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【聖剣伝説3】 |
| ■アルテナの花飾り[2] |
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作成日[2004/7/13] びっしりと氷が全てを覆った部屋は、きらきらと光を乱反射していた。魔法の暴走は今では収まった後らしく、氷はそれ以上増殖する様子は無い。ほとんどガラスがなくなってしまった窓からは、痛いほどの冷たい風が部屋を吹き抜けていく。 しかし、三人はそんな冷たい風の痛みよりもより目を奪われる信じられない現実があった。 厚みを帯びた氷が大きな天蓋付きのベッドを全て包んでいる。そしてその天蓋とベッドの間には、時が止まったように眠るアンジェラがいた。そしてアンジェラは、ベッドごと氷に閉じ込められているのだ。 「ホセ・・手伝ってもらえるかしら」 この期に及んでも女王は女王の威厳を手放さなかった。表情は驚愕そのものが張り付いていたが、声として吐き出された言葉はしっかりと震えもしない。ヴィクターは、女王ヴァルダのその尊厳さに胸を打たれた。 ホセも女王の言葉に静かに頷くと、手にした杖を両手で横にし、構えた。 そうしたホセの手を、女王はそっと触るとこう言った。 「ホセは、火で溶かして。あの子は私が守るから」 「しかし、女王様!それでは王女様のお体に負担が・・」 「いいのよ。私が、守りたいの。母親としてこれだけは、譲れないわ」 にこり、と笑う女王は、穏やかな母の香りを醸し出させた。その笑顔に、ホセも何もいえなくなってしまった。杖を構えなおす。勢いをつけて振り回すと、火が轟音を立てて杖から生まれた。準備するように、そして見定めるように杖の先では静かに炎が佇んでいる。 「ヴィクターは、下がっていなさい。アンジェラの周りの氷が溶け出したら、あの子を氷から取り出してやってね」 女王は静かにそう言うと、ヴィクターに笑いかけた。こんな状況でも微笑を絶やさない女王は何という精神の持ち主か。さすが、魔力を司る国の王女。アンジェラも、いつかこうなるのだろうか。そんなことを思い、ヴィクターは返事をした。 「はい、かしこまりました!」 「では、ホセ。お願い」 女王は金の錫丈を横に構えてアンジェラの体を見つめた。 ホセが熱を帯びた炎の塊をベッドに投げつけると、炎は一気に燃え盛る。燃え上がる炎は全てを飲み込もうと上へ下へと移動する。 女王は錫丈を握り締めて力をこめた。アンジェラの体にバリアを張り巡らしているのだと、ヴィクターは理解した。バリアは高度な技で一面の壁のようなものでさえ、その空間に穴をあけないように一面をつくるのは至難の業だ。今女王がやっているのは人の体を全て覆うという飛びぬけて高度な技だった。ホセが女王の体を気遣ったのも頷ける。 「女王様、大丈夫ですか!?」 思わずヴィクターは声を張り上げた。女王はしっかりと錫丈を握り締めながら、心配ない、と頷いてみせる。その頷いた顎からはぽたり、と雫が落ちていった。 この刺すような冷たい風が吹き抜ける部屋で、女王はその集中のために汗すら流しているのだ。 「ヴィクター!姫の体の周りの氷が溶け始めている!今から火力を押さえる!お前は姫様を!」 ホセの歳に似合わないくらい張りのある声がヴィクターに指示する。 「わかりました!」 ヴィクターはしばらく離れていたその場所から慌てて走り出した。女王様を早く楽にしてあげるためにも、もちろん主人のアンジェラの命のためにも、彼はここで頑張らなければならない。 火力を落とす、といったものの、氷は溶け始めたばかりであまり遠慮もしていられない。氷の中に長く閉ざされた状態になればアンジェラの命にもかかわってくる。そのため、実質の火力はヴィクターの手がアンジェラの体に届くように、一部を落としたのみだった。 「くっ・・暑い・・アンジェラさまっ!!」 ヴィクターは間近で炎が煽られているその場でアンジェラの方に手を伸ばした。 熱せられた氷はみるみる溶け出していたが、油断すると魔力で作られた氷というのは炎の魔力を還元してまた氷として復活しようとするから性質が悪い。