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【聖剣伝説3】 |
| ■君のためにできるあらゆること |
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作成日[2005/5/22] 「馬鹿っ!!」 いきなり怒鳴り声がして、辺りの人々は思わずその声を出した張本人を目で追った。 酒場のそこここでにぎわっていた雑談の声はその怒鳴り声によってぴたりと止み、人々は手に持っていた酒の存在も忘れてその娘を見つめる。 その声の元は、すらりと背の高い金髪の少女だった。その娘の手には、遠目にも判るほどキラキラと不思議な色に光る花が握られていた。しかし、その花を一輪握り締めた少女は、相手の男に怒っているような、それなのに今にも泣き出しそうな顔をしているのだった。その娘は一人だけ立ち上がっていたので、人々は娘のその表情を読み取ることが出来たのだが、その表情から事情を理解するには難しすぎた。 「リース・・そんな言い方ないよ。せっかくホークアイがあんたのために・・」 傍らに座っていた娘が、興奮のために立ち上がってしまった少女を宥めるように手を引いた。しかし、立ち上がった娘―――リースは、傍らの娘の手を振り払った。 「そんな・・命にもかかわるようなことを簡単に・・こんなことをしてもらっても、私ちっとも嬉しくなんて・・!」 「リース!!」 傍らの娘が立ち上がってリースの肩を揺さぶった。 「あんた、なんてことを・・!」 「アンジェラ、いいんだ」 余裕の笑みを見せながらワインを一気に飲み干したのは、先ほどリースに怒鳴られた男、ホークアイだった。リースの肩に手を当てたまま、アンジェラは気の毒そうにホークアイを振り返る。 「だって・・」 「リースからすれば、きっと理解できないことだったんだよ。でも、俺はその花を取ってきたことに後悔はない。俺がやりたかっただけなんだ」 「そりゃぁ・・そうかもしれないけど・・」 アンジェラがホークアイと話している隙に、リースはアンジェラの手から逃れてすたすたと歩いていってしまう。そして一番近い出入り口のドアに手をかけると、店を出て行ってしまった。 そのドアの音を合図に、店は再びいつもの雑談に溢れた雰囲気を取り戻した。 「怒らせるつもりはなかったんだけどなぁ」 ホークアイがそう言うと、同じ円卓に座っているケヴィンも不思議そうに首をかしげている。 「リース、なんで急に怒る?」 「かーっ!なーぁんでこう男ってわっかんないかなぁ〜〜!」 一度立ち上がってしまったアンジェラは苛立たしげに椅子に座りなおすと、赤い色をした炭酸系の酒を口に含んだ。そんなアンジェラを見て、デュランはむっとしたようにアンジェラを問いただす。 「なんだよ。お前はリースが何で怒ったのかわかるってのか?」 「ばっかじゃないの!わからないわけないでしょ!」 アンジェラは今にもその酒をデュランにぶっ掛けるのではないかという勢いで言い返す。言われたデュランはその剣幕に圧倒されながらきょとんとするしかなかった。 一見一番お子様に見えるシャルロットが、事の成り行きを見つめた後はぁ、と息をついた。 「所詮、このメンバーで女の機微をわかれっていう方が無理なんでち・・」 「そうよねぇ・・」 アンジェラもシャルロットに同意を示して深く頷いた。 男三人は女二人からの言われように顔を見合わせると、代表してデュランが一言、こう言った。 「なんだ?キビって」 一瞬後、デュランの間抜け面は分厚い本につぶされていた。 「辞書を引きなさいっ!」 「【機微】・・表面からは知りにくい微妙な心の動きや物事の趣。だとよ」 女二人もあの後すぐに気分を害して酒場を後にした。男達もなんだかそんな状態ではどうにも酔う気分にはなれず、ほどほどにして部屋に戻ったところだった。デュランはベッドに寝転がりながら、投げられた辞書を開いていた。 そんなデュランを見て、ホークアイがへぇ、と笑う。 「お前やっぱ真面目だなぁ。アンジェラにぶつけられて腹立ててた割に、そういうことはきちっとやるんだもんな」 「うるせぇよ」 デュランは照れ隠しに手にもっていた厚い冊子をホークアイに投げつけた。ホークアイはその細い腕にも関わらず、投げられた分厚いものをしっかりと受け取った。 「おもむき・・・?」 ケヴィンがデュランの言った意味にも理解が出来ずに声を上げた。