【聖剣伝説3】

■復興の王女[2]

作成日[03/3/29]





「なんだ、ありゃ」
 呆れたようにデュランがそう言った。言いながらも、アンジェラの影を追うかのように目は扉を見つめている。アンジェラが先ほど逃げるように立ち去った扉を。
「ま、いつものアンジェラのようだし、心配ないな。あの分じゃ」
 ホークアイは目の前に注がれたカップを持ち上げ、一口紅茶を飲み込んだ。
「強がって先走るところなんかは前と全然変わってないでちねぇ・・進歩ないでち」
「シャルロット・・」
 くだらなそうにため息をつくシャルロットに、それは言いすぎじゃ、と窘めるケヴィン。
「それもこれも、心配させまいと思ってるからですわ」
 リースは注ぎ終えたポットを置いてそう言った。
 しかし、いつも先を見越して行動するホークアイが肩を竦めると、一言こう言った。
「とんでもないことしなきゃいいけどな」
「とんでもないこと?」
 デュランがおうむ返しにホークアイに尋ねる。ホークアイは前に並んだお菓子を摘んで口に頬張った。それからもぐもぐとさせて飲み込むと、デュランに答える。
「マラヴォア、とか言ってただろ?」
「ああ、知ってるのか?」
 デュランが神妙な顔でホークアイに尋ねるが、ホークアイはあっけらかんとこう言った。
「知らね」
「おい」
 答えを期待していたデュランは少し苛々と顔をゆがめている。そこに、リースが一人呟いた。
「マラヴォアって・・どこかで聞いたことが・・」
「知ってるのか?」
 デュランが今度はリースに目を向ける。
「ウィンテッドの魔女マラヴォアのこと・・かな?」
 扉に新たな来訪者が立っていた。銀色の髪を垂らして額には聖職者の証を表す石をはめ込まれた飾りが光っている。にこりと笑う穏やかな顔が印象的なヒースだった。
「お邪魔してもいいかな?」
「ヒース!いいに決まってるでち!早くこっちくるでち!!」
 シャルロットは大はしゃぎでヒースの手を引っ張って自分の席の隣に座らせた。もともとケヴィンが座っていたというのに、彼女はそんなことお構いなしである。
 仕方なくケヴィンはその隣の席に座り込んだ。そこは、先ほどまでアンジェラが座っていた席だった。
「ウィンテッドの魔女・・ああそうでした。確か彼女の魔法にかかれば不可能なことはないと誉れ高い魔女の名前・・」
 リースはようやく思い当たったかのように、そう呟いた。
「その魔女がどうかしたのかい?」
 ヒースはリースに問い掛けると、ホークアイが素早く答える。
「さっき逃げた主賓が呟いていたのさ。『マラヴォアが何とかしてくれる』ってな」
「ああ、アンジェラのこと?そうそう、アンジェラのためにこの部屋を手配しておいたっていうのに急に飛び出していってしまっただろう?司祭様が大層心配されてね。僕はその様子見を頼まれたんだ」
「アンジェラしゃん、とてもあたち達と話す気分じゃなかったみたいでち。おうちが潰れたことできっと勝手に自己嫌悪に陥ってるんでち。アンジェラしゃんが悪いなんて誰も思ってるわけないでちのにね!」
 ふうっ、と心配そうにシャルロットがため息をつく。ヒースはシャルロットの報告にそう、と残念そうに頷いた。
「早く気持ちの整理ができるといいのだけど・・」
「あいつの性格じゃ、整理どころじゃないな」
 デュランは呆れてそう言うと、お菓子をがっついた。ばりばりとクッキーの音を立てて、ごっくんと飲み干すと、もう一度またクッキーを頬張る。
「どういうこと?」
「さっき言っていた、マラヴォアです。アンジェラ、多分マラヴォアの元に行くのではないでしょうか」
 リースが考え考え、そう言うと、ホークアイも大きく頷いた。
「十中八九そうだろうな。単細胞なアンジェラのことだ、誰に聞いたか知らないけど今日明日には出て行っちまうかもしれないな」
「その割に皆さんはずいぶんと落ち着いてますね」
 ヒースは吃驚したようにテーブルを囲むメンバーを見渡した。そう、誰も席を立ってアンジェラを追いかけようともしないのだ。ヒースはつくづく不思議に思う。ここまでアンジェラがすることを分かっているならば、追いかけてやるのが人情ではなかろうかと。
 そんなヒースを見てデュランが答える。
「慣れてるからな。アイツ、すぐ考え無しに行動するんだ。でも、一人で何が出来るって言うんだ?一人で出来ることなんてたかが知れてる。それよりも今は『マラヴォア』だ」
 デュランはヒースを見つめてもう一度聞きただした。
「なぁ、ヒース。マラヴォアってどんな人物なんだ?」
「ええ、マラヴォアは齢百歳を越える魔女だと聞いています。一説にはどこかの国の後継者だったという話もありますが、定かではありません。彼女は・・そう、ここ。この場所に住んでいると言われています」
 ヒースはテーブルの一箇所を指差しながらそう言った。このテーブルは世界地図が描かれている珍しいテーブルだったのでちょうどよかったのだ。そして、ヒースが指差したのは妖精王の治める国ディオールから北西の森だった。
「こんな辺鄙なところに・・」
 デュランは眉根をしかめてそう言った。どうやって行くんだ?とも言いたげな表情だった。
