【聖剣伝説3】

■福音の調べ[04]

掲載日[2009/06/21]

















 コンコンッ
 乾いた音が響いて二人は我に返った。ドアがノックされた事に気づいた二人はそちらを見た。
「誰だ?」
 デュランがすぐさま応じる。アンジェラはドアの方を不思議そうに眺めている。母親が到着するには早すぎるし、おそらくフォルセナの侍女か何かだろう、と思っていた。
 しかし、その声は予想とは違うものだった。
「誰でしょう?」
 おどけるように質問返しをされて、デュランは眉間に皺を寄せた。アンジェラはぷ、と吹き出す。
「めんどくさい奴が来たな、入れよ」
「えぇ〜ひどいことをいうよなぁ、デュランは」
 ノブを回して入ってきたのは、先の冒険で一緒に世界を巡った仲間だった。声を上げていたホークアイだけかと思いきや、後ろには淑やかに笑うリースに、走りこんで入ってくるシャルロット、落ちつかなげに辺りを見回すケヴィンがいた。
「なんだ、みんな集まって」
 これにはデュランの方も驚いたのか、立ち上がって仲間たちを見回した。アンジェラも驚いて立ち上がろうとしたが、すぐにリースに優しく諭される。
「顔色が優れませんわ。すぐに立ち上がったりしたら貧血を起こします」
「リース・・・それにシャルロット、ケヴィン」
 懐かしそうに目を細めてアンジェラがそう言うと、シャルロットがアンジェラの隣に座り、ケヴィンがアンジェラの傍に来て、にっこりと笑う。
「あんたしゃん、倒れたって聞いたでち。大丈夫でちか」
「そんなのもう平気よ。・・・それにしてもなんなの、この緊急招集みたいなのは」
 アンジェラは未だに6人そろったことが信じられないような顔で、それぞれの顔を見つめた。
「緊急招集?そうだね、アンジェラ、君の言ったとおり、今回俺たちは緊急招集せざるをえない事態に陥ったんだ」
 聞いたデュランが目を見張る。ホークアイはそれに気づいて、肩をすくませた。
「天命というのかねぇ。また俺たちは世界を飛び回る羽目になりそうだよ」
 ホークアイがそういいながらソファにどさりと座り込むと、その言葉が合図だったかのように他の仲間たちもソファや椅子に座り込んだ。ちょうどローテーブルを囲んで円陣になるような形だ。
 全員が座ってからの斬り込み隊長は言わずもがなデュランだった。デュランはできれば思い違いであって欲しいという苦渋の顔でゆっくりと訊いた。
「お前たちがこのタイミングでここに集まっているってことは・・・、もしかしてフォルセナで突発的な火事が発生したように各国で異変があったってことか?」
「ご明察。うちのリーダーは相変わらず鼻が利くねぇ」
 ホークアイはここにいたっても声の調子を変えずに、軽い調子でそう言った。
「どういうこと?なにがあったの」
 アンジェラはすぐさま意気込んで隣に座るシャルロットに顔を向ける。シャルロットはアンジェラの顔を見てから、はぁとため息をつくと、ぽつりと言った。
「ウェンデルは・・・完全に闇を払ったんでち」
「いいことじゃない。それって魔物を完全に追い払ったってことでしょ?」
 アンジェラはきょとんとした顔でシャルロットに言うと、シャルロットはうつむいたまま力なく頭を振った。
「そういう、比喩的な表現じゃないんでちよ。本当に本当に、ウェンデルには闇がなくなったんでち」
「それって、え?まさか、闇が…夜がないってことじゃないわよね?」
 アンジェラが今度は目を見開いて、シャルロットに問いただす。その言葉でシャルロットは顔を上げると、アンジェラをまるで責めるように喚くのだった。
「そのまさかなんでち!ウェンデルには夜がなくなっちゃったんでちよ!あれじゃみんな体が参っちゃうでち!窓からいつまでも光が指す状態でみんな疲れきってるでち!」
 アンジェラはその話を聞いて驚愕する。これは予想外の規模の異変だ。
「それは、いつから・・・」
 恐る恐るアンジェラが言ってみる。シャルロットは再び頭を垂れて、ソファにもたれた。
「もう3日になるでち。アストリアに逃げる人も出てきたみたいでち」
 アンジェラはもはや信じられないという表情で手を口に当てると、デュランと顔を見合わせた。フォルセナの異変とは比べ物にならない。それを見ていたリースがシャルロットの話を補足するように口を開いた。
