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【聖剣伝説3】 |
| ■伝えられる喜びを 手に届く幸せを |
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作成日[2003/9/1] 「もう来るな!」 怒気を含んだ鋭い声がアンジェラの胸を突いた。どうしようもなくて、何も考えられなくなって、そして売り言葉に買い言葉、負けん気の強いアンジェラもそのまま言い返してしまった。 「馬鹿っ!頼まれたってもう来ないんだからっ!」 ついでに相手の頬に手形までお見舞いしてやると、アンジェラはデュランから―――もちろん相手はデュランである―――踵を返して走っていってしまった。そして、憤然とするデュランはもちろん、アンジェラを引き止めてはくれなかった。 暮れかかる夕陽に染め上げられた景色の中の二人の影は、二人の裏腹な気持ちとは逆にすっかり離れてしまったのだった。 それから、アンジェラは自国アルテナへ帰還するべく、フォルセナを離れてしまった。 「おーおー。派手にやるやる」 デュランが佇むすぐ傍の草むらからがさがさと出てきたのは、なんとホークアイである。デュランはむっつりと不機嫌な顔でホークアイを睨みつけた。 「なんだよ。またノゾキか。悪趣味だな、相変わらず」 不機嫌な上に、八つ当たりまで込められているデュランの言葉に、ホークアイは動じることなく肩を竦めた。デュランのこんなところは旅の頃から変わりなく、今に始まったことではない。ホークアイとしては慣れっこなのだ。 「ハイハイ、覗いてた俺の非は認めましょ」 ホークアイは観念した犯罪者のように両手を上げてそう言った。そんなホークアイの潔さに、デュランはつい自分が八つ当たりをしたことも認めざるを得なかった。ふぅっと息をつくと、すまん、と謝る。 「八つ当たりだな。悪い」 「いいけど、慣れてっからな」 近づきながらにっと笑うホークアイに、デュランはもはや毒気も抜かれる。デュランは久し振りに来てくれた親友をようやく笑って迎えることができた。 「どうしたんだ?フォルセナに来るなんて珍しいじゃないか」 「いや、なんとなく遊びにな。アルテナにも行ったんだが、アンジェラはいねぇしさ。じゃあ仕方ねぇやってフォルセナに来たら、お前らが口げんかしてるの見つけてさ。久し振りに水入らずで酒でも飲もうかと思ったんだが・・どうやらそれは無理みたいだなぁ」 残念残念、と言いながらホークアイは頭の後ろで手を組んだ。ホークアイの話を聞いて、せっかく戻りかけたデュランの笑みが強張るのを面白そうに見ながら。 「・・。」 「・・あれ?なんかまた不機嫌そうだなぁ?デュランくん。どうしてかな?」 からかうような調子でホークアイがそう言うと、デュランはさらにむっとしたように目を怒らせている。 「ホークアイ」 「なんだよ」 「アンジェラのところにって・・まさか直接部屋を見てきたのか?」 ホークアイは目をぱちぱちやってから、デュランを見ると肩を竦めた。それは、肯定の仕草のようだった。 「だってそっちの方が手っ取り早いしさ。城で取次ぎだとかって待たされるの俺イヤだもん」 ぐいっとホークアイの襟首を掴むと、デュランは勢いよくホークアイを引き寄せ鋭い眼力で睨みつける。 「イヤだもんじゃねぇ!あいつは王女だ・・王女なんだから・・そんなことお前はするな!」 「王女だから?ねえ・・」 襟首をつかまれながらもホークアイは余裕しゃくしゃくでそう言った。デュランを嘲るように笑うと、一言、こう繋げる。 「・・俺のものだから、じゃなくて?」 「ばっ・・そう言うことじゃねぇ!」 一瞬の隙を突いて、ホークアイはデュランの手からするりと逃れる。襟首をつかまれた所為で撚(よ)れた服装を正すと、やれやれ、と息をつく。 「あのね、俺は俺のやり方があるし、それをいちいちデュランに指図される覚えはないけどね?第一部屋にアンジェラがいないかを見てきただけでアンジェラに何をしたってわけでもないよ?」 「そのときアンジェラが居たら?」 「声かけてベランダにでも呼ぶさ。部屋には入らないよ。俺だってそこまで馬鹿じゃない」 まだデュランは何か言いたげな表情をしていた。ホークアイはその顔を読み取ると、面白いことを思いついたのか、目を閃かせた。 「あのさ、デュラン。どうしてもっていうんならその言いつけ守ってやるよ。但し条件がある」 「なんだよ・・?」 少々不安なものを感じ取ったが、デュランはおずおずとそう聞いた。ホークアイは楽しそうにデュランを見ると、節をつけてこう言った。 「アンジェラは俺の女だからそういうことはするな!