最強挙士伝説
ファミコマンドー竜


ホラーハウス12月号増刊「ファミコミック」第1号所収 全30頁
大陸書房/1986年12月12日発行/330円 雑誌コード18126-12


 エニックスがドラクエ4コマや『少年ガンガン』で「ゲームコミック」のスタイルを確立させて以来、その手法は同人誌にまで波及し、いまやコミケを丸1日占拠するほどの大勢力となった。
 しかし、現在のゲームコミック隆盛の陰には、さまざまな理由で生き残ることができなかった多くの絶滅動物たちの屍が横たわっていることを、我々は忘れてはならない。いや、関係者にとってはさっさと忘れ去ってほしいんでしょうけど、そうはいかん。


……


 今は亡き大陸書房から「ファミコミック」という雑誌が出ていたことを覚えている方は、相当のゲームコミック通であろう。
 ヒネリのない誌名を見れば一目瞭然だが、ファミコンを主題にしたコミックアンソロジーに、ファミコンゲーム情報が少々載っているという体裁の雑誌である。
 さて、ふつう「ゲームマンガ」と言えば、ゲームのストーリーをなぞったコミカライズや、ゲームのキャラや設定をいじくったギャグ、サイドストーリーが定番だ。本誌にも一本だけ、「ワルキューレの伝説」のコミカライズが載っている。が、誌面のほとんどを占めるのは、特定のゲームとは関係ない、ファミコンで遊ぶ子供を主人公にした短編(『ゲームセンターあらし』のような「ゲーマーマンガ」とは断じて違う)、または普通の話にムリヤリファミコンを絡ませた三題噺のような作品群である。
 これがまた、ゲーム好きな少年がゲームの世界に入り込んで云々というベタな異世界ものならまだマシなほう。泥棒や先生に奪われたソフトまたはファミコン本体を取り返すために駆けずり回って云々とか(奪られるものがファミコンである必然性はどこにもない)、悪魔に「ファミコンがほしい」と頼んで巻き起こる大騒動云々とか、そんなのばっかし。
 中でも、モテない少年がモテたい一心で「ファミコン道場」に入門し、ゲームとは直接何の関係もないトレーニングに励む短編『トマト君のファミコン道場』に至っては、そもそも作者が「ファミコン」というものを分かっていなかったらしく、主人公が携帯電話みたいなものを持って何かのゲームをプレイしている(iモード先取り?)有様。どう好意的に解釈してもこれはなかろう。
 本誌の奥付を見た筆者は、これが都筑和彦の『ザナドゥ』や円英智の『ロマンシア』が刊行されるたった半年前の本と知って驚愕した。まさに「逆オーパーツ」。当時の子供たちもそうだったろうが、現代人の目から見るとなおさら、読み進めるのがツラい。

 しかし、そんなツラい作品群の中にあって、抜群の破壊力を誇る異色作があった。それが今回紹介する『最強挙士伝説 ファミコマンドー竜』だ。
 なお、言うまでもなく「挙」の字は原文ママである。

 前置きが長くなったが、さっそくその最強挙士伝説ぶりを紹介しよう。


……


一九九×年、核戦争によって
人類は滅亡の危機に瀕していた

わずかに地下シェルターで
生き残った人々には
飢えと死の恐怖があるだけだった

 初期設定はあからさまに『北斗の拳』だが、ダイナミックプロ系の絵柄から『バイオレンスジャック』の線も想起させられる。だがここからがひと味違う。

しかし、そんな彼らにも
唯一残された娯楽があった
それは……

ファミコンゲームだった!!

 この時点で、9割の読者は「バカにするな」と叫びたくなったことだろう。だが、読者の心に雲霞のごとく沸き上がるモロモロの疑問などおかまいなく、壮絶な世界観はさらに披瀝されていく。
 地下シェルターで生き延び、数十年後再び地上に出てきた人類。しかし暗く長かった地下でのファミコン漬けの生活は、彼らの生活に新たな掟をもたらしていた。
 それは……

ファミコンの腕の
優劣によってきまる
厳しい身分制度だった!!


