【聖剣伝説LOM】

■ほのぼの恋愛 10のお題

掲載日[2009/06/09]









ほのぼの恋愛10のお題
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1.あなたの傍
2.温かい飲み物
3.春の道
4.照れる君
5.心あたたまる
6.寄添う二人
7.繋いだ手
8.なんとなく嬉しい
9.日常に埋もれた幸せ
10.仲睦まじい




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1.あなたの傍
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 暖炉の爆ぜる音が聞こえる。暖かな空気に満たされて、ここは楽園のようだ。
 マイホームのリビング兼ダイニングのその場所で、彼は静かに本を読んでいた。一方、彼女は特に何をするでもなく、くったりと体をブナの木で作られたテーブルに突っ伏している。
 緩やかな空気の中で、不意にヴェルーニャは隣の彼を覗き見た。リューシスはそれに気づかず、本を読み続けている。
 ふふ、とヴェルーニャの顔が自然にほころび、ゆっくりと手を延ばすと、ほどなくその手がリューシスのしなやかな手首に届いた。

 手を延ばせば、あなたに届く。
 それはなんて、幸せなことなんだろう、とヴェルーニャは思う。

「なに?」

 唐突に腕に触れられたその手を、彼がもう一方の手でやさしく握り返す。
 手が重なる暖かな感触。それだけでヴェルーニャは幸せで、嬉しそうに笑う。

「不思議ね。私たち、本当は出会うはずもなかった存在なのよ」
「同じ魂だからね」

 そう。全く同じ魂。
 ひとつの世界に同じ魂は一つとして存在しない。
 けれど、世界は数多なる空間にそれこそ数え切れないほどの時間空間が存在していて。
 彼女は彼女の住む世界とは違う別の世界で、ひとりの男に恋をした。
 彼が彼女と同じ魂の人とはつゆとも知らずに。
 
 始めはもちろん、同じ魂だと言うことにも気づかなかったし、恋した自分にもまったく気づいていなかった。
 けれど、自由に彼と会えなくなって彼女は気づいた。
 この人が好きなのだ、と。

「前は好きなときに会えなかったわ」
「今はいつだって会えるよ」
「声だって聞けなかったわ」
「今はいつだって聞けるよ」

 穏やかな微笑みがヴェルーニャに向けられて、嬉しいと思う。
 この人の優しい瞳に、いつでも自分を見つけられることこそが、自分の幸せなのだと信じている。
 だから、絶対に手放したくない。何を引き換えにしても絶対に手放せない。
 そんな事を思っていると手に力がこもって、思わずリューシスの手首を握り締める。

「こんなふうにあなたに触れられないこともあったわ」
「女神様が君を思ってのことだよ。誰も君を悪いようにはしないよ」

 同じ世界で同じ魂の人間の存在はそもそもが起こるはずのない現象のはずだった。
 しかし、彼らはただの人間ではない。マナの女神によって世界を託された英雄なのだ。だからこそ、彼らは会うことになってしまった。お互いの想いを知るに至ったマナの女神は、その恋が許されざることだと警告し、二人を、その世界を二度とつながぬようにしてしまった。
 しかし二人の想いはマナの女神でさえも止められなかった。
 二人は二人が同じ世界に存在することを許さざるをえない状態に持ち込んだ。二人の相手に会いたいという願いのためだけに、世界を混沌の渦に巻き込んだのだった。そうして、二人はようやく会うことができた。
 しかし、弊害もあった。
 二人の存在を許した女神であったが、やはり同じ魂と一つの世界に在るという事実はその世界の秩序に関わる。同じ魂でしかも同じ想いを抱えた二人が触れ合ったりすれば、どちらかの魂に呑まれるであろうことが女神には予測できた。
 だから、女神はお互いの世界の唯一の英雄を失わずに済むよう、ある術を施した。
 彼らが絶対に触れ合えないという術を。

