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【聖剣伝説3】 |
| ■騎士の意義 |
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作成日[2003/8/26] 夕日があたり一面の景色を真っ赤に染め上げていた。 いつもは青々と生い茂る草木から庭の柵、煉瓦の敷き詰められたメインストリート、店を畳む忙しない人々までもが真っ赤に染められていて・・それはまるで炎が上がっているかのようだった。 デュランはそんな景色を見つめながら、町の裏山で一息ついていた。 冒険の後、父親と同じ称号を戴いたことは嬉しく、誇らしいとは思った。しかし、自分一人の力でないことも、デュランは頭で理解していた。だから、まだ早かったのかもしれないと、最近は思う。 せめて鍛錬だけは怠らないように励もうと、デュランは非番の日すら腕から剣を外さなかった。モールベアの高原では鍛錬にならないと判断したデュランは、あまり人が通りかからない裏山の登り、そこで素振りをしたり、時には獰猛な獣と戦ったりしてその技を磨き続けていた。 そして、今日もそんな鍛錬をして山を下りようとした矢先、真っ赤に染め上げれたフォルセナの城下町が目に入ったのだった。 ぎり、と意識もせずに手に力がこもった。剣を握る手が爪を立てて自分の手のひらに食い込んでいく。 「あの時みてぇだ・・」 デュランがそもそも旅に出ようと決心したあの日。自分の力を過信し、異国の魔導師に敵わなかったあの日は、事実、フォルセナは燃え上がっていた。魔法の連続攻撃にフォルセナの騎士団は応戦する間もなかった。人々は狂乱の渦に巻き込まれ、とどまらない悲鳴、終わらない爆発音・・そしてその事の元凶はこともあろうか・・いや、願ってもなくというべきか、デュランの前に姿を現したのだった。 圧倒的な魔法の強さを見せつけて、宿敵はデュランを嘲笑うと風のように去った。デュランは、尊敬する王を愚弄し、美しいフォルセナの町並みをこれほど赤く染め上げた男を許しはしなかった。かならず追いついてみせる。そして勝利してみせると誓って、生まれてから一度も離れたこともない故郷を、そして愛する家族を置き去りにして旅立ったのだ。 「でも・・結局手に残ったのは・・『死』だけだ・・」 父親を失い、宿敵を見殺しにした。デュランの手に残ったのは、勝利とはあまりにもかけ離れた凄惨な事実だけだった。 突然、虚無感が込み上げた。デュランは力任せに剣をベルトから外すと地に叩きつけた。 「親父もあの魔導師も・・本当の騎士なら救うべきだったんだ!本当の黄金の騎士なら、救って平和を導くべきだった!それなのに俺は結局何もできちゃいない!何も!」 その辺に落ちていた枯れ枝を拾い上げると、デュランは狂ったように走り出した。 「うおおぉぉっ!!!」 迸るのは手のひらから爆発したやり場のない虚しさだった。力のままに枯れ枝を振るい、掠った枝葉がデュランの走った後にぱらぱらと落ちていく。 「何のための技量だ!何のための剣だ!何のために騎士は生き続けるんだ!人を死に追い込む戦争に借り出されるための意義か!わからないっ・・俺にはもう剣の道が・・騎士の歩むべき標(しるべ)が見えないっ・・」 カンカンカンカンカンっ! 枯れ枝と樹木の幹が、枝がぶつかり合う音が空虚な山に鳴り響く。 気合というよりも、半ば捨て鉢になった枯れ枝の軌跡が森の木々たちをむやみやたらに傷つけた。デュランはそれすら気付くことなく枝を振り回した。 やがて、枝がその力に負けてばきっと音をたてて折れた。折れた枝は勢いよく回転して明後日の方に飛んでいった。デュランは枝が折れた音で、ようやくその狂人の振る舞いを止めた。がくり、と地に足をつくと、一気に乱れた呼吸が肺から吐き出された。 「物騒な男だ。まったく、ロキの若い頃にそっくりだぞ」 耳慣れた声にデュランははっと顔を上げた。 なんと、フォルセナの王である。側近もつけず、ただ傍には高貴な王のためだけに育てられたという白馬の雌馬がゆったりと歩んでいた。 「お、王っ!こんな場所で何を!」 デュランはすかさず跪き、頭を垂れるとそう言った。 「まあ、人に言えたことではないと思うがな。デュラン。そなたもこんなところで何をしておる。わしが騎士達の鍛錬のために使っていいとあつらえた部屋があったはずだが、そなたにはその部屋では鍛錬にならぬか」 「めっそうもございません!」 