黒く闇に飲まれたウェンデルはただ黒い風がその都市を包み込んでいて、当たりは静寂の中に有った。一度アンジェラとシャルロットの光魔法によって闇から開放された人々も、すでにまた闇に飲まれ、黒い姿になって動きをなくしていた。
 その全くの動きのない世界から程遠くない神殿の一室で、ヴァリヤが黒い髪のリースを抱きしめながら一言一言をかみ締めるようにこういった。
「そう、なぁんにも、考えなくていいの・・すぐにみんな闇に飲まれるわ・・」
 ヴァリヤはリースの背を優しく撫でながら、そういった。リースはまるで母の腕に抱かれた子供のように大人しくヴァリヤの腕の中にいた。
「何も・・考えなくて・・」
 リースはうつろな目をしたまま呆然としていた。まるでそれは意志を失った人間のようで、見た目抜け殻のようだった。ヴァリヤはその抜け殻を慰めるように何度も何度も背を撫でてやる。
「そう、貴方を怖がらせる人も、責める人も、裏切る人も誰もいないわ。大丈夫」
 黒いリースはどこに向けるでもない瞳を中空に彷徨わせると、かすれるようにヴァリヤの言葉を繰り返した。
「だい・・じょうぶ・・」

 フラミーが全速力で大空を駆け抜けていく。
 フラミーに乗っていた四人はフラミーの毛にしがみついているのに必至だったが、ふとアンジェラが声を上げた。
「ローラントよ!間に合ったわ!!」
 アンジェラがほっとしたようにそういった。デュランも、ケヴィンもシャルロットも、ローラントの壮大な城を見て、改めて感嘆した。険しい山脈の地形を活かした荘厳で気高い、まるでリースを思わせる大きな城。
「すげえ・・なんてでかくて・・」
「強そう!」
「要塞、でちねぇ・・まるで」
 アンジェラは呆然と三人がそういう姿に、やっと顔をほころばせた。魔法王国アルテナに立ち寄ることもなく、まっすぐここまで来るまでアンジェラは硬い表情のままだった。(ローラントでホークアイを拾えるなら、まだ救われる気がする。)
 アンジェラの中で、それはただの予感だった。でも、間違ってはいない。そんな気がする。
「降下させるわ!つかまって!」
 フラミー、とアンジェラが声をかけると、フラミーが一鳴きしてぐんっと降下し始めた。
 フラミーを地上に降ろし、アンジェラはフラミーにありがとう、といい、優しいキスをした。四人が地に足を着けると、フラミーはすぐに空に飛び立った。
「どこにいくんだ?ここで休んでいた方が楽だろうに。」
 デュランが不思議そうにそう言った。アンジェラはさあ、と小首を傾げて肩をすくめた。
「ホークアイしゃんはどこでちか?黒くなったウェンデルのことを一刻も早く報告するでち!!あと、イファナしゃんがどうしたのかも!!」
 シャルロットにそう言われて、慌てて二人は頷いた。ケヴィンは訳が分からず、目を点にしていたが、アンジェラが来て!と3人に向かって声をかけると精悍な顔つきを取り戻し、うん、と頷いた。
「おかえり!アンジェラ!大変なことになったよ!」
 リースの部屋の前の廊下でアンジェラがホークアイを見つけるなり、ホークアイが先にそう言ったのでアンジェラは仰天した。
「なによ!そっちも何かあったって言うの!?冗談じゃないわ。こっちだって大変な事が起こったのよ!」
「それは、リースがいなくなったって事以上の大変なことか?」
 4人はそれを聞いて愕然とした。その4人から、ホークアイが辛そうに目をそらす。アンジェラがそのホークアイの姿を見て、ダンっと壁を打った。
 残りの4人がはっとしたようにアンジェラを見つめる。
「な・・なにやってたのよッ!ちゃんと、守ってって・・頼んだじゃないのっ!」
「アンジェラ・・」
「あの子を一人きりにさせたくないの。私と同じ目にはあって欲しくないの・・だから・・だからアンタに頼んだのにっ・・・!!」
 悔しそうに歯ぎしりをさせてアンジェラはぼろぼろと涙を床に落とした。こんなにも怒りの形相をしたアンジェラを、誰も見たことがなかった。
「イファナしゃんは・・・?」
 一区切りの沈黙を破ってシャルロットが控えめにそう言った。ホークアイははっとしたようにシャルロットを見つめる。