「実は実質的な夜がなくなったのが3日で、その予兆のようなものが1週間続いたようです。夜の時間が徐々に減っていって、今の状況になった、と聞きました」
 リースはそう言うと、再び組み合わせた指に唇を隠すように黙り込んだ。
 アンジェラはそんなリースに視線を送っていると、リースは力なく微笑んで、再び口を開いた。
「ローラントでは度重なる大きな地震と強風に見舞われています。ご存知の通り、あの城は険山であるバストゥーク山に根を下ろす難攻不落の城ですが、その土台が緩めば城という人工物は持ち堪えることができません。すでに幾つかの塔が倒壊し、本殿も危うい状況です。一旦私たちは山を下りてパロ近くの洞窟で身を潜めるように暮らしています。それでも山の地震はひっきりなしに起こっている状況です・・・」
 リースはここまで一気に話してしまうと、自国の状況を思い出したかのように青い顔で再び黙り込んだ。仲間たちも、言葉もなく口を閉ざしたままだった。
 ここまでひどい状況は想像を超えている。アンジェラは不意に自国アルテナが無事かどうかが気になり始めた。しかし、今ここに居る仲間たちの話を放り出しておくことなどできない。遅かれ早かれ母ヴァルダがこちらに到着すれば、何かわかるに違いない、とアンジェラは必死に自分を抑え込んだ。
「ケヴィンは?」
 アンジェラが何もいえなくなっているのに気づいたデュランが、率先してケヴィンの話を聞こうと声をかけると、ケヴィンは急に肩を縮こませた。説明は苦手なのでうまく話せるか心配になったらしい。
「ケヴィン、ゆっくりでいいから、もう一度ビーストキングダムであったことを話してくれないか。わからなかったら俺たちまた聞くからさ」
 ケヴィンが気楽に話せるように、ホークアイがそう言った。言われたケヴィンがやっとほっとしたような顔をして、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。
「オイラの国では月が動かなくなったんだ」
「月・・・」
 アンジェラが反芻する。アンジェラの頭の中で月の精霊ルナがふわりと浮かんだ。
「うん。月ってまんまるくなったりなくなったりするだろ?けど、変なんだ。急にその月がまん丸になったまま、天辺でまったく動かなくなっちゃった」
「月の満ち欠けがなくなったんだな。それに、軌道を描くこともなくなって、ただ天辺に絵みたいに動かなくなったってことか」
 デュランがそう確認すると、ケヴィンが大きく頷いた。理解してもらえたことが嬉しかったのか、顔がほころんでいる。
「そうそう!本当!絵みたいになっちゃった!動かないし、欠けたりしない。雲はあるけど、ほとんど雲も掛からないんだ」
 ケヴィンが勢いよくそういうが、デュランはこれまでの聞いた話の甚大さと比較すれば大した影響があるようには思えず、なんとも複雑な表情で頭を掻いた。とにかく話を聞くことが先決だとばかりに先を促す。
「それで?」
「オイラたち獣人は獣の血が混ざってるから、月の力が強いと血が騒いでしまうんだ・・・」
 そこまで聞いて、ようやく事態が判明した。アンジェラも月の影響をそれほど深く考えてなかったのだが、思慮が足りなかったことを思い知らされる。
 ケヴィンがすっかり肩を落として、話を続けた。
「日に日に獣人たちは狂ったみたいに暴れるようになっていった。王は・・・ええと、無作法に暴れた獣人を牢屋に閉じ込めたりしたけど、もう牢屋も間に合わないくらいに増えていって、怪我する人も増えた。今は鎖で繋いで・・・」
 そこまで言って、ケヴィンは辛そうに言葉を切った。続けようとしたが、リースが優しくケヴィンの手に手のひらを置いて頷いて見せると、ケヴィンはまた黙って小さくうつむくだった。
 言葉もない。フォルセナで火が上がって大騒動したことがとても小さく見えてしまうほどだ。幸いなのは、聞いた限りどれもまだ死者が出ていないことだろうか。デュランは考えながら、ふと思いついたことを訊ねた。
「ケヴィンは、その月の影響はなかったのか?」
 言われて、ケヴィンは顔を上げたが、首を振ってまたうつむく。ホークアイがデュランの問いに答えた。
