせられた。ゆっくり男の顔とアンジェラの顔が同じ位置に来るように引き上げると、憎々しげにアンジェラを睨みつけた。
「誰が私の名を呼んでいいと言った・・?ニンゲンの分際で私の名前を呼ぶんじゃないッ!!」
 男は・・リュシカはそう言うと、アンジェラをゴミのように投げ放った。そのまま、アンジェラが地に打ち付けられる。
「・・ったぁっ!」
「アンジェラッ!」
 デュランがアンジェラに駆け寄るが、アンジェラは気を失ってはいないものの背中を強く打っている。下手すると骨が折れている可能性もある。
「ちっ・・!」
 アンジェラを優しく雪に横たえ、デュランは剣を抜いた。すらりと抜き放った剣の光がまぶしく輝く。
「起きられる奴は起きろ!一斉攻撃する。一撃で仕留める!!」
「了解っ!」
 返事が出来たのはケヴィンとホークアイくらいだった。リュシカは男女問わず同じ威力の攻撃をしたらしく、シャルロットは意識がなく、リースは息がするのがやっとの様子だった。
 それぞれの仲間の思いを抱え、男達は立ち上がる。剣を構え、拳を固めた。
「行くぞ!このバケモン!」
 デュランの声を合図に、ケヴィンとホークアイが飛び出す。
「馬鹿め・・おのれの力量を知れ・・!!」
 リュシカは手を伸ばすとデュランとホークアイの首を掴む。仲間たちの危機に怯んだケヴィンを一瞬のうちに鞭の様な髪の毛が襲う。
「うぐあぁっ!」
 ドッと雪に打ち付けられた体は骨がきしんだ。しかし、ケヴィンはここで終わるわけには行かないことを本能的に悟る。素早く立ち上がり、じりじりと間合いを取る。
「これは・・面白い。随分頑丈な玩具のようだ・・」
 リュシカはケヴィンに興味を示すと、デュランとホークアイを手放した。二人ともどさりと雪の地面に捨て置かれ、げほげほと咳をしながら新鮮な空気を求める。
「ケヴィン、逃げろッ!!」
 悲鳴を上げるようにそう言ったホークアイに、髪の鞭がしなり命中する。
「五月蝿い!」
 連続でなぎ払われ、ホークアイも今度こそ意識を保ちきれない。
「なんてこった・・めちゃくちゃだ・・!!こんな奴にアルテナは狙われていたっていうのか・・!」
 口を切ったせいか、鉄の匂いがした。デュランは気力を振り絞って頭を振るう。完全に頭を覚まして状況を打開しなければ、全滅だ。
 と、見るとリースがじりじりと奇襲をかけようと様子を窺っているのを見つけて、デュランは血の気が引いた。止めようとしたが間に合わない。
 立ち上がって槍を勢いよく投げつけようと体を反らせた瞬間に、あの長い手がリースを掴み取り遠方に投げ捨ててしまうのだ。
「きゃあぁぁっ!」
「リースッ!!」
「邪魔をするな・・」
 リュシカはそう言うと、ケヴィンを目で追う。ケヴィンは本能的に危険を察知しているようで、下手に攻撃を仕掛けるつもりはないらしい。
「ちくしょぉ・・どうしたら・・」
 そのとき、グォン、と強いエネルギーの音を感じた。見てみると脈動するように魔法石が光り輝いている。アンジェラの杖もそれに呼応するように光り輝いているのを見て取った。そして、アンジェラが体をゆっくりと起こす。
「う・・」
(マラヴォアが・・手を貸してくれるっていうのか・・?」
 デュランは呆然としてアンジェラを見ていると、アンジェラがロッドを掲げて立ち上がった。
「負けられない・・私は誓ったんだもの!アルテナを・・王国を元通りにするために私は立ち上がったんだもの・・・こんな終わりは認めないッ!!」
 ロッドが光り輝くと、アンジェラは半眼で呪文を唱え出す。
「全ての闇を導く根源、暗黒物質(ダークマター)よ。その力を以って眼前の小さき闇の化身をその地に導きたまえ!!シャドウスター!」
「シャドウスターだと!?なぜお前がそんな高等魔法を・・!」
 今まで悠然と相手をなぶるような戦いをしていたリュシカの表情が一転する。デュランもアンジェラを見つめながら、唖然とするばかりだ。今まで一緒に戦ってきて、聞いたこともない魔法をやすやすとアンジェラが唱えているからだ。
「やはり・・マラヴォアの力か・・・?」
 その間に彼らの上空には厚い雲が覆い始めていた。熱い黒雲が見渡す限りぎっちりと集まると、稲光を光らせやがて風が凪いだ。やがて空の一点に雲が開きそこから黒い光が振ってくる。
「本物の・・シャドウスターッ・・!マラヴォアかッ!」
 一見威力のありそうな魔法には見えないのに、明らかにリュシカは苦しんでいる。黒い光はおそらく、闇のものとしてもっとも強い威力のあるもので、生半可な闇の力を持つものには逆にそれが傷みとなるようだ。
 やがて天から声が響く。
―そうだリュシカ。もう、私の国を、返してもらおう。
「何を今更ッ・・」
 リュシカは足掻くようにそう言った。天の声は面白がるような響きすらある声でこういった。
―お前はアルテナの王女に負けたのだ。さぁ、もうここはお前の国ではない。去るがいい。
「ぐあぁぁぁ!!」
 闇の光に解かされて、リュシカは消えてしまった。アンジェラはロッドを握りなおすと、気が抜けたようにぱたりとその雪原に身を任せた。
