【聖剣伝説3】

■アルテナの花飾り[5]

作成日[2004/8/8-9]








 もともと夏祭りというお披露目の場のために魔法の勉強はそれなりにやっていた。しかしアンジェラは、その夏祭りでのお披露目を何故今自分がしなければならないのか、母への疑惑がわだかまりとなって、それなり以上の打ち込みが足りなかった。時間に追われ焦る日々。結局それが元で自分が自分の魔法の餌食になると言う、魔法使いにとって最大の過ちをアンジェラは起こしてしまったのだ。

「己に負けた、というところですな。アンジェラ様」

 ホセの言葉にアンジェラは、びくっと肩を震わせた。その言葉に聞き覚えがあったのだ。
 旅をはじめて間もない頃、デュランはいつもそう言っていた。この旅で、己に負けた俺自身をもう一度鍛えなおしたいのだ、と。

「そう、だと思うわ・・」

 アンジェラの寝室は今は改修作業のために青いシートで覆われ入室禁止となっていた。アンジェラは、仮部屋で講義を受ける前にホセと話をしていたところだった。

「お母様も、ホセも、ヴィクターも・・無事でよかったわ・・。心配だった。でもあのときはそれ以上に皆が無事かどうかを確かめるのが怖かった・・。自分が可愛かったのね。私が皆を怪我させたのか知るのが、とても怖かったの・・」

 しょげてうなだれるアンジェラを見て、ホセは息をついた。
(この方はまだ、未熟すぎる。しかし女王様はこの娘の心理状態を深く熟知なさっている。だからこその夏祭りの催しとしてこの方を抜擢したのであろうが・・裏目に出てはいまいか?)
 ホセはそう思ったが、顔には少しも出さずに手近な椅子に腰掛けながら言葉を選ぶように話した。

「しかし、アンジェラ様はお帰りになった。ここ、アルテナへ」
「ええ、だから。今は怖くないの。だって、私が大事に思う人たちは無事だったわ」

 アンジェラはホセを見つめながら、まっすぐそう答えた。まっすぐ、よどみない声でその言葉はホセの胸に届く。

「私はお母様と話したいと思うときに話せるし、ホセに尋ねたいと思うときに尋ねられるし、ヴィクターに頼みたいことをいつでも頼むことが出来る。それって、幸せなことね。当然過ぎて、忘れてしまうところだったわ」

 アンジェラの口から紡がれる言葉はまるで、清流を流れる湧き水のごとく澄み切っている。その洗練された言葉遣いは、魔法の威力にも自然と出てくるはずだとホセは確信した。なぜなら、魔力とはそもそも精霊に力を借りて初めて発揮できるもの。そして全ての精霊は美しいものを好む。心も、言葉も美しければ、精霊達は自然と力をそのもののために注ぎ込む。だからこそ、魔力は精神性に比例するものなのだ。
 ホセはアンジェラの言葉を聞きながら・・これは、と思った。
(・・あながち裏目というには早計か?)

「では、始めましょうか。姫様」
 ホセは、アンジェラ自身の躍進に期待をかけながら、それでも顔には一切表さずにそう言った。



 一ヶ月とは長くもあり、短くもあった。

 アンジェラが実際講義を受けたのは、魔法の講義だけではなかった。魔法の講義は総計すれば全体の5分の一にも満たないだろう。ホセは魔法だけの講義に偏ることを寧ろ嫌った。魔法の講義とは、結局基礎の部分さえ講義では教授しきれないものなのだ。実技ももちろんだが、結局精霊達に気に入られなければ魔力を効果的には出力することは出来ないのだから。

 先の冒険でアンジェラは一度は精霊達を味方につけた。しかし、世界が危機に瀕していたという背景と、アンジェラが成り行きとは言え聖剣の勇者に選ばれたと言う事実があったからこそ、というのが理由としてはふさわしい。結局ここでは精霊達がアンジェラを選んだ理由付けが無いに等しいのだ。

