【聖剣伝説3】

■繰り返す想い

作成日[2004/2/28-29]











その時々で

今はあなたの傍に
今はあなたから遠く離れて

居たいと思うことがある

そんな私は

勝手かしら
我儘かしら
臆病かしら


私は

あなたの心が開花するのを恐れている
あなたの心が花開くのを怖れて待ち続けている
そのとき


私があなたの隣に居るという保証は無いから



ねぇ私は―――


勝手?我儘?臆病?

でも結局恋する乙女は誰だって
こんなものなのよ




1 傍にいたい

 まどろんでいた。頭はまだ朦朧と霞んでいた。乱れた髪が枕の上でしどけなく散っていた。そして、永い眠りから醒めたような、眠り姫の気分を味わった。
 3日間の高熱がようやく治まったのだった。
「・・のど渇いた・・」
 アンジェラがようやく声を出すと、その声が掠れていることに気づく。
 頭の中も霞みがかかり、声も掠れ、自分の存在が薄れているような気がしてくる。判然としない意識は、視界も満足に映し出すことはできない。目の前の視界もやはり、おぼろけなのだ。
――――このまま、消えてなくなればいい。
 半ば投げやりともいえる意識が生まれて、泡となる。そんなことを本気で思っても仕方ないのだ。
 アンジェラは諦めたように体をゆっくり起こした。肘に力を入れる。久しぶりに緊張する筋肉が、ぴりりと刺激を発する。それは痛みというか、圧迫のような鈍い力が上腕から肩に伝導する。そのことで、アンジェラは自分が在ることをようやく自覚する。
 ぎしりとベッドが軋んだ。あまり丈夫でないベッドに、アンジェラは無意識に顔をしかめた。体が、久しぶりの運動に目を覚ます。朦朧とした意識も、次第に克明な世界を描き始めている。
 上半身を起こし、掛けられていた毛布から足を出す。暗闇の中で、アンジェラの脚だけが艶かしく光った。
「今、何時だろ・・」
 どうやら時計の無い部屋に寝かされていたらしく、壁掛け時計も、置き時計もその部屋には存在しなかった。確かに懇々と眠り続ける病人に、時の催促など確かに要りはしないが、ようやく病人の皮を脱ぎ始めていたアンジェラに時刻は気になった。窓の外は薄暗い。おそらくそろそろ夜が明けるのではなかろうか。気の早いすずめが鳴いているのが聞こえてくる。鳥の声が、耳に届く。
 立ち上がろうとして、よろける。地面に垂直な自分を見つけられない。慌ててベッドに手をつき、足を立たせた。
「び、びっくりした・・」
 気を取り直して、ベッドから手を離す。今度は大丈夫だった。平衡感覚まで眠りにつかせていたらしい、とアンジェラはなんとなくそう思った。
 素足に伝わる床の冷たさに、アンジェラは体を震わせた。しかし、スリッパなど用意されるような上等な宿ではない。かといっていつものブーツを履くのも億劫だった。アンジェラはそのまま素足で、水場に向かう。引きずるような足どりに、床もまたぎしぎしと重たげな音を立てていた。
 木製の扉を開くと、接合部の金具が錆びた音を立てた。甲高い音だが、音量は少ない。アンジェラはその音があまり響かなかったことに安堵しながら、今度は音が鳴らないように慎重に扉を閉じた。しかしアンジェラの努力もむなしく、どうしてもその金具は悲鳴をあげたいようだった。
 暗い廊下が寂しく広がっている。人の寝息こそ届かぬが、その領域はしんと静まり返り闇に身を任せていた。怖いと思うことは無い。闇は、アンジェラにとって恐怖ではなかった。彼女にとって闇は子供の頃から常に近い存在だった。
 今は遠い遠い故郷。生まれ育ったのは荘厳で美しいと世界中が称える城。しかし、アンジェラにとってあの場所は。