 残り1割の諸君も見放したくなったかもしれないが、頼む、今しばし辛抱していただきたい。
 そう、ファミコンの腕によって身分が決まってしまうという不条理きわまる近未来(たしかにこれほど不条理な世界はあるまい)、ファミコンが下手な人々は奴隷にされ、農場で強制労働に従事させられているのであった。

 そんなとある村で、今にも倒れそうになりながら水を運ぶ奴隷の少女。しかし、見張りのザコに足をひっかけられ、少女は大切な水をこぼしてしまう。自分で転ばしたくせにザコは「こぼした量とおなじだけの血と涙を流してもらうぜ!」とナイス因縁をつけ、少女を鞭打つ。
 「イャアアアー!」
 哀れ、鞭の嵐を受け、服も柔肌も切り裂かれる少女。泣き叫ぶ少女の弟。アハハハと楽しそうなザコ。しかし奴隷たちは誰ひとり手出しできず、歯がみしながらただ立ち尽くすのみ。なぜファミコンが下手なぐらいでこんな仕打ちを受けねばならぬのか。嗚呼、地上に正義は絶え果てたか!?

 そこに、いきなりザコの振り回す鞭先をはっしとひっつかみ現れた謎のムキムキ男。こいつが本編の主人公、ファミコマンド竜(タイトルでは「ファミコマンドー」だが、なぜか作中呼称ではオンビキ「ー」がついてない)である。
 まんまケンシロウな服装や、胸の七つの傷ならぬ額の×型の傷でザコから個体認識されるところなどは、1986年末の作品ということで、ギリギリ大目に見ていただきたい。
 しかし、単にケンシロウのパチモンでおさまらないのが竜の凄さ。
 文字で書いても絶対信用してもらえないと思うのでも載せさせていただくが、こいつ、数珠つなぎになった無数のファミコン本体を左肩に下げ、よく見ると腰にはベルトのかわりにソフトをぐるりと巻いているのだ。相当のイカレポンチぶりである。
 かつて人々に愛されていたファミコンが、身分制度を生み出し、人々に憎まれている……そんな現状に心を痛めている竜は、奴隷たちを解放し、またみんなで楽しくファミコンができる世界を作るため、(この恰好で)各地の村を転々とし、統制者たちを倒して回っているのであった。高尚なのか低レベルなのかよくわからないモチベーションである。
 百歩ゆずって動機はともかく、問題はその戦い方だ。
 仮にもゲームをテーマとするマンガなんだから、悪いゲーマーを倒すのに、普通なら対戦ゲームで倒して改心させるのが、『あらし』以来の定石的展開というもの(もっとも、ゲームで負けたぐらいで改心してしまう悪党もそれはそれでアレなんだが)。それでこそ「ファミコミック」というものではないか。
 しかし竜は、全編通して一度たりともファミコンをプレイしない
 ではどうやって戦うのかと言えば、これも信用してもらえなさそうだが、ファミコンを凶器にした拳法「ファミ魂殺法」で戦うのである!
 「アチョー」と怪鳥音も高らかに、鋼鉄のコントローラーをつないだヌンチャク(おい)を振り回し、あっと言う間にザコをしばき倒す竜!……ってそれじゃゲームマンガじゃなくて拳法マンガじゃん!
 そもそも本作中「ゲーム」が出てくるシーンといえば、悪の首領マッド・グロスが部下の挑戦を受けて、(1986年当時の感覚でもかなり古くさい)横スクロールシューティングで勝負している場面に、申し訳程度に出てくるのみ。身分制度の元凶のわりには、けっこう扱いがぞんざいである。凶器だし。ちなみに部下はあっさり負け、「勝負ニ負ケタ者ハイサギヨク死ネ!ソレガ掟ダ!!」とばかりにマッド・グロスの「目からビーム」で即死。人命軽すぎ。

 あとの展開は詳述するまでもなかろう。敵の基地に乗り込んだ竜は、鋼鉄のコントローラーを振り回しザコをちぎっては投げちぎっては投げ(特に図版は載せないが、だいたい今諸君が想像しているような絵で間違いはない)、ついにマッド・グロスと対峙する。

「ファミコマンド竜…
 ナゼワレワレニ逆ラウノダ…」

「ファミコンは
 人を支配する道具じゃない、
 楽しむためのものだ!
 きさまらにはわからぬ
 人間の感情だ!」



 至極ごもっともとしか言いようがない。
 というわけで、実はロボットだったグロスの「目からビーム」をひらりとかわした竜は、ついに切り札、肩に下げた爆薬満載のファミコン(!)「爆裂ファミコン」でグロスの頭部を吹っ飛ばす。こらこらファミコンは爆薬仕込むものとも違うぞ!という読者の無粋なツッコミなど無視し、竜は「ファミ魂殺法・牙竜乱激打」(ただの飛び蹴り)で見事グロスにとどめをさす。グロス大爆発。
 かくしてタコゲーマーたちは解放された。


「わたし達、ロボットに
 支配されていたのね…」

「どーりでファミコン
 うまいはずだぜ」


(アハハハ)(ははは!)


