世界最大の大陸ファ・ザード大陸の東方、そして世界最高峰の山バストゥーク山の中腹に、難攻不落と謳われるローラント城がそびえる。風を司るジンと翼あるものの父と呼ばれる聖獣に守られ、世界屈指のアマゾネス軍がその地を守っている。
そのローラント城が今祝賀会の準備に追われていた。表向きは次代王のエリオットが正式にその王の冠を戴く戴冠式であったが、それと同時に国政に必要がなくなった姉のリース王女が婚約を発表することにもなっていたので、城内は準備と早々に訪れた客達で活気に湧いていた。
リースから招待状が届いていたデュラン、アンジェラ、シャルロット、ケヴィンはそれぞれローラント城に赴いた。まだ、戴冠式にも時間があり、先に待合室に使われていた部屋でデュランは3人に気付くと声を掛けた。
「よう。各国のVIPさん達が揃ってるな!」
「あっ!デュラン」
アンジェラがデュランに気付いて近寄ってくる。いつもの強引さでデュランの腕を取ると、自分の腕を引っかけた。デュランは、一瞬アンジェラを見たが、アンジェラは何?と言うように目で笑う。デュランは頭を掻くと、まあいいか、とばかりにそのままにして、二人に近づいた。
「相変わらず強引でちね〜、アンジェラしゃんは。元気してたでちか?」
小さなシャルロットはデュランを見上げると、そう言った。デュランはまあな、と答えると、そっちはどうだ?と聞いてみる。
「ヒースはまたどこかの調査に行ってて、またウェンデルを離れてるんでち。全く懲りない男でち。またさらわれてもシャルロットは知らないでち。」
ぷんすかと怒りながらシャルロットはデュランにそう言った。隣では心配気に聞いていたケヴィンがう〜、と心配そうにうなりながら、シャルロットの顔をうかがっている。デュランがそんなケヴィンに気付いて、苦笑しながら話しかけた。
「ケヴィンは?カールとうまくやってんのか?」
ケヴィンはにこっと笑うと、頷いた。
「カール、前より元気になった。大きくなった。もっと、ずっと、トモダチでいる!」
デュランはケヴィンの笑顔につられて、笑った。アンジェラはデュランの腕をつかんだまま、きょろきょろとよそ見をしていたが、やがて3人に向き直ると、ねえ、と言った。
「まだ、パーティまで時間があるみたいよ。リース達、見に行ってみない?」
それに、シャルロットが大喜びで賛成する。
「行くでち!リースしゃんはからかい甲斐があるでちから!」
「しゃ、シャルロット・・・。」
デュランが慌ててそんなシャルロットをなだめようとしたが、アンジェラがそうねえ、と笑いながら言うので、デュランがやれやれ、とため息をつく。
「オイラも、リース、祝いに行く!」
素直にそう言うケヴィンをみて、デュランもやっと納得したように頷いた。
「よし、じゃあ、リースの所に行ってみよう。」
「まあ、もう来てくれたんですの?」
リースの部屋に着くと、リースは丁度式典用の衣装に身を包んだ所だった。いつも着ているグリーンの丈の短いワンピースにレースの袖とスカーフをあしらい、腰から左右にに大きくスリットの入った木綿の布を垂らしていた。頭上には王女である証の小さなティアラが燦然と輝き、リースの表情は威厳に満ちていた。
そんなリースに、アンジェラもシャルロットもからかうなんてものは毛頭なくなってしまい、それを見て取ったデュランはほっと胸をなで下ろすと、リースに挨拶した。
「今日は招いてくれてありがとう、リース。エリオットの王位継承とリースの婚約、あらためて祝わせてもらう。おめでとう。」
リースはにこりと微笑むと、ありがとう、と言った。アンジェラがそれにしても、とリースをみながら話しかけた。
「ホークアイと婚約なんて、随分大きく出たわね。どっちがプロポーズしたの?」
リースはそれを聞いて少し赤くなると、私が、と小さな声で言った。4人ともそれを聞いて、え?と目を丸くする。
「俺って事にしとけばいいのに・・・、正直だな。ほんと。」
4人が後ろを振り返ると、ホークアイが同じく式典用に仕立て直した服に身を包み現れた。大きなマントがゆったりと掛けられ、正装風に仕上げたいつものスーツを着込んだだけだったが、何となく気品に溢れていた。