 ずっとアルテナでその力を振るうウンディーネは、遠い昔にアルテナ王家と末代までの契約が交わされている。だから、その力を借りることは他の精霊よりは難しくなく、だからこそ力の恩恵は受けやすい。ただ制御しきれるかは術者の能力にかかっている。その他の精霊については、冒険の後となっては気まぐれで力を貸す程度。アンジェラは事実上、水を司る魔法以外はほとんど使えなくなっていっていた。

 しかし、ホセは効果的にこの1ヶ月を利用した。アンジェラのために、特別なカリキュラムを作成し、女王と検討もした。そして、その講師役に必要な人間にもホセはためらうことなく頭を下げ、アンジェラの講師役と次々とつけた。

 大臣からはアルテナ王家に伝わる帝王学のさわり(この部分を深く追求するには時間が足らなすぎたのと、アンジェラの理解力を損なわないため)を行い、魔導騎士レイファには魔法を使う心得を説いてもらい、その実技に向けて必要な講義と認めたものがあればアンジェラに自主的に提案させた。

 アンジェラから欲したものは意外なことに、ホセからすれば関連として思いつきもしなかった声楽と舞踊だった。

「旅先でね、きれいな踊り子を見たの。軽やかでとても美しかったわ。きっと精霊達は嫌いじゃないと思うの」

 そう言ったアンジェラの要望に答えるべく、ホセは人づてにその専門家を国外から呼び寄せることもしてのけた。実はアルテナに住む民族性として、歌と踊りはあまり発達していないのだ。冷気に覆われた国土ではどうしても人々は動きとして俊敏な動きをせず、雪原の無音さを妨げることを嫌うように声を張り上げることを良しとはしないのだった。

 そうして、アンジェラが希う講義と、ホセと女王が丹精こめて作り上げたカリキュラムをこなし、アンジェラはその日を待ち受けたのだった。



 ぽん、ぽん、と花火が上がる。夏祭りの開催日、人々は開門したアルテナ城へと吸い込まれていく。魔法のお披露目は特別に設置された中庭の舞台で行われる。人々に失敗した魔法が飛び火せぬよう、観客との間には確実な結界が設けられる。これはもちろんこの日の女王の役目である。
 アンジェラはかりそめの部屋からその様子を見て、ふふん、と鼻で笑ってみせた。

「自信たっぷりのようですな、アンジェラ様」
 ホセが近づきながら窓の外を見下ろすアンジェラにこういうと、アンジェラは振り向きざまにガッツポーズを見せながらこう言った。
「あったりまえでしょ!この日のために頑張ったんだもの!自信が無くてやってられますか!」

 持ち前のアンジェラの明るさが前面に出ていた。傍に控えていたホセとヴィクターが顔を見合わせては安心したように微笑みあう。

「慢心はせぬように」
「わかってるわ。心地いい緊張感よ。とってもうまく行きそうな気がするの!この衣装のお陰かも」

 アンジェラが今来ているのはいつものレオタードでもなく、また城にいる間着せられる宮廷用のドレスでもない。どちらかと言えば、その合間をとるように作られた踊り子の衣装だった。

 薄い繻子折りの生地を利用したその纏(まとい)はきらきらと光を反射させて見目麗しく、それでいて民族的な踊り子の衣装よりもいくらか高貴な雰囲気を醸し出している。指にはめた指輪とつなぎとめられて、アンジェラが手を広げれば鳥の羽が存在するかのごとく風に翻るような仕組みになっている。下半身はもっと薄い生地がアンジェラの細い足を飾るかのごとく覆われている。そこにはいくつか切れ込みが入り、踊りの際には邪魔にならぬよう細工が施されている。そして、色鮮やかな腰巻腰撒きの一番上には鈴なりの上品な金のベルト。踊ればその足のタイミングと同時に音が鳴り響くのだ。

