【聖剣伝説3】

■アルテナの花飾り[4]

作成日[2004/7/18-19]








 アルテナ城「女王の間」では、夜更けに失踪したアンジェラの捜索隊を出動させるべきか否かで揉めていた。

「おそれながら女王様、アンジェラ様が行方不明となられて既に7時間が経過しております様子。いたずらに時間を過ぎるのを待っていては、アンジェラ様のお命にかかわります」
「何卒一刻も早く捜索隊を召し遣わせ、アンジェラ様の消息を掴むことをお考えになった方が・・」

 幾人かの魔導師が女王に進言し続け、その進言への女王ヴァルダの一言はいつもこうだった。

「しばし待つ」

 このような平行線の問答が続き、このとき既に小1時間が経とうとした。

 傍に控えていたヴィクターも気を揉みながらその状況を見守っていた。元来気の小さい彼はアンジェラを看病していたはずの自分が主を見失った責任に滅入りながらも、主の無事を切実に心配していた。

「どうして・・どうして女王様は捜索隊をお召しにならないのでしょう」
 おろおろとした声でヴィクターがそう言うと、同じく横で控えていたホセが呆れたように息をついた。
「うつけ者め・・」
「は?」

 ヴィクターが思わず聞き返すと、ホセはやっとヴィクターの方を見つめ返した。

「お前もか、ヴィクター。あの魔導師たちと同程度とは・・。お前にアンジェラ様を任せるのはちと考えた方がよさそうじゃな」

 ホセは脅しとも冗談とも取れるような声色でそう言ったので、ヴィクターは縮み上がった。

「だって・・姫様は行方不明なんですよ!彼らの言い分は当然の意見ではありませんか!」
「大声を出すな、ヴィクター。彼らがこちらに気を取られてはかなわん」

 ホセは声をひそめて、ちらりと魔導師たちを一瞥した。ヴィクターはわけがわからず、それでもホセにはむかうことも出来ないので肩をすくめた。

「どういうことですか。ホセ様は何をご存知なのです?」
「わしは知っているのではない、想像がついているのだ。少し考えれば誰もが当然の帰結に至る。お前さんの頭でも少し考えればそのことに気づくはずじゃ。少し落ち着きなさい」

 ホセにそう言われては、ヴィクターも少し頭を冷やして考える必要があった。

(姫様は、第三者に連れられたのか。それとも、自分の意思で出て行ったのか)

 ヴィクターはそっと腕を組みながら中空の一点を見つめた。

(姫様はすでに実力でならある程度の魔法力がある。連行されたというよりも、あの事件の後では逃げたのではないかと仮定すると・・姫様はそもそも何故、城を出られたのだろう)

 喧喧囂囂(けんけんごうごう)と目の前ではやり取りがなされていたが、ヴィクターはそんなことに頓着することもなく、考え続けた。

(当然あれだけの事件を起こした後では、逃げたくなるのも分かる。そして、姫様が目が覚めたとき、僕は眠っていて気づかなかった)

 ヴィクターは自分達の控える下段の隅から、上段の中央に優雅に腰掛ける女王を見つめて考えた。

(姫様はチャンスだと思ったのだろうか。僕が眠っているのに気づいて、それから城を出る。しかし衛兵がいることを知らないわけはない。姫様は何か衛兵の傍を通り過ぎる何らかの術を考えていたというのだろうか。現実には衛兵は眠っていて素通りが可能だった・・と。あれ?)

 考えていたヴィクターの頭に何かが引っかかった。何か、奇妙な一致を感じ取る。

(僕も、眠っていた。衛兵も眠っていた。結果、アンジェラ様は脱出を成功なさる)

 ヴィクターは目を見張る。

(偶然、ではないとしたらどうなる?誰かが術かなにかで、アンジェラ様の手助けをしたとして・・それが)

 ヴィクターの目が追うのは、上段で今も進言する民達を穏やかに受け止める絶対の権力者。我らの至宝とさえ言える・・。

(女王様・・?!)

