ごめんなさい
あなたのこと許してあげたいのに
どうしても許すことが出来ません
前の通りにしているのが
本当は悔しくてたまらないのです
本当はもう声も姿も
私の中に入り込んで欲しくないのです
私の中から綺麗に消えて欲しいのです
それなのに
追い出せない私がいるのが
本当に辛いのです
ただ仲間として繋ぎ止めておくのには
あまりに辛すぎる形だと思いませんか?
不安定すぎるのです
私とあなたの関係そのものが
本当は
全てを分かり合った時点で壊れるべき関係なのです
壊れるはずの関係です
なのに、仲間として保っている
一体それに
なんのメリットがあるというのです?
でも、あなたを失いたくはないから。
だから私が我慢をするのです
あなたを失わないために
全てを隠して
「・・リース?」
さっき一緒の吸い込まれた部屋の家具達は回りには見当たらなかった。もしかしたら個々が別の世界に行ってしまったのかもしれない。
だとしたら一緒に吸い込まれた自分はリースとは別の世界にいるのかもしれない。
そう思うとホークアイは悔しさに唇をかんだ。待ちなさい、と叫んだアンジェラの声が脳裏に蘇る。
「そうだよなあ・・あのヴァリヤをなんとかすればリースも元に戻せたのに、頭に血が上って・・」
辺りは一面黒い闇に包まれていた。
光はなく、ただ自分の姿だけはしっかり認識できる不思議な闇の中にいた。
ということは、何かが有ればおそらくホークアイにも認識できるのであろうという予測が、頭の中で立っていたが。それにもかかわらず辺りは闇だけで、何もないらしい事を物語っている。
「あーあ、失態だ。こりゃあ、リースを取り戻せるかどうかもやばいなあ・・」
・・ホークアイ、さん。
不意に、声が聞こえてホークアイはびくりと肩を震わせた。
「・・リースかい?出てきてくれよ、助けに来たんだ、俺」
辺りを見回しても、リースの姿はない。ホークアイは焦るように回りを見回しなおす。
「リース、リース、出てきてくれよ。一緒に帰ろう。」
・・帰りません。私は闇の中が丁度心地が良いのです。
「帰らないって・・エリオット王子はどうするんだい?それに俺、王子に誓ってきたんだ、リースを連れて帰るって・・だから。」
・・エリオットはライザがなんとかしてくれます。私は闇の中で心を闇に染めて、ここにいます。
ホークアイは黙ってリースの言葉を聞いていた。辺りを見回しても無駄な事がわかり、ただ仁王立ちするしかなかった。
・・ホークアイさんも、帰ってください。私はここにいたいのです。
「闇に心を染めて君は楽になったのかい?」
・・ええ。少なくとも前よりは。
「それはただ逃げただけじゃないのかい?」
・・そうかもしれません。でもこれ以上のことは私は望めません。
「リース、お願いだ。俺の前に、姿を一度だけ・・」
ホークアイがゆっくりと真正面を見つめながらそういうと、ぼんやりと浮かんだリースの・・闇に染まったリースの姿が現れた。
「・・っ!」
リースに歩み寄って、ホークアイはリースの頬を打った。いや、打とうとしたのだが、リースの体は幻影で打つ事が出来なかった。それでも、リースは目を見開いて、ホークアイを見つめていた。
「はは・・なるほどな。よかった。本当に打ってたら後悔したかもしれない・・。けどな」
ホークアイはリースを見つめると、怒鳴るようにこういった。
「甘えてるんじゃないぞ!リース。闇に染まってエリオットを人に任せて、自分は闇に篭るって?一体何を考えてる?そんな情けない勇者に俺は仲間になった覚えはないぞ!!」
リースは黙っていた。ただ、無表情にホークアイを見つめていた。
「一体何が不服でこんな子供じみたことをしてる?いい加減に目を覚ませ!君がやっている事は子供がすねていじけているのと全く同じだ!」
・・あなたに・・あなたにどうしてそんな事が言えるんです・・!