「悲しかったわ」

 ヴェルーニャがそのときのことを思い出して、目を伏せた。
 リューシスが優しくヴェルーニャの髪をなでた。
 
「僕もだ」

 悲しそうにしていたヴェルーニャが顔を上げた。
 リューシスにゆっくりと手を延ばして彼の首に腕を絡ませると、彼の体に自分の身を埋めた。
 リューシスの心音が聞こえてきて、ヴェルーニャは安心する。

「よかった。リューシスが隣にいてくれて」
「僕も、ヴェルーニャが傍にいてくれて嬉しいよ」

 二人が顔を上げると、お互いの顔が近くにあってヴェルーニャはやっぱり安心した。
 そんなゆったりと流れる暖かな時間の中、小さな子供がくしゃみの声を上げた。

「・・・くしっ」
「あ!馬鹿バド!」

 ひそひそと聞こえてきた声に驚いて、反射的にリューシスから身を離したヴェルーニャが子供たちの居場所をさっと探した。
 見れば書斎のドアが少し開いていて、そこからふたつの頭が飛び出している。ヴェルーニャの弟子たちのコロナとバドだ。
「なっ・・・またあんたたち!いつからそこにいたのよ!!」
 顔を真っ赤にして声を張り上げるヴェルーニャをよそに、双子はこそこそと密談を続けた。
「ヴェルーニャって鈍いよね」
「リューシスさんが居るとぜんぜんだよね」
「そうなの?」
 ひょっこりリューシスまでがその密談に加わってしまう。
 ヴェルーニャは恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にして三人を睨みつけると、階段をばたばたと駆け上がってしまったのだった。
 あっけにとられて、リューシスと双子の弟子たちはそんなヴェルーニャを見届けると、そういえば、とコロナがリューシスを見上げる。
「リューシスさんは気づいてたんですか?私たちがいること」
 リューシスはコロナの質問に、にこりと笑うと子供たちの背丈に合わせるようにしゃがみこんでリューシスは答える。
「僕が『同じ魂だからね』って言ったところから、でしょ?」
 双子が同時に目を見開いたのを見て、リューシスはその答えが正解であることを悟ると、さて、と立ち上がった。
「ヴェルーニャを呼びに行こう。君たちも来る?」
 リューシスが二人を見ながらそう言うので、バドとコロナは顔を一瞬見合わせてから、うん!と頷いた。

 三人にやんわりとなだめられて、ほどなくヴェルーニャの癇癪は治まったのだった。
 

Fin.

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2.温かい飲み物
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 ヴェルーニャ専用のマグカップからたゆたうように昇る湯気を見つめながら、ヴェルーニャがふう、と息をついた。
 今は真夜中。しぃんと静まり返った家の中で、ヴェルーニャは一人ダイニングテーブルの椅子に腰掛けて、温めたミルクを飲んでいた。
 足が少し寒い。靴下を履いてくればよかった、と後悔する。
 暖炉の爆ぜる音が2階まで響きそうで、火は入れてなかった。育ち盛りの双子の弟子やおそらくぐっすり眠る好きな人を起こしたりは忍びない。けれどそれゆえに、もう足は冷えて冷たくなってしまっている。
 少しでも暖を取ろうと、マグカップの暖かさを頼りに手を温める。
 窓の外を見ても、真っ暗で何も見えなかった。このマイホームの周りにはリュオン街道が通じているだけで、ここはエリアの最果てに位置する。夜は街道に人気があるはずもなく、また、マイホームの敷地が広いため街道までは距離がある。馬車が通ってもそれほど音は届かない。
 静かな家だった。それはヴェルーニャが心から望んでいたことだった。
 ときおり風が窓を叩いた。外においでなさい、と風の精霊が誘っている。けれど、寒いのは嫌だった。
「ごめんね」
 誰にともなく呟かれた謝罪の言葉。
「自分勝手なことばかりして、ごめんなさい…」
 ただ一人の人を手に入れるため、ヴェルーニャは一度は世界を闇に導いた。その後、自分自身の意思でなかったとはいえ、自分の一部が世界を手に入れんと謀略を企てた。
 申し訳ない気持ちはある。けれど、いつもヴェルーニャが選択できるのはたった二つだった。
 リューシスを思い続けるか、諦めるか、ふたつにひとつ。
 いつも、ヴェルーニャは諦めることなどできなかった。世界が危機に瀕しようと、自分の命にかかわらろうとも、その究極の選択について迷ったことは一度もない。絶対に諦めない。諦められない。
 命も運命も、彼と一緒でなければ意味がない。捨てる覚悟は、思えば最初からあった。しかし、どんな方法であれ捨てなくていい方法があれば貪欲にそれを選んだ。
「私は、あのひとがいなきゃ、私になれないのよ…」
 恐ろしいほどの依存だとは思う。もしもあの人の寿命が先に潰えたとき、自分が発狂せずにいられるとは思えないほどの、強い強い思い。
 ぬるくなったミルクをすすりながら、ヴェルーニャは思う。
 もしこの強い思いをこの目で見られる方法があるなら、自分はなんだってするだろう。
 それをリューシスに見せて、彼がいつものように笑ってくれるなら、なんだって。