「え?じゃあ、ほんとのほんとにリースしゃんが?」
信じられないと言うように、シャルロットがそういった。ホークアイは少し腰を曲げてシャルロットに目線を合わせると、にこりと笑った。
「そうだよ。」
しかし、少し考えていたアンジェラが、ぼそっと、でも、分かるかも・・、と言うとそこにいたケヴィン以外の全員がアンジェラを見た。そして、何で?とホークアイが聞く。心配そうにデュランがアンジェラを眺めている。
「やだ!注目しないでよ!・・・だって、一応同じ王女だもん。待つわけには、いかないのよ・・・・ね、リース」
そう言って、リースに助けを求めるようにアンジェラがそう言うと、ええ、とリースも照れたように微笑んだ。が、ホークアイは分からなかったらしく、リースに聞いてみる。
「え?なんで?待てないのか?王女って??」
「今度、教えて差し上げますわ、ホークアイさん」
にっこり笑って誤魔化すようにリースが言ったとき、召使いのものがノックした。
「リース様、ホークアイ様。これから式典が始まります。すぐに王の間にご移動願います。」
リースがすぐに、わかりました、と言うとあらためてリースとホークアイが並んで、4人に一礼した。
「今日は本当に遠いところをはるばるお越しいただき、本当にありがとうございます。」
「俺達二人共々、これからもよろしく、な!」
「いいなぁ・・・・」
王の間へ移動する途中、4人で歩いていると、アンジェラがため息混じりにそう言った。
「なにが?」
心配そうにケヴィンがアンジェラを見上げて尋ねるのを見て、アンジェラは少し羨ましそうに笑った。
「リースが、よ。ねぇ、ケヴィン。リース、とっても幸せそうだったと思わない?」
「思う!とても嬉しそう、思う!」
「でしょう?それがいいなぁって。ケヴィンも幸せになりたいと思うことあるでしょ?」
「うん・・・。オイラはずっと、ずーっと、カールがいてくれたらいい、思う。」
アンジェラは、穏やかに笑うと、そうね、と言う。
「永遠の幸せって、とっても憧れるよね・・・・」
その後ろでで聞き耳を立てていたシャルロットが、デュランに「耳貸せ」合図したので、デュランがその通りにすると、ひそめた声でこう言った。
「プロポーズ、してやらないんでちか?」
「・・・・シャルロット!?」
思わずデュランはシャルロットを見つめ直すと、意地悪そうな瞳でデュランを見ているのに気付いた。デュランは背中で冷や汗が流れるのを感じた。
「待ってるんじゃないでちか?アンジェラしゃんは?」
「ち、違う・・・俺は・・・」
焦って何とかシャルロットを何とか黙らせようとするが、どもって怪しまれると言う結果に陥っていることにデュランは気付かない。
「好きならはっきりするでち!思わせぶりな態度じゃあ、アンジェラしゃんは可哀想でちよ!」
式典は戴冠式を滞りなく済ませると、王となったエリオットが姉を呼び寄せ、みなさんにご報告することがあります、と言った。リースは艶やかな衣装を披露するように立つと、一礼した。
「みなさん、この度はこの弟のエリオット王の戴冠の儀にお越しいただき、誠にありがとうございました。突然ではありますが、私もこれを区切りとしまして、婚約することになりました。ご紹介いたします、私の夫ナバールのホークアイです。」
ホークアイが横の列から立ち上がり、リースの隣で一礼すると、きっぱりとこう言った。
「みなさん、お初にお目にかかります。ナバール出身のホークアイといいます。貴族の称号も何にも持たない輩ではありますが、リース王女を一生守っていく覚悟は完璧にもっているので、どうかみなさんもご理解の程よろしくお願いします。」
そういうと、ホークアイはリースの肩に手を掛けて、さりげなくキスをした。会場が少し沸きかけたが二人が落ち着いた物腰でもう一度礼をすると、盛大な拍手が始まった。
その後すぐ、そこはダンスパーティの会場に変わった。壁側にはディナーテーブルが整然と並び、料理がおかれた。音楽が軽やかに鳴り響き、周りにはダンスを誘う言葉が飛び交っていた。