リースは涙をこぼしていた。ホークアイを見つめたまま、つぶらな瞳からぽろぽろと光り輝く涙をこぼしていた。
・・あなたが私を苦しめている張本人なのに・・
「リース・・?」
ホークアイはいぶかしげにリースを見つめていた。リースはそのまま消え入りそうになるのを慌てて止める。
「待て!リース俺のせいならちゃんとそれを教えてくれ!君を苦しめているのは俺のせいなのか!?」
・・あなたです。ローラントが壊滅寸前まで陥れられたその根元たる理由のナバール、そのナバールのあなたと出会った事が私の苦しみの始まり。
「リース?」
・・だから、あなたのいない世界にいたいのです、どうかわかって。
ホークアイは消え入りそうになるリースを見つめながら、思い切って言葉を紡いだ。
「君は国に執着しすぎてはいやしないかい?」
返事はない。ただ静かにリースはホークアイを見つめている。
「君がもし困るのであれば、俺はこれ以上言わない方が良いのかもしれない。でも、俺は君を困らせてでも取り戻したい・・リース、君に俺は愛していると言っても良いだろうか?」
・・困ります。
リースは瞳を閉じた。ホークアイの目からそらすように。
「どうして、俺がナバールの人間だからか?たったそれだけのことでか?」
・・それだけ。ですか?
リースは再び瞳を開く。ホークアイの瞳を憎むような眼差しで見詰めた。
・・あなたはそれだけのこと、なんですか?
ホークアイは思わず唇をかんでリースから目をそらす。それだけのこと、で済まされない事などわかっている。でも、今はリースをどうしても取り戻したい。
ジレンマだ、と思う。頭の中でメビウスの輪が浮かぶ。
・・私は、あの国を建て直すべき最高責任者です。あの国を炎上させたナバールの人と恋い親しむことなど許されません。でも。
悲しげに瞳を潤ませて、リースはホークアイを見詰めた。慈愛に満ちた母のような表情で、リースは一言だけ呟いた。
・・あなたを、愛しています。
「・・リースっ!」
・・お分かりでしょう、ホークアイさん。私は最高責任者としての責務と、自分の気持ちとを両立させる事が出来ないのです。だから、私は闇を選んだのです。二つとも捨てることを。
「リース、リース。お願いだ。早まらないでくれ。きっと方法はあるはずだ!君は焦りすぎてる。国を建て直し始めたばかりで、全てを捨てるのか?やっと弟を見つけ出し、あの苦しい冒険も乗り切った君が!」
リースはホークアイを見つめ、首を横に振った。
・・あなたを、愛しながら、憎んでいます。どうしようもなく。
「それでもいい。憎んでもいいから、一緒に生きよう・・!」
轟音吹き荒れる一室は、今もそのまま闇の風が残りの5人を吸い込もうと激しく吹きつけてきていた。今のところ5人とも何かに掴まっていて、吸い込まれる心配はなかった。しかし、ケヴィンが突然、うわっと声を上げたので一同はぎょっとしてケヴィンの方を見た。当のケヴィンはしっかり窓枠に掴まっており、吸い込まれる心配がないのを見てほっと胸をなで下ろす。
「どうしたんだ?ケヴィン」
デュランがそれでも様子がおかしいケヴィンに声をかける。と、ケヴィンは片方の手をポケットの中に入れ、一つの光り輝く石を取り出した。それは真っ青な琉璃の石。
それをみて、アンジェラが驚いたように声を上げた。
「ラピスラズリ!私とリースがおそろいで持っていた石だわ!片方はいまホークアイが持ってるから、それはリースの石。きっとどこかで落したのね・・。」
ヒースがそれを聞いて反応する。
「ということは、あの中に吸い込まれた二人も同じ石を?」
「そういうことになるけど・・なんとかなる?」
アンジェラはヒースにそういうと、ヒースはにこりと笑った。
「なるよ。連れ戻そう!・・・と、その前にこの闇の風をなんとかしないとね。アンジェラ、ストーンクラウドで風を相殺してくれるかい?僕はホーリーボールで闇を相殺させる。」
「オッケイ!任せて!」
アンジェラはそういうと、片手に抱えた杖を何とか掲げ、呪文を唱え始めた。
「土の精霊ノームよ!大地の声に耳を傾けたる雲をここに呼び寄せたまえ!ストーンクラウド!」
一瞬のうちに青白い雲が辺りを包み込み、風を包んでしまった。つづいて、ヒースが呪文を唱える。
「光の精霊、ウィル・オ・ウィスプ様!光の中より生まれし聖なる玉を操り、迸るその光でこの闇を追い払い給え!ホーリーボール!」
光の暴発が起きて、風を包んだ雲ごと部屋から浄化されていく。闇の風は収まった。