「そうです。ここはランプ花の森のさらに奥深い山の付近です。人々も滅多に立ち寄ることが出来ない場所なのです。ですから、マラヴォアの情報はいつも少なく、頼りないものばかりなのです。」
「なんだか恐ろしそうな魔女がいそうでち・・」
 シャルロットは恐々そう言った。
「そうだね。でも、運良く会えればよし、というところじゃないかな」
 ヒースはシャルロットの頭を撫でながらそう言った。ケヴィンがヒースの言葉に不安がって尋ねる。
「どういうこと?」
「ランプ花の森と同じく、マラヴォアの棲家に続く森は迷いやすいようなんだ。マラヴォアの棲家にたどり着くのは難しいと思うよ」
 うーん、とホークアイは唸ると腕を組んだ。そのホークアイを心配そうに見つめるリース。
「どうかしたんですか」
「アンジェラは森を抜ける方法を知っているかな?」
 リースは首を傾げる。
「どうでしょうね」
「知っていたら厄介だよな。俺たちは知らないんだから」
「追いかけられなくなるってこと?」
 ケヴィンがそう言うと、ホークアイは頷いた。
「まずいな」
 デュランは呟く。暫く考えてからデュランがこう提案した。
「アンジェラを追いかける組とあとから合流する組で別れないか?アンジェラがもし知っていれば見失うことにもならないだろう。あとから合流する組はできるだけマラヴォアの情報を集めておくんだ」
 その提案にホークアイも頷く。
「ああ。俺もその事を考えていたんだ」
「じゃあメンバーはどうする」
 デュランの問いに、ホークアイがそうだな・・と考えてから、こう言った。
「俺とデュランは先にアンジェラを追いかけよう。残ったリースとシャルロットはヒースやこの国の書庫とかでマラヴォアの情報を集めるんだ。ケヴィンは追いかけるときに二人を守ってやってくれよ」
「うん、わかった!まかせておいて!」
 ケヴィンは真面目に頷いてホークアイからの指令を受け取った。
「よし、じゃあ俺たちは準備しようぜ!」
 デュランは早速立ち上がるとホークアイにそう言った。ホークアイも素早く立ち上がると、二人は落ち着いた足取りで部屋を出て行った。
 その様子を見ていたヒースが驚いたように彼らを見送ってから、ほう、と息をついた。
「すごいなぁ・・」
「なにがです?」
 リースは自分の目の前のカップを飲み干してしまうと、そう言った。
「即断即決というか・・巧い具合に役割分担されているんだね。君たちって」
「そうですか?いつもは喧嘩ばかりなんですよ」
 くすっと笑うリースに、シャルロットも頷く。
「そーでちよ。デュランしゃんなんか最初は誰とでも喧嘩してたでち。ホークアイしゃんもたまに皮肉を言って、単純なデュランしゃんやアンジェラしゃんは本気で怒るし、リースしゃんだってたまに雷を落とすでち。あたちとケヴィンしゃんくらいでち、いいこなのは」
 まるで立派な大人のように肩をそびやかしてそう言うシャルロットに、リースはまぁ、と苦笑した。
「オイラ、たまに失敗するけど」
 心配そうにケヴィンはそう言うが、シャルロットはそんなケヴィンの心配を吹っ飛ばすようにこう言った。
「ケヴィンしゃんの失敗なんか数の内に入らないでちよ」
「ありがと、シャルロット」
「どういたちましてでち」
 ヒースはシャルロットの頭を撫でながら笑う。
「シャルロットは頑張り屋さんだもの」
「そうでち?ヒースは分かってくれるから大好きでち!」
 ヒースにぎゅっと抱きつきながら、シャルロットがそう言う。
 リースはそんなシャルロットの姿に目を細めるが、あ、と声を出す。
「そうだわ。こんなことばかりしててはいけないわ。ヒースさん、ウェンデルの書庫への出入りは私でもできますか?」
 ヒースはすぐにリースの言葉に頷いた。
「そうでしたね。すぐ司祭様に取り合ってきます。書庫については重要機密文書もありますから出入りは一応司祭様に許しを頂かないと」
「そうですか。それなら私、ちょっと思い当たる方がいますからその方にお話を伺ってまいります。その間に書庫への入室許可の手続きをお願いしてもいいですか」
 リースの頼みにヒースは頷く。
「分かりました。リースさんには許可が取れ次第、連絡いたします。お部屋に伺います。それでいいですか?」
「ええ、お願いします」
 ヒースは神妙な顔で頷くと、部屋を出て行った。事が性急であることを理解しているのだ。
「リースしゃん。思い当たる人って誰でち?」
 シャルロットが不思議そうにリースを見つめてそう言った。リースはシャルロットに向き直ると、にこりと微笑み、逆にこう尋ねる。
「ね、シャルロット。アンジェラがマラヴォアのことを知る事になったのはどうしてだと思う?」
「・・王家が崩壊したからでち?」
「そう、多分そうよ。それなら誰の口からこの話を聞いたかと言うと・・女王様はお声をなくされているから無理だとして、残るはただ一人ですわ」
 リースは言いながら、部屋を出る扉に向かっていた。
「アンジェラの教育係のホセ様ですわ」



■To Be Continued.


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