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【聖剣伝説3】 |
| ■復興の王女[4] |
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作成日[2003/7/3] 夢を見た。実際、夢の意識の中でアンジェラはそれと判っていた。 しかし、現実だとも思った。自分が知る限りの、現実を投影した姿だと思った。 アンジェラは足枷をされ、腕には重い鉛の錘に繋がる鎖が繋がれていた。そして彼女は城の見張りの塔の天辺にいる。 白く降り積もる雪は果てしない白い世界を作り出している。棚引く髪は、まるで風に遊ばれるように激し揺れた。ドレスも同様だ。塔の天辺は見張りの塔という名前の通りに見通しがよく、屋根など見張りに邪魔な要素は取り除かれ、そしてアンジェラは吹き荒ぶ雪に曝されている。 声は出ない。助けを呼ぶことも出来ない。 音は無音。雪を勢いよく降らせる風の音すら耳に入ってこない。 そして、見張りの塔から逃げ出す術はない。足元にある塔から下りるための階段は隙間なく閉じられている。どんなに足で蹴ってもぴくりともしない。内側から衝立か何かを立てられているかのように。 逃げ場もなく、錘と足枷で体の自由を奪われ、雪に曝されたままの自分。 ―――それが、今あるアルテナ王家の実際の有様なのだ・・。 ふ、と目が覚めた。 もう、ヴァルダが倒れてから幾度となく見る夢だ。さすがにアンジェラはもう慣れてしまっていた。 ジャドの定期船に乗ってから、夜を渡航することになっていたため、アンジェラとデュラン、ホークアイはそれぞれ部屋を取って休んでいた。朝には、エルランドの近くの海岸で下ろしてもらえるだろう。エルランドには港がないため、船底が当たらない程度のところで小船を借りて下ろしてもらうのだった。 ブースカブーがいたときにはスイスイと行くことができた場所も、人手を借りなければ目的地にたどり着くことも侭ならない。 アンジェラはそんな他愛のないことを考えながら、ため息をついた。 (結局、何も出来ないんだわ。自分ひとりでは。) 哀しい哉、それは現実だった。いくら世界を救った勇者とはいえ、完全にオールマイティな人間などありえない。船の舵をとる知識もないし、同じく旅をしていた仲間のように剣を振るえるわけでもない。 「でも。なりたい。何にも弱さを持たない人間になりたい・・っ!!」 震える手を握り締め、アンジェラは悲鳴のような声を上げてそう言った。 マラヴォアに会うことが、これほど覚悟がいるものだとは思わなかったのだ。アンジェラ自身、とにかく会えば何とかなるのではないかと飛び出したものの、実際マラヴォアという言葉を頭に浮かべるにつれ、強大なる力を持つ魔女であることを認識し始めていた。 それは、やはり血のつながりがあるものなせる業だった・・。 ぎぃ、と扉を開く。すっかり目が覚めてしまい、アンジェラはこのまま眠るには暑すぎると思った。 全く、マナの女神様も酷いことをなさる。アルテナでは寒さで苦しむかと思えば、異国の地では汗ばむ暑さに悩まされるとは。 それほど大きな船ではないため、揺れがある。アンジェラは壁に取り付けられた手すりを握りしめながら、ゆっくりと甲板へ上がる階段を上っていった。 (・・先客?) アンジェラは甲板の暗さの中で、人影を見つけた。知っている気配だった所為かもしれない。すぐにわかった。 (デュランと、ホークアイ・・) 「異様な黒さだなぁ。海の割にちっともロマンチックじゃねぇや。一緒にいるやつのせいかもな。むさ苦しいから」 手すりに体を預けながら海を見るホークアイがそう言う。デュランが呆れたように言葉を返した。 「むさ苦しいのはお互い様だ」 「おや、アンジェラ姫がよかったかな。王子様?」 おどけるように言うホークアイだったが、デュランは取り合わなかった。 