【聖剣伝説3】

■バトルパターン

作成日[2003/11/16]








 一面マグマの色覆われた洞窟、ドラゴンズホールに入ってはや3日目。ごつごつした岩の間を通るどろどろのマグマにも、目が慣れてきていた。始め見たときはあまりの熱さに近づくこともできなかったっていうのに。
「目が慣れたからって、熱さに慣れるわけじゃねぇんだよなぁ」
 滴る汗をぬぐいながら、デュランがそう言った。リースが頷きながらも、声をあげる。
「一休みしますか。疲労は注意力を極端に劣化させます」
「そうだな、あいつもずいぶん無口になってきたしな」
 ちらりとデュランが見たのは、アンジェラの顔だった。むっとしてアンジェラは声を荒げる。こちらも同様にすでに汗が額から流れ落ちている。
「何よっ!別に私まだ疲れたなんて言ってないじゃない!」
 いきり立つアンジェラを見てから、デュランは偉そうに腕を組むと、アンジェラに蔑んだ瞳を投げかける。
「弱音をはかなくなったのは唯一の成長点だよな。エライエライ」
 デュランの瞳と言葉で売られた喧嘩は、買うのみ。アンジェラの怒りの琴線を見事にとらえたデュランの口調に、アンジェラはすぐさま応戦にかかった。
「あんたに言われたくないわよっ!あんたも少しはゆとりある人間になったらどうなのよ!ったく、鈍いし馬鹿だし短気だし」
「おめぇこそ少しはしとやかな人間になれなかったのかよ!派手だしわがままだし化粧濃いし」
「化粧濃いんじゃない!これはもともと・・」
「目元崩れてる」
「えっうそっ!」
アンジェラは慌ててそろそろと目元に触れた。そんなアンジェラをデュランが半眼でみつめると、へへ、と笑った。
「ほら化粧じゃん」
「いいかげんにしてください!二人とも!元気があるようならこのまま進みますよ!」
 いつも穏やかなリースが声をあげると、二人はぴたりと口を閉じた。二人にとってリースが怒った顔をまだ見たことがなかったので、怒らせると一番怖いのではないかという一種の爆弾のようなものをリースに感じていたのである。
「ごめんなさい」
「すまねぇ」
 ついでにおとなしく謝ってしまうところは、リースが二人を可愛いと思っているところである。
「で、どうするんです?」
「ま、休めるうちに休んどくのが得策かな。一歩進んだところで何が起こるかわからない異端の地だからな」
「同感です。アンジェラも、私に免じて喧嘩しないでおとなしく休んで。ね?」
 リースがなだめるようにそう言うと、アンジェラは不貞腐れたように肩をすくめ、とりあえず了解の態度を示した。
 デュランがアンジェラのそんな様子を気にした風もなく、近場の岩に腰をおろす。首に滴る汗をぐいと腕で拭ってから、シャツをばたばたさせて風を入れた。
「つーか、まじ死ぬ。この熱さなんだろーな」
 リースもごとりと槍を岩の壁に立てかけると、同じように近くの岩に腰を下ろした。
「話では竜族の王の住処ということですからね。彼らの強靭な鱗はその温度差をものともしないのでしょうね」
「うっそぉ。魔法効かないってことじゃないっ?」
 アンジェラがリースの言葉に慌てて口をはさんだ。リースはしばらく唇の前に人差し指を当てて考えてみたあと、アンジェラに向かってこういった。
「・・そう・・かもしれませんね。どうしましょう?」
「ええ〜!!私って役立たずじゃない、そんなのぉ!」
 アンジェラとしては、いつも誰かさんに余計な魔法を使って精神力をなくすんじゃない!と怒られているだけあって、最後のボス格の相手にだけは存分に魔法を打ち離せるチャンスなのだ。それが意味ないとすれば、ここに来た自分の意味すらなくなってしまう。
「おい、アンジェラ。それならちょっと今アイススマッシュとかやってくれよー。暑いから」
 能天気で不躾にもデュランがそんなことをいうものだから、アンジェラはデュランにロッドを威嚇まがいに振りまわすと、鋭くデュランの顔すれすれで止める。
「うるさいっ!私はあんたなんかの温度調節のために来たんじゃないのよっ!?」
「冗談だって。でもまぁ、効くか効かねぇかなんて論議してもしかたねーじゃん?お前のエモノが魔法しかないみたいに、俺だって剣しか、リースだって槍しかねぇんだ。それだって全部が全部効く保証なんてねぇだろ?」
