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【聖剣伝説LOM】 |
| ■八竜の日を選ぶ。 |
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掲載日[2009/09/01] 君と出会えたことを幸運と思えばいいのか、不運だと思えばいいのか、よくわからない。 未だに。 ドミナの町で何度目かの厄介事に巻き込まれたときに、現れた君は言葉を知らない少女だった。髪飾りに派手な棒を頭に突き刺した珍しい格好だった。ドミナの町で彼女のような姿をした子は後にも先にもあれが最後だ。 名前はその時話していないから分からない。 いつもは空き家のはずの扉が開いて彼女が出てくると、僕を見るなりにっこり笑って僕についてきた。 ただ、笑って、僕を助けてくれたんだ。 今思えば、声が出ないならば筆談でもすればよかったと後悔する。 名前さえわかれば、君を見つけ出せるのに。 君はどこに行っても、もう見つからなかった。 僕が世界のあらゆる場所の扉を開いても、君はいなかった。賢人の工芸品―アーティファクト―を僕が見つけるたびに新しい道が拓くのだ。僕はそれがなぜなのかを途中から考えるのをやめた。とにかく新しい場所に行ける術が自分の手にあることだけが有難いだけだった。 この力さえあれば、絶対に見つけられる。 僕の体を動かすすべての原動力が、彼女にあった。 だから、その場所で起きていた事象に対して、僕は、正直言って真摯に立ち向かったとは言い難い。 目的がそこにあるわけではないから、僕は世間体から言って正しいことも正しくないことも、したのだと思う。 マナの女神は僕のことを英雄と呼ぶけれど。 マナの女神を打ち倒して、アーティファクトがそれ以上手に入らなくなった。 これが世界のすべて、と女神に無言で釘刺されたようだった。 僕は諦められなかった。彼女は絶対に存在しているはずなのに見つけられない理由が理解できなくて。 「師匠…」 バドが恐る恐る書斎に入ってくる。自分にできることは結局足で走り回るか、文献を読み漁るかしかなかった。世界を走り回った直後であったので、何かの可能性を期待して文献を漁ることを優先させた。結果、僕はだんだんと食事と睡眠をおろそかにするようになった。 「なんだ?バド」 師匠らしく養い子である子どもたちの前では、自分を見せなかった。 世界中を回っている時の僕の闘いざまを見たことがある人は、口をそろえてこういった。 人間じゃない。 目的がそこにない戦いは、僕にとって目の前のことが些事になり下がっている。そうなると、残虐と殺戮に近い戦い方をするらしいのだ、この僕は。 全く意識していなかったので、始めて指摘された時には驚いたくらいだった。 しかし、戦いに酷いものと酷くないものがあるのか。戦いは常に酷いものでしかない。勝敗を分けるという酷い事実が、そして、それに行きつく経緯と手段である戦いが酷くないはずがない。 けれどそれもまた、自分への誤魔化しでしかないのかもしれない。 「食事、摂りませんか」 おずおずと僕のそばに寄ってきたバドに、微笑んでやる。バドもコロナも、幼い子供の割に僕に余計な口を挟まない。食事のときだけ声をかけにくるのだ。 「ああ、今日は摂ることにしよう。今日は何かな?」 「よかった!コロナが喜びます!もちろん僕も!」 心底安心した表情のバドが僕を見上げて嬉しそうに笑う。少女の笑い方に少し似てるような気がする。コロナも、時々こういう笑顔をする。 ぱたぱたと大きな足を鳴らしてバドが先に行く。コロナに僕の食事のことを伝えに行ったのだろう。 手元にあった書物に栞をはさんで閉じる。今日も見つからなかったな。そのことに僕はそれほど苛立ちを感じないようになっていた。 