Fin.

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3.春の道
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 暖かな日差しの下、リュオン街道を二人で歩いていた。道端の可愛い花に気を取られていると、不意に手を引かれて驚く。
 見ると、後ろから一点の曇りもない笑顔のリューシスが、自分の手をとったのだと気づく。
「手、繋ごうよ」
「何言ってんのよ。もう繋いでるじゃない」
「あ、ほんとだ。僕って本当に手が早いよね」
 にこにこと安穏たる顔でそう言うリューシスに、ヴェルーニャはため息をつきたくなる。
「自分で言ってりゃ世話ないわ」
 まるでふてくされたようにそう言ったヴェルーニャの口元が、変に歪んでるのをリューシスが見つける。リューシスが笑いながら、もう一度彼女の手を引っ張る。
 よろめいた彼女が、とん、と彼の肩にぶつかった。耳元で彼が囁く。
「…嬉しいくせに」
「…っ!」

Fin.



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4.照れる君
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「リューシスってさ」
 牧場で餌を雛たちに分け与えながら、ヴェルーニャが声をかける。
「なに?」
 リューシスは水が入ったバケツをやっと運んできたところだった。噴き出した汗を腕で拭うと、ヴェルーニャの隣に立つ。
「表情に変化がないよねぇ」
「そっかなぁ。結構笑ってると思うんだけど」
 ヴェルーニャの持っていた餌の籠をさっと取り上げる。いつもぼーっとしているようで、時々こういうフェミニストなところを垣間見るとちょっとどきどきする、とヴェルーニャはこっそり思う。
「笑ってることが多すぎよね。喜怒哀楽って言うじゃない?でもリューシスは喜々楽々って感じよね。怒ったところも、そう言えば悲しそうにしてるところも見たことない」
「ヴェルーニャは喜怒哀楽のバランスがいいよね。『怒』があと二つくらいつくかもだけど」
 笑いながら、リューシスは果物のひとつを雛に与えた。
「悪かったわね、怒りっぽくて」
「あと、結構涙脆いよね?『泣』もつけとこう」
「う、うるさいわねっ」
 がっと籠から餌をつかみ取ると、ヴェルーニャはしゃがみ込んで雛たちに餌を食べさせた。雛たちが待ちかねたように、ヴェルーニャの腕に寄り添って餌を奪い合う。
 そんなヴェルーニャに目を細めて、リューシスがおどけるように言葉と続けた。
「あと、ヴェルーニャってさ。優しいし、可愛いし、強いし、健気だし、芯が強いし…」
「あー!もーやめやめ!リューシス!あんた私を殺す気?!」
「ああ、褒め殺しっていうもんね」
「それ意味違うから!」
 びしっと人さし指を突き付けて指摘するヴェルーニャの顔は真っ赤に染まっていた。
「ほら、やっぱり可愛い」
「!」

Fin.

