斉藤英治の講演要旨(食事療法に関する昨年度医学研究会での斉藤講演の要旨)
「代替療法:世界における最近の動向と評価ー代替療法から医療改革の方向が見えてくる」
医学博士 斉藤英治


●はじめに
いま話題の代替医療について、その中でも食事療法を中心に、世界における最近の動向を考察したい。そこで今回、代表として選んだのは、米国最大の医学研究所NIH(アメリカ国立衛生研究所)の動向である。ここは、医学研究者が2000人以上という世界最大の医学研究所で、西洋医学の総本山と呼ばれている。
この研究所では、いままで西洋医学しか、目を止めなかった。ところが、「山動く」と言おうか、最近、食事療法やいろいろな東洋医学的療法に注目し、肯定的評価をし始めた。この動向を注意深く見ていくと、日本の医療改革というものがどうあるべきかという示唆も見えてくる。

●1.日米医療の問題点と対策
アメリカの医療も、日本の医療と同様に重大な問題点がある。医療費は、1940年には40億ドル(約1200億円)だったのに、92年には、8千億ドル超(約96兆円)にもなっている。94年には、一年に一兆ドル超(約120兆円)、気の遠くなるようなお金を使っている。しかも年々膨張する一方である。
国民にこのような重い負担を強いる、金食い虫の怪物のような医療の本質が問われている。日本も、年間30兆円を超えようとしている。これも大きい。いずれも国家予算の数分の1と言うような膨大な金額である。それに米国では、医療保険等の不備によって、国民が良質な医療のアクセス(受診)率が得られないという問題もある。

このような問題点の解決のため、アメリカ健康省(PHS)では、ヘルシーピープル2000という700頁の膨大なレポートを発行し、根本的医療改革の基本理念というものを発表した。その中で次のように述べた。
現在の医療のアプローチは根本的に改革する必要がある。つまり、健康とは、単なる延命とか死亡率を下げるのではなく、改善された生活、生命の質、そういうところから来る。だからこの視点に目を止めて、国民の病気の予防、健康増進のために、研究も金を使わなければならない。同時に経済的にも、このような膨大な医療費の高騰を防がなければ、国は破綻すると。

●2.問題解決のため生まれたNIH-OAM(米国国立衛生研究所・代替医療局)
そのために生まれてきたのが、NIH(National Institutes of Health:国立衛生研究所、以下NIH)の中に、Office of Alternative Medicine、(以下NIH−OAM)、直訳すれば代替医療局である。
Alternative Medicineを直訳して代替医療と言うと、なにか代用品というような印象を受けるが、そうではない。この言葉の意味は、NIHの定義によれば、「生活・生命の質の改善や病気の予防、従来の主流医学がほとんど回答を持っていない病気に対する治療などを強調する医療システム」ということになる。
そこで、NIH−OAMでは、1992年にワークショップを設け、米国内一流の専門家、約200人を集め、英文で372頁ものかなり膨大なレポートを1995年に発行した(以下NIH−OAMレポート)。そのテーマは「Alternative Medicine:Expanding Medical Horizons:代替医療、拡大する医学の範囲」という書名で、「代替医療・新医療技術に関するアメリカNIHへのレポート」という副題が付いている。

●3.NIH−OAMレポートで評価された食事療法
以下、筆者が入手したこの膨大なレポート原報の中から、食事療法と医療改革について、重要と思われるところを筆者のコメントを加えて抽出していく。
なお、現在の日本の医療改革というのは、いまだに、誰が費用を持つかとか、費用を少なくしろとか中身でなく外側のことが論点になっている。米国もかつて同じ過ちを犯して来たのだが、このNIH。OAMレポートでは、それは方向が違うと指摘した。
いま本当の問題は、慢性病がどんどん増えている現状である。そして、医療費の70%を、慢性病で動けなくなって社会で活動できない人に使っている。しかし、高齢化社会になって慢性病がますます増えるばかりだ。
だからこのままの方法では、このような後ろ向きの体制では、医療費はますます増大していく。こうなると若い人や活動している人達のための健康増進や予防、福祉など前向きの未来へ向けての医療や投資にはお金を掛けられなくなる。このことが問題なのだとNIH−OAMレポートは指摘した。
このようなことで、このNIH−OAMレポートでは、米国の主流医学というものを次のように自己批判している。米国の主流医学というのは西洋医学だから、当然、日本の主流医学でもあるが、感染症や外傷の治療には滅法強いが、慢性疾患には非常に貧弱で対応できないと。理由は簡単。余りにも療法が単純すぎる。「魔法の弾丸」、つまり薬とか手術とかで一元的な解決法で解決しようとする。NIHレポートはこれを鋭く指摘した。
NIH−OAMによると、この弊害を防ぐためには、多面的なアプローチが必要である。高い薬を与えても、それは一時的であってすぐ再発してしまう。費用が掛かる。例えば、心臓の手術して、また再発する。これは食事や不健康なライフスタイルが原因。根本はここにあると。
だから食事や運動で、寿命を延ばすことが大事である。そこで、本当の医療改革、医療コストの削減、受診率を高めるためには、やはり、根本的改革をして、病気の予防に重点を置くべきだとNIH−OAMレポートは指摘する。