女神と戦うまではがむしゃらだった気持ちが、少し落ち着いている。何故だろう。 「師匠〜、まだ探し物みつからないんですか?」 かちゃかちゃと食器を鳴らしながら、残りのスープを掬うバドが僕に訊いてくる。 「あぁ。やっぱり文献だけじゃだめかな〜って思ってたところ」 「あ!じゃあ、占いとかどうです?」 コロナがいいこと思いついた、とでも言いたげにぱん、と手を打って僕に言う。バドがそんなコロナを鼻で笑う。 「うらない〜?人に聞いてわかるような簡単な探し物なら、とっくに見つかってるって!ねー師匠!」 バドがそういうのも尤もだと思ったはずなのに、何かが引っかかる。 「な、占いってメイメイの?」 「えぇ、そのつもりですけど」 えっ!行くの!?とバドが隣で騒ぐのを無視して、もう一度考える。考えても仕方ないことだ。さっきの閃きは何かある様な気がする。 「よし、明日ドミナに行ってみよう」 コロナはバドに舌を出していーだっ!と言い、バドが頭を掻きながら不思議そうに僕を見上げていた。 「1回10ルク。老後の足しにするんだからビタ一文もまけらんないよ」 シュールなセリフを、頭にすっぽりとグレープを被った妖艶な美女が言った。 「め…メイメイ。もう老後なんて考えてるの?」 コロナがびっくりしたように問いかける。確かに10歳の子供が聞くには幾分シビアすぎるセリフであった。 「馬鹿言うんじゃないよ、考えてるさもちろん!このご時世何があるかわからないんだから、アンタもしっかり稼ぐ術みつけとくんだよッ!」 「メイメイ。コロナはまだ10歳だし、今は僕が面倒みてるから…」 幾分興奮気味に説得し始めたメイメイを僕が止める。メイメイは僕がいたことを思い出したようにこちらを向いた。 「10ルク」 「はい」 ちゃりんとコインの音が鳴ると、メイメイはセクシーな胸元へそれを入れる。すかさず呪文のようなものを唱え始めた。しかしなんなんだろうな、ポリフェノールって。 「出ました」 手にしたフルーツを高々と掲げて、メイメイは天に声を捧げるようにあらぬ方へ眼を向けて続ける。 「あなたの失せ物が出る、と」 目を見開く。なんという都合のいい占いだ。まるで仕組まれた芝居のようじゃないか。 しかし、メイメイの表情は明るくない。なにか良くないものでもあるのだろう。僕は先を促すように言った。 「メイメイ、出たことはそのまま教えてくれないか」 「もちろん。あたしは頂いた分は働く主義よ。健全な老後のためにね」 ふうっと息をついて、フルーツを持った手を下げる。見ると、フルーツはバナナだった。正直言って、出たフルーツっていうのはあまり関係ないんじゃないかと、僕は思う。 「ココ一番の悪い日に出ると。ここ一番の悪い日っていえば、近く八竜って日がある」 「八竜?」 僕は聞くのが始めてだ。コロナが隣で、そういえば、と声を上げた。 「学校で習いました。すごく忌まわしい日だって。竜族が暴れて世界を壊滅した日だとか、原因不明のウィルスで多数の死者が出たとか、新種の生物が発見されたっていう日でもあるらしいですけど」 「悪いことばかりではないんだな」 「でも、悪いことが起こる日ってことで、その日はあまり家を出ない方がいいって言われてるんですよ」 バドもコロナと口を合わせてそう言った。けれど、と僕は思う。 「出る奴は出るだろう」 「まあ、そうなんですけど…」 「あたしゃ占った結果を口にするだけ。当たるも八卦、だからね」 メイメイのその言葉を合図に、僕たちはその場を後にした。 八竜。 そんな日があることを僕は知らなかった。 そして、占いによってそれを知る機会が与えられた。 占いでは、失せ物は出ると出た。しかも忌まわしの八竜の日に。 八竜の日。僕はその日ドミナに行こうと思う。 その日、彼女が現れたその場所に、何かがあるのだ。 Fin. ■リューシス編。ヴェルーニャに会うまでの彼。 |