「移動中、俺らも聞いた時思ったんだが、おそらく獣の血の濃度じゃないかと思う。ケヴィンは確か母親が人間だっただろう。単純に考えてケヴィンの場合は人間の血が半分以上だ」
「以上ってどういうこと?」
 アンジェラが意味がわからず聞き返すと、ホークアイはアンジェラの方向に向き直って答えた。
「獣人王だってそもそも人間とのクオーターだかワンエイスだかワンシクスティーンスだかで多くとも半分だから、もしかしたらケヴィンと同等、その濃度によってはケヴィンは母親の半分と獣人王のプラスα/2の人間の血の濃度だ。だから半分以上。
 けど、最近では獣人は人間を娶っていないようで、結局ケヴィンの母親がどうやら最後の例のようだ。ビーストキングダムに乗り込んだ時に人間の女性を見なかったからな。そうなると、どの世代で人間の女の血が入り込んだかによるが、これだけは言える。あの国の獣人の中で最も人間の血が濃いのはケヴィンってことだ」
 聞いていた4人がケヴィンの方を見て納得したように頷く。当事者のケヴィンだけが会話に取り残されて、きょとんとしている。
「なるほど、それでケヴィンに影響は出なかったんだな」
 デュランが言ってから、アンジェラも頭の中で考えていたことを口にした。
「獣人王もしっかりしてるみたいだから、どうやら直系の近い位置で人間の母親がいるのね」
 納得する仲間と置いてきぼりを食らったケヴィンを眺めてから、ホークアイが、ぱん、と両手で両ひざを打った。注目、と言ったかのようなその動作で、仲間たちは我に返ってホークアイに視線を向ける。
「最後はオレんとこね。言っちゃえば簡単で深刻だってことがわかると思うけど、オアシスの町ディーンの水かさが日に日に減ってる。底をつくのは時間の問題だな、ってことでな!これだけ完全に自然界が狂わされた例は今までにない。原因が必ずあるはずだから、俺たちはまず細々と仲間うちで連絡を取り合っていた
 驚いたよ。自分たちの国だけではない、連絡を取り合った相手の国から必ず自然界の乱れの兆候がみることができたんだから。これはもう国をあげて他国と手を取って解決の道を探すの必要があるとフレイムカーンに進言した。俺たちは先に俺たち以外の国で異常が出ていないかという先遣隊を命じられて、フォルセナを目指していた矢先にフォルセナの異常事態に直面したってわけだ」
「待て!」
 ホークアイの話を静かに聞いていた一人が唐突に声を上げた。デュランがゆっくり顔を上げると、ホークアイを睨む険しい顔が浮かび上がってくる。しかしホークアイは気にした風もなく、肩をすくめる。
「質問は最後に、っていいたいところだけど、特例だ。デュラン君、質問があるならどうぞ」
 あくまでもペースを乱さないホークアイに苛々と眉間にしわを寄せながら、デュランは低い声で【質問】した。
「質問は二つだ。ひとつめ、今日あったフォルセナの暴発事件の時にお前らはすでにフォルセナに到着していたのか?」
「イエス」
 静かに、ホークアイは答えた。
「ふたつめ、アンジェラに向かって暴動が起きているのをお前らはただ黙って見てたのか?」
「イエス」
「なぜだ!」
 どん、と拳をテーブルに叩きつけて、デュランが声を張り上げた。木製の高価そうなテーブルだったが、強度もしっかりしていたようで幸いヒビは入らなかったようだ。アンジェラは呆然と、その木製のテーブルに置かれたデュランの拳を見つめてから、デュランの顔を見る。我を失ったかのような燃えるような瞳を見て、あ、これがデュランだ、とどうでもいいことを考えていた。これこそが、デュランだと。
 ホークアイもデュランの拳と見つめてから、困ったように顔をしかめる。拳の方を指さしながら、労わるように一言こういった。
「それ、痛かったんじゃないの?」
「答えろ!」
 デュランは声をもう一度張り上げた。ホークアイは、やれやれ、と息をついてから、興奮のあまり立ち上がったデュランを見上げる。
「デュランが怒る理由は理解できるよ。仲間であるアンジェラが危機に瀕しているのを見て、同じく仲間である俺たちは当然助太刀にくるべきだろうと。それにもし俺たちがそうしていれば、アンジェラは最終的に倒れることにもならなかっただろうと」