よって炎の火力は油断なく弱めすぎないようにすることが肝心だ。そういうわけではホセの火力調節にアンジェラとヴィクターの命がかかってるということになる。ホセの緊張もただならぬものであることは言うまでも無いことである。 「アンジェラ様、もう少しの辛抱です。いま・・お助けします!!」 ヴィクターは必死に声を上げながら、アンジェラと、自分を励ましていた。そうして、アンジェラの体が氷からようやく開放され、ヴィクターはアンジェラを氷漬けのベッドから救出するのに成功したのだった。 「アンジェラっ!!」 くたくたなはずの体を押して女王はヴィクターが抱えていたアンジェラを抱き寄せた。 「アンジェラ、アンジェラ。大丈夫?」 冷たくなった体を暖めようと、女王はアンジェラの体をこすった。 すぐにヴィクターも立ち上がり、隣の部屋から毛布を取り出しアンジェラの体を包む。 ホセは炎の後片付けをひと段落させると、ほっと息をついて腰をおろした。 「ああ、もう心配させて・・一体何が起こったというの・・!」 ひしとアンジェラを胸に抱きしめながら、女王は涙声になりながらそう言った。そのぬくもりにアンジェラがようやく目を覚ます。 「・・か・・さま・・おか・・あ・・さま?」 「アンジェラっ!」 アンジェラは意識を取り戻したが、うつろな目で部屋を見渡し、傍で見守る三人の顔を見ると再び気を失ってしまった。そして、女王の方も、一度アンジェラの声が聞けたことに安堵感を得たためか、そのままくず折れるように倒れた。 それから丸一日たって、アンジェラは自分のものでないベッドの上で目を覚ました。 「・・・・一体・・私・・?」 目が覚めたのは夜だった。傍にあるソファーに、ヴィクターが看病に疲れて眠っているのを見つけた。 「・・氷・・氷は、どうしたのかしら・・」 アンジェラは状況が知りたくて、自分の部屋へ一人向かった。疲れて眠るヴィクターを一人置き去りにしたまま。 寝かされた部屋からアンジェラの部屋はそれほど遠くは無かった。3部屋ほど通り過ぎたところが自分の部屋だとわかる。そして、その部屋の扉が跡形もなくなっているのを見て、なるほど、と思う。 「王家専用の扉をお母様が解いて下さったのね・・」 アンジェラやヴァルダの専用個室や、女王の間には特別な扉が用意されている。そのためその解除を出来るのは限られた人しか行うことが出来ない。アンジェラに対してはヴァルダ王女だけで、女王の間にはその解除の力を持つのは大臣とヴァルダの専属使用人のメリエのみ。ヴァルダの専用個室は逆にアンジェラがその解除の役割を持つ。 その事実が知らされている魔導師は、実は少ない。 「中は・・と」 アンジェラは部屋の敷居をまたぐと、あまりの無残な光景に驚きたじろいだ。部屋の半分は氷に冷たく覆われた家具や壁、その片方、アンジェラのベッドがあるほうは燃やされた残骸や煤が散らばっていた。いつも寝ているベッドは既に天蓋の柱が折れて、天蓋の布は跡形もなく炭に変わっていた。黒くくすぶったそのベッドというよりも残骸と呼ぶにふさわしいそれからは、もはや炭化してしまった無機質な匂いしかしない。 「・・っ・・思い・・出した・・!」 その惨状になるいきさつを、アンジェラはうっすらと思い出したのだ。断片的ではあったが、自分が原因でこんな惨事を招いたこと、そして女王である母親やホセ、そしてヴィクターまで危険な目に合わせてしまったことを、アンジェラは思い出していた。 「・・っ・・お母様・・お母様は無事なの・・?」 こぼれそうになる恐怖の嗚咽を何とか堪えて、アンジェラは部屋を後ずさり立ち去った。 部屋から出たものの、始めは母を見舞うつもりだった。しかし、これほどの迷惑をかけてしまった自責の念がアンジェラを襲い始めると、とても母に顔向けできないという思いが心に湧き始めた。 そうなるとアンジェラは居たたまれなくなってしまう。もはやアルテナに身をおくことさえも、許されぬことではないかとその身を震わせ始め・・足は自然に城門へと向いた。居眠りしていた衛兵代わりの魔導師の傍をすり抜けて、アンジェラは人知れずこの極寒の地から抜け出そうとしていた・・。 ■To be countinued. |