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【うる星やつら】 |
| ■とりかへばや物語 |
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掲載日[2008/2/3] 事はあたるの部屋で起こった。 いつも通り朝、あたるは身支度を済ませて部屋を出ようとした瞬間、なにかを背中から当てられた。あまりの唐突さによける間もなかった。 「わわっ!?」 「わー!成功だっちゃダーリン!」 あたるの視界がいきなり低くなっていて驚く。目の前にある高さがいつもと微妙に違う。あわてて辺りを見回すと、耳のあたりに異様な感触。長い豊かな髪が視界の端にちらついてくる。 「んなっ?」 あたるはそれをわしづかみにした。見覚えがある。いや、ありすぎるその髪はほかならぬラムのもの。それがどうして自分の耳のあたりをふわりと漂う必要があるのか。それに先ほど来たはずの学ランはなぜか女物のセーラー服に変わっている。 「いったいなんだこれは!」 あたるは右側に漂う髪の毛を手にして振り返ると、そこにはほかならぬあたる自身がにこーっと笑って立っていた。 「…ダーリン♪」 その見た目あたるが弾む声をあげてそう言ったのに、あたるは目まいを起こしそうになった。その声とイントネーションでその正体は明白だったからだ。ラムだ。あたるはラムがまたもや何かしでかしたことを覚(さと)り、頭を抱える。 「ラム、おのれはいったい俺に何をした?」 「面白いこと、だっちゃ!」 にっこり、と満面の笑みを浮かべてラムが言うが、朝の忙しい時にこんなことにかまってはいられない。あたるはとりあえず踵を返すとラムを背にして走りだした。 「このくそ忙しい時に…とりあえず構わん!頭数さえあえばいいんだ。今日の一限目は温泉マークだからな!遅刻者が一人でもいたらつまらん強制補講につきあわされる!」 「待つっちゃ、ダーリン!」 あたるの姿をしたラムがひょいと飛び上り、そのまま宙を飛んで階段から玄関まで抜けていくのを見たあたるの母が、洗濯物のかごを抱きしめて腰を抜かしていた。 「で、いったい何なんだこれは!」 ラムの姿をしたあたるが走りながら、飛んでいるラムに話しかけた。見た目飛んでいるのがあたるなので奇妙な違和感がある。 飛びながら、ラムはその手にしゃきん、と細身の銃を取り出した。赤く不気味に光るその銃を見て、あたるはなんなんだそれは、とあからさまに嫌な顔をした。 「形状記憶転換銃だっちゃ」 「形状記憶…?」 以前竜之介を性転換させようとしてクラマが持ち出した「性転換銃」に、ラムがあたるのコピーを作るために取り出した細胞分裂させる銃、通称「コピー銃」なるものがあったことを、あたるはぼんやりと思いだす。この銃はその派生で出来上がったものだろうか。 「体の形を銃が記憶して、銃の先から飛び出す二股の光線をそれぞれで受けると外観が入れ替わるんだっちゃ」 「んなもんをなんで俺に!」 ラムは宇宙人のせいかあたるにとって理解できない理論で理解できない行動に出ることが多々とある。あたるはそのたびに喚いて聞き質す羽目に陥るのだった。 ラムは一瞬答える前に切なそうな顔をした。しかしすぐに怒りの形相に立ち替わると、その名残もなくあたるに叫ぶ。 「ダーリンが悪いっちゃ!ダーリンがうちをいつも見てくれたら、ダーリンがうちにいつも優しくしてくれたらって」 「なんでそんな願望からこんな銃が出てくる!?」 「だからうちがうちにしてあげればいいと思ったんだっちゃ。ダーリンになったうちが目の前にいるうちを大事にしてあげるんだっちゃ!」 あたるはそんなラムの無邪気な発想に頭を抱えたくなった。無邪気で幼稚で悪魔的で背徳的な願い。