デュランはテーブルをまわっては、気に入ったメニューを皿に取っていた。中央のホールでは和やかな音楽に合わせてダンスしているカップルが何組かあったが、デュランは興味がないので食事に夢中になっていた。
不意に、さっきまで右腕にあった感触がなくなっていることを思いだし、アンジェラが見あたらないことに不安を覚えた。先に帰ったのだろう、と思ったが、そんな事を一言も言わずに、しかも、こんなに夜遅くに帰るとは思えなかった。
デュランは食べかけの皿をテーブルにおいて、その辺を回ってくることにした。
会場を見回したところ、アンジェラらしき女は見あたらなかった。仕方なく、会場から廊下へと出てみたが、やはりみあたらない。と、不意に窓の外に目をやったとき、ベランダに月の光に照らされておぼろげに光る女を見つけた。アンジェラだ。
デュランはこの寒いのになにをやってるんだ、と思いながらアンジェラがいるベランダに出るための窓を探した。大窓を開けて、アンジェラかどうか確かめる。デュランが呼ぶ前に、アンジェラが後ろ姿のまま、デュラン?と言った。
「・・・?何で分かった?」
アンジェラが振り返って、デュランを見ると笑った。とても嬉しそうな、満面の笑みだった。
「何でかな。」
デュランはアンジェラの隣に立つと、腕をベランダの縁に置いて、体重を預けた。すると、また、いつものようにアンジェラがデュランの腕にするりと自分の腕を滑り込ませて、頬を寄せた。アンジェラが吐息をつくと、デュランはどうした?と聞いてみる。
「ねぇ。デュラン、ホークアイが羨ましくなったりする事ってない?」
「?なんでだ?」
デュランはアンジェラに顔を向けて、不思議そうにそう言った。
「奴は奴、俺は俺だし。何でそんなこと思わなきゃならない?」
アンジェラはデュランの顔を見上げると、不満そうな顔をした。同時に瞳の奥が疑っている。本当に?と。
「私はリースが羨ましくなる。だって、あんな風にキスしてくれる人がいるから。」
「・・なっ!?」
アンジェラは一瞬でデュランの顔が紅潮したのを見て取った。が、あえて気づかないフリをした。デュランが何かを言おうとしたが、アンジェラはすかさずそれを遮って言葉をつなげた。
「ねぇ?デュラン、キスくらいちょうだい?」
「なにをっ・・・・言ってるんだよ!」
「だめ?」
「・・・・」
デュランはアンジェラの顔を見るのが恐ろしくて、無理矢理顔を背けていた。いま、アンジェラの神秘的な魅力のある顔を見てしまえば、自分がどんな行動に出るのか予想が出来なかったからだ。しばらく、アンジェラは辛抱強くデュランがこちらを向いてくれるのを待っていた。しかし、デュランにはそんな気はさらさらないのだと理解すると、アンジェラはふくれっ面で再びベランダの外に目を向けた。
「脈ナシかぁ・・・・」
ふう、とわざとらしく息を付くと、アンジェラはそう言った。デュランがほっとして、アンジェラの表情をうかがおうとしたとき、月明かりに映えるアンジェラの顔を見てデュランはしまった、と思った。しかし、一方でアンジェラの魅力にあらためて感嘆する自分もいた。そして、デュランの理性の抑制がきかなくなるのを感じながら、アンジェラの顔に自分の顔を寄せていた。アンジェラはほとんど気付かなかったらしく、デュランの顔がすぐ側にあると思ったときには、その唇に掴まれていた。
デュランがアンジェラの唇から離したとき、アンジェラは呆然とデュランの顔を眺めていた。一瞬お互いの唇が触れ合っただけの、短い接吻。それでも、アンジェラはデュランが、まさかこんな行動に出るとは予想だにしなかった。だから、呆けてしまった。
「ごめん。」
頬を赤くしながら、デュランはアンジェラに謝った。そうしてようやく、アンジェラは我に返った。すぐに慌てて首を振る。
「どうして?私が望んだことをしてくれたのに。」
アンジェラはデュランの腕を握りしめると、嬉しそうに頬を寄せた。デュランはアンジェラの顔を眺めながら、照れたように笑った。アンジェラも、にっこり微笑み返すと、デュランの頬に口づけた。
「お返し、よ」
FIN.
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