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5.心あたたまる
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 特別なことは本当は何もない。
 リューシスがこっちの世界に来てから、私の心はいつも穏やかで、世界もそれにつられたように平和だ。
 毎日、果樹園の様子を見に行ったり、牧場で雛たちの世話をしたり、時々気が向いたら武器や楽器の制作に打ち込んだりしている。
 リューシスはと言うと、ヴェルーニャのやることをさりげなく手伝ったかと思えば、いつの間にか魔法に関する本を読んでいたりする。最近ではバドは魔法のことをヴェルーニャよりリューシスに聞くことが多くなった。
「リューシスってすげぇんだ!古代魔法の古文書とか読んでたりするんだ!どこに売ってたんだろうなぁ。あんなの」
 バドがずいぶん前にそう言っていたこともある。
 師匠は一応ヴェルーニャってことで家に来たはずだったのだが、そこは臨機応変という感じで、別段ヴェルーニャも気にしていない。
「ああ、今日は果物がたくさん採れたんですね、じゃあこれはジャムにしましょうか」
 コロナは料理が上手で、いつもヴェルーニャが何かしら手に入れた食材でうまく食事を賄ってくれた。コロナの料理の方が、ヴェルーニャには魔法のようだと思うこともある。
 平和な日常。毎日が最良の日だ。

Fin.


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6.寄添う二人
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 今日は瑠璃と真珠が家に遊びに来ていた。
 いつもどおりつまらなそうな顔をしている瑠璃に、ヴェルーニャがチェスを持ちかけた。
「勝負よ!私が勝ったら、最初におい呼ばわりしたこと土下座して謝ってもらうわ!」
「フン。そんなことはもう忘れたな」
 ぷい、と横を向く瑠璃の前に、どんっとチェス盤を置いてヴェルーニャが睨みつける。
「えーえーそうでしょうね!だから尚更よ!ここで打ち負かして謝ってもらうのよ!」
「よくわからんが、とにかく喧嘩を売ってることはわかった。勝負なら受けるぞ」
 二人の勝負は回数を追うごとに白熱した。
 一回勝負、と最初に銘打たなかったばかりに、二人はどちらかが負ければもう一度勝負を挑むことを繰り返した。
「フン、俺の勝ちだ」
「なによ!まぐれよ!もう一回やればわかるわ!」
「ほほほほ!これでわかったかしら?あんたの実力ってやつが?」
「ふざけるな!お前さっきのはフェアじゃない!もう一度だ!」
 繰り返される言葉と勝負の応酬に、瑠璃の隣に座っている真珠はおろおろとヴェルーニャと瑠璃の顔を交互に見やった。
 リューシスはしばらく真珠の相手をするように穏やかに話をしていたが、あまりに白熱する二人をみてやれやれと息をついた。
 すっと椅子から立ち上がると、ソファの前でにらみ合っていた二人の間のチェス盤を一気に傾けたのだった。
 がららら、と音をたてて駒が床に落ちて行く。最後に落ちたポーンがさびしげにこつん、と床を鳴らした。
「な!」
「なにするんだリューシス!」
 いきり立つ二人の前で、リューシスはいつものように笑う。
「はい、そこまで。五分五分ってわかったんだから、もういいでしょ?ヴェルーニャ、今日はコロナと買い出しに行く日じゃなかった?」
「あ、そうだった!今日しか出てない露店があるの忘れてた〜!」
 さっきまで勝負で頭がいっぱいだったヴェルーニャは一転して買い物のことで頭がいっぱいになったらしい。あわてて立ち上がると、ばたばたとコロナを探しに外に出た。コロナは今の時間、洗濯ものを干しに外に出ているはずなのだ。
 そんなヴェルーニャの後ろ姿を見てから、リューシスは今までヴェルーニャが座っていたソファに座ると、落ちた駒をのんびりと拾い上げた。瑠璃も、リューシスが拾うのを見て手伝い、真珠もまた遠くまで飛んでいった駒を丁寧に拾い集めた。
「さて、瑠璃、今度は僕と勝負してくれるかな?」
「いいだろう。お前も何かを賭けるのか?」
「ヴェルーニャを」
 間髪置かずそう言ったリューシスの目は笑っていなかった。
 瑠璃の背筋にぞくりと何かが走ったのを感じた。かろうじてそれを顔に出さずに済んだのが幸いだ、と瑠璃は思う。慌ててソファに座り直すと、ふいと顔をリューシスからそらすのがやっとだった。
「お前のヤキモチはわかりにくいな」
「そう?わかりやすいと思うけど」
 再び真珠がおろおろと、リューシスと瑠璃の顔を交互に見つめていた。

