【聖剣伝説3】

■福音の調べ[05]

掲載日[2009/07/26]


















「で、話を戻すけど」
 ホークアイが再び仕切りなおすように話し始めた。
「実は、ここに来る前に英雄王さんと話をしてきた。今回の突発的な事象に心当たりがある、ってことで大臣を交えて俺たちの話を聞いてもらったんだ」
「そうだったのか」
 デュランは自分たちが休んでいた間のホークアイの行動に驚いたようだった。ホークアイは頷く。
「突発的事例としては6カ国中5カ国に発生していたことを英雄王さんは重く見ていたよ。残りのアルテナ国に確認を取るべく、女王様に連絡をつけていたようだね。どうやらアルテナ国とは非常回線(ホットライン)があるらしい」
「うそっ!」
 今度はアンジェラがその言葉に驚嘆した。ホークアイが面白がるようにアンジェラに答える。
「ホント♪侵略国と被侵略国との友好関係を示す一環として敷設したらしいんだけど、なかなか一般市民には伝える機会に恵まれないって、英雄王さん嘆いてたよ」
「ズルイ!お母様ったら!私にもそんなこと話してくれたこともないのに!」
「お前に教えるとろくなことに使わないからだろ」
 デュランが事も無げに吐き捨てると、アンジェラがじろりと睨み付ける。人の気も知らずにのうのうと心無い言葉を吐き捨てるデュランの台詞に、アンジェラは憤慨した。
「誰のせいよ!」
「知るか!」
 いきなり喚かれたデュランがむっとしながら返すと、ホークアイにまぁまぁと宥められる。アンジェラのほうは、リースが落ち着かせるようにアンジェラの手を引かれ、その隣に座るシャルロットはわざとらしく吐息をついて見せるのだった。
 一人、置いてきぼりを食らったようなケヴィンが、こっそり手を上げる。
「あの、ほっとらいん、って何?」
 その一言で、我に返ったようにアンジェラがケヴィンに向き直る。ケヴィンがびくっとしたように肩を震わせたが、アンジェラが安心させるように微笑むと、ケヴィンはほっとしたように胸をなでおろした。
「一応伝令って形で各国の首脳間がつながってるのは、ケヴィンも知ってるわね?」
「うん」
 ケヴィンがおとなしく頷くのを見て、アンジェラは満足そうに頷いた。
「これは人の手による情報伝達手段よ。各国にそれ専属の伝令係がいて、最大半日でお互いの国で連絡が取れるようにしているの。但し悪天候で船の運航が侭ならないこともあるから、この限りではないけれど、航路を変えて入国する手段も吝(やぶさ)かではない場合はその手段をとることもあるわ。とにかく迅速かつ確実に相手に伝えることを最優先にするのがこの伝令システムなの」
「そうだったんでちか」
 不思議そうな顔でアンジェラを見上げるシャルロットに、アンジェラは穏やかにそうよ、と答える。その姿には、国民ひとりひとりに心を砕く女王のような風格が備わっていた。
 デュランは人知れず、アンジェラのその成長に感嘆のため息をつきたくなる。あの冒険の後、彼女は今後のことを考えてしっかり勉強しているようだった。その甲斐あってか、最近会うとどこかしらでアンジェラが淑やかで気品のある態度を垣間見ることがあった。そのたびに彼女は王家の血を引く者なのだということを思い知らされる。
 アンジェラの説明は続いた。
「一応、一般市民にも逓信システムがあるけど、首脳間のやり取りには常に速さと確実性が求められることから、先の戦争後、全ての首脳が伝令という形を持つことに同意して発足されたのね。でも、非常回線…ホットラインというのは多分これよりもっと確実で早いものなんだわ」
 アンジェラ自身も考えをまとめるように天井を見つめながら話を続ける。
「私もこの目で見ないことには判らないけど、多分、声と姿を転移させる魔法陣をお互いの地に置いて、・・・呼出に応じればお互いの姿と声を確認しながら話せるってところじゃないかしら?ああもう、本当にズルイわ!絶対ホセ爺が絡んでる!帰ったら教えてもらわなくちゃ!」
 考え考えそう話しながらも、アンジェラは悔しそうに拳を振り上げた。自分を蔑ろにされたことがよほど面白くなかったのだろう。
 そんなアンジェラを一瞥し、デュランはホークアイに向きなおる。
「それでヴァルダ女王がすぐにこちらに向かう話になったんだな」
「そうだ。アルテナ国だけではなく、他の首脳たちもフォルセナに集まるよう英雄王さんは招集をかけた。おそらく今のところ安定感のある国としてはフォルセナだったし、…その、アルテナは雪深くて招集に応じられない人間が出るのを避けたんだと思う」
 アンジェラの目を気にしたようにホークアイがそう言ったが、アンジェラは首を振ってそれに応じた。
