【聖剣伝説3】

■嘘の告白

掲載日[2009/04/01]


















「嫌いよ!大嫌い!」
 こぼれる言葉は本心とは裏腹なもの。そうとわかっているのに、止められない。
「二度とあんたとなんか旅なんてしないし、一生あんたと一緒になんて歩かない!」
 目の前にいるのは、心から大好きな人なのに。デュランなのに。
「もう顔なんてみたくない!」
 アンジェラはデュランの目も見られずに逃げ出そうとした。これ以上酷い言葉をこの人に投げつけなくてすむ方法がそれしかない、と思った。

「待て待て」
 割合落ち着いた声でデュランがそう言って、アンジェラの腕をとった。アンジェラは反動でぐいとデュランの腕に引っ張られるようによろけてしまう。
 すかさず、デュランがそんなアンジェラを支えるように腕を添えた。
 アンジェラが見上げると、デュランの顔があった。
 激しく怒鳴る直前の顔と出会うと思いきや、デュランの顔は複雑そうに歪んでいた。
「お前、ちょっと…ここがどういう所か、わかってるか?」
「知ってるわよ!」
 知らない!と思っているのに口に出る言葉が全く逆の現象を表してしまう。アンジェラは先ほどからそんな状態に陥っていた。
「知らないってことか」
 デュランが言う。口は知ってるって言ってるでしょ!と言うけれど、アンジェラの首がこくこくと上下に振れた。言葉以外はなんとかなるのだ、とアンジェラはようやくわかった。
「あのな、ここは一応サカサグサの谷って言われてて、フォルセナじゃぁ立入禁止区域なんだよ。だからそっちに走るなって止めたのに、お前止まらねぇからよ…」
 先ほど、アンジェラはデュランとつまらない喧嘩をして、その所為で頭にきたアンジェラは走りだしてデュランから離れたのだった。
 しばらくしてデュランが追いかけてきたことに気づき、嬉しくてこの谷の草に紛れて隠れていたところ、急に体が熱を帯びたような感覚に襲われた。それはローラントで眠り花に侵されたときと同じような感覚だった。
 そんなときにデュランに見つかってしまったアンジェラは立ち上がると、唐突に「大嫌い」を連発したのだった。
「でな、サカサグサってのは名前の通り、逆さまの言動を起こす草で…、まあ、思ってることと真逆の言葉を連発させる草なんだけど…」
 デュランがアンジェラから目をそらしたままそう説明するのを聞いて、アンジェラは一瞬思考が止まった。
(待って。それって…今私が口にしてることが真逆ってことで…!)
 体がさらに熱を帯びたような気がした。顔が火のように熱くなる。火照った顔のまま、デュランの顔を見ることなどできないアンジェラはすぐに顔をそらした。
 しかしアンジェラの唇がふわりと開くと、お決まりの台詞のようにさきほどと同じ言葉を吐き出した。
「大嫌いよ」
(く…口が勝手にっ…!)
「デュランなんか、大っ嫌い!一生二度と顔を見たくないわ!」
(ちょっ…ちょっとぉぉお!!)
 デュランとアンジェラのいつもの喧嘩でならば日常的に出てくる言葉ではあった。しかし、状況がまるで違う。この言葉の真逆が本意なのだと、相手はわかってしまう。つまり心が筒抜けの状態になっているのだった。
「なぁ…」
 一方、デュランも複雑そうな顔でアンジェラを見ていた。デュランも少し顔が赤くなっているのは、見間違いではないのだろう。
「この場合、俺はどう反応すればいいんだ?」
 アンジェラだってそう言われても困る。自発的な告白ではないのだし、こんな形で思いがばれるなんて思いもしなかったのだ。半分泣きそうな顔でアンジェラはデュランを見上げる。
(もう…どうしたらいいのか聞きたいのはこっちの方よっ!)
 デュランが困った顔のまま泣き出しそうになってるアンジェラを見てから、頭に手をやった。がしがし、と頭を掻きながらしばらく考えた後、おもむろにアンジェラの手を離すと、唐突に下生えの草に頭を突っ込んだ。
