【聖剣伝説3】

■復興の王女[8]

作成日[2003/7/20]




 リースとアンジェラは買出しに出かけていた。夜になってしまっていたが、もともと妖精の国は昼と夜の区別があまりない。店もほとんどの店が閉まることなく営まれている。
 デュランとホークアイは部屋で地図を睨みながら、位置を確認していた。最短コースで体力を温存しながら全部を破壊するためのルートを考えているのだ。
 ケヴィンとシャルロットは明日に向けて早めに寝かせている。今話している2人の傍で、すやすやと優しい寝息を立てるシャルロットと、さすがは獣人とばかりに鋭い牙を見せて鼾をかいているケヴィンがいた。
 そんな二人を安心したように見つめてから、ホークアイが言う。
「魔族の力がどれほどかわからないし、この国は実質もう誰もいない。店も休息の地もないわけだ。いわばダンジョンだと思って間違いない」
「ああ・・」
 ホークアイの言葉に頷きながら、デュランはこくりとビールを一口飲んだ。外で買ってきたものだ。
「四方にある魔法陣が力を吸収し、石が冷気を放出させているとアンジェラは言っていたな。だとすれば、4つある魔法陣を叩いて、最後に石を壊すのが妥当な手順だな」
 ホークアイが暇を弄ぶようにペンをくるくると回しながら、そう言う。デュランは地図を覗き込んだ。
「今回は手分けして叩くと戦力不足になりかねないし、6人で一気にカタをつけていこう」
「魔族か・・一体どんなやつだろうな・・」
 ホークアイもビールの入ったタンブラーを握ると、こちらは一気に飲み干した。
「まあ、考えてもどうにもならないさ。出会った奴らを倒すことしかできない。アルテナには誰もいないからな」
 デュランは言いながら、ビールをちびちびとやっている。どうも、いつものデュランらしからぬ飲み方をするのにホークアイは少し気にかかる。
「何か考えてるな。何を考えているんだ・・?」
 一息いれるつもりで、ホークアイはデュランにそう問い掛ける。デュランはビールのタンブラーをテーブルに置いて、なんでもないさ、という。
「なんでもないわけあるか。お前の飲み方、変だぜ」
「変でもいいよ。なんでもないんだから」
 デュランは覇気のない声でそう言った。剣士を誇りに思うまっすぐな強い瞳が、今のデュランにはない。ホークアイは心配になる。
「一体、どうしたんだ。やめてくれよ、これから戦いに行くんだぜ。俺たち。不安そうな顔なんて、お前らしくないからやめてくれよ。」
 いつだって、そうしてきたじゃないか、と続けるホークアイに、デュランはすまない、と謝る。
「そうだよな。別に戦ってて不安じゃないことなんて一度もなかったんだよな。ただ、前に進まなきゃならなかったから・・」
 ふう、と息をついて、デュランは窓から見える星空を覗き込む。
「今は、そうじゃないっていうのか・・?」
「前に進むことがいいことばかりとは、限らないとしたら?俺・・変なんだ。アンジェラがあの時自分の命を捧げると言った時から・・アンジェラがこの戦いのどこかで事切れるような気がしてならないんだ・・」
 嫌な予感。嫌な予感。それだけがぺったりと自分の心に付着して離れない。デュランはその予感にどうすることもできないでいる。
「ああ、でも、それは。きっと」
(お前が失いたくないと思っている証・・)
 ホークアイはそう思ったが口にはしなかった。それだけで済まされない何かを、ホークアイ自身も感じていた。そう、今のアンジェラは国のため、女王のためなら命すら捨て去ることも厭わない危険な意気込みがある。
「精一杯、守るんだ。俺たちみんながそれくらいしてやらなきゃ、あのお姫様はどれだけ自分が大切に思われているか気付いていないんだ・・」
 ホークアイがそう言ってデュランの肩に手をやると、デュランも強く頷いた。