それなのに宇宙人たるラムにはその常識は通用しないのだろう。 「そんなつまらんことで俺の体を勝手に変えるな!」 「つまらんことじゃないっちゃ!」 「つまらんことじゃ!自分の思い通りにならんからと泣き叫ぶ幼児より性質が悪いわい!」 ぐっと詰まったように、ラムは黙り込む。あたるは最後の一言を最後に、ラムから顔をそらすとさっさと学校へのラストスパートを開始し始めたのだった。 「入れ替わっただぁあ?!!」 メガネと面堂が同時に同じ台詞を叫んだ。あたるはただ自分の席に座っただけなのだが、ラムがあたるの席に座るのが異常だと思った二人がラムの姿のあたるに声をかけた。あたるが一部始終を話したそのときの台詞がそれだったのだ。 「耳のそばで大声を出すなアホ!」 あたるは迷惑そうに逆に二人の耳をひっぱりあげて耳元で叫び返してやる。しかし、姿がラムなので、二人はうっとりとした顔でひどく嬉しそうににやけるのみ。声はあたるのままなのだが、二人にとってそんなことは問題にもならないようだった。そんな二人の様子に気づいて、あたるは気味悪げに身を引く。 「あああ、ラムさーん。もっとぉ!もっとぉおお!あなたの心の声をもっと僕の心に響かせてくださいラムさーん!!」 「俺はラムではない!」 気味が悪がったあたるはその手で力いっぱいメガネの頬をぶち打ってやる。しかしメガネは大してダメージを受けたわけではなく、どちらかといえば違う方向の喜びを得てしまったようだった。よろよろと床によろめきながら、嬉しそうな声を張り上げる。 「あああ、なんと甘美で熱い痛み…!ラムさんの電撃以外の攻撃はむしろ優しく暖かい気までしてくる…!」 あたるはもう相手にするのもばかばかしくなって、すとんと椅子に座った。その横では面堂がいかんいかん、と必死に正気を取り戻そうとしている。 「こんな戯言、まったくもってけしからん事態だ!諸星!ちゃんとラムさんは元に戻るんだろうな!」 「俺ではなくラムに聞け!」 あたるが腕を組んではき捨てるようにそう言うと、二人はそこから180度回転してあたるの隣の席に座るはずのラムの姿を探した。しかし、その努力の甲斐もなく、そこに座るのは二人が見たいとも思わない悲しいくらいアホ面あたるの姿だった。 「ああ、一体こんな不運をなぜあなたは一人で背負い込もうと決めたのですかラムさん…!」 面堂がラムの、しかし姿はあたるの手をとってそう言ってみたものの、あたるの手を握るなど面堂にとって考えられないことらしく青白い顔でラムの姿を見つめていた。そんな面堂の手をラムはすばやく撥ね退ける。 「うちはぜんぜん不運なんかじゃないっちゃ!だいたいダーリンの体になれるのはウチが望んだことだっちゃよ!」 「魔が差すにもほどがありますラムさん!どうか気を確かに持って、その腐れた姿からあの輝かしいお姿を取り戻してくださいラムさーん!!」 メガネの方はあたるの姿をしていてもラムだということがわかっていれば平気なのか、あたるの肩を抱いておいおいと泣き始める始末だ。 「だれが腐れた姿じゃい!余計なお世話じゃ!」 横からあたるが不機嫌な声で口を挟んだが、二人のほうはそれどころではないようだった。 「いくらなんでもその姿ではあなたがかわいそうです。解毒剤はないのですか?」 「お願いだラムさん、あなたは変わらず美しい姿で永遠を照らす女性だ。こんなアホなことがあってたまるか!さぁラムさん、早急なるご決断を!」 「諸星の姿をしてなんになるというのです。落ち着いて考えればすぐわかることではないですか」 「あたるの姿をしていたら、どんな不運が舞い降りてくるかわかりま」 「うーるさいっちゃー!!!!」 パリッと指先に電気のような光がほとばしったかと思うと、あとはもう怒涛のような電流が流れ始めて、二人の男がその電撃に当てられた。その姿があたるなので、見ていたあたるも驚いたように目を丸くしていた。 