 そんなデュランにアンジェラは唖然とした。
「なっ!?デュラン!?」
「フェアじゃねぇからな。俺も草の花粉だか何だかを被ってやるよ」
(な、な、な!何考えてんの!?そんなことしたら…っ!)
 アンジェラは怖かった。デュランの本心が知りたいとは常々思っていた。それは間違いない。けれど、知るのは怖かったのだ。だから、想いをずっと秘めて隠して、やり過ごそうとも思っていたのだ。
「あ、これちょっと眠り花に感覚が似てんだな」
 デュランが草のにおいを嗅ぎながらそんな事を言っている。
(それって、草の効果が効いてるってことよね…)
 おそらく、デュランの素直な言葉がここで終わるのだろう。しかし、次に続く言葉も裏を返せば素直で嘘のない言葉が紡がれるのだ。
 逃げだしたい、と思った。怖いし、何よりも、もう一緒にいられなくなるのではということが、アンジェラの最大の不安だった。
 しかし、足はまるで動かない。震えて動けないのではなく、デュランの本心を知りたいという好奇心が足を地に縛り付けているかのようだった。
「デュラン…?」
 しばらくたってもうずくまったデュランが動かないので、心配になってアンジェラはデュランを覗き込む。具合が悪くなったのだろうか、とデュランの顔を見ると、歯をくいしばって何かをこらえてるようだった。
「…何それ。もしかして、ずっとそうやって堪えてたワケ?」
 何か言葉にしたところをどうやらいつもの気合と根性で口を閉ざしたらしかった。アンジェラはそんなを見て呆れてみせる。
「ったく…」
 いいたくないのなら言わなくてもいい、と思ったアンジェラは即座に歩きだしていた。とにかく、いつまでもこういう物騒なところにいるわけにもいかないし、本心を聞くのはまだ早いという気もしていた。無理に聞きだしてもいい返事である可能性はそれほど期待できないのだし、もうちょっとしてからでも、とアンジェラは思うことにしたのだが。
 後ろからがしっと腕を掴まれて振り返ると、デュランがその言葉を解放した。
「嫌いだ。お前なんか大っ嫌いだよ」
「は?」
 正直なところ、これではどうにもわからない。効力が効いてるのかそうでないのか、そのままが本意のようでもあるし、デュランの性格上嘘はつかないのでつい言葉のままを信じてしまいそうになる。
 頭がそう理解する前に、アンジェラの口はまた真逆の本意を紡ぎだしていた。
「私だって大嫌いよ!なによあんたなんかちっとも頼りない癖して!」
「お前だってなぁ!あ〜〜もう!」
 デュランはおそらく、嘘とは言えあまりひどい言葉を口にしたくなかったのだろう。いや、それともやはり真逆とはいえ本心が口を滑るのが嫌だったのか、そこの本意はわからないが、息を止めて声を閉ざしたのだった。
 何という機転だろう。いつも粗忽で馬鹿をやる割に、たまにこういうことをされると余計に腹が立つものである。
「ずっ!ずるい!」
 アンジェラがデュランに抗議するようにデュランの腕を掴もうとしたところで、逆に掴まれ、デュランがアンジェラの耳元に唇を近付けた。
 掠れたような声が、絞り出すように一言好きだ、と言った。
 アンジェラの耳にささやかれた言葉が届く。絞り出した嘘のない言葉。サカサグサの効力さえ抑え込んだ真実の言葉だと、アンジェラにもわかった。
「ずるい、私だってちゃんと言いたかったのに」
 涙を滲ませたアンジェラがデュランを睨むように見上げた。
 息を止めて嘘がこぼれないように、二人は囁き合うと唇を合わせた。




 


Fin.

■エイプリルフールものとして一気に書き上げました。
バレンタインもホワイトデーも乗る気がしませんでしたが、
これは乗っときたかったらしい(笑)

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