「シャルロット!イファナを知って・・?」
「イファナしゃんはかつて光のお城と呼ばれていたダークキャッスルの、唯一の生存者でち。ウェンデルではヒースと一二を争う実力のある聖職者だったんでち。」
「イファナが実力ある聖職者・・・?じゃあ。なぜリースを奪ったりするんだ・・!」
「リースはそのイファナって野郎が!?」
 デュランは意気込んでそう言うと、ホークアイは静かに頷いた。
「イファナだと思う。イファナは一度この城を去っていたが・・リースが消えた部屋には黒い羽が残っていた。黒いコカトリスは始めにライザを狙って傷を負わせている。イファナが仕込んでいたんだろう・・。現にイファナはその事件でこの城に難なく入り込んできた。そのあと、リースをコカトリスに乗せて奪った・・・」
「リース、強い。抵抗、どうしてしなかったんだろう?」
 ケヴィンが子供なげにそう言った。デュランも頷く。
「リースは相当な槍の使い手だろう。アマゾネス軍の長でもある。なんで簡単に・・」
「リースは精神的に滅入っていたのよ。もし闇のものがリースをさらったのなら、それにつけ込むことも十分できることじゃないかしら・・」
 理性を取り戻したアンジェラが、呟くようにそう言った。
「まあ、これだけ世界に闇が蔓延ってるから、それも十分考えられるな。」
 デュランがぼんやりとそういうと、ホークアイがその言葉に反応する。
「世界に闇が?」
「あ、そうだ。こっちの大変なことはそれなの。世界中が闇に飲まれているの。飲まれていないのはもう多分ここだけよ・・」
 アンジェラが静かにそう言った。ホークアイが首を傾げていると、デュランが言葉を付け足した。
「ウェンデルの方角を中心として、黒い闇の気が世界中を覆い始めたんだ。ウェンデルはもちろん、アストリア、ビーストキングダム、フォルセナ・・未確認だがアルテナも・・」
「なんだって・・!?」
 ホークアイは目を見開く。窓から光り射す大地を見つめて信じられないように、息をついた。
「何故・・ローラントだけ無事なんだ・・?」
「そういえば、いつまで経っても闇がこないでちね・・?まさか・・これはリースしゃん自身の闇かもしれないでち!」
 シャルロットは意気込んでそう言った。
「どういうことだっ!?」
 ホークアイとデュランがシャルロットに詰め寄る。ケヴィンは状況がどうにも理解しきれないので、おろおろとしていると、アンジェラが慰めるように大丈夫よ、と笑う。
 アンジェラは既にシャルロットが言った意味を理解しているようだった。
「リースしゃんは多分イファナしゃんと同様闇に飲まれたんでち。イファナしゃんももともとは光の聖職者でちから、おそらく闇に飲まれていると考えて間違いないでち。イファナしゃんはこんなことをする人ではないでちから。」
 ホークアイがちょっと待て、と頭の中を整理するように腕を組んだ。足をいつものようにぱたぱたと鳴らす。
「じゃあ、何か。イファナと名乗る女そのものが実は闇のものに体を乗っ取られていて?リースはその闇のものの意志で動くイファナに連れ去られた・・・?」
「わけわかんねえ」
 デュランは既に肩を竦めて、ため息を吐いた。シャルロットがホークアイの言葉に大きく頷いた。
「そうでち。イファナしゃんを乗っ取る闇を払えば、二人は元に戻ると思うでち。」
「ついでに世界も闇から取り戻せるはずだよなっ!?」
 デュランはここならわかるっ!とばかりにシャルロットに同意を求めた。シャルロットはにこ、と笑って頷いた。
「よくわかったでちねっ。」
「馬鹿にするなっ」
「じゃ、そろそろ本拠地にいこうか?」
 ホークアイが強気に瞳を光らせて、4人にそういった。4人は静かに頷いた。

 フラミーに5人も乗り込むのはさすがに辛かった。しかし、他に移動手段もなく、また地上をうかつに歩けばいつ闇に飲まれるかもわからないので、フラミーに精一杯無理をしてもらう事になった。
「ごめんね・・ごめんね。これが終わったらゆっくりさせてあげるからね」