Fin.


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7.繋いだ手
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「なによ、それ」
 むっとした顔で出迎えるヴェルーニャ。マイホームの入口に立ち尽くすのはリューシスと真珠だった。
「あ、あのお姉さま…?」
 真珠はヴェルーニャの形相に完全に驚いて、落ちつか無げに視線を泳がせた。
「迷ってたの、発見したからさ。瑠璃のやつが来るまで、うちで預かろうと思ったんだ。駄目?」
 リューシスは淡々とそう言ったが、ヴェルーニャは話の半分も聞いていなかった。
「そうじゃなくて!手!」
「あ、これ?」
 リューシスの手には真珠の手がしっかりと握られているのだった。ヴェルーニャの不機嫌の元は完全にそこ一点に集中していた。
「これ?じゃないわよ、この色ボケ!」
「だって、真珠ほっとくとすぐどっか行っちゃうからさ。迷子になられるよりはいいと思って」
「あ、あの、ごめんなさい、お姉さま…」
 慌てて真珠が手を離してヴェルーニャに謝る。ヴェルーニャは真珠に向きなおると、にっこり笑った。
「真珠はいいのよ。謝らなくて。謝るべきなのはこのリューシスなんだから!さ、奥でおいしいフルーツケーキを食べましょう!女の子だけで!」
 そう言うと、ヴェルーニャはリューシスを睨みつけた後、ふんっと息巻いて奥のダイニングへと行ってしまったのだった。
「なんなんだろ…ま、いいけど」
 リューシスは頭を掻きながら、くるりと入口に踵を返すと、後ろでは双子が不満そうな顔でリューシスを見上げていた。
「わ、なんだよ。びっくりした」
 リューシスがのんきにそんな事を言うので、双子ははぁっとわざとらしくため息をつくのだった。
「リューシスさん…何やってるんですか…」
「本妻の家に愛人と手ぇつないで帰ってくるとか…ありえねぇ…」
「おいおい。本妻とか愛人とか、やめてくれよ…穏やかじゃないなぁ」
 やっぱり事の重大さがわかっていないのか、リューシスは笑っている。
「穏やかじゃないのはあなたですっ!」
 とうとうコロナが爆発してびしりと言った。
「はいっ?え?なんで?」
 リューシスの方はわけがわからず、コロナに訊ね返す。
「ここ2、3日家を空けてたから、ヴェルーニャはずいぶん心配していたんですよ!」
「え?え?だって魔法都市ジオに行ってくるっていっといたよ?」
 リューシスはリューシスで、何故こうも怒られないといけないのかさっぱりわからない。
「行き先がわかってても大事な人が不在で心配しないわけがないでしょう!やっと帰ってきたかと思えば、隣に女の子を連れて、しかも手なんか繋いで帰ってこられちゃ、ヴェルーニャの立つ瀬がないでしょう!」
「え?なに、じゃ、今のもしかしてヤキモチ?」
 言われて初めて気づいた、という顔のリューシスに、双子が同時に深く頷いた。
「だから、リューシス、今日一日はヴェルーニャとは話さない方が…」
 バドがもっともらしく諭そうとしたのにも関わらず、くるりとまた踵を返してリューシスは歩き出した。
「おーい、ヴェルーニャー!今のヤキモチだったのか〜!気付かなかったよごめん〜!」
 この上なく嬉しそうな笑顔で歩きだすリューシスを見て、双子は再びため息をついた。
 すぐにヴェルーニャが部屋中を荒して癇癪を起こすに違いない。そのあと片づけを思ってのため息だった。

Fin.