 ホークアイの言葉に、デュランがすぐさま頷いた。ホークアイは腕を組んでソファに凭れると、これまで軽い口調だった声を一転、低くした。そして一言言う。
「でも、これは俺たちが関与していい問題じゃない」
 仲間たちの誰もがはっとしてホークアイを見つめる。しかし、ホークアイと視線があったときには、もうすでにその面影はなく、にこりと余裕の笑みを浮かべたいつものホークアイの顔があるだけだった。
「アンジェラが単なる町娘だったら、俺たちは一も二もなく助けたさ。けどな、あの事件はアンジェラという一個人に対する感情じゃない。魔法王国アルテナという国に向けられた感情だ。それをまた他国から来た俺たちが庇ったりしたらどうなると思う?フォルセナの国民はまた俺たちを一個人じゃなく国として扱うぞ。ナバールが、ローラントが、ビーストキングダムが、アルテナを味方したってな。一番悪いのがウェンデルだ。世界で唯一の中立国であるウェンデルが一つの国に肩入れしたなんて話は一番性質が悪い。あれはな、英雄王さんじゃないと収まるはずのない事態だったのさ」
 話を聞いたデュランは納得したのか、ゆっくりソファに腰を下ろした。それを横目で見ながら、ホークアイは説明を続ける。
「それに、こいつらはアンジェラを助けようと飛び出しかけてたよ。ケヴィンなんか俊足だから止めるのがあと一歩遅かったらあの輪の中に飛び込んでた。ケヴィンを足払いして、リースの槍を掴んでシャルロットを小脇に抱えて。こっちもひと騒動だったよ。あとでリースからなぜ助けないのかとこっぴどく叱られたし…」
 な、とホークアイが片目をつぶるので、リースは赤くなってうつむいた。
「すみません…そこまで頭が回らなくて…」
「ごめん、オイラも…。アンジェラを、助けたかったから…」
 ケヴィンも横でしょんぼりと頭を下げた。シャルロットは未だホークアイの話に納得がいっていないのかつんと顔をそむけている。
「誰がどう思おうなんて知ったことじゃないでち!だいたいあたちがアンジェラしゃん助けて何が悪いでちか!あんなやつら必殺はりせんちょっぷで、けちょんけちょんにしてやったでちのに!」
 ぷーっと頬をふくらませてシャルロットはホークアイに異議を申し立てるが、ホークアイも無理に理解してもらおうと思ってはいないらしく、シャルロットには「うんうん、俺が悪かったよ」と笑う。
 それまで静かに仲間たちの話を聞いていたアンジェラが、ぽつりと口を開いた。
「そっか…あんたたち、いろいろ考えてくれたんだね…なんか、嬉しいな」
 アンジェラがそう言って顔を上げる。仲間たちひとりひとりと目を合わせながら、言った。
「ありがと。それにごめん。私、もっと強くなるね。…それと、ホークアイ?さっきホークアイが『英雄王さんじゃないと収まるはずのない事態だった』って言ったの、あれ嘘だよね?」
 アンジェラが力なく笑いながらホークアイに問うと、ホークアイが一瞬目を見開いた。それを見て、やはりそうだとアンジェラはひとり頷く。
「本当は私が収めるべき事態だったのよ。私がもっと確りしていれば、王女と言う立場上フォルセナの人たちにきちんと頭を下げるべきだったの、本当は。けど、私、あのとき迷ってしまった」
 思い出す。あのとき何を考えていたかを。
 アンジェラはあのとき、この事態を理不尽なものと認識してしまった。
「どうして私が責められるの。私だってお母さまに国を追い出された被害者なのよって、思ってしまった。でも、違う。あのときは私はアルテナ国の王女でなければならなかった。侵略した側の人間で、それを悔いる人間でなきゃならなかったの。あのフォルセナの人の火傷を見て、それは私じゃない!って思ってしまったから…それができなかった」
 アンジェラはぐっと自分の拳を握り締める。
「次があったら、私は今回の過ちを繰り返さない。私はあなたたちに誓うわ。…どうか、知っていて。それだけでいいから」
 アンジェラの真摯な言葉に、仲間たちは無言で頷き返した。
 








 



to be continued.

■話が進んだような、そうでもないような…。画面の動きがない話。

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