 アンジェラが何度もそういってフラミーをなだめていたが、すでにフラミーは声を上げて応える気力もなかったらしく、ひたすら速度を落さないように5人をウェンデルに運んでくれた。
 やがて、黒くなったウェンデルを見て、ホークアイを始め、デュラン、ケヴィンは唖然としてそのかつての聖都市を見つめた。
「こんなになってしまうなんて・・」
「呆気に取られてる暇はないからね。作戦、ちゃんと覚えてるんでしょうね!?」
 檄を飛ばすようにアンジェラがそういうと、男3人はしっかり頷いた。シャルロットがため息を吐いて、一言呟いた。
「アンジェラしゃんがいなかったらどうなってるでちかね〜・・」
 やがてフラミーから5人は飛び降りた。フラミーが闇に飲まれないように、出来るだけ高度をぎりぎりまで落して、飛び降りることにしていたのだ。
 先にたどり着いた3人の男たちに後の二人の女の子を受け取ってもらう。
「よっと。」
 ホークアイがシャルロットを受けて、一安心する。
「ありがとさんでち。こんなびしょーじょを受け取れる役なんて滅多にないでち!」
「はははっ!」
 ホークアイが乾いた笑いをするのをよそに、シャルロットがホークアイから飛び降りる。
「うわっ」
 次いで、ケヴィンがアンジェラを受け取る。デュランは盾を持っていて、受け取れない。
「ありがと。軽いから平気よね?」
 にっこりと笑ってケヴィンにそういうと、アンジェラはひょいっとケヴィンから飛び降りた。
 5人が無事に着地を終わらせるとすぐに、辺りの闇がざわつき始めた。
「来るっ!」
 ケヴィンがいち早くその気を察知して、そう叫んだ。その言葉に反応して、アンジェラが3人を促した。
「さ、そっちはさっさと神殿に向かうのよ!」
「わかったでち!」
「気をつけて!」
「またな!」
「待って〜!」
 それぞれが挨拶を済ませ、まずシャルロット、デュラン、ケヴィンが神殿の方に乗り込んだ。
「大丈夫かな・・」
 ホークアイが心配そうにそういった。アンジェラは強気に杖を振り回すと、
「平気よ。全国家の猛者たちが集まってんのよ!負けるもんですか!」
と笑う。ホークアイもにっといつもの調子のいい顔を取り戻すと、そうだね、と笑った。
「来るなら来いだわ!いくわよっ!」
 アンジェラはすうっと息を吸うと、杖を構えた。闇の気が二人を取り囲み始める。
「光の精霊、ウィル・オ・ウィスプ!光の中より生まれし聖なる玉を操り、黒きものを払うその力をいまここに示せん!ホーリーボール!」
 中空に唐突に生まれたいくつかの小さな光が、瞬時に膨らみを増しアンジェラとホークアイを包んで弧を描く。近づこうとしていた闇の気が瞬時になぎ払われた。
「ふへっ・・ちょっとやりすぎ?まあこれ位しておかないとね。」
 辺りの闇をとりあえず一掃して、アンジェラはふうとため息を吐いた。
「よし、向こうもそろそろ神殿に乗り込んだ頃だろうし、こっちもいこうか!」
 ホークアイがそういうと、アンジェラは頷いた。
「こっちは司祭様を、あっちはヒースを。だもんね!」

「ヒースはあの時間なら奥の修行者のお部屋にいたはずなんでち!」
 唯一ここが闇に飲まれた時間を知っているシャルロットはヒースの正確な位置を予想できるため、ヒースの救助を任された。司祭は大体司祭の間にいるので、アンジェラにもわかる。
「遠いのか?それ。」
 デュランは、既にシャルロットを肩に担いで走っていた。シャルロットの歩幅にあわせていたんでは、闇にすぐ追いつかれてしまう。
「2階の奥の方のお部屋でち。」
「うーん。走るから、道案内頼むぞ?」
「了解でち!デュランしゃんはあたちのあっしーとなって頑張るでち!」
「嫌だなぁ・・それ。ケヴィン!来てるかぁ?」
 デュランが後ろを振り返れないため、ケヴィンに声をかけると、ケヴィンは問題なく返をした。シャルロットもデュランの代わりに振り返って、ケヴィンを確認する。
「大丈夫、闇まだきてない!」
「よし、ならいいや。」
 3人は2階に上がる階段を駆け上がった。
 階段を上がったところで、闇が3人を襲った。シャルロットの呪文も舌が回らず、ぎくりとしたが、ケヴィンの爪が闇の気を一閃させると、闇が音もなく消え果てた。