デュランは大声でそう答えた。 「ただ私は一人で鍛錬をする方が向いているのです。他の騎士たちには無礼だとは思いますが、鍛錬は一人で行いたいので、この場所を選んだ次第です」 「まぁ、よい」 デュランの必死の言葉に、王は事も無げに頷いた。それほど興味がないといった様子だった。王はデュランの傍に寄ると、先ほどデュランが折ってしまった木の枝に馬の手綱を結わえた。 それからデュランの跪くその場所に歩み寄ると、剣を置いた。先ほど、デュランが地に叩きつけた剣だ。 「剣は騎士の命にも等しきもの。人の目がなかったとはいえ、二度とあのようなことはすべきではないぞ」 王は見ていたのだと気付いて、デュランは一気に恥ずかしさに血が上った。 「申し訳ありませんっ!」 「とはいえ、そなたの迷う気持ちもわからぬではない。わしも思い悩んだ。友を真に失ったと知ったあのときからずっとな・・」 デュランは冒険の後、王に父がドラゴンズホールで確かに死んだことを伝えた。王はそれを聞いて驚愕のあまり一瞬言葉が出なかった。王の身代わりに谷に沈んだ親友ロキの姿を目に浮かべてか、王は静かに泣いた。 「救えぬ剣は・・辛い。むやみに失くす剣も、陥れる剣も・・」 もっともだと、デュランは頷く。 二人とも、そのまま言葉が続かなくなった。 赤く染め上げる夕日は既にもう沈み、刻限は既に夜に移っていく。空には瞬く星が少しずつ輝きだす。 「デュランよ。一つ頼まれてはくれんか」 ふいに、王がそう言った。デュランははっ、と声を上げるとこう答える。 「何なりと。我が王の仰ることであれば何でもします!」 「それを聞いて安心した。わしと手合わせを願おう」 さらりと言われて、デュランはもちろん!と返事をしそうになって、慌てて顔を上げた。 「英雄王様・・?!」 「なんだ、わしでは役不足か?」 王が不敵に笑う。既に腰に提げた剣に手を構え、その顔はこの上なく嬉しそうだ。デュランはその顔に、ふと何か思い出した。 (そうだ・・このお方は英雄王。世界を平和に導いた剣豪・・!俺はなんて見くびったことを・・!) 「とんでもない!喜んでお相手させていただきます!」 デュランはすぐに立ち上がり、英雄王が渡してくれた剣をしっかりと握り締めた。 「頼もう」 英雄王のすらりと剣を抜く姿に一つとっても、優雅でしかも隙がない。年を感じさせない見事な体躯は、豪奢で重そうな剣をしっかりと手に持っていた。そして、強靭なる体から迸るのは強さそのものではなく、精神的なオーラだった。それがデュランの鼻先を掠めた。 (すげぇ・・っ!!) 知らず、剣を持つデュランの手が打ち震え出した。恐ろしさとか恐怖とか、そう言った類のものではなく、ただ純粋に戦うことへの興奮、剣を交えることへの愉しみだけだった。 デュランも、剣を抜いた。装飾品はほとんどないが、切れ味は先の冒険で実証済みである。 両者が剣を前に構えた。静かにそのまま相対する。 風が鳴る。木々が葉をさざめかせて、通り過ぎた。 ふと、音が止んだ。その瞬間に二人の足は動き出した。 キン、キキンッ・・ 打ち合った鋼の音が森の奥まで木霊した。デュランが突き出した剣を英雄王は剣先で軌道を変えた。それからデュランの剣を払うと、返す刀で素早くデュランの体に向かって剣を戻した。デュランは慌ててその剣を打ち止めようと、剣の鞘を持ってその剣を動きを止めた。 「ほう、鞘とは。面白いことを思いつく」 「旅先で一度、これで命を救われました」 「なるほど」 素早く王は剣を引くと、間合いを取るために後ずさった。砂を蹴立てて後ろに足を引く姿など、現役の騎士でさえあれほど速やかで軽やかな動きはしない。 デュランは知らず、喉を鳴らした。 (なんてこった・・。俺は修行のために旅に出たって言うのに・・こんなに近くにこんな大物がいたなんてッ・・!!) 気付かなかった不甲斐なさと伴って吹き上げるのは、とてつもない昂揚感だった。デュランは嬉しさに心臓がドクンドクンと脈打つのがわかった。 (ち・・喜んでるな・・俺。ただでさえ王と手合わせさせてもらえるだけでなく、こんな強い騎士と戦えるなんて・・無理もないけどなっ・・!) 嬉しさに、デュランは昂揚感に打ち震える体を抑えることはできなかった。飛び出した体は王というよりも、騎士そのもののその人に惹き付けられるように走り出した。 「えいやぁぁぁ!」 大きく弧を描いた剣の行き先は間違いなく王の腹を狙っていた。