「うっ・・」
ヴァリヤが力尽きたようにその場に倒れる。デュランがそれを見て吃驚する。
「どうしたんだ!?」
「多分、闇の力が消えつつあるんだ。リースの体を使って増強していた闇も消えかかってるんだろう。」
ヒースがケヴィンから石を受け取りながらそういった。ラピスラズリが異様な光を放っている。それをみて、アンジェラが感嘆したようにこういった。
「すごい光・・」
「リースが帰りたがってる光の心だよ・・。闇を纏う力を持つ人間は逆に言えば強大な光の力を持っているんだ。」
ヒースがゆったりとそういうと、シャルロットが慌ててこういった。
「だっ、だからイファナしゃんが・・!」
「そう、イファナも、光の聖職者。しかも並みの力ではない。二人ともそこに闇の心を植え付けられたのだろうね。でも、イファナは特別。イファナはヴァリヤの血縁だった。姉妹だったんだ。だから魂が入りやすかったのかもしれない」
ヒースの言葉を聞いて、一同は驚嘆した。なるほど。それでイファナはヴァリヤにあっさりと呑み込まれたのだ。
「さ、二人を呼び戻すよ・・」
ヒースは石を床に置くと、手を翳して呪文を唱えた。
「土の精霊ノーム様・・我の声をお聞き届けください。この石の対なる存在をこちらに呼び寄せてください・・・」
しばらくして、石が強烈な光を放った。光の中から現れたのは・・ホークアイと、ヴァナディースの姿をしたリースだった。
「光の戦士になって帰ってくるなんてイキじゃない?」
アンジェラが笑いながらそういった。リースがアンジェラに向かって微笑む。それから、一同を見回して、頭を下げた。
「ごめんなさい。私の心の弱さのために、こんなことに・・」
みんながみんな、微笑んだまま顔を合わせた。光を浴びたようなリースの姿に、誰もが安心していた。酷く低い声がその部屋に響くまでは。
「認めぬ・・・」
「ヴァリヤっ!?」
リースはきっと辺りを見回してそういった。イファナは既に倒れたままで、黒い気配はない。乗っ取る気力もなくなったと見える。
「諦めなさい!もうあなたに力はないわ!私は私を取り戻したのだから!」
「認めぬぅっ」
恐ろしく大きな黒い気が部屋を取り込んだ。しかし、大きいだけで力の差は明らかだった。
「リース、あなたがやりなさい。最後に自分に勝った証に」
アンジェラは何もかもわかったような表情でそういった。リースは微笑みながら頷く。
「ヴァリヤ・・私の中の闇を気づかせてくれてありがとう。でも、さようなら!」
颯爽と走り抜けて闇をリースは貫いた。闇は弾け、力を失い、収縮していく。と、同時に外に広がった闇もまた、弾け、収縮していった。町並みに色が戻り、人々に活気が湧き始める。
「おっ、これで元どおりってわけかぁ。これでフォルセナに戻れるな!」
デュランが嬉しそうに窓から外を見つめてそういった。
世界は次第にいつもの活気を取り戻し、闇に飲まれたときのショックも人々から少しずつ薄れていった。もともと闇に覆われる事がなかったローラントも、王女が誘拐されるという大きな事件からも立ち直り、再びエリオットを王座に就かせるべく国家の建て直しを始めていた。
リースはその日に目を通すと決めていた書類を一通り読み通すと、はわぁっと欠伸をした。
「おやおや、可愛いお口だね。」
その声に、リースははっと口を押える。怒ったように回りを見回して、後ろ側の窓のカーテンを開く。ベランダの影に、ホークアイがにこやかに笑って手を振っていた。
「見えなかった癖にそんなことおっしゃらないで下さい。吃驚するじゃありませんか!」
ベランダに出て、リースが怒ったように頬を膨らませる。
「リースを見てると吃驚させたくてね。いつも真剣そのものだからさ。」
にこにこと微笑んだまま、ホークアイがそういうと、リースがふうと息をつく。
「真剣ですわ、私は中途半端は嫌いですの。」
ふっとベランダの縁に手をついて雄大な山脈を見上げる。ホークアイがそんなリースを囲むように後ろからベランダの縁に手をついた。
「何にでもね。」
「そう、何にでも。」
ふと、リースがホークアイの肩に頭を預けた。ホークアイが戸惑うようにリースを見つめている。リースがからかうような瞳でホークアイを見つめると、一言だけ呟いた。
「あなたにも、ね。」
Fin.
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