ホークアイが、空気とか雰囲気のことだよ、と言うと、ふうーん、とイマイチわかっていない顔でケヴィンは頷いていた。 「それにしても、なぁんでリースあそこまで怒るかなぁ?」 デュランは辞書を引いてみたものの、やはりその意味を知ることは出来ても理解することは出来なかったようだ。 「やっぱり、デュランも判らないか?」 自分だけがわからなかったわけではなさそうだ、ということに安心したのか、ケヴィンがすぐさまデュランが寝そべるベッドに近寄ると腰掛けた。 「ああ、全然わかんね。大体、辞書にすら『知りにくい微妙な』とか書かれてるんだぜ?そんなの判れっつー方が無理だろ普通」 「そうか」 デュランがそう言ってくれたことに完全に安心しきって、ケヴィンは嬉しそうにそう言った。ごろんと、同じベッドに寝転がった。そんな二人を見て、ホークアイは肩をすくめる。 「ま、俺はわからんでもなかったけどね?」 「そうなのか?」 デュランとケヴィンがそろって腹筋ですんなり上半身を起こす。一人がやるなら感嘆の声も出ようものだが、二人同時に並んでそういうことをされると気色悪いものがある。ホークアイは心の中でげんなりした。喉まででかかった『筋肉バカ』という言葉を辛うじて飲み込む。 「そりゃ、いくら身軽な俺でも断崖絶壁の岩山を一人で登ってきたって言われりゃ怒られるのも無理ないかな」 「リースに渡す花のためにしてやったことなのにか?」 デュランは不思議そうに、そう問う。 「だからこそ、さ」 「じゃ、ホークアイ言わなきゃいいのに」 ケヴィンがそう言うと、ホークアイがま、そうなんだけどね、と片目をつぶって見せた。 「やっぱ、頑張ったところも知って欲しいじゃねぇか、男としては」 「裏目に出たけどな」 デュランに即座にそう返されて、ホークアイはさすがにむっと顔を歪めさせた。 「言いたいこと言ってくれるけど、デュランはリースの怒った理由は判ったわけ?」 「ぜーんぜんわかんね」 あっけらかんと、そういうデュランを憎々しげにホークアイが睨みつける。あくまでも親身になろうとしないデュランに腹が立ってしょうがなかったが、ふと面白いことを思いついてホークアイがにやりと笑った。 「デュラン。これなら君にもわかることだと思うけどね」 「なんだよ」 ホークアイの表情を読んで、デュランが少し身を引いた。よからぬ事を企んでいるのだと気づいたのだ。 「例えば君を慕うお姫様がいたとする」 「な、なんだそれ」 デュランの顔が一瞬変化する。焦った顔を瞬間的に隠そうとしたための、一瞬の変化。 「いやいや、例えば、の話なんだよデュラン君。あまり気にしないでくれたまえ」 「・・・」 下手に何か言うとボロを出しそうだと思ったのか、デュランは真一文字に口を閉ざして体操座りをしてじっとしていた。 「そのお姫様が未来の騎士になる君のために鎧一式を揃えようと考えたとする。兜から小手、鎧に合わせた剣や靴に至るまで全一式を揃えるためには君も知っている通り、かなりのお金が必要だが、それよりもその鎧一式を作る職人も必要だ。心優しいお姫様は、より良い鎧を君に与えたいと考え、北の大地随一の鎧職人を・・」 「なんで北の大地なんだ」 何を言われるのかわからないデュランが、落ちつかなげに一言入れた。ホークアイはにぃっと笑うと、 「いやいや、別に北でも南でも西でも東でもいいんですがね、旦那。例えばの話ですんで、へえ」 と、どこかの下品な商人のような声色を出してそう言った。デュランは再び真一文字に口を閉じて膝を抱える格好をする。余計なことは言うまい、という顔だ。 「で、だ。ええと何だっけ?そうだ、その鎧職人は何と!北の大地の最高峰の山の頂きに住む爺さんで、そいつに会うために健気なお姫様は単身、山に乗り込んだとする。さぁて、デュラン君、君はどうするかね?」 「・・・。止める、な」 デュランは慎重に顔を堅くしたままだったが、そう言った。 「あれ、案外素直」 ホークアイが意外そうな顔でデュランを見つめる。デュランも少し余裕が出たのか、ふっと笑ってみせる。 「例えば、の話だろう?女にそんな危険なことさせられるか。まして俺なんかのために、無茶してもらっちゃ困る。そいつは王女なんだから」 「あ、そうか。リースもホークアイに無茶して欲しくなかったんだ」 ケヴィンがようやく納得が行った、という顔をして嬉しそうに声を上げた。 「そういうこと」 ようやく納得してもらえたホークアイは二人を見て満足そうだった。そして、ホークアイはデュランへの最後の攻撃を怠らなかった。 