 アルテナ内部の攻略ルートは大体決まって、今度は潜入ルートについて考えなければならなくなっていた。滅びたアルテナへの定期船は既になくなっている。今度は近くまで言って下ろしてもらう、ということもできない。アルテナの港エルランドは今まで通っている定期船の航路のどこからも遠いのだ。
 唸って考えている二人の下に、アンジェラとリースが戻ってきた。
「ちょうどよかった。ビールが切れたんだよ。買って来てくれた?」
 ホークアイがリースに声をかけると、リースがつれなくぷいと横を向いた。
「そんな重いもの、買ってきていません。明日の必要最小限の買い物に行っただけですから」
「あらあら、可愛くないなぁ、リースは」
 アンジェラがにやにやと笑いながら、ほら、と前に出す。小さな樽のような水筒がアンジェラの手に下がっている。
「え、アンジェラが買ってきてくれたの?」
 ホークアイが意外そうに言うと、アンジェラは笑いながら、違うわよぉ、と言う。
「私はそんなこと気付かないもん。リースが”あのお二人きっとお疲れでしょうから”ってね。リースが買い物全部持ってくれちゃったから、私がこれだけ持ってきたのよ」
「あ、アンジェラっ!」
 リースがアンジェラを睨みつける。いや、照れて頬を赤くしている。
「なによ。ホントのことじゃないよ」
 面白がるように笑いながら、アンジェラははい、とリースに水筒を渡す。
「?」
「・・お疲れの旦那様に注いであげて?」
 にっこり、と完全に面白がった顔をしてそういうアンジェラに、リースは完全に顔を真っ赤にさせた。
「バカッ!」
「やだぁ〜。唾飛ばさないでよぉ。汚ぁい」
 けらけらと笑いながら、アンジェラは椅子が足りないことに気付いて手近なベッドに腰を降ろした。
 リースは仕方なく、水筒を持って2つのタンブラーにビールを注ぐ。
「ありがとう、リース」
 アンジェラの軽口など少しも気にしない様子で、ホークアイがそう言う。
「すまない」
 デュランも礼を言った。
「で、いかがです?ルートは大体つかめましたか」
 リースは一度こほん、と咳払いをして自分のペースを取り戻すと、そう言った。ホークアイがそれに答える。
「アルテナに入ってからのルートに関しては大体はね。それよりもアルテナへの潜入方法がなかなか見つからないんだ」
「そうですね。定期船は中止してしまっていますし。フラミーもブースカブーもマナの減少で来てくれるとは思えませんし」
「ちょっと・・私出てくる」
 唐突に、アンジェラがそう言って3人は驚いたようにアンジェラを見つめた。
「やだ。何そんなに驚いて。ちょっと妖精王様に相談してみようと思って」
「こんな夜更けにか」
 デュランはまずくないか?というような視線を投げかけるが、アンジェラは気にした風もなく腰に手を当てた。王女らしい、威厳ある格好だ。
「火急の用件だって言って貰うから平気よ。だってホントだもの。明日行かなきゃ」
「もしかしてアンジェラ、何か心当たりが?」
 リースがアンジェラの自信ありげな様子を察してそう言った。アンジェラがにっと笑う。
「勘がいいわね、リース。ちょっとね、もしかしたら潜入ルートがあるかもしれないと思って」
「じゃあ、みんなで行こう」
 デュランが立ち上がりかけて、それをアンジェラが制す。
「ああ、そっちの方が余計怪しまれてしまうわ。私一人で平気よ。そんなに信用ならないの?」
「信用ならないんじゃなくてさ、アンジェラ。いくら妖精の国だって夜更けに女一人出歩くなんて褒められたことじゃないってことさ。護衛にデュラン連れていきなよ」
 ホークアイがぐい、とビールを飲み干すと、そう言った。
 そうね、とアンジェラはその言葉には素直に頷く。確かにその通りだからだ。
「じゃ、行ってくる。リース、酔っ払いには気をつけなさいよ?」
 アンジェラの言葉に、リースはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫です。私の護身の槍はそこにありますから」
「・・ひでぇ・・」
 情けない顔でそう言うホークアイを笑いながら、アンジェラとデュランは部屋を出た。

「平気か?」
「何が?」
 アンジェラはデュランに問われて、きょとんとした目をデュランに向けた。デュランは前を見たまま、アンジェラの方を見ない。
「長く眠っていただろう。調子とか悪くないか?」
「ああ、それなら平気。そのためにいつも行かない買出しとか行ったんだもの。全然普通だよ」
「そうか」
 ほっとしたようにそう言うデュランに、アンジェラはありがと、と笑う。
「・・?なにが」
 今度は逆にデュランの方がきょとんとアンジェラを見た。
「だって、心配、してくれてるんでしょ?」
「ま、仲間だし」
 そっけなくデュランがそう言うと、アンジェラはうん、だから、と笑う。
「ありがとう」
「・・」
 返事もなくただ歩くデュランに、アンジェラは肩を竦めた。その表情が、慣れてるけどね、と笑っていた。
「あ、着いたね。取次ぎ頼んでくる。デュランはここで待ってて」
 たたっと足を走らせて、アンジェラが妖精王の住まう屋敷へ近づいた。屋敷の前で警備している番人にアンジェラが話し掛けると、番人は居住まいを正してアンジェラの話を聞いていた。
「ありがとう、か。願わくば全てが終わってから、お前の口から聞きたいもんだ」
 デュランはひとりごちると、空を見上げる。空には光り輝く星達が行く末を案じるかのごとく細かに瞬いていた。
「デュラン、入っていいって!」
 門番と話がついたアンジェラが呼んでいる。デュランは視線をアンジェラに戻すと、アンジェラは手を振って入っていった。デュランもその後を追うように、屋敷の中に入っていった。
「夜分に申し訳ありません。どうしてもお伺いことがありましたので」
 アンジェラはそう言って、妖精王の椅子の前で跪く。デュランもそれに倣う。
「かまわぬ、アンジェラ。面を上げなさい。デュランも」
 二人は言葉を受けて、顔を上げた。妖精王は昔より遥かに人懐こい微笑を浮かべて二人を見ていた。
「そなた達の活躍は聞いている。よもや、世を救うとはおもわなんだが。その勇者の頼みならば、聞かねばなるまい」
「ありがとうございます。では、ここディオールとアルテナとの秘密の通路を教えていただきたいのです」
 大胆なアンジェラは前置きもなくそう言った。デュランがその言葉に唖然としている。妖精王のほうは、一瞬目を見開いた。アンジェラがそんな妖精王に強気に目を光らせる。
「ご存知ありませんか。そんなことはないと思うんですけど。買い物をしていて、アルテナ特有の品々を見たんです。もしかして、妖精たちはアルテナとの交易を果たしていたのではないかと思ったのですが。それなら、商品を運ぶための道が確保されているのではないかと」
 暫く黙り込んだ妖精王だったが、アンジェラの確信に満ちた瞳に圧されて、とうとう息を吐き出した。やがて、妖精王が豪快に笑い出す。
「これはこれは天晴れな推理。魔法の大国アルテナは滅びてはおらぬことをわしは確信する。ここにおわすアンジェラ王女こそがアルテナの証明。よかろう、あなたに秘密の通路を教えよう・・」
「ありがとうございます!」
 アンジェラは朗らかに喜ぶと、デュランに微笑んだ。
 デュランはアンジェラの知恵に驚いて目を見開いていた。改めて、この娘が王女であることを思い知らされたのだった。







■To Be Continued.


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