「ふい〜・・よかったなあ。セイントセイバーさせておいて・・」
 デュランは冷や汗を吹くと、シャルロットも安堵のため息を吐いた。
「ここはデュランしゃんの機転の勝利でちね。入る前にセイントセイバーを思いつくとは思わなかったでちよ。」
「でもよ、あっちのチーム、誰もセイントセイバー使えないんじゃないか?」
 デュランの言葉にシャルロットがにやりと笑う。
「大丈夫でち。あたちだって、司祭の孫娘。光のアイテムくらいはもってるでちからね!同じ効果のアイテムを渡してきたでち。」
「やるなぁ」
 デュランは肩に乗るシャルロットは誉めると、シャルロットが足をばたつかせてこういった。
「さぁさぁ、もたもたしてる暇はないでちよ!しゅっぱつしんこー!」
「俺は馬じゃねえ!」
 二人がじゃれあっている間、ケヴィンは光る青い石を見つけていぶかしげにそれを拾った。真っ青なその石をしばらく見て、ケヴィンはその石をポケットに仕舞った。
「あっ、ヒースでち!」
 部屋を伝って何度か通り抜けたあと、やっとのことでシャルロットはヒースを見つけた。
「降ろすでち、降ろすでちー!」
「わかったわかった」
 デュランはシャルロットを肩から降ろすと、シャルロットは嬉しそうに足を鳴らしてヒースに近寄った。
「今戻してあげるでち!」
 シャルロットはヒースに一度そういうと、呪文を唱え始めた。
「光の精霊ウィル・オ・ウィスプ!黒き闇より出でたる魔物を光の礫で追い払い給え!ティンクルレイン!」
 ヒースの回りから闇の気が一掃され、黒くなっていたヒースの体ももとの色を取り戻し始めた。ゆっくり瞳が開かれ、シャルロットを見つけるとヒースは微笑んだ。
「あ、シャルロット。君は闇に飲まれなかったんだね?」
「ばかばか、ヒース!人の事ばっかり心配してるから、闇なんかに飲まれるんでちぃぃ!!」
 シャルロットはヒースが元気な姿なままだったので、安心のあまり泣き出してしまう。ヒースはそんなシャルロットを心得たように抱きしめて、心配かけてごめんね、と言った。
「それに、元に戻してくれてありがとう。そちらの二人も。」
 ヒースは穏やかに二人に礼をすると、二人は慌ててそんなヒースを止める。
「それより、ヒース、イファナしゃんが書いた光のお城の歴史書が何処に有るのか知らないでちか?」
「光のお城の?」
 ヒースは不思議そうにシャルロットを見つめてそういった。
「そうでち。この闇はイファナしゃんがとり憑かれている闇が引き起こしているものだと思うんでち。歴史書に何かヒントが有るんだと思うでち。」
 ヒースはそれを聞いてしばらく考え込むと、なるほどと頷いた。
「歴史書の有りかは知っているよ、でもいく必要はないよ。」
「どうしてでちっ?!」
 シャルロットが意地悪しているのだと思っていきり立ったようにそういうと、ヒースがなだめるように笑ってから、こういった。
「僕が全部暗記しているからね。」

「っと〜・・危ない危ない」
「メンバーの選択誤ったわねえ・・」
 アンジェラとホークアイは一階の闇を払い終えたところだった。
「って、俺が弱いからって事?」
 不服そうにホークアイがそういうと、はは、とアンジェラは笑う。
「攻撃力もないし、光の魔法も使えないんだもん!本当にもぉ・・!」
「君だって、セイバーが使えたらよかったのに!」
「何言ってんのよ!使えないものはしょうがないでしょ!」
「それなら俺だって同じ!しょうがないだろ!」
 一瞬二人はにらみ合った後、はあ、と息をついた。
「こんなこと今言ってもしょうがないけどね・・」
「まあ、ヒースの方が優先だったしね・・。司祭がどうでもいいってことはないんだけど・・」
 二人はそう言って司祭の間の中央の、いつも司祭が座っている椅子を見つめてため息を吐いた。
「司祭はどこにいったんだろうね?」
 二人は同時にそういうと、なんとなくもう一度ため息を吐く。その瞬間異様な空気がぴりぴりと走り、アンジェラは身震いをした。
「・・何?」
「どうしたんだ?」
