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東京医学社 JOHNS 2005年2月号の“診療つれづれ”欄に掲載
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処置用ファイバースコープと魚骨異物 |
処置用ファイバースコープと魚骨異物 T.はじめに 開業して間もなくの1992年4月、診療所の近くに住む10歳男子小学生が魚骨誤嚥後の咽頭痛を訴えて一人で診療所を受診しました。いくら近所とはいえ、小学生を一人で受診させるのは問題があると不満を抱きながらも、とりあえず間接喉頭鏡検査を行ったところ、舌根部に刺入した魚骨が認められました。 直ちに患者宅に電話を入れて母親の来院を要請し、内視鏡テレビビデオシステムを用いて異物を供覧しながら、のどの奥にある魚骨を摘出するには若干複雑な手技を要することを説明し、引き続き、カールライネル喉頭鉗子を用いて魚骨を摘出しようとしたところ、鉗子の挿入を頑強に拒否し、母親の説得にも応じようとしませんでした。 病院勤務医の頃は、そのような例は即座に入院させ、直達鏡を用いた全身麻酔下の咽頭異物摘出術に切り替えておりました。本例も、弘前大学病院耳鼻咽喉科への紹介を先ず考えましたが、小さな魚骨であり、直達鏡以外の手段を用いて摘出できないかと考えて頭に浮かんだのが、開業時に購入したものの、それまでほとんど使用していなかった処置用鼻咽喉ファイバースコープ(以下、処置用Fと略称)の活用でした。 筆者はそれまで、勤務医時代をも含めて処置用Fを用いて咽頭異物を摘出した経験は皆無でしたが、大学病院勤務時には、出張先病院の内科医(消化器内科)の依頼を受けて気管支ファイバースコープ検査や生検を行っておりましたので、その手技を踏襲して異物摘出を試みたところ、容易に摘出できました。 U.咽頭異物の診断 実地臨床医の取り扱う咽頭異物の大半は魚骨などの小型異物であります。魚骨誤嚥を訴えて受診した患者さんの場合、口蓋扁桃など、直視できる部位に介在した異物の診断、摘出は容易ですが、口蓋弓鈎を使用したり、手術用顕微鏡や鼻腔用硬性内視鏡を使用したりしてようやく発見できた例もあります。 一方、直視できない部位に異物の介在が疑われた場合、間接喉頭鏡、鼻咽喉ファイバースコープ、下咽頭ファイバースコープ、X線検査などを使用して異物の発見に努めます。 各種検査を駆使して探索し、異物を発見できなかった場合にも “異物がない”と断定はできませんので、痛みが軽快しない場合には再度受診するように念を押します。2日後の再検査で異物を発見・摘出した例もあります。 V.処置用Fを用いた咽頭異物摘出 直視できない部位に咽頭異物を発見した場合の摘出法として、専門書の多くには間接喉頭鏡と喉頭鉗子、または、直達鏡を用いて行うと記載されており、処置用Fによる咽頭異物摘出についての記載は少なく、同手技は標準的な摘出手技ではないと推測されます。 一方、処置用Fのカタログには、生検と並んで異物摘出がその用途として記載されております。すなわち、処置用Fを用いた咽頭異物摘出は特殊な手技ではなく、喉頭鉗子や直達鏡による異物摘出の補助的な役割を担っていることが推測されます。 筆者は、初回の摘出例を経験した後、さらに症例を積み重ねて2004年3月末までに101例に達しました。異物の介在部位は、舌扁桃・喉頭蓋谷81例、梨状陥凹9例、口蓋扁桃9例、上咽頭2例で、種類は、魚骨97、エビの触角2、PTP 1、小枝1でした。同じ期間に摘出した全咽頭異物は203例ですので、その約半数が処置用Fを用いて摘出されたことになります。残りの大半は、直視下、または、手術用顕微鏡・硬性内視鏡下に観察して摘出したもので、喉頭鉗子を使用したのは開業当初の数例のみであります。 W.