「楽しみです!しかしあまりご無理はなさらないようにお願いしますよ!姫様!」

 やはり小心者のヴィクターがそういえば、アンジェラは苦笑交じりに腰に手をあててヴィクターを逆に脅しをかけた。

「わかってるわヴィクター!あんたこそ、よおくみてないと承知しないからね!」
 ホセは窓の外の太陽の位置を見計らうと、懐中時計を確かめた。
「さ、ではそろそろ時間でもありますから移動しましょうか、姫様」
「ええ!」

 ホセに伴われ、アンジェラは部屋を出て行った。ヴィクターはその専用の舞台には呼ばれていない。部屋を出て行くアンジェラを心配そうに見ていたヴィクターだったが、頭を振ると扉を開いてアンジェラに声を張り上げた。

「アンジェラ様ー!!頑張ってくださいねー!」

 アンジェラは後ろを振り向かず、腕だけ上げてその言葉に応えた。ヴィクターには見えなかったが、満面の笑みをたたえながら。



 舞台の観客席は既に満員御礼。今回はアンジェラの魔法がお披露目されるともあって、その観客は通年の倍以上に達していた。1年前まで魔法が使えなかった次代の女王を心配する国民は、やはりその目でその力の程を確かめたいらしく立ち見もでる有様だった。

 女王はアンジェラに余計な負荷を与えたくないと思ったためか、その順番は他の誰よりも先を用意していた。一番手。誰以上でもなく、誰以下でもない舞台。しかし、前の誰よりかはましだという安心感も、これまでの平均的な力も窺い知ることが出来ない、一番不利な順番でもあった。

「緊張は?」
 ホセに言われ、アンジェラはくすっと笑った。

「ないわ。言っておくけど、自信のある能力を人前でお披露目するのは大好きよ」
「安心しました。存分に」

 ホセは軽くお辞儀をしてアンジェラの傍から辞した。
 母ヴァルダからの祭りの祝辞が控え室にも届いている。まもなく、自分が呼ばれる。なんとはなしに、デュランが出ていたという剣術大会を思い浮かべてしまっていた。戦いの前のデュランの気持ちも、こう言った昂揚感に満たされていたのだろうかと、思いを馳せる。

「アンジェラ様、時間です。こちらへ」

 夏祭りのスタッフ要員である一人が、アンジェラを呼んだ。アンジェラはすっくと立ち上がった。
 しゃらん、と腰につけたベルトがアンジェラの代わりに返事した。
 控え室に設けられていた中庭に一番近い部屋を出ると、中庭に出る扉をスタッフは開いて待った。アンジェラはその横をすべるように走り抜けると、中庭に特別にあしらわれた舞台に向かって行った。

 天気がいい。アルテナは日照時間がほとんどないのでこれは珍しいことだった。久しぶりの太陽に照り付けられた観衆達はアンジェラの美しいその姿に一度は息を呑み、それから割れんばかりの拍手に包まれる。アンジェラは四方にお辞儀をしてから、中央に立ちなおし深呼吸した。
 始まりのコングを打ち鳴らすかのごとく、アンジェラは一つジャンプすると鈴を鳴らし踊り始めた。



 星の導き 天佑神助(てんゆうしんじょ)
 数多なる人の声を聞く精霊達よ



 朗々と高々に空に届く声にあわせ、アンジェラはステップを踏んだ。足のステップと、指先で生まれるその軌跡に地面と言わず、空間と言わず、魔法陣が生まれた。人々は早くもその技に圧倒される。一般に魔方陣を瞬時に現す方法はごく一部の人間にしか認められていない。そして、その方法と言うのが歌と踊りと言うのもこれまでにない方法なのだった。



 我の声を聞き届けたまえ
 我とともに時を分かちたまえ



 計8種の魔方陣が完成した。アンジェラはにやりと唇を上げた。今までには最高で6種が精一杯だったがやってみて正解だ。この気分の昂揚感を利用して成功すると自分を信じたおかげに違いない。

 いでよ古来よりマナを司る精霊達よ!