 ホークアイはその空気には気づかず、アンジェラの様子をただ気遣う。しかし、次に聞こえてきた声にぴくりと耳を動かした。
「司祭に謁見をご希望か・・こちらへ来るといい・・」
「イファナの声だ!!」
 ホークアイが思わず叫んだ。しかし、姿は見えず、二人はきょろきょろと辺りを見回す。
「こちらへ・・。」
 ひゅっと耳に音が鳴り響く。体もふわりと浮いた感じがした。どうやら転移したようだった。
 二人の目の前には、黒くなったリースとイファナが待ち構えていた。
「ようこそ、世界の王の部屋へ。司祭の代わりとなるお方だ」
 イファナがにやりと笑って二人に挨拶をした。ホークアイもアンジェラもリースに何かされたのではたまらない。黙って様子を見る事にした。
「イファナ、と言ったな。お前の正体、教えてくれ。」
 ホークアイはイファナにそういった。イファナは目を閉じ、再び開くと、静かに頷いた。
「私は闇の貴公子の正妻ヴァリヤ。聞き覚えが有るかな?」
「闇の貴公子・・光のお城の後継者だな?その正妻?まだ王子は産まれたばかりの頃に国は滅んだと聞いたが・・」
「高貴な生まれほどその妻は早く選ばれる。私は王子がお生まれになったときに、決まられた妻だ。」
「なるほど。それでその奥さんが、何を企んでる?」
 ホークアイは落ち着きなく腕を組んでぱたぱたと足を鳴らす。
「すでにもう一つは終わっている。闇で世界を統治した。」
「それはどうかな?」
 ホークアイはにやりと微笑んだ。ヴァリヤがホークアイを睨み付ける。
「なんだと?」
「リースの故郷は未だ光に包まれている。彼女はまだ闇に染まりきれていない、まだ彼女はローラントの王女なんだ!」
「なにっ!?」
 ヴァリヤがリースを振り返った。リースは呆然としたまま、窓の外の景色を見つめている。
「解放するんだヴァリヤ。彼女は闇のものじゃない!れっきとした光の中のローラント王女だ!」
「うるさいっ!」
 闇の気がホークアイに迫りそうになり、アンジェラが軽くその杖で闇をはじいた。
「別名光の杖と呼ばれるガンバンティンよ。多少の闇なら払えるわ。」
 挑むようにアンジェラはヴァリヤにそういった。
「リースを囲って何になるの。闇の力なら貴方だけでも十分発揮できるっていうのに、どうしてリースを使うの?」
「それはリースが聖剣の勇者だったからだろう!ヴァリヤ!」
 唐突に走り込んできたのはヒースが率いるシャルロットのグループだった。
「無事だったのね、みんな!」
 アンジェラがほっと顔を緩ませる。シャルロット、デュラン、ケヴィンがゆっくり頷く。
「どうだ?図星だろう。彼女の身体を使えば、女神が言う事を聞くと思っているんだろう!女神様はお見通しになるぞ!ヴァリヤ、君の野望は果たされない。闇の貴公子ももう元には戻らない!諦めるんだ!!」
 ヒースがヴァリヤに迫りながらそういうと、ヴァリヤは怒り狂ったように叫び始めた。
「うるさいっうるさいっうるさいっ!!!」
 轟音を立てて、部屋が闇によって荒らされる。竜巻のように風が部屋中を取り巻き、その中心に部屋に有ったものが次々と吸い込まれていく。中心はまるでブラックホールのように次々と物を吸い込んでいっている。
「なんだこれはっ!?」
「みんな、何かに掴まって!」
「だって、物という物がなくなってるのに何に掴まれっていうのよ!!」
「吸い込まれたらどうなるかわからないぞ!」
 あわや大混乱になる中、ふわっとある人物が浮いたのに誰もがはっと目をそちらにむけた。
「リースっ!」
「まずい、あの子意識がないから・・!!」
 ホークアイが思わず手を伸ばしたが、しかし間に合わずリースは闇の風に吸い込まれていく・・。
「リースッ!!」
「あっ!ホークアイっ!待ちなさい!」
 アンジェラが止めるのも聞かず、ホークアイはリースを追って闇の風に吸い込まれてしまった。
 一同は二人が吸い込まれたブラックホールを、ただ呆然と見守るしかなかった。






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