| 松原秀樹先生連載72 |
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「メンタルヘルスは常識」キャンペーン
メンタルな問題というものは、その本人が弱いせいである、またはしっかりしていないせいであるといった、問題とすべき悪しき文化的基盤が厳然と存在するわが国において、心理相談あるいはメンタルヘルスケアを展開していくには、どのような知識を啓蒙し、どのような配慮や体制が必要とされるでしょうか。まずおこなっていくべき事は、メンタルヘルスあるいは心理相談はごくごく当たり前のことであり、健康のために必要であるというイメージを事業場内に定着させていくという活動でしょう。管理者研修で、精神疾患の疾病論や症候論の講義をうけるだけのメンタルヘルス講演会が多いようですが、疾病論を聞いても、素人には役立ちません。健康管理の上でのメンタルヘルス、健康モデルとしてのメンタルヘルスの情報の展開が、職場の中に必要です。
また、メンタルヘルス上の問題を抱えた部下をもつ直接の上役、中間管理者にとっては、産業医および心理相談担当者や健康管理センターなどのスタッフが強力なアドバイザーとして機能し、援助者となり、味方であるというイメージが職場内にできてくることが望ましい姿です。そして、いくつかのケースの経過や展開を通して、スタッフが効果的に機能し、その経過などで知られた情報を守秘していてくれるということを通して信頼が広がっていくものです。そうすると、本来の心理相談は機能的に展開しやすいものとなります。年二回ほど、「メンタルヘルス強調週間」などを会社内運動として設定することで、職場全体に「心のケア」は考えていくことが当たり前のことだ、という状態になるようにしていく努力が必要でしょう。相談の面接室は看板を掲げた特別なものを設置する必要はなく、たとえば健康管理部の一箇所の小部屋で、身体的管理についてアドバイスを受ける機会と平行して行っていくことをすすめたいです。身体も心理の相談も平等だからであり、そこへの出入りも、多くの人に紛れて、ごく自然におこなえるからです。
筆者は、大学にいて学生から相談をよく受けています。勤務先の学生数は、1学年130数名の規模ですが、毎年20名以上ほどの実人数が相談に来ます。この数は相当な多さと言えるでしょう。来談の4分の3は自発的に、4分の1は周囲の友達の勧めを受けたり、かつて来談した学生に勧められて来ています。面白い傾向は、1年生の場合、5月過ぎから相談件数が急に増えることです。1年生の場合には大多数が心理学の授業で顔を合わせているからかもしれませんが、それ以上に、授業を受けていて個人的な親しみや信頼が大きくなってから相談に来ていることが分かります。
メンタルヘルス強調週間の設定の次に必要なことは、こうしたメンタルヘルス強調週間中に、相談担当者およびスタッフが、事業場のあちらこちらに出没するようにし、気軽に管理者だけでなくいろいろな人々へ声をかけることを実践し、個人的な親しみを作っていくような努力が必要になるでしょう。自発的な相談をみる背景には、実際の相談があった時にもっとも留意してクライエントに話しておくべきポイントですが、守秘義務の問題があります。直属の長や周囲の人々の協力や援助を仰ぐために、必要な場合には、その理由と意義をふくめて、話す内容についても事前の了解を得ることなしに話すことはないという保証をすることが大切です。この保証が信じられた事業場では、かつて相談して問題の軽減や解決をみた社員や上司が、新たな相談者を紹介してくることは希なことではなくなります。むしろこうしたケースが多いことが、職場のメンタルヘルス活動の成果であると考えてよいでしょう。
up 2006/10/05