12 コア封印
 サリャーネの言葉に一瞬躊躇したザーヴァに変わって、レザがそんな馬鹿な!と喚いた。
「あのな!サリャーネさんよ?沙羅とは違うみたいだから説明するが、ザーヴァは実はもう力が・・」
「反応を返していないだけ」と、サリャーネが言う。
「・・まさか」
 ザーヴァが慌てて、胸に片手を当てて目を閉じる。渾身の思いを込めてザーヴァがレザを呼ぶのが見ている夕梨からもよくわかった。すると、次第にザーヴァの胸の辺りが淡く光り始める。
「もしかして!」
「まじかよ!」
 夕梨とレザが驚いたように声を上げた。
 ザーヴァの胸から光り輝く石がふわりと浮び、ザーヴァの手を光で満たす。サファイアのような緑かかった青く光る石だ。
「ベガ!」
 ザーヴァは驚きも喜びも混ざって何もいえない。ただ自分の石の名前を呼ぶことだけが精一杯だ。
「ザー・・ヴァ。なに・・?」
 極力声を発することも絞っているような状態のベガの声が聞こえたとき、ザーヴァは嬉しそうにその石を抱きしめた。
「あまりベガを煩わせてはいけないわ。ザーヴァが生きるために最小限度の力を残していたのよ。私以外のタキオニアはタキオンが無ければ生きられないんだもの」
 サリャーネがそう言うと、ザーヴァは頷きベガを自分に戻した。夕梨はザーヴァによかったねぇ、と笑う。
「俺、声が聞こえないからもういないんだって、信じ込んでたんだ・・」
「ベガ自身がそうしたのかもしれないわ。あなたを生かすためにね。でも私はザーヴァには思い出して欲しかったの」
 サリャーネのその言葉に引っかかって、レザが考え込む。それから、あっ!とサリャーネを指差しながらレザが声を上げた。
「て・・テルタ街でいちゃもんつけてきた女って・・まさか!」
「正解。私だったのよ。勘がいいわ、レザ」
 ザーヴァもサリャーネのその言葉に唖然となった。そのとき眠っていた夕梨は不思議そうな顔で3人の顔をうかがった。が、深くは追求しなくてもいいと自分で判断し、それよりも、とその場を仕切りなおすように言葉を発した。
「巨大結晶の挿げ替えなんて、どうやるの?」
「説明する暇は無いから、即実践よ。いいわね?ザーヴァ」
 サリャーネが試すような瞳でザーヴァを見つめると、ザーヴァは黙って頷いた。
「レザ、ユーリ頼む」
「了解」
 レザはほれ、と肩を夕梨に差し出すと、夕梨はレザの肩につかまった。一瞬とはいえ、石にされてしまった体はしびれたように動きが取れない。
「離れてろ」
 夕梨にとも、レザにともつかない言葉を吐くと、ザーヴァは気合を入れ直すように衣服を正した。レザに体を支えられ、夕梨はその石版のある砂浜から離れ、先ほどレザが出てきた茂みの辺りまで後退する。
 目の前に広がる白い砂浜に、吸い込まれそうなくらい青い海。そこに立つザーヴァとサリャーネはそののどかな景色には少しも沿わない雰囲気を放っていた。
 まず、サリャーネが動いた。丸い石版の上に立つと、ザーヴァを誘うように手で示した。ザーヴァが石版の上に乗り、二人が外円から等間隔の位置に立つと、石版が反応したように光を発した。
「ファンタ・ルジア時空、EP17ーT8294空間の中核コアとそのタキオニア、サリャーネを、しばしこの封印の石に刻むものとする!」
 ザーヴァがそう言って、足元の石版に手を掲げた。すると、さきほどの夕梨と同じようにびしり、と空間が音を立てた。石版に繋がったようなサリャーネの石がそこに出来上がった。
 それを見て夕梨はみるみる顔を青ざめさせた。
「沙羅はどうなるの!?それにこんなんで本当にコアも封印できるの!?」
「だまってろ!・・ユーリ、頼む・・!」
 改めてザーヴァを見てみると、ザーヴァも普通の状態ではない。体中からにじみ出る汗が尋常でない何かを感じさせる。そして息が上がったように肩が激しく揺れている。
「一体・・」
「ユーリ、きっと大事なときだ。黙っていた方がいい」
 レザが諭すようにそう言った。夕梨は沙羅もザーヴァも心配ではあったが、自分に出来ることが無いことだけは確かだった。だから、おとなしく頷いた。
 しばらくすると、石になった沙羅の体は石版に吸い込まれるようになくなってしまった。夕梨は手の平に爪を立てて、沈み行く沙羅の体を見届けた。
(きっとそのままにはしないわ。今は、サリャーネとザーヴァを信じるしかない・・)
「うっ・・くあっ!」
 突然、ザーヴァの体が石版に突っ伏すと、その背中から先ほど見たベガの光が溢れた。
「羽でも生えるのかねぇ・・」
 レザは騒いでも仕方がないとわかっているのが、悠長な感想を述べた。
「何考えてんのっ!」
 思わず夕梨がぴしりと言ってやると、レザはでもさ、と夕梨に言う。
「脱皮とか、分裂とかだったらどうする?あの煩いザーヴァが二人、とか」
「うわっ、やだー考えたくないっ!」
 夕梨は頭を抱えてぷるぷると頭を横に振った。それにしてもこの二人は緊張感がなさすぎるきらいがあるようだった。
 それはともかく、先ほどのベガの光が弱々しかったのに比べ、今度のベガの光は先ほどとは似ても似つかない輝度だ。少なくとも倍以上はありそうだ。