「よせ。そんな気分じゃない」 (そう、そんな気分じゃない。こんな状態で恋にときめくことができるほど、私は器用じゃない) アンジェラは結局甲板に出て行くことも出来ずに、ただ階段で佇む羽目になった。 甲板に続く階段の途中で、月明かりだけがアンジェラの姿を忘れずに照らしてくれていた。それでも甲板からアンジェラの姿を見つけることは出来ないはずだ。手すりの陰に潜んでいるアンジェラの姿は夜目が利くホークアイでもさすがに難しいだろう。 「でも、助け合わないとさ。駄目になっちゃうぜ、二人とも。デュランが優しく受け止めてやればさぁ・・」 「今のアイツなら、万に一つ、いや億に一つ俺がそんなことをしても跳ね除けるさ。今のアイツはそういうギリギリのところを走ってるんだ」 デュランにいい加減にしろ、という目をされて、ホークアイは肩を竦める。 「だいたいそんなことを話すために来たんじゃない。船を下りた途端、おそらくアイツは脱兎の如く逃げ出すんじゃないかと考えてるんだ。一人でマラヴォアに会うために」 ぎくりとした。アンジェラは、まさかデュランがそんなことを言うとは思わなかった。 (いっつも・・肝心なところで鈍感なくせに・・つまんないところで敏感なんだから・・っ!!) 実際、折を見て二人から姿をくらまそうと考えていたことは間違いない。ただ、そのタイミングを推し量りかねていたのだが・・、すでにその考えは仲間にばれてしまっていたのだった。 (これはかなりの意表をつかないと・・逃げられそうもないわね) アンジェラは真剣にそう思い直すと、息を詰めて彼らの会話に意識を集中させた。 ホークアイが風に香りを感じて、ふと甲板を見渡す。が、気のせいだったようで、すぐにデュランに目を戻した。 「まさか。そんなことを考えていたのか?大体何故そんなことをする必要がある?」 ホークアイは馬鹿馬鹿しいとも言いたげに、くるりと体の向きを変えて海の方を見つめた。 「必要があるかどうか、俺にも判らねぇ。でも確証はあるぜ。アイツの目、いつも落ちつきなく俺らの油断する隙を狙ってやがるからな」 「さすがに気付いたか」 ははっ、と軽く笑いながら、そう言った。デュランが驚いたようにホークアイの隣に並んでホークアイを覗き込む。 「お前も・・・気付いてたのか」 「そりゃまー盗賊はそういう気配に敏感なんだよ。緊張の糸が張り詰めてる奴の空気くらいは読めないとな」 ホークアイは事も無げにそう言うと、デュランを見た。 「でも、お前も気付くとは思わなかった。城での修行の成果かなぁ・・俺も頑張らないと」 「まあな。称号貰ってもそれなりに働きを見せないとと金にはならんからな」 ふと、話をはぐらかされたような気分になって、デュランは、そうではなくて、とまた仕切りなおす。 「その逃げ出すあいつを止める方法をな、考えておこうと思ったんだよ。朝になれば着いちまうから」 「そうだなぁ・・」 ホークアイは手すりに頬杖をつきながら、何かを考え込むような沈黙が続いた。期待して待っていたデュランの耳に、かすかないびきが聞こえてきて、デュランはむっとする。 ごいん、と一発ホークアイの頭にお見舞いしてやる。 「いてぇよっ!」 ホークアイが頭を抱えてデュランに食ってかかるが、デュランも負けてはいない。ふんぞり返ってホークアイを怒鳴りつける。 「馬鹿。考えろっ!」 「お前が考えろよ。俺眠いよ」 ごねるようにホークアイがそう言うと、デュランがこいつっ!とまた拳を振り上げ、勢いよく振り落とす。 「ひょーいっ!」 人を馬鹿にしたような動きでデュランの拳から逃れると、バランスを崩したデュランにホークアイがとんっと肩を押す。 ずるっとデュランの体が手すりの向こうに傾いて、足が浮く。様子を見ることに決め込んでいたはずのアンジェラは、この様子を見て思わず飛び出す。 「ちょっ・・危ないっ!!」 