 デュランの説得力のある言葉に、少女たちは二人顔を見合わせると、物珍しそうにデュランを見て納得する。
「すごい。理に叶ってるし」
「説得力もありますねー」
 二人の美女に褒められるのは嬉しいはずなのだが、デュランはその微妙な褒め方に思わず苦笑した。
「お前ら・・俺のこと馬鹿だと思ってるだろ」
「うん」
「アンジェラッ!!」
 素直にこっくりと頷くのは派手目な王女。隣で慌てて制するのは、これはこれで清楚な王女っていうんだから、デュランは改めて考えるとすごいことしてるなぁ、などと頭の端っこの方で考えながら、二人に反論した。
「一応さ、俺傭兵だし?戦うことにかけては頭もってるぜ?・・・ってことで、とりあえず休憩は終わりっと」
 デュランはそう言うと腰掛けた岩から立ち上がった。それを見てアンジェラがええっ?と声をあげる。
「ちょっと!私まだ座ってもない!」
「おめぇは・・。いっちばん真っ先に疲れた休もうって言うくせに、何でそう機敏に行動しないんだよ?大体、おめぇのお袋さん助けるために入ってるんだぞ?ちったぁ緊張しろ!」
「う・・」
 珍しくデュランがいちいちもっともな発言をして悔しいのだが、正論にはさすがのアンジェラも反論できない。
「あらあら、今日は珍しくデュランの勝ちみたいですねぇ?52勝3敗ですね」
「つか!数えてんなよ、リース!!」
 げんなりとしながらデュランがリースにそう言うと、アンジェラはへぇ、と感心したようにリースを見つめる。
「あ、じゃぁ引き分けは??」
「2回くらいじゃないですか?」
 リースが指で2を作りながら、にっこりとアンジェラに答えている。デュランが頭痛がしてきた、と頭を抱えるのもそっちのけで、アンジェラは面白そうに声をあげる。
「えー、それいつの?」
「一度はマイアでですかね〜?アルコール入るとデュランさん口が回るからアンジェラと口論の末に大喧嘩になっちゃって、お店ぐちゃぐちゃにしてしまったから高額の弁償代払ったでしょ?」
「り・・リース・・」
「そういう覚え方かよ・・」
 にこっと天使のように笑うリースなのだが・・心の底から笑っているのかは甚だ怪しいものである。
「あ、あとの一回は、ブースカブーに乗っているときによりによって喧嘩をお二人が始められて、アンジェラが突き飛ばした勢いでデュランが海に落ちちゃって・・慌てて引き上げてうやむやになったのが一回ですね」
「ほんと・・」
「迷惑かけてすまん・・」
 二人がしょげかえって素直に謝るのを見ると、リースは構いませんよ、と笑う。
「私もなにかしら迷惑をかけてると思うので、それは別に。仲間ですから、それくらいは覚悟の上です。でも、お二人はよく飽きませんよね?」
「へ?」
「は?」
 よいしょ、とリースも腰掛けていた岩から立ち上がると槍をさっさと持ち上げて歩き出す。
「お二人の喧嘩のパターンっていつも一緒なんですよ♪どちらかが相手の短所を揚げ足とって始まるんです。よっぽどお二人が喧嘩したいんでしょうね、同じパターンでどちらもひっかかってしまうんですから」
 今度はデュランとアンジェラがお互いに顔を見合わせると、お互いに気まずそうに顔を逸らす。それに気づかず、リースはすたすたと歩き出しながら話し続ける。
「まあ、喧嘩もお二人にとってはひとつのコミュニケーションなんでしょう、って私は思うことにしてますけど」
 ぴたりとリースが足を止めて、くるりと振り返る。まるで優雅なダンスを踊るようにふわりと髪がなびいて、そこから現れたのは二人を面白がるように見つめるリースの笑顔だった。
「違いますか?」
「・・」
「・・」
 デュランもアンジェラも、リースの言葉に完全に戸惑い、口を閉ざしてしまう。何と答えても、墓穴を掘るようで怖かった、というのが二人の正直なところかもしれない。
 そして、二人は同時にこう思うのだった。
(これは・・しばらく喧嘩は避けたほうが身のためかも・・)
 気がつくと、すでにリースは二人の答えを知っている、とでも言うように踵を返し、再び歩き始めている。
 リースの視線から逃れられて、二人は思わず安堵のため息をこぼしたのは言うまでもない・・。







■Fin


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