「わかったか?」

 ホセがにやりと笑ってヴィクターにそう言うと、ヴィクターは空いた口が塞がらないままホセを見つめ、慌てて口を閉じた。

「えっ・・あの・・あくまで僕の妄想かもしれないし・・」
「仮説、と言わんか。妄想では何か得たいの知れない変態のようじゃぞ」

 笑いを堪えながらホセがそう言うと、ヴィクターもそれもそうですね、と照れくさそうに笑った。

「それで、仮説はおそらくあっておるよ。お前さんの考えは正しいだろう」

 言われたヴィクターが驚いて、ホセを見た。考えを見透かされたことに対しては憤慨もせず、ヴィクターはでも!と声を上げそうになった。なんとかすんでのところでその声を押し留め、気になっていたひとつのことを口にした。

「でもそれじゃ、1つつじつまがあわないことがあるんです」
「なんじゃ」
「大臣です」

 ヴィクターは今もまだ捜索隊のことで女王を説得しようとする人員の中に、大臣がいることに気づいていたのだ。

「僕が気づいたのに、大臣が気づかないなんてありえないと思うんですが・・」

 ホセはふむ、とたっぷりたくわえた顎のひげを撫でながら、大臣を見つめた。

「ありゃぁ・・フェイクじゃからな」
「フェイク?」

 ヴィクターはきょとんとしてホセの言葉を繰り返した。

「知らない振りをしておるのじゃよ。この茶番が終わってしまわぬように、な」
「茶番ですって?」

 声がひっくり返りそうになった。ヴィクターがいちいち驚くのを、ホセは多少わずらわしそうな目をして息をついた。ヴィクターがすみません、と謝る。

「女王が王女の失踪に手を貸したとなれば、民達は驚き女王の信用に影を落とすであろう?そのことを知られないようにしなければならないからの。民達にお前さんと衛兵が眠っていた事実を知る者は少ないのが幸いしておるがな」
「確かに・・そうですね」

 ヴィクターは一瞬そこで答えを見出せたかのように安心した声を出しかけたが、問題はそこでないことに気づいた。

「アンジェラ様の脱走経路の確保についてはわかりましたが、捜索隊を出さない理由が・・」
「必要ないからじゃよ」

 ホセはめんどくさそうにそう言った。ヴィクターがもう一度何かを聞きただそうとして口を開こうとしたときに、女王の間の扉が重々しい音をさせながら両開きをし始めた。

 女王の間にいた人々は驚いてその広間の正面にある大扉を見つめた。侍女達が扉を開ききるのを待たずに、魔導師、大臣、ヴィクターにホセ、そして女王の顔に安心の表情が広がった。

 そこにはアルテナ王国第一王女アンジェラが立っていた。

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。王女アンジェラ、ただ今アルテナ国に帰還いたしました」

 魔導師たちはあまりに突然な事態に驚き立ち呆けていたが、女王はすっと椅子から立ち上がると全員がその場に跪いた。

「アンジェラはこの通り無事姿を見せました。捜索隊の準備をしていた者達にはすぐにその準備を解くことを伝令なさい。アンジェラ、ここにいる全ての人たちに謝罪なさい。お前のことを心配して夜も眠らずここに留まっていた者たちなのですから」