「で、デュラン。君の言った『そいつは王女なんだから』のそいつって誰かなー?」 一方、女部屋の方は、リースが一人花を握り締めてベッドに突っ伏しているのを見たアンジェラが、慌ててその花を取り上げて一輪挿しに挿してやった。その花は高山植物とあって儚げな花だったので、リースの手の中で徐々にしおれ始めていたのだった。 「せっかくホークアイが取ってきてくれた花なんだから大事にしなきゃ」 アンジェラはお姉さんぶってそうリースをたしなめた。一応年上という事もあるが、アンジェラがこういう態度を取ることは本当に稀だ。リースはしっかりしているので、アンジェラがお姉さんぶる必要はほとんどないからだ。 「ごめんなさい・・」 「ま、リースの気持ちもわからなくはないけどね」 アンジェラはリースを落ち着けるようにおどけた口調でそう言った。シャルロットが帰る途中で買ってきた紅茶を用意して、リースに差し出した。 「鎮静作用のあるハーブが入った紅茶でち。少し落ち着くでち」 「ありがとう、シャルロット」 リースはゆっくり体をベッドから起こすと、シャルロットからカップを受け取った。ゆっくり紅茶の香りを吸ってから、自分の気持ちを落ち着けようと試みる。それから一口、紅茶を口に含んだ。 「フツーの女の子なら喜んでしかるべきところよ、リース。起こらなかった可能性について責めるなんて本当に女らしくないわ、アンタって」 アンジェラはリースが紅茶を飲み込むのを見計らってそう言った。 「ええ、本当にそうだと思うわ。でも、次もこんなことをしてもらったりして、もしものことがあったら私は罪悪感に苛まれてしまうわ」 リースが恐ろしげに肩を震わせると、涙を溢れさせた。 リースは既に母親を早くに亡くし、父親をつい先日亡くしている。そして行方不明の弟を探し、旅を続けている。だから、親しい人を失うことに極端なほど敏感になってしまっているのだ。 「でも、無事に帰ってきたことを喜んであげるのならまだしも、そんな花を貰っても嬉しくない、なんていいすぎよ」 「ええ、反省しています。本当に・・どうしてそんなことを言ってしまったのか、自分でも判らなくて・・」 リースはそういいながら、ティーカップを手に包んだまま、そのぬくもりを感じるかのようにじっとしていた。 「興奮している最中に理性ある言葉を話すのは無理でちよ、普通は」 シャルロットは自分の分とアンジェラの分のカップを運びながらそう言った。アンジェラはシャルロットから紅茶を受け取ると、喉が渇いていたのか香りを楽しむよりも先に一口含んでいた。 「まあ、リースの中でホークアイがどれだけ必要な存在かってことがばれちゃった、ってことだけどね」 アンジェラはからかうようにそう言うと、リースがひっと悲鳴をあげて顔を赤くした。 「そ、そんなんじゃ・・私はただ、仲間として単独行動でそんな無茶をするなんて・・と・・」 「本当にそうでちかぁ?それならリースしゃんの性格上、その行動を咎めるに留めたはずでち」 シャルロットがそう言えば、アンジェラもうんうん、と頷きながらこう続ける。 「あんなに取り乱しちゃって、仲間がどうのこうの、っていうのは苦しい言い訳よねぇ・・」 「なっ・・なっ・・」 リースは言葉もろくに発する事もできなくなり、カップを震わせながらとうとう叫んだ。 「わ、私は嵌められたんですかっ!!」 「・・やだ。そんな大声ださなくても聞こえてるってば。落ち着いて」 「そうでち。落ち着くでち」 完全にペースを乱されたリースは、ぱくぱくと口を開くだけでどうしようもなくなっていた。アンジェラもシャルロットもあまりに可哀相になって、ちょっと笑いあった。 「ごめん、いじめるつもりはなかったのよ。ただ、いつもぴりぴり緊張してるリースが、見てられなかっただけなの」 そう言われたリースは、拍子抜けするほどすんなりと怒りとも恥辱とも言えない感情を引っ込めた。 「・・緊張・・?」 「そうでちよ。リースしゃんは、ものすごく考えていつもいつも考えすぎてぴりぴりしてるんでち」 「今日の事だってそうよ。もしものこと、なんて考えるから怖くなっちゃうの。あんたは、目の前に差し出された花と無事でいるホークアイだけを見て、素直に喜べばいいだけだったの。それなのに、余計なこと考えるから、意味もなく興奮しちゃって、墓穴掘っちゃったってわけ」 「・・・・・」 怒りを引っ込めたリースは、呆然とカップの紅茶を眺めながら瞬きをしていた。