 「ロボットだからファミコンうまい」……そういう問題ではなかろう。


「これからは、みんなで楽しめる
 ファミコンゲームを
 やるんだよ!」

「うん、ありがとー竜」

「竜さんはこれからどこへ…?」

「さあ…どこかな…
 ファミコン・ゲームの楽しさを
 伝える為なら、どこへでも…」

GAME OVER

……


 つまり言ってしまえば、単にファミコンが好きなだけの正義感あふれるオタク拳法家が、ファミコンを支配の道具に使っている悪いゲーマーを退治する話なわけだ。今風にたとえるなら、金にあかせて怪獣プラモを買い漁り貧しいマニアをいじめるコレクターを、佐竹雅昭か獣神サンダーライガーが鋼鉄の怪獣人形や爆弾入りソフビでボコって回る痛快活劇だと思えば分かりやすいだろう(かなり違う)。
 そのわりには、竜がなぜそこまでファミコンに肩入れするのか、竜自身のゲームの腕前はどんなものなのか、等々といった、竜とファミコンの関係性を語るような描写が一コマたりともなされていないのがなんとも弱い。読みきりアクションもの30頁でそこまでキャラを掘り下げろと言っても無茶かもしれんが。
 結果、「ファミコン」と「近未来バイオレンスアクション」というふたつの要素がうまくブレンドされるどころか、牛乳とオレンジジュースを混ぜたように見事に分離し、ファミコンマンガとしても『北斗の拳』エピゴーネンとしても、どちらの座標軸で測っても明らかにヘンな作品として仕上がってしまった観がある。
 ただ、著者の安田タツ夫先生は『鋼鉄ジーグ』の原作マンガや『バトルホーク』のコミカライズ(いずれも「安田達矢」名義)、立風書房のホラーマンガなどでかなりのキャリアを誇る漫画家さん。さすがにコマ運びや構成などは、同誌に収録されている他のどのマンガよりもリズムがあり、30頁を一気に読ませる力量を持っている。それだけに基本設定のヘンさがよけいに際立ち、本作品のインパクトをいやが上にも高めているのだが。
 どちらにせよ、正直言って、本誌の中では唯一「面白い」マンガであった。面白さのベクトルはともかくとして。

 これだけの傑作でありながら、『ファミコマンドー竜』をネットで検索しても、筆者の日記以外出てこない(※本稿執筆時)。ダイナミックプロ専門マニアは相当数いるはずだが、彼らのサイトにもこの最強挙士の名前は見当たらない。
 おそらく、安田先生のビブリオグラフィーからもとうの昔に抹消されているものと思われるが、このまま歴史の闇に埋もらすには惜しい作品である。


……


 幻のファミコン雑誌「ファミコミック」。
 ファミコン関連書籍が商売になりはじめ、あちこちの出版社が我も我もと参入しだした頃の混乱状況を保存した資料として、記録にとどめておきたい。
 ちなみに第3号まで刊行されたことは確認できたが、休刊時期は不明。版元の最期を待たずして人知れず撃沈したものと思われる。


【初出:『と学会誌9』と学会 2001年8月刊】



文献表(一次資料に当たれた幸運な人たちによる研究論文、映像等):

・2001年に別紙で発表された新田五郎氏によるレビュー
 ※上記ページにはスキャン画像6点あり。

・「おまえはもう、何かに似ている!」 「北斗の拳」的マンガ大集合!
 『トンデモマンガの世界』(2008年、楽工社)
 上記新田五郎氏によるレビュー。

・大西祥平「アーリーゲームコミック列伝」
 第14回『ファミコマンドー竜』
 「CONTINUE」13号(2003年、太田出版)掲載
 ※トビラ含め18ページ分の本編画像掲載。

・「核戦争後の世界を舞台にしてファミコンを武器に戦うマンガがある」
 (80へぇ)
 CX系『トリビアの泉』2004年6月16日放映分より
 ※ダイジェスト画像、安田タツ夫先生本人の
  貴重な肉声インタビューあり。
  YouTube等で探してみると吉。