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【聖剣伝説3】 |
| ■hope isolation pray |
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掲載日[2009/02/17] 聖剣の勇者の役目を終えた。 世界のマナは日々失われつつあった。 あんなに頑張ったのに、アンジェラは役目を果たすことができなかった。 頑張った?私、本当に頑張ったんだよね? 寒々とした暗く寂しい雪原を抜けた日から、アンジェラはずっとずっと頑張ったはず。 けれど、アンジェラは何も報われなかった。 「アンジェラ様、お手紙ですよ」 ノックして部屋に入ってきたヴィクターが一通の封書を手に入ってきた。 アンジェラはベッドの上で横になっていた体を起こそうともせず、ヴィクターを一瞥した。 「誰から?」 起きるのも立つのも読むのも億劫で仕方なかった。大した相手じゃなければ、その封書を開けずにそのままにしておくこともできるはずだと、アンジェラはそう思った。 「リース王女からです。連名でホークアイ様のお名前も」 「ああ、きっと結婚式のお礼状ね。ありがと、そこに置いておいて」 かったるい体を起こすこともできないようだ。アンジェラはけだるげにそう返事すると、またさっきまでの体勢に戻った。ごろんとしたまま、薄く眼を閉じる。 それを見たヴィクターが、アンジェラ様、とまた一言掛けてきた。 「あまりごろごろなさっていたのでは体に毒ですよ。城内を少し歩きませんか?」 「城の中なんて子供のころから走りまわってるのよ。おかげで今となっては天辺から地下までそらで地図が描けるくらいなんだから。そんな目新しいところもないのに歩いてどうするのよ」 アンジェラはそれこそ、その言葉を諳んじるようにそう言った。 実はこのやり取りは初めてのことではない。 世界の命運をかけた旅から戻ってから、アンジェラは完璧にその居場所を失ってしまったのだ。 母親に認められたくて、ただそれだけで突き動かされたように進んでいった先に出会った聖剣。その聖剣を握ってから、アンジェラは懸命にその道を突き進んだはずだった。 けれど、その結果、世界からマナが失われていく結果に陥った。 もちろん、アンジェラたちが何もしなかったら一瞬にして世界は破滅に導かれていた。一応とはいえ、その道を遮ったことは世界に評価されたが、こと、アルテナの人々にとってはそんなことよりもマナが失われていく結果の方が一大事だったのだ。 マナの力がなければ、魔法は発動しなくなってしまう。魔法はマナありきのもの。 魔法王国アルテナは魔法ありきの国家。それなのに、その魔法の力が日々衰えていくという恐ろしい現実に、人々は初めこそ人目をはばかっていたが、徐々に声を大にして批難をし始めたのだ。 ―アルテナの王女のくせに、マナを失わせる要因を作るとは何事だ。 ―尊い力をお持ちのヴァルダ様の力にまで傷をつけて、恥を知れ。 ―国家存亡の危機を招いた王女を永久追放しろ! 人々の声は止まなかった。アルテナの人々は、唐突に閉ざされた未来に対応できなかったのだ。誰かを憎み、それによって気を紛らわすことしかできなかった。 アンジェラはそんな人々の声に真摯に耳を傾け、それを受け入れようとしたこともあった。アンジェラは自身の決意で世界的にも中立であるウェンデルに身を移そうとしたのだった。 しかし、それを止めたのはほかでもない唯一の肉親、母のヴァルダだった。 「あなたは本当に自分が悪いことをしたと思っているのですか?」 アンジェラからその話を聞いた女王ヴァルダは静かに、そして威厳を持った声でアンジェラにそう問いただした。 「結果としてそうなったことは認めなければならないと思います」 アンジェラは跪いたまま、母の顔を見上げることなくそう言ったのだが、ヴァルダはもう一度問い質した。 「あなたは、今ある結果を望んだのですか?」 「違います!」 アンジェラは酷い問いかけに思わず顔をあげてそう答えた。言われたヴァルダは、少し微笑んだ後、再び威厳を取り戻して声を上げた。 「アンジェラ」 「あ、ごめんなさい!」 慌てて、アンジェラは跪いて頭を垂れた。それを見たヴァルダは一呼吸おいて、次の言葉を口にした。 「あなたが何かの悪い意志を持ってこの国をこのような結果に陥れたのであれば、私はあなたを罰しなければなりません。あなたの言うように、ウェンデルに身を移し追放という形をとることも吝かではないでしょう」 アンジェラはヴァルダの言葉にはい、と答えた。 「しかし、私はそのような悪い意志を持っていない者に対して罰を与えるなどという、大それたことをしたくはありません。いいえ、それはアルテナ女王の誇りにかけて、そのような決断は絶対に行えません」 「しかしこのままではお母様に批難の矛先がいつ向かうともしれません!」 