、って言ってみな♪」 「バカかッ!あんなの俺の女なんかじゃねぇ!」 ひょっとホークアイがデュランの向こう側を眺める。遠くと見るように目を細め、手を額に敬礼するように掲げている。 「・・アンジェラだ」 「えっ!?」 焦ったように振り返るデュランを、ホークアイは笑う。 「ば〜かがみる〜〜♪」 「こっ・・コノヤロウ〜〜ッ!!」 まるで子犬がじゃれあうように二人は追いかけっこを始めると、近所のオバサンが出てきてうるさいよっ!と二人を一喝した。二人は慌てふためいてその場から逃げ出す羽目になった・・。 一方、ようやく黄金街道を抜けてマイアにたどり着いたアンジェラは、定期船の最終便が既に出てしまったらしく、足止めを余儀なくされた。仕方なく明日の朝発つことにして、マイアの宿屋の一室を借りて一人で夜を過ごすことになった。マイアの町は人の出入りが激しく、夜女一人が出歩くのは危険極まりない。アンジェラは旅の経験上そのことがよくわかっていたので、部屋のベッドでじっとしていた。 じっとしていると、否応なく思い出してしまうのはデュランの最後の言葉。 ―もう来るな! 「あんなに言わなくたってさ・・」 ぐっと拳を握り締めて、アンジェラは忘れようとした。デュランに関する全て・・鋭い声、研ぎ澄まされた眼差し、ごくごくたまに見せる笑顔、笑い声、そして頼もしいほどの剣術、ゆるぎない強さ。忘れてしまえば、楽になる、そう信じて。 しかし、アンジェラの心を占めるデュランの記憶の割合は、そうそう少なくはないことに今更ながら気付かされる。そうと判って、アンジェラは知らず涙がこぼれた。 「悔しい・・。なんでっ・・なんで忘れられないんだろう・・っ!」 迸る想いはまるでとどまることを知らない源泉のようだ。静かにだがそれは確実にアンジェラを満たしていて、それはいつのまにか彼女の心の大部分を占める海になる。星が水をなしに生命が誕生し得なかったように、彼女も愛無しでは生きられないとでも言うかように。 「あんな目にあっても・・また会いたくなる・・。私って馬鹿なのかなぁ・・?」 アンジェラは自分の吐いた台詞を既に後悔し始めていた。 ―馬鹿っ!頼まれたってもう来ないんだからっ! 「で?だいたい何が原因なんだ?」 アンジェラはいないが、とりあえずフォルセナの酒場でデュランとホークアイは酒を酌み交わすことにした。デュランはビールを飲むと、あぁーっ?と声を荒げる。 デュランは機嫌が悪い時に飲むアルコールには弱いのだ。酔う速度がいつもよりも段違いに速くなる。 「知るかぁっ」 空になったジョッキをどん、と置くとそう言う。ホークアイが呆れたようにデュランを見る。 「馬鹿。酔っ払う前にしっかり思い出せよっ」 「あ〜・・んと、ゆびわ、かな?」 すでにもう眠そうなデュランはテーブルに突っ伏しながら、喘ぐように言った。ホークアイはその言葉に驚いて、身を乗り出した。 「指輪っ?婚約指輪かっ?」 「あ゛あ゛っ?まっさか。でもアイツが欲しいっていうんだよ。俺指輪なんて買ったことねぇから嫌だって言ったんだよ」 少々呂律が回らなくなりながらも、デュランはそう言った。 (そりゃそうだろ。男は填めるもんじゃねぇし。でも女に買ってやるものなら頑張ってやってもいいのに・・) ホークアイはそう思うと、呆れながらデュランにその話を続けるように促す。 「それで?」 「んでな。あいつはそれでも欲しい欲しいとせがむんでな。うるせぇから俺もあったま来て。ぜっったい俺は買わないからな!って啖呵切ったら、あいつ女の子には指輪の一つでも買ってあげるもんだとか説教始めやがってさ・・もーぉうざい、って思った俺は言っちまったんだ。もう来るな!ってな」 「・・・」 特大のため息を二人は吐いた。 ホークアイは眠そうに突っ伏したデュランに、ホラ起きろ、と体を揺する。デュランは言われて仕方なくというか、抗う様子もなく椅子に座りなおした。 「でもさ、デュランはさ、アンジェラと付き合ってるよな?」 「つきあってるか?」 酔っ払ってイマイチ正気とは程遠いデュランはそう言った。 (―・・・俺に聞くなよ。) ホークアイはツッコミをとりあえず胸に仕舞いこみ、辛抱強くデュランを説得にかかってみた。 「だって一緒に居るだろ?」 「アイツがいつも来るんだからしょうがねぇよ」 「しょうがなくデュランは一緒にいるわけ?」 言われて、デュランはひく、と口を閉ざした。少し、目が正気に戻り始めた。 「しょうがなくデュランはアンジェラと一緒に居たわけ?」 ホークアイは強く睨みながら、デュランにもう一度そう聞いた。デュランはホークアイの視線から逃げるように目をそらすと、しどろもどろの口調になる。 