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【聖剣伝説3】 |
| ■復興の王女[5] |
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作成日[2003/7/16] 定期船がウィンテッド大陸に差し掛かる頃、東の空が明るさを増していた。頼りない月の光が射した部分以外は漆黒の闇に塗りつぶされていた海も、今ではきらきらと明るい光を放ち始めている。 まるで生まれ変わったように、海は姿を変えている。そして、それはアンジェラも同じだった。 仲間たちの優しさに触れ、暖かさに包まれ、アンジェラはまた元気で美しい娘の姿を取り戻すことができた。 「さぁ、頑張らなくちゃ!」 いつもはぎりぎりまで寝坊するアンジェラが、今では船室の窓に施された窓から海を見つめながらそう言った。デュランやホークアイの優しさのお陰で、気持ちよく眠ることができたアンジェラは、日の出と共にすっきり目を覚ましていたのだった。 とんとん、と木のドアを叩く音が聞こえて、アンジェラは返事した。 「はい、誰?」 「俺だ。珍しく起きてるな。そろそろ支度しておいてくれ。救助用の船を下ろしてくれるそうだ」 デュランの声がそう言った。アンジェラは声を上げた。 「わかったわ」 アンジェラの返事を聞いて、デュランの足音が遠ざかる。昨日の不機嫌そうな声ではない。もうアンジェラがどこにも逃げないと、信じきった声だった。デュランのこういう引きずらない性格は美点だと思う。 アンジェラはデュランの歩いていく姿を思い浮かべて一人微笑んだ。そこには、愛することを思い出した美しい娘が確かに存在していた。 「三人でいいかい?」 太陽がすっかり顔を出した頃には、三人とも朝食を済ませ、甲板に出ていた。それぞれの荷物もまとめて手にあった。船員が救助用のボートを下ろす準備をしながら、三人にそう訊いた。 「ああ、そうだ」 デュランは代表して船員に答える。船員の男は、口ひげを生やしていて貫禄があったが、声は若々しかった。意外と、デュランたちと変わらない年齢なのかもしれない。海に出る男らしく、肌色も黒く筋肉も引き締まっている。ボートを下ろすためのロープを引く腕が汗に光っていた。 「手伝おうか」 デュランが荷物を置いてそう言ったが、男は気持ちよく断った。 「馬鹿いえ、これは俺の仕事だ。お前らは丘の仕事をきちんとすればいい」 男にそう言われて、デュランは頷くと自分の荷物を持ち直した。 「このボートは予備がないから回収させてもらうぜ。俺が一緒に丘まで連れて行ってやる。さぁこれでいい。乗り込め」 救助用のボートが甲板の縁に沿うように並んでいた。3人はそのボートに乗り込むと、男も乗り込んだ。ボートを支えていたロープは、今度は別の船員がすぐにやってきて掴んでいる。今度は4人分の体重も加わっているので、5,6人の船員がボートをゆっくり下ろしていく。 水面に着く前までは船員の動きにつられて揺れていたが、水面に着いたら着いたで今度は海の波によって小船はたやすく揺れた。アンジェラはその揺れを感じながら、静かに水面を見つめていた。 (いつも・・自分の思う通りになんてならないものなんだわ) ゆっくりたゆたう小船。そして、今ある自分の命はその小船ありきのもの。 (自然界も、マナも、そして、自分さえも。けど、全て本当の力を、限りを知ったら、何が出来るかが見えてくる・・きっと、そう言うものなんだわ・・) アンジェラは水面を見つめていた視線を、少し上げた。海の先にはさんさんと光り輝く太陽がアンジェラたちを照らしていた。 今日も、暑くなりそうだ。 やがて船は砂浜にたどり着いた。