 しゃん!と一度ステップを切ったせいで、高らかに鳴り響いた鈴の音。それから静寂。人々は呼吸をするのも忘れてアンジェラの姿に見入っている。ヴァルダにホセ、ヴィクターが息をひそめてその成り行きを見守っている。

 すると、淡い光がアンジェラに対して螺旋を描きながらくるくると地面から天に向かって走りあがっていく。それぞれ精霊特有の色を発しながら、人々になかなか姿を見せない精霊がアンジェラの声に呼ばれて名乗りを上げたのだ。

 アンジェラは微笑んだ。精霊達に優雅に腰を折り、感謝の礼を尽くす。
 そして、アンジェラは再び踊りだした。くるくるとアンジェラを慕うように精霊達はアンジェラの体を取り巻いた。アンジェラは魔方陣を整えるために、踊りながらその位置を補正していった。魔方陣は物理的に描かれたものではないので、アンジェラがそう念じれば移動できるのである。


「マナの女神様、今一度お力を!我は魔法王国アルテナの次代女王アンジェラを名乗る者なり!」


「まさか!女神も?!」
「ありえないことだ!!無理に決まっている!」

 思わず観客から声があがった。ヴァルダが目を見張り、ホセは手を握り締めた。ヴィクターは満身の力を振り絞るように震えながら祈りを込める。

 ぼう、とアンジェラの体が碧色の気配を纏った。
 アンジェラの体のすぐ後ろに、頭から竜の角のようなものを生やした緑色のオーラをもつ女性が万人の前に姿を現したのだ・・!


「わたくしはマナの女神。アルテナの次代女王アンジェラ。あなたのその想いに乗せて、わたくしの力を一時(いっとき)授けましょう」


 アンジェラはほっとしながら頷いた。ありがとう、と言葉が漏れたときに、女神が微笑んで応えてくれた。




――1週間前。
「女神を呼び出す、ですと?」

 冷静沈着そのものであるホセが裏返りそうになる声を何とか堪えて言うのを見るのは、アンジェラにとっては珍しくて可笑しい。アンジェラはそんなことを思いながらも、踊りの練習は怠ることなく続けながら、そうよ、と答えた。

「まさか!今のご事態、姫様だってお分かりでしょう?」

 ヴィクターもホセの声とあわせて干上がったような声になっていたが、これは珍しくも何とも無い。いつものことだ。

「分かってるわよ。女神様は力を蓄えるためにお休みになっている。いわゆる休眠期間よね。分かってるも何も、私がその姿を見てきたその人なんですもの」
 踊りの規則性を何とか会得しようと、無理な体勢でジャンプするアンジェラは、途中途中でよっ、とか、ほっ、とか掛け声を入れながらそう言った。

「練習では呼び出さないわよ。いくらなんでもそれは失礼だものね」
「当たり前です!!」

 珍しく、ホセとヴィクターの声が重なった。二人が思わず顔を見合わせると、アンジェラはあははっと二人を指差して笑う。
 指差すアンジェラを不機嫌そうに二人は見つめながら、アンジェラに詰め寄った。

「笑っている場合ではありませんぞ、アンジェラ様」
「そうです!女神様なんて、呼び出せるわけが・・!」
「ないっていうの?」

 鋭き聞き質すアンジェラに、ヴィクターは思わず首を引っ込めて黙り込んだ。アンジェラはもう一度ジャンプしてみせるとアンジェラは踊りの練習を終えたのか、二人の前に歩み寄る。