―――闇。

 ぞくりと、慣れたはずの闇に鳥肌が立った。闇に対する恐怖ではないはずだが、闇が抱いた思い出にはアンジェラはいつまでも慣れる事は出来なかった。闇の先に見えるのは、人々の自分を忌み嫌う、蔑む冷たい瞳。その瞳はいつまでもアンジェラの胸と心を無常に突き刺し、赤い血を流させる。吹き出す感情の涙のかわりの、目に見えない赤い血。それが流れては止まらない。ひたひたに赤く濡れゆく自分が、恐ろしく、悲しい。
(見ないで・・そんな目で見ないで・・。怖い。怖いよぅッ・・!!)
 追い込まれた精神が世界の空気を薄くする。吐く息が耳に届くのに、頭は呼吸困難に陥ったかのような、意識の混濁。そして、霞む意識。周波数の高い耳鳴り。
「・・だ、れかっ・・!」
 掠れた悲鳴に、アンジェラは絶望した。届かない。これでは、私の声は誰にも届かない。
 がくり、と膝が折れた。アンジェラはもう立てなくなる自分を自覚した。薄暗い闇の中の景色が素早く反転していくのを見た。なにかの荷物のように落ちていく自分が、なんだか悲しくて哀しくて。
 涙が散った。そのあと、意識が途切れた。

 次の目覚めは頭痛によってもたらされた。
 ずきずきと痛むのは右の側頭部。こめかみの少し上のあたりだった。
 どうやら倒れたときにその部分を床にぶつけたらしい。触ると若干膨らみがあり、たんこぶなんて久しぶりだわ、などとアンジェラは結構間抜けなことを考えていた。
 周りを見回すと、水の浸された水桶がそばにあり、額から側頭部にかけて、もうぬるくなったタオルが乗せられていた。誰かが気づいて運んでくれ、たんこぶを見つけて応急処置をとってくれたのだろう。その事実がわかっただけで、アンジェラの心がほっと緩んだ気がする。誰かが自分を見てくれたという事実に、圧倒されるほどの喜びがアンジェラを覆う。そして救われる。そしてそれは、自分でも驚くほどほど心が暖かく気持ちいい気持ちに満ちている。
(もっと暖かくなりたい。気持ちよくなりたい・・。そう思ってあなたに手を伸ばす私は我儘かしら)
 掛けられた毛布から腕を出して手を伸ばしてみる。締め切ったカーテンの隙間から漏れる光がアンジェラの爪を輝かせた。
(でも・・それでもいいと思うの)
 アンジェラはふっと笑う。いとおしげに頬を緩ませ、伸ばした手を胸の前に戻す。そして、大事なものを抱え込むような仕草をした。
(それでも気持ちに嘘は無い。あなたの傍に、いたいから)
 ふわりと隙間風にカーテンが揺れた。揺れる空気が、アンジェラの鼻腔をくすぐる。若草の香りがした。



2 遠く離れていたい

 今に始まったことではないが、アンジェラは魔法がうまく使えない。
 それはもう生まれたときから運命付けられた事実で、がっしりと重い足枷となってアンジェラの人生を辛いものにしてきた。
 魔法が使えたら、アンジェラは母親からそっけなく扱われることは無かっただろうし、宮廷の使用人たちの蔑んだ目をされなくて済んだはずだった。そして、家出をする羽目にもならなかったはずだ、とアンジェラは当初ずっとそう考えていた。
 家出をしてきたのは自分の意思ではなかった。母親に、死を命じられた。そのことがショックで、気が動転したところまでは覚えている。その後、意識がなくなって、気づくと吹雪く寒空の下、城門の外に倒れていた。
 何が起こったのかすぐに分からなかった。自分の意識のあるうちは、女王の間に母の前で跪いていたはずなのだ。それが意識の喪失の後、自分が外に放り出されていた。
 母がやはり死を望んでいるのではないか、と思った。
 この寒空の下何の荷物も持つことも許されず、外に放り出されたのだと。
 だとしたら、ここで死ぬしかないのか、と。
 やがて身の回りをよく見てみると、担がれたり運ばれたりした形跡が無い。何より自分の周りの雪は、自分の体の跡形しか残されておらず、他の誰の足跡も残っていない。そして、アンジェラの足跡すらない。奇異なことだ。
 アンジェラは立ち上がった。体につき始めていた雪を払う。一応、身につけているレオタードは魔力がかかっていて、多少の寒さ熱さから体を守る効果があった。それだけが、結局自分が生きることを許された唯一の救いだった。
(魔力の残り香・・)
 ふと、髪の毛にそれを感じた。匂いというのとはまた違うが、魔力の放出が行われた後の痕跡のようなものを髪に感じたのだった。何かの魔力が、自分に向けて走った証拠だった。
 アンジェラは自身に魔力がないと信じきっていたので、その魔力は当然母のものだと思った。
(お母様が・・助けてくれたのかも・・!)
 希望が湧いてきた。死を命じた母は、なんとその対象を自分の力で逃がしたのだと、アンジェラはそう思った。
(それならば・・逃げてみせる・・。逃げてみせるわ・・)