「能力はそのままなのか」 あたるはほーと神妙な顔でラムに言うと、焦げた連中を振り払ってあたるに返事した。 「形状記憶だから本来の能力はそのままだっちゃよ。ダーリンの皮をかぶってるようなものだっちゃね」 「気色悪いことを」 あたるはふいと顔をそらすと、腕を組んで不機嫌そうな顔を隠しもしない。ラムはあたるのそんな仕草に、肩を縮こませて椅子に座りなおした。 そこに温泉マークががらりと教室のドアを勢いよく開けた。 「よーし!全員席に着け!」 二年四組の面々はその声でしぶしぶといった様子を忘れず放ちながら、おとなしく席に着く。温泉マークは一人も遅刻者がいないことを確認し、うれしそうに講義を始めた。 あたるはもはや席に着いた時点で義務を果たしたとでも言うように、さっそくテキストを机に立てると弁当を取り出してがつがつを食べ始める。よりによって遅刻をしてはいけない日に寝坊し、はたまたラムのいたずらに巻き込まれたのだった。朝食など食べている暇もなかった。 (しかし、考えてみると悪いことはなにもないかもしれん) 食べ終わったわけではないが、途中で箸を名残惜しそうにねぶって考える。 (女になったということは女からはムゲにされる可能性は明らかに減る!そうすればいつもはそっけないサクラさんや、喧嘩っぱやい竜ちゃんも拳を振るうこともできないはずじゃな…ひゃひゃひゃ…!) 弁当を食べながら薄ら笑いを浮かべる見た目ラムの姿に、さすがの温泉も気づいた。 「ラム?お前今日おかしいな?早弁に薄ら笑い、おまけに席も間違えとるようだが…おい、諸星…」 ラムの席に座るあたるから、あたるの席に座るラムに向きなおったときが温泉マークの最後だった。 ごすっと重くむごたらしい音が鳴り響いた時には温泉マークはその場に昏倒していた。 「ダーリン!うちの姿でそんなことするんじゃないっちゃ!」 「やかましい!勝手に姿を変えておきながら何をぬかす!」 ラムに向き直ってあたるは怒鳴りつけると、手に持った大槌を放る。温泉マークはその大槌に後頭部を強打されて昏倒したのだった。 「というわけで、りゅーうちゃーん!」 ラムの姿をしたあたるはそこから飛び上がると、教室の後ろに座って居眠りする竜之介に飛びかかった。竜之介はあたるのその声に目を覚まし、鉄拳をその声の主に繰り出そうとしてその相手に驚く。まさかラムだとは思わず、しかしそのまま抱かれるのも悪寒が止まらず、結局飛び上がってラムの姿をした異様な存在から逃れる。同時にあたるはそのまま、竜之介の席で床に撃沈した。 「な、な、な…何なんだお前!?」 「あたしよぉ〜ラ・ム!」 くねくねとしなをつくってそういうラムの姿に、龍之介や心配でそばに寄ってきたしのぶが見るからに厭そうな顔をした。後ろからラムと面堂も走り寄って竜之介の前に立ちはだかる。 「ダーリン!!!」 「諸星!お前ラムさんの体であることをいいことに、よもやほかの女性にモーションをかけようなどと思っているのではあるまいな!」 ちき、とどこから持ってきたのか、面堂は抜き見の日本刀をさっとあたるの目の前に振りかざす。あたるはそんな面堂を見上げると、ふっと息をついてその剣の切っ先を指で挟むとそれを避けながら立ち上がる。 「ほーお。面堂、お前女に剣の切っ先を向けるとはまたずいぶんと落ちぶれたもんだな」 「っ!」 言われて面堂も慌てて剣を引く面堂に、あたるはしたり顔で笑いかけた。 「そうそう、たとえ仮の姿とは言えラムの体だ。せいぜい傷つけないよう気をつけてくれたまえよ」 ぎりぎりと相変わらずのにらみ合いをしたものの、やはり本気には睨みつけることはできなかったのか、面堂は先に目をそらすと無言のまま抜き身の日本刀を鞘におさめた。あたるは勝ち誇ったように笑うと、今度は教室を出ていく。 