松原秀樹先生連載41

 

 困っている負担をさらに増やしたアドバイス



以前、末期の癌のご主人を自宅で看病し世話していた奥さんに相談を受けました。ご主人の余命は長くても3月、早ければ1ヶ月で亡くなる可能性もあるということでした。自宅で最後の最後まで看病し続けたいと、仕事をしながら頑張ってきたということでした。しかし、今まで25分で行けていた職場でしたが、配置換えで片道50分はかかってしまう場所に移動という内示を示されました。ご主人の病状と看病している事情を話して、これまで以上に世話が必要になるので、何とか今の職場のままでと懇願したそうですが、どうしてもだめなら辞めてくれてもいい、という返事でした。そうして途方にくれての相談でした。大変にお気の毒な話でした。

私は「神様がいたとしたら、片道が倍の時間かかるという試練をなぜ課したのでしょうね。これからご主人の様子はだんだんみていて、辛いものになってくるでしょうね。その辛さに負けないで、看病を続けていくための、ゆとりの時間をくれたのかもしれませんね。バス停をひとつ先で、あるいはひとつ前で降りて、もっと時間を持って、自分のためのゆとりの時間をもって、ご主人に精一杯の看病をしつづけられたらいいですね」とこたえました。

かなりたってから、その方にまたお会いする機会がありました。残念ながら奇跡は起こらず、ご主人を見送ったということでした。話によると私のアドバイスの翌日から、バス停をひとつ前だったり先にさせたりして降りて、帰ったときにご主人にどのような顔や声で何て言おうかと考えたり、どんな話をしようかと考えたりしました、ということでした。おかげで最後の最後まで満足した看病ができました、と話されました。

一見負担が増えるアドバイスでしたが、していきたいことを、よりよくし続けるためには必要だった時間を確保さらたわけです。幅跳びよりも、走り幅跳びのほうが遠くまで飛べます。垂直に飛ぶときもかがんだ方が高く飛べます。一見後戻りしたほうが返って遠くまでいけるのです。アドバイスを素直に受けとめていただき、よりよい実践をされつづけたその方の賢明さが強く印象に残っています。

連載42

up 2005/12/15

 

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