小児急性中耳炎の実地診療と諸問題
2006年3月19日、日本耳鼻咽喉科学会青森県地方部会においてセミナー演題として講演した内容を掲載しました。

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 小児急性中耳炎の実地診療と諸問題

 はじめに
 小児の急性中耳炎は、耳鼻咽喉科医の診療において最も頻繁に遭遇する疾患のひとつである。 2002年〜2003年の青森県地方部会における急性中耳炎に関する特別講演・シンポジウム等により、演者自身も、急性中耳炎に関して多くの知識を習得し、診療形態の一部を変更した。しかし、実際の応用に際しては、実地臨床医として判断に迷う事項も少なくない。
 今回、演者の経験した急性中耳炎症例を参照しながら、2,3の問題点をとりあげ、話題提供とした。対象は、2000年1月から2005年12月までの6年間に経験した5歳以下の小児急性中耳炎症例を中心に、一部は、1994年までさかのぼって検討した。
 1.細菌のセット検査と検出菌
急性中耳炎では中耳貯留液や耳漏からの細菌検出率が低く、起炎菌の検索には上咽頭ぬぐい液とのセット検査が推奨される。一方、診療報酬の請求は1検体しか認められず、セット検査の追加費用は医療機関の負担となり、薬剤感受性検査では、菌の株数が多いと費用は増大する。
 2.検査材料と検出菌
 上咽頭ぬぐい液の菌検出率は100%であったが、70%に2株以上の菌が検出された。中耳貯留液の検出率は46%と低率であったが、単一感染が多く、大半が上咽頭ぬぐい液と同一菌種のため感受性検査は不要であった。
耳漏の検出率は85%と比較的高率であったが、contaminationも多く、セット検査で安易に感受性検査をオーダーすると、医療機関の負担を増大させることが推測された。
 3.起炎菌とセット検査
 3大起炎菌の検出率は、上咽頭ぬぐい液が100%、中耳貯留液が40%、耳漏が55%で、上咽頭ぬぐい液の70%は複数菌、中耳貯留液の98%は単一菌、耳漏にはcontaminationが多いという特徴が認められた。セット検査で効率よく起炎菌を同定し、薬剤感受性検査を行うには、上咽頭ぬぐい液をメインとして感受性検査までオーダーし、中耳貯留液と耳漏は塗沫・培養・同定検査までに留めるのが、費用対効果の面から有用と推測した。
 4.薬剤耐性菌
従来、小児急性中耳炎は経口抗菌薬の投与によりすみやかに軽快・治癒する経過良好な疾患と考えられていた。1990年代後半からその病態に急激な変化がみられ、反復例、難治例が増加し、その第一原因として、起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌などの薬剤耐性株の増加が挙げられている。
 5.耐性肺炎球菌
弘前市医師会臨床検査部では、1997年5月から暫定的にディスク法とMIC測定法とを併用して、肺炎球菌をペニシリン感受性菌PSSPとペニシリン耐性菌PRSPに分類し、報告した。当院で中耳貯留液からはじめてPRSP検出の報告を受けたのは1997年6月であった。1998年4月からは、正式に、アメリカ臨床検査標準委員会(NCCLS)の基準に沿った肺炎球菌のPCGに対するMIC測定が開始され、PSSP、PISP、PRSPの3つに分類して報告があった。
 PSSP:0.06μg/ml以下
 PISP :0.125-1.0μg/ml
 PRSP: 2μg/ml以上
 6.耐性肺炎球菌のまとめ
 当院では、1997年に中耳貯留液の耐性肺炎球菌が初めて検出され、1998年以降の検出率は、大半が80%以上の高率であった。中耳貯留液・耳漏は、2歳以下で耐性肺炎球菌の検出率80%以上と高率で、3歳を過ぎると減少したが、上咽頭ぬぐい液は3歳まで80%以上の高率で、4歳を過ぎてはじめて減少した。
 7.耐性インフルエンザ菌
 薬剤耐性インフルエンザ菌には、β-ラクタマーゼ産生菌とBLNARとが知られている。
2003年に弘前市医師会検査部にMIC値記入を依頼し、当院においてもBLNARの算定が可能となった。MIC値1μg/ml以上をBLNARと判定し、検出率を検討した。
 8.耐性インフルエンザ菌のまとめ
耐性インフルエンザ菌は、検査部にMIC値記入を依頼することにより2003年から算定が可能となった。0歳児の中耳貯留液・耳漏に耐性インフルエンザ菌の検出が80%以上の高率であったが、上咽頭ぬぐい液での違いは判然としなかった。
 9.鼓膜所見と中耳貯留液
鼓膜所見および中耳貯留液の有無は、鼓膜切開の適応や難治性中耳炎の病状を評価する上で、重要な所見である。演者は、2003年から外径4mmの硬性内視鏡を使用して鼓膜を観察し、乳幼児中耳炎の評価を行っており、2004年からは、操作の容易な外径2.7mmの鼓膜鏡を繁用している。
 10.抗菌菌薬治療
急性中耳炎の抗菌薬治療はペニシリンが第一選択とされ、演者も、経口セフェムからAMPCやCVA/AMPCに処方を変更したが、AMPC処方の際、患者家族から量が多すぎるとのクレームがあり、同じAMPC製剤でも半量ですむ銘柄に変更した。
 AMPC細粒
 1g 中100mg:
 サワシリン細粒(昭和薬化-藤沢)
 パセトシン細粒(協和発酵)
 アモリン細粒10%(武田) アモペニキシン細粒  (ニプロファーマ)
 1g 中200mg:
 ワイドシリン細粒200(明治製菓)
  アモキシシリン細粒「タツミ」(辰巳)                       
 CVA/AMPCは効果発現が早く有用であるが、下痢・軟便を来たしやすく、処方間隔を短くして処方変更に対応している。
 11.外科科治療
 乳幼児中耳炎では、容易に遷延化・反復化することから、できるだけ早期に鼓膜切開による排膿を行うことが望ましい。しかし、鼓膜切開では、切開孔は約1週間で閉鎖し、十分な換気ドレナージがなされないため、近年、鼓膜チューブ留置術が、難治性中耳炎の最も効果的な治療法として推奨されている。
 12.急性性中耳炎の鼓膜チューブ留置術
 鼓膜チューブ留置術は、中耳の液貯留を改善・防止し、中耳粘膜の病的変化を正常化することから、薬剤耐性菌を伴った乳幼児難治性中耳炎の治療として極めて有用である。しかし、対象は0〜2歳の低年齢児で、手術は急性炎症の最盛期に実施するため出血が多く、滲出性中耳炎のチューブ留置術に比べて若干困難である。
 まとめ
 細菌検査における上咽頭ぬぐい液と中耳貯留液・耳漏とのセット検査、および、薬剤耐性菌の問題、セフェム系からペニシリン系経口抗菌薬への変更と問題点、難治性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術
  以上の3点を中心に検討を加えて報告した。



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