相手が王という躊躇いはない。いや、むしろ立派な騎士である相手に手加減などすれば、余計に失礼だ。デュランはそこまで考えていたかどうかは疑問だが、ともかく、デュランは迷いのない剣で王の腹を狙っていた。 が。 大きく弧を描いた剣の威力は絶大なものとなるが、軌道は長く即効性に欠けた。王はその事をデュランの剣の軌道を見て素早く計算すると、デュランの剣が追いつくその前にデュランの懐に飛び込んだ。 「・・ぐぁっ!!」 デュランには為す術もなかった。王の剣の切っ先はデュランの右腕を狙っており、その腕からは一瞬の摩擦を感じた後血が噴出したのだった。 デュランは剣を取り落とし、バランスを失ってその場に倒れた。 王がそんなデュランを助け起こす。 「完敗です・・王。俺は幸せ者です。あなたという素晴らしい王に仕えることこそ、俺は最大の喜びです!」 王はそんなデュランを笑う。聞き分けのない子供を見るような優しい瞳だ。いや、程遠くない昔に、こうして向かい合った旧友を思い出しているようでもあった。 「無理するな。血が止まらぬ」 王はすぐさまレースのついたハンカチは胸から取り出すとデュランの腕を縛った。それでも血は滲む。早く城に戻って治療する必要がある。 王は素早くデュランの傷をそう診断すると、デュランを馬に乗せようとした。雌馬が王以外のものを背負うのに一瞬驚いて嘶いた。しかし、王はその馬を優しく撫でてやると、馬は仕方ないと思ったか静かになった。 王はその後ろに飛び乗ると、馬を歩ませ始めた。 しばらく、沈黙のまま下山していた王が、ふと口を開いた。 「そなたの様子がおかしいと思ってな。興味もあって後をつけたのだが・・」 その事を責めるつもりもないし、またそんな権利もデュランにはない。デュランはおとなしく頷いた。王はそれから、また、ゆっくりと話し始めた。 「・・お前は友人から借り受けた大事な息子だ。わしはそなたを父親に負けぬ騎士に育て上げる義務がある。」 「もったいない・・」 デュランは傷口が傷むのか、やっとのようにそう言った。 「迷っていたな。デュラン。騎士の意義はなんだ、と」 王に問われ、デュランはしばらく答えられなかった。王には聞かれるべき言葉ではなかった。しかし、同時に、その答えは王の口からではないと得られないような気もした。 だから、デュランは長い沈黙の末、ようやく返事をした。 「はい。・・迷っていました。人を傷つけるばかりの騎士の意義が、どこにあるのかもう俺にはわからなかったのです」 「今は・・どうだね」 王は優しくそう尋ねた。デュランは考え考え、ゆっくりと答えた。 「俺は、純粋に戦うのが好きです。強い者と相対するときの喜びはなにものにも換えられません。しかし、俺はその剣を使って人殺しすることしかできないのです。そのことが・・辛いのです」 「騎士の心とはな・・、常にその辛さと戦うことといってもいい」 王の言葉に、デュランははっとした。王は静かにしているように目で合図すると、続きを話し始める。 「鍛錬し、技を磨き、おのれの力量を試し、負け、勝利し、戦で活躍する。騎士はその全てを肯定してはならぬ。言ってみれば全否定しなければならぬといえる。我々は正しいことなど何もしていないのだよ」 「それならば騎士は・・悪人ですか」 デュランは単刀直入にそう言った。王は笑う。笑うが、すぐに真面目な顔をするとこう言った。 「悪人だよ。人の命を奪う罪人(つみびと)だ。どう正当性を上げたとしても、それは間違いなく許されざる悪事。だから、騎士は自分を許してはならぬ。罪人である自分をな。しかしな」 王は優しくデュランの肩を掴んだ。 「我々は誇りに思うべきことが一つだけある。愛する人の代わりに全ての罪を着ることができるのもまた騎士のみだからだ」 (ああ、やはり、このお方は違う・・っ!) デュランはその言葉に救われる。痛いほど胸を突いていた罪を着た自分を、そう思えるならば許せるからだ。誇りに思うからだ。 「ありがとう、ございます。俺は、今日のことを一生・・一生忘れません・・」 デュランはそれだけやっとのようにそう言うと、出血のために意識を保てなくなった。王はこれはいかん、と馬の腹を蹴ると、フォルセナ城の裏門から素早く城に戻った。 デュランの傷の手当てはフォルセナ城の名医が素早く対応したため、その後の警備にも差し支えなく復帰することができた。 それからのデュランは、前ほど暗い顔を見せなくなったようである・・。 ■Fin |