今日のことを思い返しているのだろう。 「・・納得でしょ?」 アンジェラがリースの顔を覗き込んで笑ってみせると、リースは情けない表情で笑い返した。 「ええ。そうです、ね」 アンジェラは紅茶をサイドテーブルに置くと、足を組んだ。組んだ足に手を組み、リースを覗き込むように話し始める。 「可能性を見出すことは悪いことではないわ。でも不幸の可能性を見出してそれを怖れることに慣れてしまったら、きっとこの旅は途中で大変なことになる。きっとどこかで、リース、あなたは弟を助け出す使命と、その可能性の恐ろしさの狭間で苦しむことになるわ」 「・・」 「かといって、リースのその癖、無くせ、とは言わない。危機管理はデュランもお手の物だけど、アイツもたまに抜けたことするし。でもね、少し抑えた方が良いと思う。リースのはちょっと極端すぎる気がする」 「何事もほどほどが一番でちから」 シャルロットがどこから持ってきたのかお菓子をつまみながらそう言う。 「だから、もうちょっと気楽に行こ?ね?」 アンジェラが小首を傾げながら言ってくれたその素晴らしい提案を、リースは嬉しそうに受け入れた。涙さえ浮かべながら、リースは頷いてみせる。 「はい。やってみます」 「よかった」 アンジェラとシャルロットが嬉しそうに微笑みあう。 「で、ホークアイとのことだけど、仲直り、した方がよくない?今なら宿屋の食堂がきっと人もいなくてちょうどいいと思うわ」 アンジェラがそう言うと、シャルロットが張り切ったように紅茶を置いて座っていたベッドから飛び降りた。 「リースしゃんは先に食堂に言っててくだしゃいでち!ホークアイしゃんは呼んで来るでちから」 「あ、私も行く」 アンジェラも立ち上がる。リースには頑張って、と微笑んで見せた。 「お礼くらい、言ってあげなさいね。せっかくの花もホークアイもあれじゃ可哀相だわ」 「はい・・すみません。お世話かけて・・」 リースが平謝りしそうになるのを、アンジェラはすかさず軽く額にデコピンをしてやる。 「痛いっ!」 「だーかーら。その堅苦しいの、やめなさいっての。仲間でしょ?」 いい?と再度念を押す。リースは額に手を当てながら、泣きそうな顔で笑っている。 「不思議ね。子供の頃なら、自分のために命を賭してくれる人がいたらどんなに憧れたかしれないのに、大人になるとそんなことをされると困ってしまうなんてね。でも、悪いことじゃないのよ。誰かのためになにかをしてあげたいって思うことはきっと素敵なことなんだもの。それを受け入れることもきっと強さが必要なのね」 アンジェラはそう言うと、うまくやんなさいよ、とばかりにウインクして部屋を出て行った。 アンジェラが男部屋に移動すべく廊下に出てみると、すでにシャルロットがその突き当たりの部屋をノックしたところだった。ほどなく顔を出したのはデュランだった。 「なんだ?シャルロットか。アンジェラも、どうした?」 「ホークアイしゃん、は?」 シャルロットが声を上げると、ホークアイはひょいと顔を出した。 「いるよ?なにか用?」 「今から食堂に行って頂戴。リース、話があるってさ」 アンジェラがそう言うと、ホークアイは了解、とばかりに身軽な調子で廊下を歩いていった。 4人がホークアイの背中を追っていると、ホークアイが女部屋から身なりを整えたリースと鉢合わせした。二人ともちょっと驚いて身を引いていたが、ホークアイがちょっとしたジョークを言ったのだろう、リースがすぐに微笑んで二人して食堂に向かう様子が見て取れた。 「うまくいってくれるといいんだけど」 独り言のようにそう言ったアンジェラに、シャルロットが現実的な見解を口にした。 「無理でちよ。多分」 シャルロットの見解にアンジェラは突っかかった。 「どーぉしてよっ」 「理由はアンジェラしゃんにもよぉぉく判ってると思うでちけどね?」 ぐっと詰まったように、アンジェラが身を引いたところに、ふっとデュランと目がかち合う。その瞬間、デュランがアンジェラから目をそらすと、苛立ったようにこう言った。 「俺は、鎧なんていらねぇからな!」 「はぁ?」 デュランはそのまま部屋に入ってしまうと、ばたん、とドアを閉めてしまった。アンジェラは訳がわからず、思わず叫んだ。 「今の何なのよ?!」 なぜか廊下に残されてしまったケヴィンと、シャルロットが目を合わせて、シャルロットは肩を落としため息をつき、ケヴィンは部屋に戻れないのかと不安そうにドアを見つめるしかなかった。 ■Fin. |