 デュランが呆然としていると、黒雲に満ちた空が声をかけた。
―デュラン、アンジェラには呪いの転移は済ませたと伝えてくれ・・。
「マラヴォアっ!あなたはもしや・・もう・・!」
―よせ。デュラン。アンジェラが哀しむ。冬の魔法はエルランドとアルテナ城には半減するようにかけてある。未来永劫、私の魔力がアルテナの地に息づくようにな。私の命がその石に宿る。心配ない。
「・・・はい・・」
 デュランはそう言うと、空は一瞬に晴れ渡った。まさにそれこそが魔法だと、デュランは思った。
 辺りを見回して、ケヴィンが遠くに飛ばされたリースを運んできているのを見つける。
「リースは平気か?ケヴィン!」
 デュランの声に気付いて、ケヴィンが答えた。
「呼吸はそれほど乱れてないよ」
「そうか」
 デュランはまずホークアイを起こしに行く。ホークアイは意識を失っていたものの、大声で呼んでいると目を覚ました。
「あ・・あれ?」
 状況がわからず混乱するホークアイに、デュランが簡潔に答えた。
「マラヴォアが追い払ってくれたよ」
「そうか・・」
 ホークアイは役に立てなかったことを悔しそうにしていたが、すぐに思い直して辺りを見回す。
「女どもが結構な痛手を被ったようだ。一人ずつ背負って帰るしかないな」
「えっ」
 ホークアイが目を輝かせてそういうので、デュランは少々呆れた顔をした。
「リースはもうケヴィンが抱え込んでるけど?」
「なにッ!?それはだめだ!俺が運ぶんだって俺が!おおいケヴィン!」
 ホークアイは慌てて立ち上がると、ケヴィンの方へ走り去ってしまう。現金なホークアイを見て、デュランがやれやれと苦笑いを浮かべた。
「シャルロットとアンジェラの様子も見てやらなきゃな」
 立ち上がってみるとデュラン自身も体が軋むのを感じて、一瞬顔をしかめた。いて、と小声で言ってしまってから、比較的近くに倒れていたアンジェラが気付いて起き上がった。
「デュラン・・?」
「お、起きたか、助かったぜ」
 デュランは軋む体をなんとか歩かせながらアンジェラに寄っていった。
「何のこと?」
 不思議そうに首を傾げてアンジェラはデュランを見上げた。
「お前も倒れたままだったらシャルロットとお前二人を担がなきゃならんからさ」
 一瞬きょとん、としてからアンジェラはすぐに意地悪そうな顔をしてデュランを見た。
「えーっ。私もおんぶしてもらいたいんだけどな」
「馬鹿いえ。重たいだろ。二人もなんて」
「ちぇっ」
 アンジェラはつまらなそうにそう言うと、立ち上がる。ロッドを杖にして立ち上がったものの、意外に背中のショックが大きかったらしくがくりと膝をついてしまった。
「あ、あれ?」
 アンジェラはそれほど自分が衝撃を受けたように思っていなかったのか、意外そうな顔をして雪の上にへたりこんでいる。それを見て流石にデュランはまずいと思った。
(痛みがそれほどでもないのに立てないというのは・・神経が傷ついている可能性があるな・・)
「やっぱ、手貸す」
「え?」
 ぐい、と腕を引き寄せてデュランはアンジェラを背中に担いだ。
「え、いいよ。ちょっと力が入らなかっただけだってば」
「いや、変だ、今のは。おぶっていく」
 歩き出して、デュランはケヴィンを呼んだ。シャルロットの様子を見て、シャルロットは気を失ったあと、そのまま昏倒している様子だ。頬を叩いてやると声を上げたから、心配はないだろう。
「ケヴィン、こいつおぶってくれるか?」
「いいよ。シャルロットは軽いから」
 ケヴィンは一点の曇りのない顔で快く了解してくれる。デュランは頼むな、と微笑む。
「俺もそっちがいいんだけどな」
「デュラン!」
 ぎゅっとアンジェラに首を締められて、デュランはよろめく。アンジェラは転ばれては大変とすぐにその手を離したが、デュランに怒られてしまう。
「殺す気か!」
「なによ。失礼なこというからじゃないっ!」
 アンジェラとデュランの声が聞こえたのか、先を歩くホークアイが先に行くぞーと声をかけた。デュランとケヴィンがホークアイを追って歩いていく。
 途中で、アンジェラが声を上げた。
「あ、ちょっと呪いの移動呪文唱えてないっ!」
「心配するな。マラヴォアが全部やってくれたよ」
 デュランは静かにそう言うと、アンジェラはほっとしたように頷いた。
「そか、よかった。これでみんな元通りになるよね・・」

 1ヶ月の後、アルテナ王家はウェンデルからアルテナ領土に戻ることを宣言し、まずは王家のものとその周囲のものがエルランドとアルテナの移住調査をすることにした。
 具体的には冬の魔法が半減したことによる積雪量の変化を調査することと、残った冬の魔法から暮らしの営みを守るための対策をとることが目的だ。
 しかし、人々はその調査結果を待たずアルテナに戻ってきていた。アルテナの王家に頼るのではなく、自分たちでも暮せるようにとの前衛的な意識の表れだった。
 魔法王国アルテナは一度止めてしまった時の歩みを、再び動かすことに成功したのだった。








■Fin


←←TOPへ←目次へ
Copyright 2003 BY SAE