アンジェラは真っ先に下りてしまうと、ううーん、と気持ちよさそうに背伸びをする。揺れない大地に足をつけるのは本当に幸せだった。裸足になって砂浜を駆け回りたい気分になるが、そうは行かない。マラヴォアの住処へ急ぐ必要がある。 「ありがとう。助かったよ」 ホークアイが送ってくれた船員に言った。船員は短く、ああ、と返事をするとまたボートを漕ぎながら遠くに止まっている船に戻っていった。 「まずはディオールを目指すか?」 アンジェラに一応尋ねるデュランに、アンジェラはうん、と頷く。 「実際、行き方とか見当ついているの?アンジェラ」 ホークアイがそう言うと、アンジェラは首を横に振る。 「ぜーんぜん!何とかなるかなって」 「へっ、お前らしいな。俺たちが慌てて考えたことは思い過ごしだったって訳だ」 デュランがそう言うのを聞いて、一瞬むっと表情を怒らせたアンジェラだったが、後半の部分が気にかかって尋ねなおす。 「慌てて考えたことって何?」 それにはホークアイが答えた。 「アンジェラは、マラヴォアに会う方法を知ってるんじゃないかってことさ。何か特別な方法で会う方法があるとしたら、俺たちは後でアンジェラを追えなくなるだろ?だから今こうして、俺らは君の護衛兼お目付け役でついてきたって訳」 「それじゃ、リースたちは??」 不思議そうな顔でホークアイを見上げると、ホークアイはああ、とアンジェラに答えた。 「マラヴォアのことが判るかもしれないから、ウェンデルに残ってる。あそこには世界の書物が集まる書庫があるから、そこで調べてるんだ。何かマラヴォアの情報がないと、後が不安だったから」 「そう・・」 アンジェラはそれを聞いて、リースたちにも心から感謝しつつ、顔を曇らせた。デュランがそれを見て、呆れたような顔をする。ったく・・と呟くと、おもむろにアンジェラを呼びつけた。 「アンジェラ。」 呼ばれて、今度はデュランを見上げるアンジェラはまだ翳った顔をしている。いつも強気な表情で我侭を言うくせに、こういう精神的なダメージにはとことん弱い。 「迷惑なんて、誰も思ってないからな」 翡翠の瞳が驚いて閃いた。瞬いて再び開いた瞳は、柔らかな光を湛えていた。ようやく安堵した瞳が、デュランを捉えていた。 デュランは慌てて、目をそらす。デュランはあの柔らかな翡翠の色に、実は弱い。本人がそれと気付いているかどうかは怪しいものだが、反射的に見ることができなくなってしまう。それをホークアイが見つけて、一人笑いを堪えていた。 「じゃ、行こうか。お二人さん」 ホークアイがそう仕切って、まず歩き出した。目指すは、花畑の国ディオール。 ランプ花は優しく花開き、道行くものを歓迎しているようだったが、その実この森は完全な迷いの森なのだ。油断はならない。3人は既に先の冒険でその事をよく周知していた。だから、それほど迷うことなくディオールにたどり着くことができた。 独立した妖精の王国であるディオールには妖精王が住んでいる。念のためマラヴォアについての情報を尋ねに、また、挨拶もかねて妖精王を訪ねた。 妖精王は懐かしい様子で三人を見たが、マラヴォアのことについては何も知らないようだった。 妖精王の屋敷から出て、アンジェラは情報は無理かもしれない、と呟く。 「なんでだ?」 デュランが訝しげにそう言うと、アンジェラは一度宿に戻ろう、と促した。既に滅びたといっても一国の内部情報には変わりない。一応は注意深く、しかし仲間である二人には話そう、とアンジェラはそう思ったのだった。 アンジェラのためにとった部屋に入ると、デュランとホークアイを片方のベッドに座らせる。この部屋は二人部屋なのでもう片方のベッドにアンジェラは座った。 「マラヴォアってね。うちの家系の人物らしいのよ」 静かに、アンジェラはそう言った。 