 逃げ続け、ウェンデルの司祭を頼り、今は仲間を見つけ、希望を胸に世を彷徨っている。
 母親のことは世界的に見ても信頼が厚いことが分かった。分かったがしかし、母親の異変に気づく者はほとんどいなかった。気づいてくれた、と感じたのはただ一人、フォルセナの英雄王だった。
「あの優しかったヴァルダが・・」
 深い吐息に混じって、小さく呟いた英雄王の声に、ふとアンジェラは感じた。この人は母を知っている、と。
「母を、ご存知なの・・?」
 つい、聞いてしまった。知りたかった。母は本来、どんな人だったのかを。アンジェラは母を求めながらも恐れ、いつも離れて暮らしていたから、母の本来の姿を哀しいかな知らなかったのだ。
 英雄王はアンジェラの目を見ると、慌てて目をそらしてしまった――――。

 泣きそうになる。一人の手では何も出来ない。そのことを、世を彷徨いながら何度絶望したことだろう。
 疲労と苦痛を味わいながらこんなに世界を回っても、母親を元に戻す手がかりなど、ひとつきりもみつからないのだ。
 もう、家に帰りたかった。
 死を宣告を受けても母の傍にいられるなら、それでも良いと思った。母の暖かさを少しでも感じられるところに、アンジェラは居たかった。アンジェラは、やはり母が好きだったのだ。