「正しい選択だと思うわ。アルテナは極寒の地だし、なんの準備もなしに入れるような土地じゃない。気候が温暖で他国5カ国からの距離もほとんど同じ位置にあるフォルセナは召集の地としてふさわしいと思う。もともと何もなかったらウェンデルがその地に選ばれたでしょうけど、今の状態ならばね…フォルセナが正解よ」
 アンジェラは先ほどまで憤慨していた表情を引っ込ませて、穏やかにそう言った。そう言ってから、ふと気づいたようにリースに顔を向けた。
「あれ、そういえば、ローラント国の王はリースなの?」
 各国の首脳陣の顔を思い浮かべていたアンジェラは不思議に思ったのだ。フォルセナの英雄王リチャード、アルテナの女王ヴァルダ、ウェンデルは司祭様、ビーストキングダムのガウザー王、ナバールのフレイムカーンと続くが、ローラントの王は先の混乱ですでに亡くなっている。
 しかし、聞かれたリースは嬉しそうに微笑んだ。
「いいえ、建国した父ジョスターに倣い王はやはり男がふさわしい、とエリオットが王座に就きました。エリオットは私が旅に帰るとすぐにそう言ったので、私もそれを喜んで賛成しました。後見人という形で私が後ろ盾にはなっていますが、それも数年のことでしょうね」
 そう言ったリースは本当に嬉しそうだった。ずっと国のこと、弟のことを気に病んでいたが、冒険が終わって後継者問題についてはひと段落したことで安心したのだろう。本来ならば、後は国を元あった状態に取り戻すために邁進すればいい、はずだった。
 しかし、ここにきてこの異常事態が発生した。ローラントの姉弟にとってとてつもない打撃だったに違いない。
 アンジェラはそれを思って、押し黙ってしまう。
 アンジェラが黙ったのをみて、ホークアイがすぐにまた話を戻した。
「とにかく、国の頭がここに集結して手を取り合う。それがまず大事だ。言っちまえばこの異常事態を狙ってお互いの国に攻撃を仕掛けない、という不可侵条約を結んでもらう。こんな時につまらん足元を見て混乱を招かれちゃたまんないからな。頭はそれだけしっかりまとめてもらえばいい。自国に戻ったら各国で不穏な動きをしないように見張ってもらう。で、対策実行役はもちろん俺たちだ」
「なるほど。そういう動きか」
 デュランがやっと流れが読めた、と言うようににやりと笑って見せた。
「頭なんか対策実行役にはならんよ」
 さすがに王政国家でないだけに、軽く言ってのけるホークアイである。
 しかし、現実的には何をすればいいのかわからない。素直なケヴィンはその事をすぐ口にした。
「でもどうする?オイラ、自分で頑張れることなら頑張る。でも今起こってるおかしな事をオイラ自分の力でどうにかできるなんて思えない…」
「ケヴィンしゃんの言う通りでち。起こってることが大きすぎるんでち。あたちたちの手でどうにかできるなんて、思えないでちよ?」
 シャルロットもケヴィンが先に言ったことで安心したのか、自分の思っていた不安を吐露するのだった。しんと静まり返ったその空気の中で、やがて小さくとも決然とした声が響いた。
「でも、絶対、なんとかしなきゃ…」
 リースだった。静かにぽつりと彼女はそう言った。組んだ手をぎゅっと握りしめて震わせていると、そっとホークアイがその手を覆うように手を乗せた。はっとしてリースが顔を上げると、ホークアイがリースの瞳を覗き込んでから頷いて見せる。
 すぐにホークアイは5人の顔を見渡す。
「俺たちの今持っている情報は世界最前線の情報だ。それに幸い俺たちは世界中を旅して各国の背景にも明るい。総括して俺たちだけに見えることがあるはずだ」
「あの、思ったんだけど」
 アンジェラが控え目に手を上げると、ホークアイがにこやかにどうぞ、と手のひらを見せた。
「大きすぎるって思うのは多分、私たち人間が想像し得ないものだからよ。私たち人間の手に負えないものは、そもそも何によってもたらされたものかしら?それって結局マナに帰結するわ。私はこの混乱の根底にはマナがあると思う」
「逆にいえば、それ以外には考えられない」
 デュランもアンジェラの意見を後押しする。聞いたホークアイは拳をあごにやって頷く。
「でも、マナの女神様は今おやすみ中でち。何かをできる状態ではないはずでちよ?」
 マナという言葉から女神のことを思いついて、シャルロットは声を上げた。
 そう、もともとマナは先の混乱で完全に失われるところだった。しかし、彼らと共に旅したフェアリーは別れ際にこう言った。自分は新たなマナの女神、マナの大樹となり世界にマナを生み出すために千年の眠りにつく、と。
「世界からマナが完全に失われた世界ならば、全世界からあらゆる生命が、そして自然界が崩壊したと考えられます。精霊たちが力を失えば、地は枯れ、水は淀み、風のない世界はあらゆるものを停滞させ、命あるものはそれだけで十分生きる術を失うでしょう」
 リースが淡々と思い浮かべたことを言葉にすると、シャルロットとケヴィンが震えあがる。