 ようやく、その光の根源が姿を現した。先ほどのベガの個体とはやはり形も大きさも違う石が、ザーヴァの背中から飛び出したのだ。その石がまるで自分の安置する場所を知っているかのごとく、遠い空に飛び去っていったのを二人は見た。
 石が放物線を描くように飛び去っていくと、これまで淡く光っていた石版は光を失った。
 そして、再び海岸らしい静けさが戻ってくる。
「・・終わったのか?」とレザ。
「さぁ・・とりあえず、ザーヴァが起きるんじゃない?」と夕梨。
 しばらく二人は海岸の波の音を聞いてじっとしていたが、結局ザーヴァの覚醒を待ちきれずにレザが立ち上がった。ずかずかと石版の傍まで歩いていくと、石版には触れないようにしてザーヴァを呼ぶ。
「おーい、こら!ザーヴァ!終わったのかー?イマイチ締まりねぇ終わり方だなぁ!おい!」
「文句言うなら起きてから言えば?」
 夕梨はずるずるとほふく前進をするような形でレザに近づく。足にまだ力が入らないのだ。レザが夕梨の様子に気づいて、悪い、というと夕梨に肩を貸した。
 夕梨はレザの肩につかまると、よろけるように立ち上がった。
「ザーヴァ?」
 夕梨も声をかけるが、ザーヴァの反応が無い。石版を踏んでいいものかも判断がつかないので、二人はザーヴァに近づくことも出来ない。
「どうしたんだろ・・。沙羅のこともどうなったか聞きたいのに・・」
「お前は・・ザーヴァよりも沙羅か」
 レザが面白そうに夕梨にそう言うと、夕梨は焦ったように声を上げる。
「あ、いやっ・・だって少なくとも石になった沙羅よりはザーヴァは問題なさそうだしっ!」
「そうかな・・?」
 レザがふとザーヴァを見やる。つっぷしたまま、ザーヴァはぴくりとも動かない。
「あれ、意外とそのままだったりしてな?」
「え・・ぇぇえ?」
 素っ頓狂な声を上げて、夕梨はとたんに不安になった。
(巨大結晶の挿げ替えをしたところまではよかったが、挿げ替え元も挿げ替え先もタキオニアが駄目になってしまった・・とか?)
「それは・・困る!断然困るよ!リア・リティンのことも沙羅のことも判らないままで・・、それに私これからどうしたらいいのよ?!」
「あ〜〜うるせっ」
 ザーヴァがそこでようやく起き上がった。胡座をかくと背伸びして、くああっと欠伸までしてみせる。
「ザーヴァっ!よかった!」
 安心して、ザーヴァの方によろけるように前に出て、夕梨はつんのめった。レザが夕梨の動きに一瞬遅れたせいで、レザは夕梨の体を支えきれなかった。仕方なく、ザーヴァがすいと体を移動させて、夕梨を受け止めた。
「危ねぇなぁ、お前は。足まだ治んねぇのか」
 夕梨は、サーヴァの体の動きが妙に不思議だったことに気づいて、ザーヴァの言葉に答えることもできなかった。ザーヴァはそんな夕梨の返事も期待していなかったかのように、すっと夕梨の足に手をかざしてやった。
 夕梨の足からしびれが消えてしまったのだった。
「ザーヴァ・・。さっき・・胡座のまま石版を移動しなかった?それにその力・・」
 ザーヴァは夕梨を見て頷いた。安心させるようにザーヴァが笑う。
「戻った。巨大結晶の力を受け継いだから、力が戻ったんだ」
「なんだ・・そうだったの。良かった。よかったね、ザーヴァ」
 夕梨も安心した。この世界での力の無いものの扱いは、行く端々で痛感させられたのだ。このままでは安心して自分の世界にも帰れないところだった。
「沙羅とサリャーネとコアは・・?」
 石版が大丈夫か足でつんつんしてから入ってきたレザが、そういいながらザーヴァの隣に同じく胡座をかいて座った。ザーヴァは頷くと、静かに先ほどのやり取りを話した。
「無事、封印した。沙羅は無事、というよりも引きずられた形になっちまったが、まあ大丈夫だ。俺とベガが中核になったから、どうとでもなる」
「あのさ、気になることがあるんだけど」
 夕梨はザーヴァを見て、おずおずと声に出した。ザーヴァは不思議そうに夕梨を見ると、何だ?と訊く。
「定められた歴史は?どうなったの?」
「安心しろ。あれはもうない」
 ザーヴァはそれこそほっとしたように息をついた。
「あれは、俺が一番壊したかったものだったから、コアの巨大結晶から受け継がなかった。多分ベガが第一鉱山に入ったと思うが、あれにはもう定められた歴史は無い。監視所もいらなくなる」
「あの大きな石はやっぱりベガだったんだ・・!」
 夕梨はザーヴァの背中から飛び出してどこかに行ってしまった石のことを話した。
「ああ、確かに俺の体にはベガしかいないはずだから。ベガだよ。巨大結晶の能力を引き継いで、その分形も大きさも変わっちゃったんだな」
「めでたし、めでたし、か?」
 レザがそう言うと、ザーヴァはここについてはな、と釘を刺した。そして、夕梨に向き直り、ザーヴァはこう言った。
「ユーリの世界はまだ復元してない。その復元方法も、そして沙羅が元に戻る方法も全部俺はサリャーネから受け継いだんだ」
「ほんと!?」
「ああホントだ。安心しろ。全部元通りになるすごい方法だ」
 ザーヴァはそう言ったが、夕梨はその言葉に疑問が生じた。
「全部?全部って?」







to be countinued.


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