「はい、お母様」

 アンジェラは跪いた姿勢から立ち上がり、すたすたと歩くと下段のフロアの一番前の辺りに立ち、その場にいる人々を見回した。

「私の勝手な行動のせいで皆の安眠を妨げたことを謝ります。魔法だけでなく、この身の未熟さの処罰は女王より受ける覚悟です。皆にはその処罰で許しを得たいのです」

 そういうとアンジェラは腰を折り、この場にいる魔道師達に頭を下げた。
 魔導師たちは恐縮して跪いたまま頭を下げた。そして代表の一人が声を上げる。

「アンジェラ様のご無事な姿を拝見し、誠に安心いたしました。女王様には我らの退出をお許しいただきたいのですが」

「許します。ご苦労でした」

 女王はその威厳を保ったまま声高にそう言うと、魔導師たちは今一度頭を下げて今しがた開いた扉を通って女王の間を退出した。

 そして、魔導師たちの退出を見届けると侍女達が重い扉をまた閉じ始め、ようやく閉じきったところでその場にいるアンジェラを除く全員が息をついたのだった。

「アンジェラ様っ!」

 たまらずヴィクターはアンジェラの傍まで走り出すとその正面で手を祈りの形にして両膝をついた。まるでアンジェラの姿を女神のように崇め、そしてほろほろと泣き出してしまう。

「アンジェラさまぁ〜〜本当にアンジェラ様ですね!?よかった・・本当にご無事でよかったぁ!!」
「ヴィクター・・ごめんなさい」

 アンジェラがしおらしくそう言うと、ヴィクターは更に激しく泣き出してしまう有様だ。これまで心配していたので、どうやらアンジェラのその声に気が緩んだようだった。

「意外にお早いお戻りでしたな。もうちょっとかかるかと思いましたが?」

 ホセが意味深にそう言うので、アンジェラははっとした。どうやらホセには行き先がばれているようである。そうとすれば、もちろん女王ヴァルダも気づかないわけは無い。

「そうね。もう少し甘えてくるのかと思っていたわ」

 こう言われてしまっては、アンジェラは赤くなって縮こまる以外方法は無い。恥ずかしさに耐えていると、大臣が助け舟を出すようにこう言った。

「いやいや、この時間でよくお戻りになってくださいました!これ以上引き伸ばすのは少々もう無理がありましたのでな」

 大臣はそう言ってその場をなだめようとした。

「まあ、それはそうね。昔のアンジェラならしばらく帰ってこなかったでしょうし。これはやはりアンジェラの成長とみるべきね」

 女王も仕方なく大臣の言葉を受け取ってはそう言った。
 その言葉に、アンジェラはほっと肩の力が緩む。

「ただし、それなりの処罰は与えます。皆にこれだけの迷惑をかけたのだから、いいわね?アンジェラ」
「はい・・」

 女王にこういわれては、さすがのアンジェラもうなだれ頷くしかない。ヴィクターが心配そうにアンジェラを見上げている。

「夏祭りまでの1ヶ月みっちりホセに教育してもらいます。朝・昼・晩とね。魔法のこともさることながら、あなた他の教科の勉強はそれ以上におろそかだと聞いてるわ。これにはもちろん、見張りつきでね」

 ホセはそれを聞いて思わず忍び笑いを漏らし始めたが、アンジェラは笑うどころの騒ぎではない。うんざりと眉間に皺を寄せたが、女王が厳しい瞳で見つめ返すのに気づいて慌てて膝をつくと、返事をした。

「わかりました・・」
「よろしい。それではホセとアンジェラは即刻その支度をなさい。そういえばホセ、あなた体は大丈夫?昨日は眠れてないのでは?」

 女王はホセを気遣ってそういったが、ホセはにやりと笑ってみせる。

「私のような年寄りは多くの睡眠を必要としませんでな。それよりもアンジェラ様とのお勉強が楽しみです」
「ありがとう。付き合ってもらって悪いわね。お願いするわ」

 ヴィクターがそのやり取りに、思わず口を挟んだ。

「あ、アンジェラ様だって不眠不休のはずですよ!昨日の氷漬けの後でそんなご無理は・・!」
「それも、罰のうちです。迷惑をかけたのだから、アンジェラはそれを理解しなければなりません。アンジェラ、いいわね?」

 鋭い口調で女王がそう言ったので、ヴィクターはしゅん、としょげ返った。アンジェラはそんなヴィクターにありがとう、と手をかけながら、女王には分かりました、と返した。

 アンジェラは、自分の責任を全うすることを覚え始めていた。








■To be countinued.


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