「サっクラすわーん!!今いくよー!!」 邪魔なプリーツスカートを両手についと持つと、軽やかな足取りで廊下をスキップしていく。ラムや面堂、その他メガネをはじめとする男どもがあたるを追って教室を出ていく。 「待つっちゃ、ダーリン!」 「諸星、待てぇええ!!」 女生徒たちはばかばかしくついていく気にもなれず、教室で静かに残ることにした。しのぶが静かに自分の席に戻りながら、ため息をつく。 「毎度毎度、落ち着きのない毎日だこと…」 「サクラさーん!気分が悪いんですー!」 力いっぱい走りこんで言うセリフではないことは重々承知ではあるが、あたるにとってはそれがここにくる大義名分の文句だと思っているらしい。 しかし保健室のサクラにとっても、その理不尽なくらいにつじつまの合わないセリフで、サクラは来た人物を確かめるより先に怒鳴りつけた。 「ここに来るまでどれだけ走りつくしてきたかしらんが、息を荒げながら言うセリフではないわ去(い)ね!」 サクラはそこまで言ってから入ってきた人物を確かめて目を見開く。まさかラムだとは思わなかったのだろう、サクラはわびるようにやさしい声色で言った。 「あわててやってきたと思ったら、ラムか?急ぎ相談なら…」 しかし、言ってる途中で近づいてくるラムの異様な空気にサクラは気づく。ラムにはありえないほどの熱をもったエネルギーを感じたのだ。電撃のエネルギーでもここまでねっとりとしたいやらしい空気はありえない。この空気の持ち主は、と考えて思い当たる人物が一人だけ。 「諸星。おぬし何をたくらんでおる?」 ゆっくり一歩一歩と進んでいた見た目ラムの足がぴくりと止まる。 「もう一度言うぞ、何をたくらんでおる!」 「サクラさーん!」 言うが早いか、あたるはぴょーんと飛び上がってサクラの胸に飛び込もうとしたが、やはり暴飲暴食の怪力のサクラにとってあたるは敵ではない。くるっと身をひるがえしてあたるの体を避けると、そのままのびやかな脚で窓の方向に受け流すようにあたるの体を蹴りつけようとした。 だが、体がラムだったことを思い出したようにその足をとどまらせると、その隙をついてあたるがすばやく方向転換し、サクラに襲い掛かった。サクラが逃げるのもままならず躊躇していたところで、ピシリと電撃が走る。その電撃に気づいたあたるはさっとサクラから身を引き、電撃から大げさなほど身を引いた。 あたるが保健室の入り口を見ると、そこにはあたるの姿をしたラムをはじめ2−4のクラスの面々が到着していた。サクラも入り口を見つめ、電撃を使ったのがあたるだったのに目を見開く。 「ダーリン!」 「ラ、ラム!」 しまったとばかりにあたるは身を翻すと、ちょろちょろと電撃を避け、出入り口に屯すクラスの男子を踏みつけ電撃の盾にしながら保健室を脱出してしまう。 「待つっちゃ!ダーリン!」 「待て諸星〜!」 面堂たちもそれを見てすぐに後を追うように保健室のドアを飛び出した。 「まーったく、毎度毎度…」 サクラはいつも通り騒がしく出て行った連中を見送った後、どかっと椅子に腰を下ろすとお茶をすすり始めた。 一方、あたるの方はと言えば、街に出て女の姿でのガールハントに洒落込もうと決め行動に移したところだった。追っ手を撒くのはあたるにとって十八番のようなものだったので、すでに後ろには追っての影もない。 しかし街中での女性の反応は、男の時だったそれよりもより確率は悪くなっていた。 「やはり女の姿のガールハントというのは俺の正常な神経ではできんな」 さんざ見知らぬ女の子に声をかけて不気味がられたあと、ようやくそのことを習得したようにあたるは公園のベンチでジュースを飲んでいた。そこを、ラムよりも先にクラスの男どもにその姿を捕えられた。 「ラムさん、じゃなくてあたる!」 「お、御苦労さん、皆の衆」 紙パックのジュースをストローでぢゅーと吸いながら、あたるはひらひらと手を振った。