「うちのって・・アルテナ王家の?」 一瞬驚いてデュランが言い直したが、ホークアイはなるほど、と頷いた。 「そうか、魔女。しかも稀代の。普通考えればアルテナ王家の者っていうのが自然と言えば自然だな。魔力を司る最高権威なんだから。ただ、王家の者が城にいないはずがないという常識がその考えを否定させるけど。で、実のところはどうなんだい?」 飲み込みの早いホークアイを感謝するように見つめながら、アンジェラは言った。 「追放、されたらしいわ。王家から追放されて、アルテナ国境付近に幽閉されたらしいの」 「そっか・・それで辺鄙な場所にいるってわけだ・・」 デュランもそれには納得して頷いた。 「それとね。マラヴォアが幽閉されるようになって、アルテナの国が雪と寒さに襲われるようになったっていうの。だから私はマラヴォアを説得できないかと思ったの」 二人はようやくここにいたってアンジェラが「マラヴォアが何とかしてくれる」と言っていた意味がわかって頷いた。 「そういうことだったのか。それならマラヴォアさえ何とかできればアルテナの復興は目処が立つってもんだな」 言いながら、デュランは旅の途中にも使っていた世界地図を広げた。いつも持ち歩いているのだが、羊皮紙だから破れも少ない。 「実はヒースから大体の場所を聞いてるんだ」 「ほんと?」 アンジェラは嬉しそうに地図を覗き込んだ。デュランがアンジェラに優しく頷くと、 「ああ、ここだ」 地図のアルテナ国境付近のひとつの場所を指差した。ディオールの奥深い山の麓だ。 「こんなところ、どうやっていくんだろ・・」 呆然として、アンジェラがそう言った。男二人も、そうなんだよな、と声を出している。 「歩いていくしかないとは思うんだが、多分道は獣道だろうな。こんな場所を歩く奴は猟師、狩人以外には考えられないからな。かといってアルテナから回り込むのってのよりはいいはずだ。山に到達する前に寒さで参っちまう」 「はぁっ、最悪」 アンジェラは今更ながらに事の難しさを理解して頭を抱えた。 「とりあえず、ディオールでリースたちを待とう。荷物を整理して万全な態勢で山に挑みたいんだ」 「そうだな。山で合流というのも難しいだろうし」 ホークアイの提案にデュランは顎に手を当てながら頷いた。アンジェラも意義無し、と頷いて応えた。 リースたちが来るまでは自由行動ということにして、ホークアイとデュランが部屋を出て行くと、アンジェラはふうっと息をついた。 「前途多難かぁ・・。簡単にマラヴォアに会えるなんて、どうして思ったんだろう・・」 アンジェラはふっと天井を見上げてそう言ったが、言ってもどうにもならないことだった。アンジェラはベッドから立ち上げると無造作に頭を掻き、その辺を散歩してみよう、と思った。 手にはロッド。荷物は置いていても平気だろう。アンジェラは部屋のドアを開くと、ヒールの音を響かせながら廊下を歩き出した。 外に出てみると、既に昼の刻限が近づいていた。あちこちの家からおいしそうな匂いが立ち込め始めている。しかし、アンジェラはまた空腹には程遠い。とにかく、町を北上してみる。マラヴォアに、少しでも近づいてみようと思った。 歩きながら、妖精たちはアンジェラをまだ怖がっているようだった。話し掛ければ応えてくれるようにはなったが、人間達への気持ちが消えてしまうわけではない。 アンジェラはそのまま妖精たちには話し掛けることもなく歩き続けた。この国は大きくはない。国というよりは町、いや、村の域かもしれない。あまり大きくして人の目に付きたくなかったというのが本当のところだろう。あっというまにこの国の柵にぶつかった。ここが、この国の一番北。ここよりもずっと北の先に、マラヴォアの住処がある。 「・・・」 アンジェラは柵から向こうに見える景色を見つめていた。