「そうね、無理、だとは思う」
「では・・!」

 ホセとヴィクターがまたも声を合わせて、希望に満ちた声を上げたが、アンジェラは二人の期待にこたえられないと無下に首を振った。

「試したいの。駄目なら駄目でもいい。でも私の気持ちが女神様・・もとい、フェアリーにも届いたら、きっとフェアリーはわかってくれる」

 真剣なアンジェラの言葉に二人は言葉もなくアンジェラを見つめた。アンジェラは遠い空を見つめながら、目を細めた。

「私はあの舞台では失敗できないんだもの。アルテナの国民が女王としてふさわしいかどうかを見定めるあの舞台では、絶対に。私の力を見せしめるためにと言うよりも、それは国民の皆に安心してもらうために。私の友達だったフェアリーならきっと来てくれる。今はそう信じているわ」





 神々しいほどまでのマナの色を輝かす女神。その姿にフェアリーだった頃の面影はもう無い。しかし、その瞳は、アンジェラと長き旅を共にした心の全てを打ち明けてしまったフェアリーのときの瞳と変わらない。

―しょうがないなぁ。アンジェラは。

 いつもそう言ってアンジェラを、仲間達を一緒に励ましてくれた。

「ありがとう、来てくれて」
「今日だけ、よ」

 女神様には似合わない膨れ面を一瞬だけ見せると、アンジェラは笑った。

「踊ってみたくてしょうがなかったんでしょ?フェアリー楽しそうに踊り子見てたの、覚えてるもの」

「いやになっちゃう、アンジェラってば」

 仕方なさそうに微笑を湛えて女神がそう言うと、アンジェラは女神の手をとり一礼した。

「いいじゃない、今日は踊ろう?」

 女神が肯定するよりも早く、アンジェラはシャン!と鈴を鳴らしてステップを踏み始めた。女神はアンジェラにあわせて、優雅な踊りを披露し始めた。

 なんというコラボレーションか。人々はこれまでにみたこと無い恐ろしく神々しい舞台に酔いしれた。王女と女神の舞に加え、精霊達がそれを飾るかのごとくあるときには炎を噴出するサラマンダーに、あるときには氷を突出させて舞台に彩りを添えるウンディーネ。ドリアードその時の踊りに合わせて花を咲かせたりすれば、一瞬の幕の変わりに砂嵐を起こすノームとジン。

 しっとりと踊りを変えると、シェイドが空を暗転させて、月のきらめきをルナが舞台に溢していく。不思議な空間に観客を引きずり込んだアンジェラは、特訓の成果を披露した。

 この国を輝かす美しき白の結晶
 その姿を麗しき花の姿へ

 ウィル・オ・ウィスプの力により空の一点がライトアップされた。観客の視線が自然と空へと誘導させられる。ふわり、ふわりと舞い散る雪。小さな粉雪があちらこちらから舞い落ちる。アルテナにとっては見慣れた景色だった。しかし、粉雪の舞い散る規則性がいつもと違うことに観客は気づいていた。
「なんだ・・?」

 舞い落ちるは花の形をした雪だった。次々に振りそそぐ雪は人々の手のひらや服に落ち、解ける前に一瞬花の形を見せて儚く消えていく。美しき雪の花。ひらり、ひらりと空からの恵みの白い花は人々を大いに驚かせ、楽しませた。

 寒さに手がこごえても
 暖かさに羨むことはあっても
 決して望みはしない
 アルテナの誇りとして



 あまりに豪華な舞台に人々は呆然としていた。アンジェラが精霊達に深くお辞儀をし、精霊達も楽しそうに方々に散っていくさまを見るにつけ、人々は舞台が終わったことをようやく認めて拍手をし始めた。そしてそれは次第に膨れ上がって地響きするほどの拍手喝采がアンジェラと、残った女神に向けられた。

「一つプレゼントがあったの」

 女神というよりも、フェアリーだった頃の口調そのままに、アンジェラにささやく。アンジェラはきょとんと女神を見つめなおすと、ふわりと女神が微笑んである方向を指を指した。