ほぼクラスの男全員がそこにはそろっている。面堂とラムがいないところをみると、二人でつるんだ方がどうやらあたるを見つけられずにいるようだ、とあたるは連中を見てそう頭の片隅で考えた。 あたるを囲んでいたクラスの連中はというと、あたるの顔を見るべく何やら怪しげに顔を突き出してきた。 「しかしお前、本っ当にラムさんと変わらんな…」 「ま、ラムが持っていたからには高度な科学力によって作られたものに違いないからな。それほど粗もあるまいて」 あたるはジュースを飲みほすと、それを捨てようと立ち上がろうとしたが、メガネにその手を抑えられる。 「なんだ?」 「貸せ」 メガネはその空き箱をあたるから奪うと、隣にいたチビに手渡す。そして顎で捨てて来いと示すと、チビは少々おろおろとしたが結局公園の出口にあるごみ箱まで走らされることになった。 「さて、物は相談だがな、あたる」 メガネはそう言うと、あたるの隣に腰かけた。 「なんだ、もったいぶって」 あたるはきょとんとした顔でメガネの顔を見つめるが、メガネはあたるの姿を一瞥したあとあわててように目をそらし眼鏡の位置を調整した。 「いや、あたる。俺たち親衛隊をやってて一度もラムさんとデートなぞもしたことがなかろう。まあなに、ラムさん本人はお前みたいなアホが大好きときちゃどうしようもない願望だとは思っているさ。でもな、ちょっと夢を見ることもあるし、やっぱり夢は捨てたくないもんなんだよ、わかるか?あたる」 「本題に入れ」 言いながらも、あたるはだんだんメガネの言いたいことがわかってきていた。腕を組んで目を閉じてメガネの言うことを黙って聞こうとしている。 「そうだな、単刀直入に言ってこの際偽物のお前でもかまわん!俺たちはラムさんとデートをしたいと考えて折るんだが…」 「いくら出す」 メガネはその声に驚いてあたるを見た。あたるはその時はじめて目を開くと、メガネににっこりと微笑んで見せた。その頬笑みは思わぬ収入を得られる喜びに満ちたものだったが、メガネにはラムそのものが微笑んだように見えて一瞬理性を失いそうになる。 「お、お前!」 「まあそれ相応の報酬があれば俺が請け合ってやってもよい。どうせ時間的にお茶するくらいが妥当じゃろ」 その一言でそこに集まった男集団が沸き立つ。 「あたる!お前は男の中の男だなぁ〜〜!」 メガネが感動極まりない声を出してあたるの言葉に泣き笑いのような表情を見せた。しかし、周りの方はもっと興奮しはじめていて、まもなく交渉が始まった。 「お、俺1時間2000円出す!」 「待て!俺は2500円出す!だから俺が先だ!」 「はいはい、もっと出す人おらんかねー」 あたるは競り市場のようにメモ帳を広げて鉛筆を耳にかけると、人差し指をたてて「もう一声!」と呼び掛けた。 「よし、奮発して4000円だ。もう俺が一番だろう」 ぐいとあたるの腕を引いた男がいて、あたるはぎょっとした。視界に入ってくる華奢な細い腕が自分ではない男につかまれている。なんという嫌悪感だろう。精神的に男であるあたるが男につかまれたという嫌悪感ももちろんあった。しかし、それだけではない。いや、むしろそのことよりもこの華奢な細い手があたるではないモノに掴まされるということに、あたるは人知れず腹が立てていたのだった。 腹が立ったというのも少し違うのかもしれない。しかし、あたるの体自身がすでに反応していた。身の毛がよだつし、鳥肌が立つ。ちりちりとした何か急くような強張った気持ちが、全身を支配する。 「やめろ!お前ら俺は男だぞ!触れるな!」 気づいたときには叫んでいた。それは本当の理由ではなかったが、それを言わずにあたるは事を荒立てることがよくある。そしてこのときもそうだった。おかげであたるは連中に火に油を注いだ形となったのだった。 