松原秀樹先生連載73

 

 

自動と手動の行動



 ルビンシュタインとベストによるプラナリアを用いた実験(1958)は衝撃的でした。プラナリアは清流に住む、幅2、3mm、長さ2、3cmの水中生物です。お腹の辺りに口があり、ストロー状の咽頭を伸ばして死んだ魚の肉を吸い取って食べています。たとえ2つに切っても、尻尾から頭もできてくるという、一匹が完全な2匹になるという生命力豊かな生物です。しかし原始的なつくりで、消化器系には直腸もなく、脳の発達もほとんどありません。こうしたプラナリアをYの字型の管を横にし、その文字のすそにおいて実験が行われています。

 プラナリアが置かれたその場所の水を抜くと、プラナリアはパニックを起こして管の中を移動しまくります。そして偶然に水のある場所にたどり着きます。Yの二俣の部分から明るくしたほうの管を行くとその端に水がありますが、暗くした道には水はありません。本来プラナリアは明るいほうを嫌う傾向がありますが、すべてのプラナリアはそれぞれ、明るいほうに行くと助かるという、水の求め方を学習します。この学習は容易に行われました。危機管理行動の学習ですね。しかし、ルビンシュタインとベストは、この回避行動を繰り返して施行していきました。もちろんプラナリアの身体的負担を考慮してでしょうけれど、不思議な現象を見ることになりました。

 なんとプラナリアたちの行動がおかしくなってきたのです。10回目を過ぎると水を抜かれても驚かなくなりました。そのうちに最初の場所をまったく動かないまま乾いて死んで行くものがでてきました。またしばらくたって動きはじめても、間に合わなくて死にいたるものもありました。結局どうしたら水を求められ、死なないですむかを学習したプラナリアたちは、危機事態が日常化し、危機感が薄れてきて、その行動がパターン化すると、必要なエネルギーをも使わなくなったようです。プラナリアたちは、簡単であったにせよ、せっかく学習したことを、パターン化してくると生じる省エネのし過ぎで、何もしないで何とかならんかなぁ・・・と思ったものなのか、まったく実践しないままに全滅していったのです。

 
  しかしルビンシュタインとベストの次の実験結果は、考えさせられます。Y字の管の二俣からすりガラス状の肌触りを手がかり刺激にして、スリガラス状の壁を伝って行くと、水があるようにしました。この課題はプラナリアにとっては難しかったようで、すべてのプラナリアには学習が達成できませんでした。しかしこの困難な学習をしたプラナリアたちは、その後の繰り返しテストを受けても、省エネのし過ぎという態度を示さず、全滅することはありませんでした。苦労して手にいれた方法は、簡単に捨てられないようです。

連載74

up 2006/10/12

 

 

便利リンク トップへ戻る

心療内科研修医参照頁 トップへ戻る