「ん・・いや・・」 「じゃあ、例えばアンジェラがデュランの言葉通り、もうフォルセナに来なくてもデュランはいいわけだね?」 有無を言わせない調子でホークアイはそう言うと、デュランは困ったようにぼそぼそと言った。 「その・・なんだ・・」 「それじゃ、俺がアンジェラの部屋にご機嫌伺い行っても文句言わないよな?」 はっきり返事を返さないデュランを、ホークアイは呆れながらもそう突っかかった。すると、ようやく返事が返ってくる。 「・・言う・・」 「ホラ、じゃあデュランは仕方なく一緒に居たんじゃないよ。お前も、アンジェラと居たかったから傍にいたんだろ」 「そ・・か・・」 酒の所為か割合素直に頷くデュランを見て、ホークアイは一人笑った。なんだか可愛い弟を持った気分になった。 そう思ってからは、ホークアイは攻撃の刺を引っ込めた。 「俺、思うんだけどさ。アンジェラみたいにずっと一緒に居たいって思い続けるの、それを相手に出し続けるのって、キツイと思うんだよ。相手が何の反応もなくてさ、いっつも無愛想だったらさ、相手はそういう人だって判ってても辛いよ。」 ホークアイはワインをちびちびと口に含んでから、デュランに尋ねる。 「・・デュランさ、そういうの考えたことある?実際やれる?想ってる相手にあれだけ頑張ること。考えただけで身が竦まないか?嫌がられたらどうしようって」 デュランはおとなしく頷く。 「アンジェラな、それだけお前のこと信じてるんだよ。お前が拒まないでくれる、そしていつか受け入れてくれるってな。それだけ信じられてるんだから、お前指輪くらいお返ししてあげても罰は当たらんと思うぜ、俺はな」 デュランががたん、と席を立つ。 「ひとつ君にイイコトを教えてあげよう。マイアのアルテナ行きの定期便ね。最終便にアンジェラは間に合ってないはずだよ。アーユーアンダスタン?」 にっと笑うと、デュランは自分が飲んだ酒代をテーブルに置いて、席を外した。ホークアイがその酒代を見つめ、ホークアイの酒代も含め代金が全く丁度であることに驚く。 「あいつ・・ホントに酔っ払ってたのかよ?」 マイアの町は港町らしく酒場が点在し、大勢の人でごった返している。海産物を中心にしたレストランがそこここに店を開いていて、マイアやバイゼルの町で買い物を目的とした旅人たちが夜遅くまで大騒ぎしている。 デュランがたどり着いたのはまだマイアがにぎやかな人々の声に包まれていた頃だった。とはいえ、時刻はそろそろ夜半過ぎ。アンジェラは宿屋に居ると見て間違いないだろうと思い、デュランはいつも冒険中に使っていた宿屋に向かった。 宿屋の辺りにたどり着くと、まだ明々と灯りの射す部屋を見つけて、デュランは知らずその部屋に引き寄せられるように走り出した。 悪趣味だとホークアイに言った事を忘れたように、デュランは窓を覗き込もうとした。が、当然のことながらカーテンが中の様子を遮っていて、よく見えない。 何故かデュランはそこがアンジェラの部屋だという確信があって、その窓を静かに叩いた。 こつ、こつ。 窓枠が鳴ってから、人が窓に寄る気配がした。しばらく外の様子を窺っているのか、息を殺したような気配だけがあった。それから、押し殺したような、怯える声が、誰、と尋ねる。 「アンジェラ、俺だ。デュランだ」 驚いて、部屋の中の人物がしゃっとカーテンを開いた。やはり、とデュランが笑う。間違いなく、アンジェラだったのだ。 窓の外のデュランを確認して、アンジェラが目を見開く。窓を開いて、デュランの前で泣き崩れる。 「ご、ごめんなさいっ・・!」 「アンジェラ?」 「もう来ないなんて嘘なの。嘘よ・・そんなの私が耐えられない・・!」 「俺もだ。アンジェラ」 デュランがぐいとアンジェラの手を引き寄せると、窓枠の向こうからアンジェラの体を抱きしめる。 「俺も、嘘だ。来るななんて言って、すまなかった」 じわっと、デュランの言葉がアンジェラの胸に滲む。目も眩むような幸福感がアンジェラを襲う。 (ああ、どうして。どうしてこの人のたった一言が、私をこんなに幸せにするんだろう・・) 「指輪なんかいらない・・いらないから。私・・」 言いかけた言葉が、閉ざされる。吸い寄せられたように出会った唇に、アンジェラは涙した。 名残惜しむかのように唇が離れて、デュランは焦ったようにアンジェラを抱きしめた。一瞬、アンジェラと目が会った瞬間顔が火照ってきたのを見られたくなかったのだ。アンジェラもそれがわかってくすくすと肩を震わせた。 「今のは・・、指輪買ってやる証だからな」 照れたデュランが言う言葉は、いつもぶっきらぼうで投げやりだ。でもアンジェラはそのデュランの言い方が嫌いではなかった。 「うん・・ありがと」 幸せに頬を染めて、アンジェラはそう言った。 ■Fin |