「私、帰る・・」
 一度だけ――もう二度と言うなとデュランに誓わされたから、アンジェラはもう二度といえないが――、一度だけアンジェラは仲間たちにそう言ったことがある。
 その時はフォルセナに到着する前で、モールベアの高原で野営をしていた。炎が真っ暗な高原を照らし、6人で食事を済ませた後、のんびりコーヒーを飲んでいた。
「・・へ?」
 ホークアイが一人だけ声を出した。みんなの顔はきょとんとしていた。アンジェラは最後まで目をそらすのは嫌だと思い、5人の仲間たちをちゃんと見てそういった。でも、肩は、震えてしまっていたのだが。
「今、なんて・・?アンジェラ」
 リースが驚いてアンジェラの肩に手をかけた。その指を見つめ、アンジェラは哀しくなった。王女の手の癖に、その手はあかぎれとマメ、かすり傷で痛々しかった。この旅の困難さを、その指それだけが十分語り尽くしていた。
(もういやなの。自分がそんな困難に立ち向かうことができるとは、思えないのよ・・)
「アンジェラしゃん・・あんたしゃん、言ってる意味、わかってるでちか?あんたしゃん、おうちに帰ったら殺されまちよ!!」
 シャルロットが立ち上がって、アンジェラにそう言った。アンジェラは、うん、と頷いた。
(分かってる、それでも、やっぱり、帰りたい。うちに帰りたい・・!)
「デュラン・・」
 おろおろとケヴィンが何も言わないデュランを見つめた。仲間たちの中でのリーダーをこなすデュランに、ふとみんなの視線が集まる。
 デュランは、無言だった。怒っているのだというのは眉の形で誰もが読み取れた。ただ、言葉が無い。コーヒーをすすりながら、新聞を読んでいる。それはここモールベアの高原に来る前のマイアの町で購入した新聞だった。
「お前、今までで最大の我儘、吐きやがったな。しかも今のは一番言っちゃいけねー我儘だぞ」
 静かではあるが、デュランの怒りは読み取れた。いや、読み取るまでも無かった。デュランの声はもう、怒りそのものだったからだ。
 これにはアンジェラはもちろん、そして聞いていた残り4人もびくんっと肩を揺らしたほどだ。
「だ、だって・・もう、私・・」
(――――我儘?)
 言い訳するように口を動かしながらも、アンジェラの頭は混乱していた。
(私、我儘を言ったの?)
 ばさっ、と新聞を傍らに置くデュランの仕草には、誰もがびくり反応した。そして、デュランは胡座をかくと、アンジェラを容赦なく睨む。
(・・こわっ・・。いつにもまして・・でも)
 アンジェラはデュランの眼力に負けまいと、睨み返してやった。
(負けないから!)
 しばらく二人のにらみ合いに、周りはおろおろと様子をうかがっていたが、いきなりデュランがふぅっと息を吐いたところでそのにらめっこは終わったようだった。
「で?うちに帰って母親の言う通りに死ぬっていうのか?お前」
 デュランの問いに、アンジェラは頷く。
「それは、この旅で俺らが嫌になったからか?」
 デュランはアンジェラの目を見ず、コーヒーを一口含んだ。アンジェラは、慌てて言う。
「ち、違う!」
「そうか、ならいい。じゃあ、なんでだ。なんで帰るって言うんだ?」
 アンジェラはデュランから目をそらし、黙りこくる。デュランは、ぐいっと残ったコーヒーを飲み干すと、焚き火の上で温めていたポットからお代わりを注いだ。暖かいコーヒーがデュランのマグカップから湯気を放つ。そして穏やかな芳香も漂わせ、この場の雰囲気を和ませてくれるようだった。
「あのな、アンジェラ。俺らだってぎりぎりのところ立ってるんだぜ?」
 デュランの声にはいつしか、怒りがなかった。どうやら、アンジェラの感情の変化を珍しく理解できたらしかった。アンジェラはデュランの言葉に顔を上げる。
「このまま、ウチに帰れない状態だったらどうしようって、みんな思ってるぜ。だって、俺ら安心してウチ帰るための旅、してんじゃねーか」
 デュランは、あちち、と言いながら、美味しそうにコーヒーを飲んでいる。
 アンジェラはデュランの言葉にはっとした。ようやく自分が我儘を言ったのだと自覚する。
「半端なまま家に帰るだと?俺はそんな我儘、絶対許さねぇ。俺らにそんな逃げ道は最初っからねぇんだからな!」
 デュランがそう言い放って、高原の中に静けさが灯った。アンジェラが、自分の不甲斐なさに涙を堪えていると、ふわりと毛布がかかった。リースだった。
「それでも、逃げたくなることはあります」
「そうそう、俺だっていつ汚名を盾に殺されるかもしれないし」
 からからと笑いながら恐れてもいないような表情でホークアイはそういって笑う。
「ヒースがみつからないことも怖いでち」
 シャルロットは恐ろしげに手を震わせてとそう言えば、言葉少ななケヴィンもぽつんと言葉を出した。
「カールの命も・・」
「ほらな、みんな怖いんだ。お前がそんなこというから恐怖が伝染(うつ)った。だから、俺は『一番言っちゃいけねー我儘』だっつったんだよ」
 デュランが憤慨したようにそう言ったので、アンジェラは自己嫌悪に陥りそうだった。
(なんて勝手なことを、なんて莫迦なこと、言っちゃったんだろう。頑張ってるのは私だけだなんて、どうしてそんな傲慢なこと思っちゃったんだろう・・!)
 悔しさと不甲斐なさと、惨めさが一気に押し寄せてきた。泣いてしまいたかったが、そう言うわけにもいかなかった。アンジェラは、自分が泣いてまたみんなに恐怖を伝染してしまうことを恐れた。今度こそ、我慢しなければと思った。
(こんな恥ずかしい私を見られたら・・一緒に居られない・・。消えたいっ・・!)
「でも、でもね。アンジェラ。私、言っちゃいけなかったとは思いませんよ」
 ふっと救いの手を差し伸べるかのように、リースはそう言った。アンジェラが、泣くのを堪えて真っ赤な目をしてリースを見た。リースはいつも通り、優しく微笑んでいる。
(本当に天使という名は、この子こそふさわしかったのかもしれない・・)
 アンジェラがそう思えるほどの優しげな瞳は、今アンジェラを一心に見つめている。
「あなたの我儘はね、みんな堪えていた我儘だと思うの。私にもあったし、ホークアイにもあった。シャルロットやケヴィンもね。デュランは言わなかったけど、きっと、あるのよ?あるから、あなたの言葉を理解したのだし」
 からかうように笑いながらリースがそう言うと、デュランがげほっとコーヒーを喉に詰まらせていた。
 ホークアイがそんなデュランを見て笑う。
「だから、みんながみんな不安を抱えていた、って知ることが出来たのよ。あなたの我儘のおかげでね。だから私は」
 リースはアンジェラの背中に回ると、アンジェラを毛布の上から抱きしめた。
「ありがと、って言うわ」
「・・・っ!」
 言葉にならなかった。アンジェラの心が、はじけて流れて、流れていく。それは赤い血ではない。
 暖かく澄み切った透明の涙が、流れていく・・。
 ホークアイが二人を見ながら、デュランの方を見た。デュランはさっきこぼしてしまったコーヒーを拭いている。
「ま、アンジェラも悪気あったわけじゃねぇんだし、お前も分かれよ?自分だって恐怖に呑まれるのが怖くて、アンジェラに当たったようなもんだろ」
「・・」
 返事は無かったが、デュランが否定もしなかったので、ホークアイは肯定したのだと受け取った。それから、デュランはふと、さっきまで読んでいた新聞に目を落として、唐突にそれをアンジェラに放った。
 新聞は焚き火とポットを越えて、アンジェラの額に当たった。
「痛っ!!」
「あ、スマン。それ読めよ」
「なによいきなり・・。顔に傷なんてつけたら一生面倒みてもらうからね!」
「お前の面の皮は傷つける方が大変だっつの」
「なんですってっ!?」
 いきり立って立ち上がろうとするアンジェラを、リースが慌ててなだめた。デュランは呆れたようにアンジェラを見ると、薄ら笑いを浮かべて嫌味を言った。
「いーから、読めよ。新聞。字くらい覚えてるんだろ?お姫サマ?」
「むっかつく!どこの記事!?やだっ、コーヒー飛んでるし!」
「下のほうのちっさい記事。『フォルセナの騎士一命を取り留める』ってやつ」
「あった」
 言われた記事に、アンジェラは目を走らせた。