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8.なんとなく嬉しい
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「ふふ」
 ヴェルーニャが笑っている。朝食ができるまで、二人は向かい合ったソファに腰かけて待っていた。
「どうしたの?」
 リューシスは何度も尋ねるが、ヴェルーニャはにこにこしたまま首を振って教えてくれない。
「なんでもないよ」
 そうは言っても、このやり取りはすでに3回繰り返されていた。
 ヴェルーニャが笑う。問いただす。何でもないといわれる。
 いくら能天気なリューシスも次第に気になり始める。
「ねぇ、なに?何が面白いの?」
「ひみつー」
 ヴェルーニャは教えてくれそうもない。
 リューシスはしょうがない、と思うことにした。
 ヴェルーニャが幸せそうに笑っている。その笑顔が太陽のように明るく輝くものであったから、悪いものではないと片付けることにした。
 一方、ヴェルーニャは、リューシスの寝癖を見つけて笑っていたのだった。
 今日世界で一番先にリューシスの寝癖を見つけたのは自分なんだ、と自己満足に浸っていたのだった。

Fin.


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9.日常に埋もれた幸せ
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 何度人生を繰り返そうと、何度運命を繰り返そうと。
 私は絶対に今ある幸せを、必ず手にすると誓おう。
 あなたと毎日顔を会わせるために。
 あなたと毎日触れるために。
 あなたと毎日話すために。
 あなたに名前を呼んでもらうために。
 あなたに笑ってもらうために。
 あなたに幸せを感じてもらうために。
 私とあなたとで分かち合う幸せのために。
 
 私の心にあなたの全てを刻み続けよう。
 来世というものがあるならば、あなたと再び会い見えることができるように。

Fin.

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10.仲睦まじい
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「ヴェルーニャ。寝るならベッドで寝ないと風邪ひくよ」
「ん〜…」
 暖炉の前でうとうとするヴェルーニャに声をかけるが、一向に動く気配がない。
 今日はかなり遠出してきたので疲れたのだろうが、今日はうたたねすれば風邪をひくのは間違いない気温だった。
 暖炉でそれなりに部屋を暖めているとはいえ、やはり眠ると体の新陳代謝が低下して体温が落ちる。
 しかし、ヴェルーニャはやはりうとうとと暖炉の前で船を漕いでいた。
「ずいぶん疲れたみたいですね」
 コロナがケープを持ってきて、ヴェルーニャの肩に乗せてやった。バドはヴェルーニャが握りしめていたマグカップをそっと抜き取ってテーブルに置く。
「あぶなっかしいなぁ、こぼすところだったぞ」
 ぶちぶち文句を言いながらも、そのくせバドはちゃんとヴェルーニャのために動いている。
 そんな二人を見て、リューシスは嬉しそうに目を細めた。
「ヴェルーニャは二人にとってお姫様みたいだね」
 言われて、双子が顔を合わせると唐突に吹き出す。
「手がかかるお姫様ですから」
「ほっとけないんだよなぁ。年上なのに本当頼りないったらないよ」
 コロナとバドがそう言うのを、リューシスはやはり嬉しそうに聞き入っていた。
「それじゃ、お姫様を運ぶとしますかね」
 リューシスは立ち上がると、ヴェルーニャの肩と膝下に腕を入れて抱き上げた。
「わー王子様登場ー!」
「襲うなよーメルヘンだからな!」
「はいはい」
 三人の笑い声にも気づかずに、こんこんと眠り続けるのはファ・ディールのお姫様、もとい英雄ヴェルーニャなのだった。


Fin.

■ほのぼの恋愛 10のお題
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