「今私たちが生きていられるのも、まだこの世界に僅かながらもマナが残されているからです。けれど多分、それがまだ足りないのではないでしょうか」
「でも、足りない割に暴力的なマナの使われ方をしてる部分もあるよな。特にローラントなんかがそれだろう。暴風と地震がひっきりなしに起こってるって、精霊の暴走みたいだよな」
 ホークアイがそう言うと、アンジェラとリースが顔を見合わせた。
「精霊の…」
「…暴走…!」
 二人は同時に立ちあがった。
「それよ!」
「それだわ!」
 アンジェラとリースがお互いに人差し指でお互いを指さした。
「世界中の限られたマナが精霊たちによって奪い合いをしてるとしたら…!」
「奪ったマナをより取り入れるために精霊によっては暴走してるものがいるとしたら…!」
 デュランがゆっくり立ち上がる。傍らに置いていた剣をベルトに装着させながら、一言だけ言った。
「異常事態の説明がつく、か」
「考えてみれば、風と土、闇と月あたりが表立って異常をまき散らしている割に、他の精霊が全面に出てきてないっていうのは水面下でマナの争奪戦が繰り広げられてるからかもしれないな」
 ホークアイも納得したように立ち上がる。残って座っていたシャルロットとケヴィンもつられたように慌てて立ち上がった。
「ど、どうしたの?急に立ち上がって」
「行動開始でち。この人たち、思いついたら動くのだけは早いでちからねぇ。おいてきぼりにされないように注意するでちよケヴィンしゃん!」
「う、うん。わかった…」
 ケヴィンとシャルロットの会話など気づきもしないアンジェラは、シャルロットの言う通りすぐさま歩きだした。ドアに向かってすたすたと足早に歩きながら話を続ける。英雄王がアンジェラに用意してくれた部屋は異様に広く、ドアまでにはまだ十分距離があった。
「とにかく、今の話はまだ仮定上の話よ。まず私たちは精霊たちに会って話を聞かなきゃ!」
「そ、そうですね。まず確認しないとちゃんとした対策もとりようがないですよね」
 さすがのリースもなんとか筋道が立ちそうな状態になったことに興奮したようだった。胸に手を当てて深呼吸する。そんなリースを落ち着かせるようにホークアイがポンポンと背中をたたいてやった。
「行こうか」
「ええ!」
 ぞろぞろと6人が足並みをそろえてドアを開けようとした瞬間、そのドアノブが勝手に回ると先にドアが開いた。ちょうどドアノブに手を伸ばしていたアンジェラは、思わずあっけにとられて後ずさりした。そして、真正面にいた人物に再び面くらったように目を見開いたのだった。
「お、お母様?」
「アンジェラ!よかった!無事なのね…!」
 ヴァルダは今にも涙を溢さん表情でアンジェラに手をのばし、娘の体を引きよせ抱きしめた。びっくりしていたアンジェラだったがしかし、アンジェラは母の登場に驚いたもののすぐに我に返った。
「お母様、私も心配だったの!」
 感傷に浸る間もなく、アンジェラはヴァルダの体を引き離すと母親の顔を覗き込んだ。これには逆にヴァルダの方が驚いて、目をしばたたかせて娘を見つめた。しかし、アンジェラの方はそんなことを気にしてられないとばかりに、切羽詰まったように気になっていたことを母に訊ねたのだった。
「ねぇお母様!今アルテナを離れて大丈夫なの?酷いこと起こってない?」
 この質問はその場にいる仲間たちにとっても目下注目すべき問題だったので、じっとヴァルダの表情を見つめた。ヴァルダはその場の空気に気圧されたように、しばらく瞬きもせずアンジェラと仲間たちを見つめていたが、やがてゆっくりと首を振った。
「いいえ?酷いことは何も」
 穏やかな声で紡がれたその答えに、アンジェラは肩の力が抜けた。今までずっと他国の話を聞きながら胸につかえていたものがやっと取れて、心から安心できた。よかった…と小さく声が呟かれる。
「でも、アンジェラ帰ったら驚くわよ」
 ヴァルダがおどけるように笑いながら言うので、アンジェラは興味をそそられてつい訊いてしまった。ヴァルダがそうやって笑うのは娘のアンジェラでもあまり見ることがなかったので無理もない。
「え、どうして?何かいいことがあったの?」
 ふふ、と母が笑う顔が見られるだけで、アンジェラは十分嬉しかった。だから、次のヴァルダの言葉がアンジェラを呆然とさせるものだとは夢にも思わなかった。
 ヴァルダは花が咲いたことを喜ぶ少女のような顔で、言った。
「今、アルテナは春なの」
「…へ?」

 








 



to be continued.

■道内移動中、紫陽花と向日葵と秋桜が咲いて鶯が鳴いていました…季節不明。それが北海道クオリティー!(?)

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