「高い金払わせて触れるなだと!?馬鹿言うな!」 あたるのその言葉に、ラムとふれあえると思っていた男たちはなにかが切れたようにあたるの腕を引っ張り合い、あたるを自分のものにしようと何度も試み始めた。そんなすったもんだしているところを、ラムがようやく見つける。 「…なにしてるっちゃ…?」 異様な光景にラムはそこから一番近い電灯の上に腰かけて様子を見ることにした。 幾度とない男のいやらしい手から逃れるべく、あたるは体をかわしていた。ひょいひょいとなんとかその手を避けながら、男どもとの距離を取っていく。逃げの一手ならばあたるの十八番、あたるの特技が発揮された。ラムの体に指一本触れさせまいとあたるは逃げに逃げた。 お互いがぜーはーぜーはーと息を吐き出しながらも、なんとか距離を取り続けること約10分が経過した。 「ええかげんに往生せぇあたる…」 メガネが代表してそう言ったが、あたるは脂汗を額に垂らしながら歯を食いしばり目を血走らせても首を横に振り続けた。 「お茶を飲むだけならいざしらず、そんな屈辱俺には耐えられん!」 「馬鹿もーん!健康な高校生が茶をしばくくらいで金を出すと思うか!」 「俺なら払う!」 「俺たちはお前ではない!」 じり、じり、と双方が間を一定に保ちながら互いの様子を見合うように睨み付けている。いい加減疲れも疲れも極限状態になってきて、あたるはようやく後ろが壁になっているところまでたどり着くと、声を張り上げた。 「いい加減にしろ!いくら借り物とはいえラムをほかの男なんかに預けられるか!胸糞悪い!」 「ダーリン!」 その声にその場にいた全員がラムの姿を探す。あたるはひょいと空を見上げると、視界の端に空を邪魔している電灯が目に入る。そこに自分の姿を見た。 「ラム!」 「もういいっちゃ!ごめんちゃダーリン!」 ラムは電灯から飛び降りるとちゃっと後ろから銃を突き出し、あたるめがけて銃の引き金を引いた。銃声の後あたるに光が照射され、もう一つの光はラムに照射される。 「うわっ!?」 あたるはその光に驚きながらもいつもの電撃と違ってなんの痛みもないことに安堵した。そういえば朝も衝撃こそはあったが痛みはなかったことを思い出して、これだったのか、と思いなおす。 天から降ってくるラムはラムの姿を取り戻し、地上で待つあたるはあたるの姿を取り戻した。正常な二人の影がひとつになる。 「ダーリン…!」 ラムはあたるの体に泣きつくように抱きしめていた。あたるは泣きついてくるラムの小さくて華奢な体と、ごつごつした自分の掌を見つめてから、ほっとしたように息をつくとぽん、とラムの頭に手をやった。 「こーいうことは二度とすんな。俺は試されるのは好かん」 「ごめんちゃ…」 ラムとあたるが姿を取り戻し安堵したところに、傍からメガネが声をかける。 「あーたーるーくーん!仕方ない!ラムさんを貸してくれーーーー!!」 「本人に言え本人に!」 あたるはわめきながら、あわててラムを自分の体から離させる。しかし、ラムもこの状況であたるから離れたら身の危険を感じたのか、すぐにあたるの腕をとるとべーっと舌を出した。 「ダーリン以外とデートなんて、ずぇえええったい嫌だっちゃーーー!」 END 収拾がつかなくなるかと思いました…!恐いぞうる星! 今回はラムとあたるのバランスがとれたかな?と思います。 どたばたラブコメ難しすぎる…! 修正ver.2008/2/15 文脈と内容の追加修正。 大きな修正:サクラがあたるとはいえラムの体を蹴り飛ばす描写を削除。 →原作にも1度はあった気がするけど見た目によくないため。 その他は細かい文脈の修正。雑な描写を修正したり。いろいろと。
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