松原秀樹先生連載51

 

環境と適応

 

日本は北から南まで、実に長々とした列島になっています。昔、北海道一周旅行で、最北端の宗谷の稚内に行ったときのことですが、8月のはじめでも、朝夕にひどく冷え込み、ストーブが炊かれてやっと暖まったという経験があります。また沖縄に行ったときには、10月の終わりでも、海水浴が楽しめました。11月でも泳げる日があるということでした。

北海道から広島に進学してきた学生は、なんて広島は寒いのだろうと言っていましたが、実際、秋の終わり頃から春爛漫の時期まで、風邪を何回も繰り返しひいていたものでした。とにかく家の中が寒いというのです。北海道は冬場、暖房を切ることがありません。また、家の造り自体が、窓は二重窓だったりして防寒対策は完全なのです。だから家の中ではTシャツ1枚でいられるほど暖かいわけですが、本人曰く、広島は隙間風だらけの部屋ですという寒さに負けていたわけですね。

アメリカで大学院を修了しそのまま大学に残って教授になった方が、50代後半になって日本が恋しくなり、帰国しました。日本のある大学に就職したわけですが、帰国半年後に肺の疾患にかかり重態になりました。アメリカでは電動シャッターのついたガレージから家の中に直接入れる住まい。それのセントラルヒーターの家だったそうです。大学の駐車場も地下駐車場で、研究室や実験室は、一定設定で温度も湿度も常に25度で保たれていました。自宅も大学の温度や湿度にあわせていたそうで、そうした生活を25年以上してきたので、いまさら高温多湿の日本の気候に身体が合わないための発病だったそうです。

  現代の家庭環境と比べて、子どもの部屋の明度、机や椅子のよさ、周囲に興味の持てる楽しみな刺激や誘引因子がある環境条件と比べて、逆に悪い場所を考えてみると、子どもにとっては学校がそれにあたります。昔、私が学校に通っていたときには、学校は建物が大きいせいでしょう、夏は涼しく、そして冬は石炭ストーブで、家の火鉢よりはるかに暖かでした。石炭を燃やすこと自体楽しかったですし、運動靴をだるまストーブにジュッと押し付けた焼けたにおいも良い思い出です。だいたい家にいてもおもしろくなかったですね。最近のゲームのようなひとりで遊べるようなおもちゃもなく、テレビもなく、子どもが自宅で楽しめるものなどは砂糖の入った缶や鰹節削り器の引き出しの中のわずかな残りかすぐらいのもので、ほとんどありませんでした。しかし、今の家庭環境は大いに違います。今の学校環境は、家に劣ることはなはだしい状態です。机も椅子も明るさも冷暖房設備もです。友達と遊ぶことは楽しいでしょうけれど、それと同等に、あるいはそれ以上に楽しく快適な環境が家環境なのです。

 保健室登校の子どもたちがなかなか教室に入れないのは、確かにクラスメートの子どもたちとコミュニケーションがうまく取れないということがあります。いわゆるソーシャルスキルができていない一次的不適応があります。しかしその子どもにしても、教室の机や椅子に一定の時間じっと座る習慣が崩れている場合には、現場復帰ははなはだ困難なことになります。保健室で教室と同じ机と椅子に、時間割どおりの時間座って休憩時間に自由に動けるようにして、なれた頃にクラスのみなが迎えに来て、教室に入れるようになった子は、何人も経験しています。

 

連載52

up 2005/03/10

 

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