アンジェラはずっと不安に思っていたことをついに口にした。ヴァルダもそれに気づいていたのか、アンジェラの言葉を受けると静かに首を横に振り、アンジェラを諭すようにこういった。 「いいえ。アンジェラ、アルテナの国民はそこまで愚かではありません。もともとお前が国民に批難の矛先を向けられたことも、元はと言えばわたくしの責任なのです。わたくしがあなたのことを、あなたが世界に向けて何をしてきたかを、そしてアルテナの国という小さな規模でなく、世界に向けてすべてを捧げて戦ったことをわたくしは声を大にして伝えるべきでした」 女王はその椅子から立ち上がり檀上からゆっくりと降りてくると、跪くアンジェラの傍で立ち止まり腰を低くしてアンジェラの顔を見ようとした。アンジェラもそれに気づいて、おそるおそる母の顔を見上げる。 「アンジェラ」 「はい、お母様」 「あなたは、ずっと懸命に生きてきた。違いますか?」 ヴァルダのその一言に、アンジェラは喉が詰まる。目頭が熱くなる。でもぐっとこらえた。 今目の前にいるのは自分の母親という立場の人ではないのだ。この女王の部屋にいる以上、母は母でなく、この国の最高権力者なのである。 「…はい」 「疾しく浅ましい心を持つものに、聖剣の芽は宿りません。わたくしはあなたが聖剣の勇者に選ばれたことを何よりも誇りに思います。その聖なる清らかさは何物にも代えがたいものです。あなたは、アルテナのだけではない、世界の姫なのですよ」 ヴァルダがそっと手を差しのべたので、アンジェラはその手を掴んだ。ヴァルダがアンジェラを立ちあがらせるので、女王の間に控えていた者たちがざわめいた。女王の前に立つというのは極刑を命じられるほどの無礼極まりない行為なのである。 「静まりなさい。この子はアルテナの王女であり、また世界の姫です。わたくしアルテナの女王と比べても比類なき力と尊厳を持つ者。無礼は許しませんよ」 ぴしゃりと言い渡されたヴァルダの言葉に、あたりは再び静まり返った。 「あ、あの、お母様…?」 「あなたはこれくらいの扱いを受けて当然の人なのですよ、アンジェラ」 母との和解はできたものの、ヴァルダが言うほど簡単には人々の心はアンジェラを認めてはくれなかった。 それはやはりヴァルダ自身の力も日々衰えていることが人々にもひしひしとわかっていたからだった。これまで温暖な気候が保たれていた領域が、少しずつその幅が狭まってきているのはどうにも隠すことができない事実だったのだ。 「だってじゃあ、どうしろっていうのよ…」 そうして、冒頭のアンジェラになってしまうのだ。許しを得られるなら追放も甘んじて受け入れようと思ったが、それさえも母には許されない。そして結局、なにもせずに事態は日々悪化するのみだ。 そうかといって何かをしようとすれば、また旅の結果のようになにもかもが駄目になりそうで、もはや何もする気になれない。アンジェラは精神的にも悪循環に嵌ってしまっていた。 ヴィクターは結局いつものやりとりをすると、部屋を下がっていた。ヴィクターもずっと傍でアンジェラを見てきただけあって、アンジェラの痛みはよくわかっているのだ。わかっているからこそ、なんとかして差し上げたい、と思い、あの一言を無駄でも繰り返すのだ。 アンジェラにもそのヴィクターの心遣いがわかっている。わかっているのだが、どうしようもない。体が前のようにもう動かない。 このまま、死んでしまえばいい。 ふと、そんなことを考える日もあるくらいだ。 「手紙を読むくらいなら、いいか」 気分を変えてアンジェラはサイドテーブルに手を伸ばし、先ほどヴィクターが置いて行った封書を手に取った。 「いい匂い。花の香りがするわ、この封筒」 アンジェラはすう、とその香りを楽しんでから、封書を開けた。 開くと、リースらしい丁寧な文字が綴られている。簡単ではあるが、ちゃんと用件がわかりやすくまとまった文面だった。お礼と、今後のローラントのこと、そしてホークアイへの惚気とも感じる愚痴。 花の香り同様、幸せの香りがする、とアンジェラは思う。 ローラントも一度は壊滅の道をたどった国である。手放しで幸せ気分を味わうこともできないに違いない。あのリースのことだから、頑張りすぎて体を壊すことだってありそうだ。そこはホークアイがうまくフォローしてくれるのだろう。 だから、この二人はきっと大丈夫なのだ。 「私とは、大違いね」 封書に手紙を仕舞うと、ひきだしに入れる。本来返事を書くのが礼儀だが、多分リースも期待はしていないだろう。アンジェラの性格を知っているのだから。 「私はどうしたらいいのかしら」 アンジェラは天蓋の布の模様を眺めながら、また体を丸めた。 このまま、お母様のお腹に戻っちゃえばいいのに、そんなことを願いながら。 Fin.
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