●4.慢性病の予防と治療のための食事療法
そこで、NIH−OAMでは、これから有望な治療法として、6000の候補の中から、これから重要な7つの重点的研究分野を選んだ。(下記図表1)
〔図表1〕
NIH−OAMが6000の候補の中から選んだ代替医療の7つの研究分野
  1.慢性病の予防と治療のための食事栄養療法
  2.こころとからだの相互作用
     心理療法、瞑想、イメージ療法、ヨガ、音楽療法など
  3.理学療法(生体電気磁気学)
  4.按手治癒療法
     オステオパシー、カイロプラクティク、マッサージ療法など
  5.薬理学的・生物学的治療法
     主流医学に承認されていないワクチンやドラッグの組み合わせなど
  6.医学臨床における新技術医療(Alternative Medicine)システム
     鍼灸術、伝統的東洋医学、アユルベーダなど
  7.薬草療法

この中に、「慢性病の予防と治療のための食事と栄養」というのが入った。1000倍近くの競争を突破して、未来の医療の重要なテーマとしてこれが選ばれた。そこで、「慢性病の予防と治療における食事と栄養」というテーマで、アメリカの専門家チームが作業部会を作り、ハーバード大学医学部のウオルター・ウイレット教授など、専門家が、メンバーで、答申を出した。その中から抜粋すると、要点は次の通りである。
現在でもすでに栄養研究の重点は、栄養不足から栄養過剰の問題に移っている。それから微量栄養素が欠落している。また、代替医療の多くは、アメリカの現在の食事は不適切だと考えていると報告している。またミネラル、カルシウム、マグネシウムが不足している。
そこで、野菜食、セブンスディーアドベンティスト、マクロビオティックの食事、日本の食事。このような食事は、心臓病やガンのリスクファクターを容易に下げると報告している。  

●5.NIH-OAMレポートの推薦、勧告
このような研究結果から、NIH-OAMレポートでは、勧告、推薦を出した。
それは食事の研究がこれから必要だ。地方の食事の研究、日本、中国における代替医療の研究が必要だと指摘した。
また、同報告書によると、人々はなぜ代替医療を必要とするかと言えば、結局いまの主流医学が提供できるものがないか、又は、主流医学の治療を補強するために、人々は代替療法を選択するという。また、代替医療は予防医学に価値を置いているために、医療費のコントロールが出来る。主流医学は、医学技術を持つが非常に高く、あまりにも国民を圧迫すると述べている。
同報告書の結論として、指摘するのは、医療費を減らすために効果的な一つの方法は予防医学が必要であり、代替医療システムの多くは、このため沢山のものを提供しようとしているということである。そして、最後に、代替医療(食事療法を含む)は、米国国民の健康を改善するために、非常に偉大で大きい、まだ「ふた」の開けられていない資源であると述べている。

●考察と結論
ここで筆者が思い出すのは、医食同源という言葉である。これは東洋医学だけでなく、西洋医学の始祖ヒポクラテスも述べていたが、いつの間にか西洋医学は、この道から外れてしまった。当時の中国医学では、食事をつかさどる医者を上医、内科医は中医、外科医は外医と言っていた。要するに食事の指導も出来ないような医者はこの上医には入れないということだ。
最後に、このようなNIH。OAMの動きなど総合した視点から、日本の医療改革はどうあるべきかをまとめると、次のようになると筆者は考える。
現在、日本で主流の西洋式医療の欠点は、自然・人体への浸襲、自然排除の医学、急性病に強いが慢性病に弱い、副作用や苦痛が多く、年々高騰する医療費などである。これが現在の西洋医学の現状である。

この西洋医学を更に拡大シフトして、自然治癒力、健康能力回復の医学、つまり、代替医療をも加え統合して、西洋医学と代替医療との統合医学(総合医学)を作る必要がある。こういった人体の持つ自然治癒力を高める医学へシフト・拡大する必要がある。
これはNIH。OAMレポートが選んだ食事療法など7つの代替医療の分野を含む。これに少しずつシフトして行けば、当然これは、自然に医療費の低減、健康長寿力の向上とつながり、根本的医療改革につながる。そして、医療者がこのような統合医学へシフトしても、十分に報われる仕組みを作って行かなければならない。そうすれば自然にこの医療変革が起きてくる。
今、日本でやっている医療改革の論点は、誰が負担するとか、そのような論議ばかりだが、それはあくまでも医療の外側、容器の問題である。医療の中身、本質を変革しなければ、本当の医療改革は出来ない。
以上の点から、食事療法研究家など代替医療の専門家の今後の一層のご活躍を期待すると共に、西洋医学の専門家である医師らがこの潮流を深く理解し、日本の政治家、各担当者、そして国民が本当の医療改革の方向を知り、これを実行し、国民が健康で生活・生命の質を高め、健康長寿でいきいきとした活力ある生活を送ることが出来ることを願っている。  以上



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