「あそこにいるわ・・あなたにとっての最高のプレゼント。受け取ってね」

 そういうと女神は体を透けさせて消えていく。アンジェラは不思議に思いながら、女神が指差した方を見つめると、呆然と見つめるある人の視線に気づいてどきりとさせられた。

「・・っ・・デュラン!?」
「アンジェラッ!!お前すげぇっ!!」

 いつもならアンジェラがデュランに駆け寄るところだが、アンジェラは予想だにしない展開に足が動かせなかった。そうかと思えば、デュランは先ほどのアンジェラの素晴らしい舞台を見せられて興奮していたせいか、いつも見せない行動に出た。
 デュランは舞台にあがりアンジェラに駆け寄ると、そのままアンジェラを抱きしめて高く抱え上げたではないか!

「ちょっ・・デュラン!?」

 あまりのことに目を白黒させてアンジェラが喚くが、デュランの方はと言えば興奮冷めやらぬ状態でアンジェラを高い高いしてしまう。

「すっげーなっ!お前ホントすごかったぜ!やれば出来るじゃねぇか!!」
「やっ、ちょっと!デュランってばっ!!」

「俺あんなすげぇの、初めて見た!踊りなんか見てても面白いモンだって思ったことねえのに、すっげー興奮した!俺の方が思わずガッツポーズしちまった!」

 言われて、アンジェラもなんだかどうでも良くなってしまった。どちらかといえば高い位置から見える観客の目が気になってしまっていたが、いつも褒めてくれやしない相手にこうも褒められては喜びを拒否することなんてできやしない。

「デュランのお陰よ。アンタが優しく突き放してくれたから、ちゃんと私のこと考えてくれたから」
「アンジェラ」

 喜びに満たされて泣きそうになっているアンジェラの顔を認めて、デュランは神妙な顔をして一度アンジェラを下ろした。

「ばぁか!おめーがちゃんと頑張ったからだよ!俺は情けなくも力づけることさえできなかったからな」

「違う!デュランが思ってくれたから、考えてくれたから私は頑張れたの。本当よ」

 とうとうこぼれてしまった涙をそのままに、アンジェラがデュランを見つめる。デュランはその美しさ、その高貴さに圧倒される。愛しさに堪えきれず思いが胸に溢れる。

「アンジェラ」

 ごくりと息を飲む観客の雰囲気に、その時やっとデュランは気づいた。我に返って辺りを見回すと、舞台を一周する観客席の人々が次なる展開を期待して、好奇の目を光らせていた。

(・・・・っ!!やっべー!ここって・・思いっきり舞台の真ん中じゃねぇかぁぁぁぁ!)

 一気に事態を把握して頭に血が上る。顔中が赤く染まったデュランは今にも湯気が出そうになってる。アンジェラは、今更?と途中で打ち切られた事の次第に憤慨するように腰に手を当てている。アンジェラとしては、別段人目に曝されてもどうでもよくなっていたらしい。

「デュランー。続きは?」
「馬鹿っ!できるかぁっ!」

 デュランはアンジェラの手を握ると、そのまま舞台を降りていく。アンジェラは始めほとんど引っ張られるまま走っていたが、途中から笑いを堪えて一緒に走り出した。

「愛の逃避行と行きましょうか?ねぇ、黄金の騎士さん?」

 おどけてアンジェラがそう言うと、デュランがむうっと顔を逸らしてアンジェラの手を握り締めた。

「許されるものならば、な」

 その言葉をアンジェラは一瞬聞き違いかと思った。そうではないと分かったのは、握り締められた手のひらの暖かさのせいだった。握り締められても痛くも無い、その心地よさのせいだ。

「やっるー!デュラン」
「お前が言うな!」



 一方、特別席で見つめていたヴァルダとホセはこの展開にひとしきり笑い、ヴィクターは主の評判を気に病んで突っ伏してしまったのだった。







■Fin.


っつーか。これでいいんだっけこの話・・(--;)
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