真実の涙




 ディラックの体を狙っていた呪術士タナトスを倒し、マナの均衡を保つために現れた神獣を倒したランディ達はそれぞれの故郷に帰っていた。
 プリムはパンドーラの城下町に。そして、ランディはポトス村に。
 それぞれは今まで暮らしてきたように再びもとの生活に、身を沈めていた。もうあれ以上の冒険は起こるはずがない。そう思いながら、普段通りの生活を楽しむでもなく過ごしていた。
 2年の歳月が流れた。
 18となり、心身共にたくましく成長したランディの姿がそこにあった。ガキ大将だったボブとネスをも上回った体格と風格に、二人はただ従うのみとなっていた。さすがはマナの血を引く者、ともいうべきか。
 しかし、やはりランディの心は昔のままだった。優しい色をたたえた瞳も変わってはいない。ランディは心優しく強く育ったのだ。ランディの両親がそう願ったように。
 そんなランディの噂を聞きつけたパンドーラの王がランディを是非王国の騎士隊にと、忙しない勧誘が続いていたが、ランディは一度として首を縦に振ることはなかった。ランディは今まで育ててくれた村長の面倒を見ることに決めていたのだ。
 そして、そんなある日、ポトス村にタスマニカの騎士が現れた。言わずとしれた、ジェマという、先の冒険の指導者である。
「久しぶりだな!ランディ」
 狩りから帰ったばかりだったランディは、他の村人と担いでいた獲物を降ろすと、吃驚してジェマに駆け寄った。
「どうしたの?何かあったの?」
 前とは一段とたくましくなった風格の割に、しゃべり方はまだ幼い。そのギャップにジェマはすこし笑った。
「いや、私がここに来るのは悪いことの前兆かな?」
「あ、違います違います!!あんまり久しぶりだったから、それで」
 ランディが慌てて首を振って答える。ジェマはますますそのランディの幼い行動に顔をほころばせた。
「変わってないな、ランディ。噂ではたくましくも強い男が村にくすぶっていると聞いたぞ」
「それ、僕のことですか?」
 ランディが不思議そうな顔でジェマに聞く。とぼけ加減もそのままだ。ジェマは苦笑した。
「折り入って話があるんだが、静かに二人だけで話せるところはないかな?」
 ジェマは村中の好奇の目にさらされているので、ちょっと目をそらしながらそう言った。ランディもそれに気付いて頷くと、じゃあ、とランディはジェマを促した。
 二人は村の出て、陽の当たる滝壺の方に歩いていった。滝壺から少し下ったところに、光り輝くものが見えた。岩に突き刺さった剣が、その存在を知らしめるように燦然と輝いていた。ジェマはその輝きの驚いて、ランディに尋ねた。
「マナの・・剣か?」
「そうです。完全なるマナの剣です」
 ランディは勇ましくそう言った。ジェマが自分の目を疑うように目をこすった。信じられなかった。全ての英雄の名を連ねた剣の最終形態、マナの剣。それはすばらしい気品を備え、同時に恐ろしい切れ味を持ちうる。その剣が、目の前にあった。
「信じられない・・こんなにもすばらしい剣は見たことがない・・!私に一握りさせてもらえないかな?」
 ジェマは興奮するようにランディにそう言った。しかし、ランディは首を振ると、いいえと言う。
「この剣はもう抜けません。たとえ、僕にもこの剣は拒否を示します」
「ランディにも?」
 ジェマは意外そうな顔をしたが、ランディは少し当然とでも言いたげな表情でジェマに説明した。
「そうです。この剣は世界を守り通しました。次の聖剣の勇者が現れたときにはまた、剣は再びその岩から身を離すことになるんでしょう。すなわち、再び世界が混沌としたときに。」
 そう言ってランディはしばらくその川の中央にある大岩に刺さった剣をみつめていたが、疲れたように首を振ると、そこら辺にあった切り株に腰を下ろした。ジェマも同じように手近な切り株に腰を下ろす。
「で、話ってなんですか?」
「おお、そうだったな。」
 マナの剣を見た興奮でジェマは自分がここまで来た用件を危うくすっかり忘れてしまうところだった。ジェマは身を乗り出して、ランディに一言、こう言った。
「タスマニカに来ないか?ランディ。」
「えっ!?」
 ランディは明らかに吃驚した表情をした。今までも何度かパンドーラの城の方に呼ばれはしたが、近いのもあり、もし自分が騎士団を希望したくなったときにはすぐに行けるという感があった。しかし、タスマニカは違う。ここパンドーラから遙か西にある強大な共和国タスマニカ。そして、明らかになったのはランディの父のこと。父はタスマニカの騎士だったのだ。
 ランディにとって明らかにタスマニカとなると扱いが違った。両親の声もぬくもりも知らないランディにとって、タスマニカは手に届く唯一の接点だ。
 知らず、動揺を隠しきれずに体が震えた。
「どうだ?ランディ、来てはみないか。」
「で、でもじいちゃんを一人には・・」
 興奮にさめやらぬランディの顔がジェマをのぞき込んだ。ジェマは頷くと、
それなら、と言葉をつなげた。
「一年でもいいがね。期間的にうちの国に来るというのなら、いいかね?」
(それなら、行ける!)
 その言葉をランディは飲み込んだ。結論を出すには早すぎる気がした。
「ご老人のことなら、心配ない。タスマニカの兵士の家族として、出来るだけ力を貸そう」
 ランディは頷いた。
「行きます。タスマニカに。父が過ごした国に連れていって下さい!」
 ジェマが満足そうに頷いた。はっきりとランディが意志を込めてそう言ったのを見て、ジェマは何となく安堵のため息をついた。