柵に体を預け、遠くに聳える山々を眺める。 山々の裾は青々とした緑だが、頂上に向かうにつれ白いものが覆い被さっている。あの山の向こうは、アルテナの白い大地が広がっているはずだ。マラヴォアはおそらく、自分の追いやられた幽閉の地には冷気が流れてこないようにこの山脈を盾にしたのだ。そして、その思惑は見事に成功している。山と海に囲まれたアルテナの大地はどんどん冷気に閉じ込められていく。 そして、結果アルテナ王国の滅亡に。 「マラヴォア・・どうか、教えて。あなたはアルテナを滅ぼしたかったの?あなたの生まれた国を、失くしてしまいたかったの・・?」 簡易な木製の柵に手を乗せ、アンジェラは山々に話し掛けるようにそう言った。暫くそうして山々を見つめていると、唐突に声を掛けられた。 「アンジェラ」 まさか、ここが見つかるとは思わず、アンジェラは声の主を見ようと振り返った。予想に違(たが)わず、仲間の二人だった。 「マラヴォアの応えはないか」 デュランは神妙にそう言った。アンジェラは首を振る。 「そう簡単にはいかないみたいね・・」 「今何かが起こっても困るよ。リースたちはまだ合流してないんだから。きっと明日には到着するだろうからそれまでは何もしないでくれよ」 ホークアイが困ったようにそう言うのを見て、アンジェラはくすっと笑う。 「王女様がいなくてそんなに寂しいのかしら?盗賊さんは」 「おやおや、言ったね?そういう王女様は騎士殿が傍にいるから安心しておいでのようだ」 言われている騎士殿の方は、二人のやり取りなど無視して山を見つめている。 「なんか・・あの山変じゃないか?」 デュランはそう言って、一つの山を指差した。二人は自分たちのイロコイ話を茶化すのをやめて、デュランに向き直った。 「何?」 「どうした?」 二人は揃ってデュランの傍に立つと、デュランが指差した山を見つめる。 その山は周りの山に比べて明らかに白い雪に覆われていた。他の山はほとんど頂き付近で雪が止まっているのに、その山だけはある方向に向かって雪が伸びている。 「なんだ、あれ」 「さぁ・・」 「雪が飛んだんじゃないか?」 「あんな綺麗にか?まるで切り取ったように綺麗に裾野に伸びているんだぞ?」 「変だわ、あれ」 「だよな」 そんな雑談のようなひと時を終えたそのときだった。 ―いらっしゃい、アルテナ王家の末裔・・・!! 静かな、しかし強烈な言霊がアンジェラの体を襲った。 「いやぁっ!!」 アンジェラは強烈な言霊に恐れをなして悲鳴を上げた。全身が強張り、震えが止まらない。 「アンジェラっ!?」 「何が起こった!?」 二人がアンジェラを問いただしても、アンジェラはただ震えるばかり。何か遠くのものを見つめるように焦点が合わぬ瞳。デュランは奇異な現象に襲われたアンジェラを見つめる。何も出来ない自分に歯噛みしながら、彼女の視線の先を追う。それは、紛れもなく自分が見つけた山の裾野。 (俺が・・気付いたから?) 「やめろぉマラヴォア!」 剣を抜き放ち、デュランは山に向かって吠えた。 「これ以上、アンジェラを苦しめるんじゃない!!」 ―なら、お前も来るがよい。デュランっ!! 瞬時にデュランにも言霊が襲う。体中が訳のわからない震えが走る。全身全霊がマラヴォアの言霊から逃れようと抗う、震え。 「デュラン!何故・・お前まで・・・。お前までっ!?」 ホークアイがデュランの体を支えようと手を伸ばしたが、その手は空を切る。 瞬時に眩いばかりの光に包まれたデュラン、そしてアンジェラは、光の尾を引きながら先ほどデュランが指差した裾野に向かって飛んでいってしまった。 後に残されたホークアイが、呆然とその光の尾を見つめていた。 ■To Be Continued. |