処置用Fを用いた咽頭異物摘出の要点 処置用Fを用いた小型咽頭異物の摘出は、義歯などの大型咽頭異物摘出や食道異物摘出に比して操作が容易で、疾患そのものも軽症のためか、手技の詳細について記載した論文は渉猟できませんでした。そのため、実際の摘出にあたっては、直達鏡による異物摘出手技や、気管支ファイバースコピーの生検手技を応用し、筆者自身で工夫・改良を加えながら摘出しておりました。以下に、筆者の経験から得た要点を記載してみます。 1.機器:筆者が使用した処置用Fはオリンパス光学製ENF T3で、鉗子は、当初、標準装備の孔付生検鉗子を使用しておりました。しかし、同鉗子は滑りやすく、異物摘出には不適でした。その後、オリンパス光学製鰐口型生検鉗子、スイング鰐口型生検鉗子を追加購入しました。さらに、細い魚骨を生検鉗子で把持すると折れることがありますが、オリンパス光学では麦粒型鉗子を供給しておりません。そのため、町田製作所製麦粒異物鉗子を購入して使用しておりますが、同鉗子はオートクレーブ滅菌不可が難点であります。 2.摘出経路:喉頭鉗子、喉頭直達鏡、食道直達鏡を用いる場合の咽頭異物摘出経路は経口であります。一方、処置用Fを用いる場合は大半が経鼻で、筆者が経験した101例の摘出経路は、経鼻が91例,経口が10例となっておりました。 経鼻法は、咽頭反射を誘発しにくく、スコープが鼻腔で固定されるため操作が容易で、麻酔も鼻腔の表面麻酔のみで実施でき、小さな魚骨の摘出には第一選択と考えております。 術者は、鉗子を異物に誘導して助手に鉗子先端部の開閉を指示し、異物把持を確認後、先端部をスコープ先端近くに移動してから、スコープ、鉗子、異物の3者を一体として抜去します。長い魚骨を摘出する際には、後鼻孔付近で魚骨の長軸が縦方向になるように鉗子を回転させて鼻腔粘膜を保護します。摘出は座位で行い、状況を患者に呈示しながら協力してもらうこともあります。しかし、長い魚骨は後鼻孔付近で脱落することがあります。本手技を開始した当初はすべて経鼻的摘出を試みていたため、途中で脱落して吐き出した例を3例経験しております。鼻腔の狭い例では処置用Fの挿入が難しいこともあります。 一方、経口法は、長い魚骨やPTP異物など、やや大きな異物の摘出に有用ですが、咽頭反射を誘発しやすく、スコープの固定も難しいため、摘出には経鼻法よりも長時間を要します。前処置として、硫酸アトロピンの筋肉内注射やキシロカインビスカスによる咽頭表面麻酔の併用も必要になります。 3.適応:テレビビデオシステムにより異物介在部位を詳細に観察できるため、間接喉頭鏡と鉗子を用いる手技よりも適用範囲が広く、直達鏡を用いる手技に比して患者の肉体的負担は軽微です。処置用Fでは明視できない部位にまで落下した下咽頭下半部〜頚部食道異物は本手技の適用外としております。 X.おわりに 老視を来した筆者のような実地臨床医は勿論、視力の良好な臨床医においても、鼻咽喉ファイバースコープを使用してようやく発見した小さな魚骨を、間接喉頭鏡下に観察しながら喉頭鉗子を用いて摘出する操作はかなり難しいのではないでしょうか。対策として、バックアップ体制の整っていない無床診療所に、異物摘出を目的とした直達鏡を整備する必要性も低いと考えられます。 ファイバースコープを用いて診断した咽頭異物はファイバースコープを用いて観察しながら摘出するのが合理的と考えられます。助手が一緒になってテレビモニターを凝視し、異物を探索できるのも利点です。異物を摘出した後、患者に“めったに見ることの出来ない珍しいビデオを見せていただき有難うございました”とお礼を言われたこともあります。 処置用Fの活用は、バックアップ体制の整っていない無床診療所における守備範囲を拡大するのに有用であります。通常、経口法は経鼻法よりも操作が難しいため、最初は、経鼻法を用いて、舌根部に介在した小さな魚骨の摘出から始めることをおすすめします。 |
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