「ねーえ!プリム〜!!ランディって人紹介してよ〜!!」
 大きく髪の毛をウェーブさせたくりくりっと大きな瞳を持つ娘が、せがむようにそう言った。
 ここはパンドール城下町。一時的に帝国に魂を抜かれて沈んだ雰囲気になったこの街も、今ではそんな影は微塵もない。明るく活気のある街がそこにはあった。
 後ろからまるで金魚の糞のようにしつこくつきまとうパメラに、プリムは振り返るとうっとうしそうに睨んだ。もともと少しつった感じの目を持つプリムが睨むと、さすがにパメラはびくついた。
「なによ〜・・。そんなに怒ることないでしょ。私ランディって人結局ちょっとしか会ってないんだもん。ちゃんと会ってみたいのよ。」
「だったらパメラ、あなたが一人でポトス村に会いに行ったらいいじゃないの。私は別にあいつの顔なんか見たくないんだからさ。」
 そう言い捨てると、プリムはぷいっとまた元の方向に体を戻してすたすたと歩き出す。パメラが慌てて追いながら、それじゃだめだよ〜!と言う。
「どうして?」
 振り返りもせずにプリムは聞いてみる。どうしてプリムがそんなに急いでいるかというと、またあの父親がいらぬ世話をしているので、少しの間この城下町から身を隠さねばならないのだ。
 いらぬ世話というのは、やはり今回も見合いの話、である。
「だって〜、ランディって人恥ずかしがり屋であんまり会ってくれないって聞いたもの〜・・」
「そういえば、そういう奴よね。あいつ。」
 プリムがあははっと笑いながらそう言う。プリムの様子に少し苛立つようにパメラがプリムの腕をつかんで、プリムの足を止めさせる。
「ねえ、プリム。ランディって人、プリムがとっておきたい人?もしかして」
「・・・はあ?」
 プリムは呆れた声を出してパメラを見つめると、肩をすくめた。

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「ねえ、パメラ。私本当に今こんな事してる場合じゃないんだよ?今にパパに見つかったら、またどこぞの変な世間知らずのバカ息子と婚約なんて勝手に決められることは目に見えてるんだからね?私はディラック相当の相手が見つかるまで絶対に結婚しないって決めてるんだから!」
 ディラック。パンドーラの騎士隊、ディラック将校。プリムの恋人だった人だ。ディラックは呪術士タナトスに魂を抜かれ体を乗っ取られようとしたが、精神の強さでそれを破り、自らの命を絶った・・。プリムの目の前で。
 そんな出来事があったにもかかわらず、プリムは先程ディラックの名を平然と呼べるようになっていた。それほど、時は彼女の傷をいやしてくれていたようだった。
「ランディはディラックの代わりにはちょうどいいんじゃないの?」
 パメラがしつこく聞く。プリムは疲れたように腕を振ってパメラの手を離させると、また歩き出す。街の外に向かって。
「あんな、マヌケ男とディラックを一緒にしないでよ!!」
「言うなあ、相変わらず」
 少し笑いを含んだ男の声がそういった。パメラが目を輝かせてその男を見ている。プリムはその声の主を確かめようと訝しげに振り返った。
 ランディがいた。側にジェマが控えている。
「あら・・・。懐かしい組み合わせねえ・・」
「挨拶より悪態を先に吐かれるなんて、プリムらしいや。久しぶり。」
 ランディが笑いながら手を差し出す。プリムも手を差し出してランディと握手をする。続けてジェマとも握手をする。握手をしながら、ランディが普段の服装より重装備で、しかも荷物を持っているのを見たプリムが不思議そうにランディに問う。
「何?一体。また何かあったわけ?」
 ランディがパメラと握手をし終わって、ランディはプリムの問いに答える。
「ちょっとタスマニカに行って来る。父さんの、故郷にね」
「ああ・・そうだったね。そっか、じゃあ、途中まで送ってもらおうかな。私さ〜、またパパに見合いされそうなんだ〜」
 プリムが情けない顔をして笑いながらランディにそう言うと、ランディもまた?ともいいたげに微笑む。
「いいよ。どこまでいくの?」
「キッポ村のディラックの実家でかくまってもらうの。いつもそうしてきたし。」
「慣れたもんだね。」
「わ、私も行っていい??」
 パメラが会話に入ろうと思い切ったようにそう言った。プリムが肩をすくめる。
「いいけど、パメラは家族の人平気なわけ?」
「うん、ちょっとなら平気。キッポ村ってすぐでしょ?」
「まあね。」
 二人の会話をおとなしく聞いていたジェマとランディが頷くと、じゃ、行こうかと二人を促した。が、思い立ったようにランディが振り返る。
「あ、ちょっと水の神殿に寄るから、遠回りになるけど。それでもいいの?」
 それを聞いて、プリムが頷きながら答えた。
「ええ、いいわ。別に急がないし、ここを早く出たいだけ」
「オーケイ。パメラは平気?」
 パメラはランディを見上げると、慌ててうんうんと頷いて見せた。ランディは、そう、と笑うと、再び前を向いて歩き出す。何事かジェマに尋ねたりしながら。
「ねえ、プリム。ランディ、変わったわね」
 声をひそめながらパメラがプリムにそう囁く。が、プリムはそう?と首を傾げながらランディの後ろ姿を横目で見る。
「背が高くなったみたいね。でもそれ以外何も変わってないんじゃない?」
「プリムって・・ディラック以外には本当に厳しいわよね・・」
 パメラが呆れ声でため息をつくようにそう言った。




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