―――アルテナの奇襲攻撃により傷ついて治療中の騎士隊が、ようやく一命を取り留めた。この騎士隊はフォルセナ城門を配備されていたアルテナ兵とぶつかった最初の部隊であるため、アルテナ兵は城門も開かせるためにかなり強硬な手段をとったと見られる。この部隊の全員は呪術のような印があり、そのためこの2週間は呼吸困難や高熱などさまざまな症状があらわれたが、昨夜その呪術が解けたのか彼らは正常な状態に戻った。印も消え、医師の話では再発は無いだろうとの見解で彼らを家に帰した様子だ。

「・・これが?」
「印があるってかかれてたろ?」
 デュランがアンジェラをちらりと見て、そう言う。アンジェラは頷く。
「それ、お前のおふくろさんも、されてるとは思えねぇ?」
 アンジェラは驚いてもう一度新聞を見た。確かに印により、体に影響を及ぼす呪術が込められているとすればそれはありえない話ではない。
「そうか・・そしてそれを仕込んだのは・・」
「紅蓮の魔導師。アイツしかいねぇな」
 デュランとアンジェラが目を合わせて笑う。
「どうだ?これでもウチ帰るか?」
「・・帰らない!帰らないよ・・!」
 くしゃっと新聞を顔の前に当てて、アンジェラはとうとう泣いてしまった。
「誓え、もう二度と、あんな言葉いわねぇってな」
「うん、誓う。この冠にかけて、逃げたりしないと誓います・・!」
――そう、この冠をつけたまま、ウチに帰る為に―――


 本当は、少し帰りたかったの。
 あんなに恥ずかしい我儘を言った私を、これ以上見られたくなくて。
 これ以上の失態をあなたに見せたくなくて。
 遠く、離れていってしまいたかった。
 でも、そうさせてくれなかったのは、あなたの暖かさ。
 だから、もう一度、傍にいたいと我儘を思ってしまったのよ。









■Fin


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