デュランの腕をがむしゃらに掴み込んで、デュランの体を引き戻す。が、アンジェラのか細い腕ではデュランの腕を支えきれず。 音を立ててデュランは手すりの向こう側に落ちた。 ただ、アンジェラが予想していたような水音ではなく、単に甲板に尻餅を着いただけのどん、という音がしただけだった。 「・・あ、あれっ?」 拍子抜けして、アンジェラはデュランとホークアイを交互に見る。ホークアイがにんまりと微笑むと、アンジェラに人差し指を向けて、 「ひーっかかーった〜♪」 などと、拍子をつけて言う。 そう、手すりの向こう側は実は海そのものではなく、こういうふざけた輩のための安全上の考慮からか、手すりの向こう側は少し甲板が続いていたのだった。 デュランもそれが判っていたからか、それほど慌てた声も上げなかったのだ。 「なんだよ。いたのか、アンジェラ」 デュランは手すりを越えて元いた場所に戻りながらそう言う。アンジェラはそんなデュランを見てがくんと膝をついた。 「あ、おいっ?」 「な、なぁんだ・・私てっきり・・デュランが海に落ちちゃうんじゃないかって思った・・」 アンジェラは一人で仰天して飛び出した自分が馬鹿馬鹿しくなって、その場にへたり込んでしまった。 「よかったぁ・・」 ほうっと安堵の息を吐いている傍で、デュランが申し訳なさそうに頭を掻いている。それから、ホークアイを見ながら、やりすぎだぞ、と睨みつける。 「そういえば、ひっかかったって・・・ホークアイ!あんた私がいたこと気付いてたのね!だからわざとこんなことして!!」 一気に逆上モードになって立ち上がったアンジェラに、ホークアイはひらひらと手を振りながら答える。 「そうだよーん」 「そうだよーん、じゃないでしょっ!!ふざけるのも大概にしないと怒るわよ本当に!」 既に十分いきり立っているアンジェラに、ホークアイがオカマのようにくねくねさせる。 「やだーアンジェラちゃん。こわーいん」 隣のデュランは呆れたような目をしてホークアイを見ている。 「馬鹿やってないの!」 アンジェラはむかむかする胸を押さえながら、ホークアイに怒鳴ると、ホークアイは突然手すりに体を預けて豪快に笑った。 「あははははっ!」 「な、何がおかしいのよっ!!」 「だって。元に戻ったでしょ。アンジェラ。判る?自分で」 ホークアイがにこにこと悪気のない笑顔をアンジェラに向けながらそういった。言われたアンジェラは、はっとして押し黙る。 「アンジェラ、自分で自分を押さえ込んでたでしょ?早くマラヴォアに会うために、早くアルテナを元通りにするために。でも、そんな辛い状況を勝手に自分で決め付けて、檻から出られなくしているのも自分だったんだよ」 「檻じゃなくて、塔、だったわ。夢では」 目を瞬かせて、アンジェラはホークアイを見上げてそう言った。 「うん、同じ意味だよ。君を閉じ込めていたもの、だからね。俺たちは君を助けてあげたのさ。アルテナ王国のアンジェラ王女を檻に入れたままでは忍びなかったのでね」 アンジェラは意外なくらいに自分のことを理解してくれていた仲間を呆けたように見つめていた。そして、ゆっくりと自分で立ち上がると、ごめんなさい、とアンジェラは二人に謝った。 「心配掛けて、ごめんなさい」 「そう思うんなら、一人で駆け出そうなんて考えてくれるなよ」 デュランは素っ気無くそういうと、これ以上追求するつもりはないのか、先に甲板を下りていってしまった。 残されたアンジェラは、ホークアイを目を合わせると肩を竦めた。 「怒らせちゃったかな?」 「怒ってるかもしれないけど、半分以上は安心した反動さ」 「そうかな?そうだと、いいな」 アンジェラはホークアイにそう言って笑うと、オヤスミと言い、踵を返した。 二人のお陰でようやく胸につかえていた錘が軽くなっていた。 アンジェラはもうあの夢は見ないだろうと思った。 ■To Be Continued. |