【聖剣伝説3】

■声に届けて

掲載日[2007/10/07]






 デュランはやるせない日々を送っていた。
 本当は自分がそばにいてやるべきだったんじゃないかって、最近そんなことをよく思って一人で鬱々と考えてしまう。それがまた自分らしくないので、デュランは無理に木刀をふるってみる。それでも、それが完全にぶれていることが自分でわかっている。気もそぞろ、というのはこういうことを言うのか、と他人事のように思ってから、自嘲するしかないデュランがそこにいた。

 とある一行が、フォルセナを訪れたあの日から、デュランの中で何かが変わっていた。

「帰ってくるよな」

 空を見上げて、いつもと変わりなく蒼い空を見つめて、デュランはそうつぶやいた。
 蒼い空に、彼女の顔が嵌る。きれいなアメジストの髪の色が空の青と混ざる。これまで生きてきて、こんなものが見えるのはこれが初めてだ。彼女が初めてだった。こんな不思議な現象をデュランは今までに感じたことはない。それは、前を向いて毅然と歩く者への尊敬だろうか。

 (俺はいったい何をしているんだろう)

 一行はアルテナの王女率いる3人組だった。アルテナが、数は少ないとはいえ一応の隊を組んであらわれたことに気づいたデュランは真っ先にその小さな敵軍を完膚なきまでに打ち倒そうと考えていた。運よく英雄王の使いから帰るところ、モールベアの森でその一行を見つけられたのは幸運だと思った。
 しかし、一行は強かった。3対1とはいえ、相手は二人が女だったので楽勝だと甘く踏んだのが間違いだった。一人は小さいながら回復魔法を駆使し、一人は攻撃魔法を連続で放ち、そして一人の男も――これもずいぶん細身だったのでデュランは油断していた――素早い動きで短剣を繰り出してくるのだった。速効性の殺傷力を持つチームではないが、逆にそれが恐ろしい。なぜなら、逃がす隙を与えてくれないからだ。
 デュランはあわてて白旗を上げる羽目になった。気性の荒いアルテナの王女は、デュランに向かってぶつくさと文句を言ったが細身の男が間を取り持ってくれた。

「君だって、文句を言えた義理じゃないだろう?」

 その一言で呼吸を止めたようにアルテナの王女は黙り込んだ。アルテナがフォルセナに奇襲をかけたことを彼女も知っているのだとわかった。ちらりとデュランを見てから、荷物の中から取り出したドロップを2,3粒デュランに渡した。憮然とした表情で、謝ることはしなかったが、ドロップが詫びの代わりだったのだろう。

「君の言うとおり、彼女はアルテナの人間で、実は王女だけど、フォルセナへの攻撃を決めたのは彼女じゃない。それに彼女はそれを決定した女王様、つまり彼女の母親だけど、その人が正気の判断をしたんじゃないと言ってる。アルテナはどうやら何かに毒されたと考えていいだろう。だから、アルテナという国の名前だけで彼女を判断しないでほしい」

 落ち着いた物言いをする男だったので、デュランもすっかり頭が冷えてそれには助かった。デュランは改めて立ち上がると、すまないと頭を下げざるを得なかった。

「俺はアルテナの情報を先に聞きつけて放たれた草(スパイ)だったんだけど、あまりに動きがなくて戻るところだったんだ。お前らの話を信じるとすると、その戦力はありがたい。頼む。アルテナの攻撃から英雄王様を守ってくれ。俺は一足先にフォルセナに戻る!」

 それが、その一行との出会い。

 そして、一行が最後の戦地に赴く直前、彼らはもう一度フォルセナに現れた。
 アンジェラは一人、デュランの仕事場である城内の外れまでやってきた。旅の仲間にはならなかったが、最初の出会いが強烈だったせいかアンジェラはデュランを見つけるとよく旅のことを話した。

「私、お母さまを取り戻したの。本当はもう戦う理由なんてないのよ」

 アルテナの王女アンジェラは、朗らかに笑いながらそう言った。明らかに彼女は初めて会った時とは変わっていた。なんという強さを、なんという軟かさを兼ね備えた人間。そう、これから最強の敵と相対するというのに、その笑顔。笑えるという強さ。そんな彼女にデュランは感服する。これは、ただの女じゃない。そもそも一国どころか世界の女になろうとしているのだ。

「でも、今のお前にはあるんだろう。戦う理由が」

 デュランがそういうと、アンジェラはそうよ、と胸を張ってデュランを見上げた。そして、ぴっと人差し指を立てると、デュランのほうを指差した。

「あんたが、私の戦う理由よ」

 一瞬、わけがわからず、デュランは目を点にした。しかし、その次の瞬間には、アンジェラはくるりと体を反転させて走り始めていた。ひらひらと腰につけた布切れが舞うのを眺めながら、デュランは声をあげた。

「またフォルセナに来いよ!」
「絶対来てやるから覚悟なさい!」
 振り返った彼女の、一点の曇りもない笑顔をみてデュランは感動する。
 どうしたらそんなに強くなれる。どうしたらそんなに笑える。

 それが、今のところ彼女と最後に交わした言葉。

「俺も一緒に、お前と一緒に戦えたらよかったのにな」
 
 空を見上げて、デュランは心からそう思う。一緒に戦って守ってやれれば、どんなに楽だろう。
 今は願うしかないのだ。
 この願いが、声が、天に届くと信じて。



Fin.

<注釈>
わかりにくいですね。アンジェラ・ホークアイ・シャルロットでチームが組まれていて、デュランは戦力外通告のパターンです。
今まで書いたことないですが浮かんでしまって。
女の子が戦地に赴く彼を待つというパターンはよくあるんですが、聖剣3はこういうこともできたんですね!
改めてこのゲームの素晴らしさに気付きましたよ。
アンジェラはチームにデュランがいなくても、たぶん好きになっちゃうかなと。
ウマが合う人って出合い方によるものじゃないんじゃないかと、そう思って。



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